IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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なんとなく企業の人のこと書いておきたかったので……


第20話 指南コーポレーション

「――ここか……」

 

 六月頭の日曜日。俺はIS学園を離れ、指南コーポレーション本社に来ていた。契約したときは向こうがIS学園に出向いてきたので本社に来たのはこれが初めてだ。

 目の前には本社ビルが建っている。一言で言えば――

 

「でかいな…!」

 

 見上げればあまりのでかさに首が痛くなる。

 てっぺんが見えない。真下から見上げると雲の上まで伸びているようだった。

 

「さて、行くか」

 

 俺は正面に視線を戻し、目の前の自動ドアをくぐる。

 

 

 なぜ俺が今ここにいるかというと、話は一週間ほど前に戻る。

 

 

 ○

 

 

 

『――ところで、来週の日曜日、颯太君は予定空いているかな?』

 

 俺の専用機、『火焔』の製作元の企業〝指南コーポレーション〟の開発部主任、貴生川さんに定期報告をしていた時、ふと思い出したように貴生川さんが言った。

 

「来週の日曜ですか?はい、空いてますよ」

 

 俺は手帳を開いて予定を確認し、パソコンの向こうの貴生川さんに言う。

 

『そうか。実は前々から言っていたことなんだけど、うちの社長が君に会いたいそうなんだ。これまでなかなか予定が空かなかったんだけど、今度の日曜の十五時ごろに空くそうなんだ。もしよかったらその日にうちの会社に来てくれるかな?』

 

「まじっすか!?」

 

 あの指南社長と会う機会が来るとは。

 

「え?俺どんな服着て行けばいいんですか!?スーツとか持って無いですよ!?」

 

『ハハハ。普通でいいんだよ、普通で』

 

 画面の向こうで俺の慌てるさまを見ながら貴生川さんが笑う。

 

『私服が嫌なら制服でいいんじゃないかな?』

 

「そ、そうします」

 

 制服は学生の正装だもんな。

 

「あ!制服クリーニングに出した方がいいですかね!?」

 

『そこまで気にしなくてもいいんじゃないかな?』

 

「あ!手土産とか!」

 

『いらないいらない。彼女ならそんなこと気にしないと思うよ』

 

 笑いながら顔の前で手を振る貴生川さん。

 

『まあ、そういうわけだから、あまり気負わずに来てくれればいいからね』

 

「は、はい」

 

 気負わずには無理です。

 

 

 ○

 

 

 

 そんなわけで現在俺は都心近くの指南コーポレーション本社に来たのだ。

 

 

「やあ、来たね」

 

 ビルに入り、受付で要件を告げると数分待った後に受付に現れたのは貴生川さん、そして、経理部部長の犬塚さん、総務部部長のミハエルさんがやって来た。

 

「久しぶり。契約の時に会って以来だね」

 

「はい。その節はどうも」

 

 爽やかに片手を挙げて笑う犬塚さんに俺は会釈する。

 専用機をもらった数日後に詳しく契約書にサインし、本格的に指南コーポレーション所属IS操縦者になった時に犬塚さん、ミハエルさんには会っている。

 一夏にも負けず劣らずな爽やかイケメンの犬塚さんとイケメンだけどどこか冷徹そうな仕事人間なミハエルさん。どちらもいい人だというのは以前会った時に感じている。

 ちなみにその時契約書に書かれていた俺の契約内容の給料の額は両親の月給の合計を軽~く飛び越える月給だった。公務員志望な俺にあんな数字自分の給料で見る日が来るとは思わなかった。

 

「どうだ、その後『火焔』の調子は?」

 

「はい、問題ないです。問題があればすぐに報告していますよ」

 

「いつもそう報告してるだろ?」

 

「使っている本人の口から聞くのも大切だと思ってな」

 

「さようで」

 

 ミハエルさんの言葉に貴生川さんがおどけたように肩を竦める。

 

「さて、ここで話すのもなんだし、そろそろ行こうか。社長も忙しいらしいし」

 

「はい」

 

 犬塚さんの言葉に俺は返事をし、ふたりも頷く。

 そこから四人で移動し、エレベーターに乗り込む。

 

