IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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今朝に続き連続投稿です。
まだ192話を読んでいない方はそちらからどうぞ!





第193話 ヒーローになるチャンス

 颯太の放った『ハラキリ・ブレード』の光の奔流が収まった時、それを正面から受けたシャルロットは地面に倒れ伏していた。

 その体を包んでいた白い鎧は消えうせ、ピクリとも動かない。

 

「シャルロット!」

 

 近くにいた一夏は慌てて駆け寄って呼吸や脈拍を確認する。

 

「………ホッ、よかった。呼吸も脈も安定してる。多分ただ気絶してるだけみたいだな」

 

 安心した一夏は安心したように息を吐く。

 

「颯太!とりあえずシャルロットは無事だ!安心して――ってあれぇ!!?」

 

 嬉しさを共有しようと振り返った一夏。しかしそこには颯太の姿は無く

 

「って他の二人も!?」

 

 慌てて周りを見渡すと、いつの間にか姿を消していた。

 

「あ、あいつらどこ行った!?」

 

 

 

 〇

 

 

 

「そんな!クソッ!まさかダーインスレイヴが倒されるなんて……」

 

 施設の最奥のコントロール室に移動した吉良香澄とロゼンダ・ヴァレーズは慌てた様子で機材を操作していた。

 

「あの子が倒された今、私たちも早く逃げないと立場が危ういですよ!」

 

「わかってるわよ!!!」

 

 ロゼンダの言葉に吉良が叫ぶように言う。

 その表情には先ほどまでの余裕は鳴りを潜めていた。

 

「と、とにかくできる限り情報を持って――」

 

『情報を持って、逃げようと思うよね~』

 

「「っ!?」」

 

 慌てて逃げる準備をしていたふたりは突如聞こえた声に体を震わせる。

 と、部屋に並んでいるディスプレイの一つが輝き、そこに大きく一人の女性――篠ノ之束が笑みを浮かべて映っていた。

 

『やっほ~。初めまして?かな。天っっっ才の篠ノ之束だよ~』

 

 突然の束の登場に二人は呆然としている二人に構わず束は続ける。

 

『ダメだよ~、自分たちが好きかってやって来たのに、立場危うくなったら証拠持ってとんずらなんてさ~』

 

「な、なんでここにあなたが……?」

 

『だからさ~――』

 

 吉良香澄の問いに答えず束は好き勝手に続ける。

 

『君たちがこれまで、どれほどの悪行を働いてきたか――世間の人も知っておくべきだと思わない?』

 

「はっ……?」

 

「何を言って……?」

 

 束の言葉に意味が分からず呆けた顔をする二人に束は満面の笑みを浮かべる。

 

『君たち女性権利団体がこれまでに行った悪行の数々、その証拠を各国の政府に、各国のマスコミに宛てて送りつけておいたよ~』

 

「「なっ!?」」

 

『お?いい顔するね~!その顔もバラまいちゃお~』

 

 驚愕の表情で固まる二人をゲラゲラと笑いながら言う。

 

「あ、あ、あ、あなたなんてことを!!?」

 

「そんなことをすれば私たちはこれから――」

 

『あっれ~?そんなこと言ってさ~……君たちにこれからがあるとでも?』

 

「「え……?」」

 

 束の言葉に意味が分からず呆然とするふたり。

 

 バンバンバンッ!

 

 と、そんな二人の背後から乾いた銃声が響く。

 その音に二人は頭を庇う様に屈み、ゆっくりと見渡す。と、二人の近くにあるディスプレイに三発分の銃弾が当たった穴が開いていた。

 二人は銃声の聞こえた方、入口に視線を向けると、そこには

 

「コンコン、ルームサービスで~す」

 

 オータムに肩を貸してもらいながら伸ばした右腕に銃を構えて笑みを浮かべて立つ颯太の姿があった。颯太とオータムの隣にはエムも無表情で立つ。

 

「宣言通り、命貰いに来たぜ、吉良香澄。あとついでにロゼンダ・ヴァレーズ」

 

「「っ!」」

 

 二人は颯太の言葉に息を呑み

 

「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ロゼンダは耐え切れずどうにか逃げようと別の出入り口に向かって走り出し

 

「エム」

 

「ああ」

 

 颯太の言葉にエムが頷くと同時に飛ぶように一瞬でロゼンダへと距離を詰め

 

「フンッ」

 

「がっ!?」

 

 背後から後頭部を殴られたロゼンダはゴツッと鈍い音を立てて床に叩きつけられる。

 

「まったく……まあロゼンダさんは証人として生かすつもりだったから、むしろこうして気絶しててくれる方が楽か」

 

 言いながら颯太はへたり込む吉良香澄に向かってオータムに支えられながら歩み寄る。

 泣きそうな顔でへたり込む吉良香澄を見下ろしながら颯太は冷たい目線で言う。

 

