IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お気に入り件数がついに3600件をこえました!
ありがとうございます!
現在番外編は考えていますが、内容的にもう少したってから投稿したいと思います
…………て言う話をお気に入り件数3500件の時にも言ってそのままになってたかもしれませんね(^-^;
とりあえず最新話どうぞ!






第167話 クリスの味方

「……うん、これがいいな」

 

「…………」

 

 俺はクリスの頭からつま先までをしっかりと見て頷く。クリスは顔を赤く染めてスカートの端をギュッと握りしめて俯いている。

 部屋を飛び出した俺はクリスを連れてホテル周辺の衣料品などの店を廻り、クリスへのプレゼントとなる服を探す旅に出た。

 そして今、クリスのパーフェクトコーデの完成である。

 紫色のワンピースタイプのドレスに赤い少しヒールのある靴。これまで伸ばしっぱなしだった白く長い髪をピンクのシュシュ二つで括り――ダブルウルフと言うんだったか?――二つに分けている。

 

「うん、いいね!よく似合ってる!可愛いぞクリス!」

 

「かわっ!?可愛いとか言うんじゃねぇよ!」

 

「なんで?可愛いものを可愛いと言って何が悪い?可愛いものは可愛い!カッコいいものはカッコいい!綺麗なものは綺麗!俺はいつだって声を大にして言おう。クリス可愛いよ!」

 

「ふざけんな!てめぇやっぱロリコンだろ!」

 

「ロリコンじゃないけど可愛いものを可愛いと言ってロリコンと呼ばれるなら、俺はロリコンでいい!」

 

「~~~~~~!」

 

「あてっ!あててっ!あてててっ!」

 

 顔を真っ赤にしたまま俺のふくらはぎのあたりをゲシゲシと蹴りつけてくる。

 

「あ、すいません。この服このまま着て帰るんで……はい、お願いします」

 

 近くを通りかかった店員さんにお願いする。お願いする最中もクリスに蹴られ続けてるのでものすごく変なもの見るような目で見られた。

 そのままお会計を済ませてクリスと揃って店を出る。俺の手に持つ袋にはクリスがここに来るまでに着ていた服が入っている。

 

「アンタやっぱ本当のバカだな……アタシなんかの誕生日にこんなに大騒ぎして、こんなに高そうなものいろいろと買って……」

 

「お前なんか、じゃない。誰の誕生日も大切なお祝いの日だ。お前が生まれてお前の誕生をたくさんの人が喜んだ大事な日だ」

 

「…………フンッ」

 

 俺の言葉に無言でそっぽを向くクリス。

 

「さてと、そろそろいい時間だし帰るか」

 

 俺は腕時計を確認し、クリスに言いながら歩き出し

 

「っ!」

 

 そんな俺の手をクリスが握り、止める。

 

「……ん?どうかしたか?」

 

「……その……あれだ」

 

 クリスはモジモジと言い淀みながら、覚悟を決めた様に、しかし、そっぽを向いて

 

「………アリガトウ」

 

 と、小さく、しかしはっきりと言った。

 俺はそんなクリスの様子に笑みを浮かべ、クリスの頭に手を乗せてぐしゃぐしゃと撫でる。

 

「ちょっ!やめっ!やめろ!」

 

 髪をぐちゃぐちゃに乱すように撫でる俺にクリスが手を払いのけようと手を振るうが、俺はそれをかわしながら撫で続ける。

 一通りクリスの頭を撫でた俺は最後に優しく撫でて手を放す。

 

「さてっ!帰るか!夜は焼肉っしょ!」

 

「あっ!ちょっと待てよ!」

 

 イナバウアーのようにのけ反ってクリスを振り返って言ってから歩き出した俺にクリスが慌てて追いかけてくる。

 俺とクリスは二人並んで夜の帳が下りる空の下をホテルに向けて歩くのだった。

 

 

 〇

 

 

 

「やあ、お帰り!ナイスタイミングだよ、二人とも」

 

 部屋に戻った俺とクリスを迎えた貴生川さんは楽しそうに言う。

 見ると机の上には豪華な料理の数々が並んでいた。

 

「クリスちゃんが誕生日だって聞いて急遽ルームサービスでいろいろと注文してみたよ。ちなみにケーキもある~!」

 

「おぉ~!豪華!」

 

「さぁ…座って……」

 

 アキラさんに示されるままに俺とクリスは座る。

 焼肉ではなかったが豪華な料理に囲まれ、綺麗な服に身を包んだクリスは嬉しそうに、しかし、それを隠そうとしているので結果、なんとも言えないしかめっ面になっている。

 

「さぁ、食べようか」

 

 貴生川さんの言葉に全員で顔を見合わせて手を合わせる。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 声を揃えて言うと、俺たちは各々料理に手を伸ばす。

 豪華な料理に舌鼓を打ち、和気藹々と食事を進める。

 俺もアキラさんも貴生川さんも笑いながら、クリスもそれなりに楽しそうにしている。相変わらず食べ方が汚くて口の周りを料理のソースやらで汚しまくってるし、口に運ぶ過程で皿をもって食べないのでポロポロ溢す。おかげでクリスの前の机はかなり汚い。

 そのまま大量の豪華料理を食べ終えたと思ったら、今度はホールケーキが登場した。

 大きなケーキを四等分して食べる。ふわふわのスポンジに甘いクリームが乗っていてとてもおいしい。

 俺たちはそのケーキも食べ終え、食後のお茶を飲みながら一息つく。

 