「ところで、指南社長ってやっぱりテレビで見たままなんですか?」

 

 俺はふと思い、三人に聞いた。

 

「あのままだね」

 

「むしろ機嫌がよければもっとテンション高い時があるよ」

 

「不機嫌でもテンション高くなるな。仕事が溜まってる時は特に」

 

 苦笑い気味の貴生川さんと犬塚さんと嫌そうな顔のミハエルさん。どうやら相当クセのある人らしい。

 

「まあ会ってみればわかる」

 

 ミハエルさんの言葉に他の二人が頷いたところで、チンッという音とともにエレベーターの扉が開いた。

 

 

 ○

 

 

 本社ビルの最上階。廊下を少し進んだところにその部屋はあった。 

 扉の上には社長室の文字。

 

「ここだ」

 

 ミハエルさんが俺の顔を見ながら言った。

 

「君を迎えに行く前に連絡を入れてあるから、君が来ていること知っているよ」

 

「う、うっす」

 

 俺は若干緊張しながら頷く。この先に大会社の社長が。そう思うと心臓が高鳴る。

 

「緊張するほどの相手ではない。むしろ話していると肩透かしにあうぞ」

 

 ミハエルさんがため息まじりに言う。

 

「とりあえず、ここまで来たんだから、とっとと入ればいいだろ」

 

「はい」

 

 犬塚さんの言葉に俺は頷く。

 

「それじゃあ、準備はいいかい?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

 俺が頷いたのを確認して貴生川さんが扉をノックする。

 

「失礼します。井口颯太君を連れて来ました」

 

『はーい、どうぞー!』

 

 貴生川さんの言葉に扉の向こうから元気のいい返事が聞こえる。

 返事を聞き、俺を含めた四人が入室する。

 そこは広い一室で、いかにも高そうなソファーとテーブル。その向こうにはいかにもな社長椅子に座る一人の女性とその横に立つスーツ姿の男性がいた。どちらも二十代中ごろ。テレビで何度も見かけた指南コーポレーション社長の指南翔子さんと、その夫にして副社長の時縞春人さんだ。

 ちなみに夫婦で苗字が違うのは、社長の翔子さんが仕事の時には指南を名乗り、プライベートでは時縞を名乗っているそうだ。

 

「やあ。初めましてだね、井口颯太君。私が指南翔子です」

 

 テレビで見たままの笑顔で俺に指南さんが言った。

 

「初めまして。井口颯太です。俺なんかをこちらの所属操縦者に選んでいただいてありがとうございます」

 

 俺はその場で頭を下げる。

 

「いいのよ、そんな畏まらなくても」

 

 椅子から立ち上がり、指南社長が俺のところへやってくる。

 

「立ち話もなんだし、座って話しましょ。お茶でも出すわ。春人、こないだ買ったクッキーってどこにあったけ?」

 

 後ろを振り返り、さっきと同じところに立っている時縞さんに訊く指南さん。

 

「それならこの間甘いもの食べたいって翔子が食べたじゃないか」

 

「えー、ないのー?じゃあ前に私が作った羊羹は?」

 

「それなら隣の部屋の冷蔵庫にあるんじゃないかな」

 

「じゃあお茶請けはそれにしよう。私が淹れてくるから」

 

 言うが早いか部屋から飛び出していく指南さん。

 

「ごめんね、慌ただしくて」

 

 時縞副社長が苦笑いを浮かべながら言った。

 

「すぐ戻るから座って待っててくれればいいよ」

 

「はい」

 

 時縞さんの言葉に頷きながら示された一人掛けのソファーに座る。ビックリするくらい座り心地がよかった。

 俺の横には貴生川さんが座り、テーブルを挟んで前の三人掛けのソファーには時縞さんと犬塚さんが座った。ミハエルさんは空いていた横の丸椅子に座る。

 

「ただいま~」

 

 そうこうしているうちに人数分の湯飲と急須、大き目の皿に盛られた羊羹を乗せたお盆とポットを持った指南さんが戻ってきた。

 

「はいどうぞー。これ私が作った羊羹なんだー。どうぞ召し上がれ~」

 