「さて、そろそろ〆に入ろうか」

 

「ヒッ!」

 

 へたり込む吉良の上に馬乗りになり、その眉間に銃口を当てる颯太。その冷たい感触に吉良はガクガクと震えながらイヤイヤと首を振る。

 

「お、お願い助けて……!か、金なら!金ならあげるから!女性権利団体の所有してる資産は全部上げるから!!」

 

 ガチガチと歯を鳴らしながら泣き叫ぶ吉良香澄。そこには先ほどまでのふてぶてしいまでの余裕はなかった。

 

「だ、だから!い、命だけは助けて!!」

 

「命乞いかぁ~……人間ってのはどこまでも醜いなぁ……」

 

 颯太はため息をついて

 

「最高だよ」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる。

 

「うえぇぇえぇ?」

 

 颯太の言葉の意図が見えず泣きながらよくわからない声を漏らす吉良。

 そんな吉良の両肩に手を置いた颯太は

 

「俺はお前のような人間が――大好きだぁぁ」

 

 そのまま吉良の身体を抱く颯太。

 

「………ハ、ハハハハ……ハハハハハハ……」

 

 颯太が優しくあやすように背中を撫でるので吉良の顔に笑みが浮かぶ。

 そんな吉良の身体からゆっくりと体を離した颯太は

 

「――ま、殺すんだけどね」

 

「えっ……?」

 

 再び眉間に押し当てられた銃に吉良の笑みが凍る。

 

「知ってるかい、吉良香澄?恐怖には鮮度があるんだ。怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなんだ。真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態――希望から絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言うんだ。なぁ吉良香澄、アンタ今――最高にいい顔してるぜ」

 

 颯太は恍惚の笑みを浮かべて

 

「じゃっ、さようなら」

 

 そう言って引き金に指をかけ――

 

「待て颯太!!」

 

 と、颯太が引き金を引く寸前、部屋に声が響く。

 

「あぁん?」

 

 せっかくの楽しみを邪魔された颯太は不機嫌そうに吉良に銃口を押し当てたまま振り返る。

 

「颯太、殺しちゃだめだ!」

 

 そこには、颯太たちが入ってきた入り口に立つ一夏の姿があった。

 

「確かに、確かにその女がやって来たことはどうしようもないことだ!殺されても仕方がないのかもしれない。でも!でもそこで引き金を引いたら、お前はそいつらと同じになっちまう!」

 

 一夏は必死の表情で叫ぶ。

 

「なぁ颯太。前に簪やシャルロットから聞いた。お前正義の味方になりたかったんだよな」

 

「…………」

 

 一夏の言葉に颯太は答えず黙って訊く。

 

「颯太、これはチャンスなんだよ」

 

「チャンス?なんの?」

 

「ヒーローになるための、だよ」

 

 颯太の問いに一夏は答える。

 

「人間、ヒーローになるチャンスなんて人生に4、5回しかないって俺は思う。そう言うチャンスに立たされたら、例え目の前にどれだけ許せないやつがいても、どんな状況でも、それを許して、自分を犠牲にできるかが大事なんだと思う。友達を救い、敵を許してやるんだよ」

 

「……………」

 

 一夏の言葉に颯太はゆっくりと吉良に視線を向ける。

 

「その時には何も考えず、世間がどう見ようと、自分の――」

 

 パンッ!

 

 颯太は引き金を引いた。

 一夏の演説を遮って響いた銃声とともに発射された弾丸は、押し当てられていた吉良の眉間のど真ん中を撃ち抜き、突き抜け、血と脳漿をあたりにぶちまけた。

 

「ウブッ!?――な、なんでだよ!?お前俺の話聞いてたか!?」

 

「話がなげぇんだよ!」

 

 突如目の前に広がったグロテスクな映像に一夏はこみあげてくる嗚咽を飲み込み叫ぶ。

 

「いいか?こいつは生かしておく価値なんてない。こいつを生かしていたって杏が生き返るわけじゃない。これまで虐げられてきたやつらが幸せになることは無いんだよ」

 

 颯太は言いながらオータムに支えられながら立ち上がる。

 

「もしも……もしもヒーローになることがこういう社会のゴミを許すことだって言うんなら、俺はヒーローじゃなくていい。俺はお前みたいな学級委員長タイプじゃないんでね」

 

「でも……」

 

「は~いはいっ!残り4回の時は努力するよ」

 

 颯太はおざなりに手を振りながら言う。

 

「さてと、女性権利団体の悪事の証拠もバラまいたし、吉良のやつもぶっ殺したし、これで目標達成。あとは――」

 

 ブー!ブー!ブー!

 

 突如颯太の言葉を遮って警報が鳴り響く。

 

「な、なんだよこれ!?」

 

「何事だよ!?」

 

「おい、束博士!これ一体何なんだよ!?」

 

 慌てた一夏とオータム、颯太はディスプレイの向こうに映っている束に訊く。

 

『ちょ、ちょ、ちょっと待って!』

 

 束も訳が分からない様子で何かを操作する。数秒が

 

『ゲッ!?こいつらマジか!?』

 

「なんだよ!?いったい何があったって言うんだよ!?」

 

 何かを見つけたらしい束に颯太が訊く。

 

『こいつらとんでもないシステム残してやがった!』

 

「とんでもないシステム?」

 

「それって……?」

 

 興奮した様子で言う束に颯太と一夏も訊く。

 

『こいつら、万が一吉良香澄が殺されたときに保険残してやがった!吉良香澄が殺されたら、この施設を自爆させてあらかじめ指定してた場所にミサイル打ち込む算段を整えてた!!』

 

「「「はぁぁぁぁ!!!?」」」

 

 束の言葉に颯太と一夏とオータムが驚愕の声を上げ、エムも顔を強張らせていた。

 

「自爆は百歩譲っていい!ミサイルまでするか普通!?」

 

「そのミサイルの到達予定地は!?」

 

 オータムが叫び、一夏が訊く。

 

『えっと……っ!』

 

 調べた束はその場所に顔を強張らせる。

 

『場所は……全部で二か所。一つはIS学園、もう一つは――そこの凡人の故郷だ』

 

「「「っ!?」」」

 

「なるほど、これは井口颯太への当てつけと言うことか」

 

 驚愕に顔を強張らせた颯太と一夏とオータム。冷静に分析するエムの言葉にさらに顔を強張らせる。

 

「なんとか止められないのかよ!?」

 

『ムリ!さっきからいろいろアプローチしてるけどまったく受け付けない!一度作動したら止められないように設定されてたみたい!』

 

「クソッ!」

 

 束の言葉にオータムは舌打ちする。

 

「と、とにかく今は避難しよう!そ、それから――」

 

「束博士!ミサイルの発射地点は!?」

 

 慌てたように言う一夏の言葉を遮って颯太が訊く。

 

『この施設のすぐ隣!』

 

「了解!一夏!今すぐ箒や他のメンバーに連絡してミサイルの発射地点に行け!」

 

「お、おう!?それはいいがどうして!?」

 

「発射を止められないなら打ち上げられたミサイルを打ち落とすしかない!俺はエネルギー切れだしできるのはお前らだけしかいない!」

 

「っ!で、でも颯太は!?」

 

「俺はここに残ってギリギリまでどうにか止められないかやってみる!」

 

「で、でもそれじゃあお前が――!」

 

「大丈夫だ!」

 

 心配そうな一夏に颯太は不敵に笑う。

 

「ギリギリでダメそうならちゃんと逃げるよ」

 

「………本当だな?」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 真剣な表情で訊く一夏に、颯太はしっかりと頷く。

 

「……わかった。こっちは任せろ!」

 

「ああ!あ、こいつとシャルロットだけ外に一緒に連れて行ってくれ。この女を生かしておくのは癪だが大事な生き証人だ。しぼれるだけ情報しぼり出せ」

 

「わかった!」

 

「エム、オータムも頼む!先に出て可能なら一夏たちを手伝ってくれ!」

 

「はぁ?私らまで行ってお前どうやって脱出するんだよ!?」

 

「束博士に回収してもらう!スコールも一緒にミサイルの方頼む!」

 

「……~~~~!わかったやってやるよ!行くぞエム!」

 

「命令するな」

 

 颯太の言葉にオータムは少し逡巡した後に頷き、エムもオータムを睨みながらも頷く。

 

「じゃあ頼んだぞ!」

 

「ああ!」

 

 颯太の言葉に頷いた一夏は『白式』を纏い、ロゼンダを抱えて出入り口に立つ。

 

「颯太……必ず、必ず生きて出て来いよ!」

 

「ああ、速く行け!」

 

「っ!」

 

 颯太の言葉に頷いた一夏は部屋を後にする。

 

「ほら!お前らも急げ!ぼやぼやしてるとミサイルが発射されちまうぞ!」

 

「ああ、わかっている」

 

「くれぐれも無理するんじゃねぇぞ!」

 

「あいよ!」

 

 わきの椅子に颯太を座らせたオータムはエムとともに一夏の後を追って部屋を後にする。

 

「………さて、束博士」

 

『うん?』

 

 ディスプレに映る束に視線を向けた颯太は真剣な表情で口を開く。

 

「頼みがある」

 

『………まあ言うだけ言ってみ』

 

 ディスプレイの向こうでパソコンを操作しながら颯太に視線を向ける束博士。

 そんな束博士に颯太は真剣な表情で頷き

 

「全世界に中継を繋いでくれ。最後の『Y♡Mチャンネル』を配信する」

 


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