 お茶の入った湯飲とともに羊羹の乗った皿を俺に方に向ける。

 

「いただきます」

 

 添えられていたフォークで一口大に切られた羊羹を刺して口に運ぶ。

 

「あ、おいしい」

 

「でしょ?」

 

 俺の言葉に嬉しそうに笑いながら皿をテーブルに置き、時縞さんの横、俺の正面に座る。

 

「それでそれで?どう、ISを動かしちゃったご感想は?IS学園での生活はやっぱり大変?もう一人の男性操縦者ってどんな感じ?」

 

「え、えっと……」

 

 さっそくどんどん質問する指南さんに俺は随時答えていく。

 学園のこと。ISを動かしてしまった時のこと。地元のこと。学園の生活での不便なところ。同室だった簪や楯無師匠こと。一夏の鈍感具合。

 俺の話に皆さん(特に指南さん)反応をしてくれ、その中でも皆さんが反応を示したのが一夏の鈍感話。

 一夏と篠ノ之のこと。一夏に惚れたセシリアに気付かない一夏の話。鈴のプロポーズに気付いてなかった話。

 皆さん苦笑いしながらも笑って聞いていた。

 そうやって話しているうちに気付けば二時間ほど話していた。

 

「――翔子。そろそろ次の予定の時間だよ」

 

「ええー!まだいいじゃない!」

 

「ダメだよ。今からある仕事はどうしてもキャンセルできない重要な仕事なんだから」

 

「ちぇー」

 

 不満げに頬を膨らませる指南さん。

 

「ごめんね。大したおもてなしできなくて」

 

「いえ。楽しかったですよ」

 

 指南さんの言葉に笑顔で答える。

 

「またよかったら会いましょ。今度はもうちょっと長く予定空けるから」

 

「はい、是非」

 

 俺は頷きながら立ち上がる。

 

「あっ、そうだ。ひとつお願いがあるの」

 

 ふと思い出したように指南さんが言う。

 

「IS学園の中でこの人はIS操縦上手いとか、この人は整備とか上手いって人がいたら教えて。人材強化のためにスカウトしたいの」

 

「わかりました。そういう人がいたらご連絡します」

 

 

 

 ○

 

 

 

「ただいまー」

 

 俺は寮の自室のドアを開けながら言うが、それへの返事はない。それどころか部屋の中は真っ暗だ。

 少し前に完全に引っ越しもすみ、俺は二人部屋を一人で使っているのだ。

 部屋割りの調整が済んだって話だったので、てっきり一夏と同室になったのだと思っていたが、なぜか俺も一夏もお互いに一人で二人部屋を使っている。

 そのことについて山田先生に訊くと

 

『ちょっと待ってくださいね。実は颯太君には転校生のだんs……ってなんでもないです!これはまだ言っちゃいけないことでした!』

 

 ………めちゃくちゃ不自然で怪しかった。まあ深くは追及しないでおこう、と思ったのだった。

 

「ふう」

 

 俺は制服からジャージに着替え、制服をクローゼットに仕舞い、ベッドに座って一息つく。

 簪が部屋変わってからなんだか部屋が広くなったように感じる。時々気付いたら洗面所で着替えてる時がある。

 ……実は若干寂しかったりする。

 

 コンコン。

 

「はーい」

 

 ドアがノックされ、俺は確認のために立ち上がりドアに向かう。

 

「こ、こんばんわ…」

 

「一緒に夕食食べに行きましょ~」

 

 やって来たのは簪&楯無師匠だった。

 

「………」

 

「どうしたの、颯太君?」

 

 無言の俺に二人が首を傾げる。

 

「………いえ、何でもないです。いいですよ。行きましょう。俺も今帰ってきたところで、お腹すいてたんです」

 

 俺は首を振りながら笑顔で答え、ふたりとともに食堂に向かったのだった。




この話に出てくる指南コーポレーション社員の名前は作者の創作であり、似た名前の登場人物が他のアニメに出ていたとしてもそれは気のせいです。
気のせいったら気のせいです。
そんな気がするだけです。
幻覚です。
まぼろし~~!

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