「………さて、一息ついたところで少し今後の話をしておきたいんだけど、いいかな?」

 

 貴生川さんの言葉に俺は飲んでいたお茶のカップを机に置く。

 

「さっきも話題にあがっていたらしいけど、この国の紛争に介入していたらしい『亡国機業』はここ最近は活動を控えているのか、姿を見せていない。正直このままこの国にいても得られる情報は無いと思う」

 

「そうですね……それは俺も考えていました。そろそろ他の国に移る頃合いかもしれませんね」

 

 貴生川さんの言葉に頷く俺。

 

「でも、次はどこに行きましょうか?」

 

「そうだね、今現在進行形でやつらが介入している様子の場所は今のところ見られない」

 

「だから、ここ最近でやつらが動いた事件のあった場所に行くのがいいと思う」

 

 アキラさんが言いながら数枚の紙束を取り出す。

 

「最近一番『亡国機業』の存在を確認できたのはIS学園への襲撃だけど、それを抜くと九月にアメリカの基地が襲われた事件があった。表沙汰にはなってないけどね」

 

 アキラさんの言葉に資料に目を通すとその旨が書いてある。

 

「なるほど……じゃあ次に行くなら」

 

「うん…アメリカがいいと思う」

 

「ここからも近いしね」

 

「わかりました。それじゃあ、次の目的地はアメリカにしましょう」

 

 二人の言葉に頷く。

 

「それで……アメリカに行くとなると……その……」

 

 アキラさんが言いずらそうに言い淀む。

 

「クリスのことですね……」

 

 俺は言いながらクリスを見る。

 クリスはよくわからないように首を傾げている。

 

「いいかクリス?俺たちは近々バルベルデ共和国を出る」

 

「お、おう。で?それが――」

 

「クリス、お前とはここまでだ」

 

 クリスの問いを遮って俺は言う。

 俺の言葉にクリスが顔を強張らせる。

 

「なっ、なんでだよ!?アタシも連れてけよ!アタシの面倒見るって言ったじゃないか!?」

 

「ああ。でも〝当分〟とも言ったはずだ」

 

「で、でも……!」

 

 食い下がるクリスの肩に手を置き、俺は口を開く。

 

「いいか?お前にはバルベルデの情報を今日まで提供してもらっていた。正直すごく助かった。でもな、俺たちがアメリカに行くならお前はもう俺たちと一緒にいる必要はないんだ。俺たちと一緒にいたっていいことはないぞ。俺たちは――いや、俺は復讐のために動いてる。関係ないお前がそれに付き合う必要はないんだよ」

 

 俺の言葉にクリスは俯く。

 

「……俺たちがアメリカに行くとして、クリスは日本政府に引き取ってもらうってことでいいんですよね?」

 

「ああ、俺たちの意見もそれで一致した。いろいろ手続きもあるから日本に戻れるのは来月になると思うけどね」

 

「クリスは保護してくれる身内がいない。日本に帰った後の保護者は翔子ちゃんたちに頼もうと思ってる」

 

「なるほど。いいですね。翔子さん達なら心配ないですね」

 

 言いながらクリスに再び向き直る。

 

「日本に戻ったら俺たちの知り合いがお前のことを保護してくれる。安心していいからな?」

 

 俺はニッコリと笑いながらクリスの頭を撫でる。クリスは俯いたまま

 

「………けんな」

 

「え?」

 

「ふざけんな!」

 

 突如顔を上げて俺の手を払いのける。

 

「ふざけんな!関係ない?違う!アタシはもう関係者だ!アタシを勝手に助けたのはアンタだ!アタシに生きることを選択させたのはアンタなんだよ!だったらアンタが最後まで責任持てよ!」

 

 鋭い視線で俺を睨みながらクリスは叫ぶ。

 

「それとも何か!?アタシはアンタらにとってもう利用価値がないか!?利用するだけ利用して、いらなくなったらポイッするってのか!?」

 

「クリス……」

 

「アンタたちは……アンタは違うと思ってたのに!結局アンタもアタシをいいように使ってたやつらと一緒なんだ!パパとママが死んで、アタシの味方なんてこの世界に誰もいない!この世にもうアタシの居場所なんてない!もう誰にも愛されないんだ!」

 

「……………」

 

 俺はクリスの言葉を聞いて少し黙り

 

「そんなことはない!!!」

 

 叫んだ。

 俺の言葉にクリスが一瞬体を震わせて俺を見る。

 

「確かにお前は……態度がでかくて、口が悪くて、すぐ手が出る!……食べ方が汚くて、寝相も悪くて、口下手なところもある!……不器用で、絵も字も下手だ!………あと、段取りが悪いよねぇ~!」

 

「アンタはアタシを慰めてんのか貶してんのかどっちだよ!?」

 

「あ、すまん。えっと……あ、そうそう。お前は確かに欠点はたくさんあるかもしれない。けど、それ以上にいいところがたくさんあるんだよ!」

 

 俺は言いながらクリスに視線を揃える。

 

「いいか?お前は世界中に味方がいないって思ってるかもしれないが、少なくともここに三人、お前のことを思ってる人間がいる」

 

「ならアンタたちに着いて行ったって――」

 

「それはダメなんだ」

 

「なんで!?」

 

「俺たちはお前の味方だ、味方だからこそお前をこれ以上巻き込むわけにはいかない」

 

 言いながら俺はクリスに笑いかける。

 

「お前はこの三年、ずっと暗い闇の中にいた。それがやっとお日様の当たる場所に出られたんだ。お前の人生はこれから始まるんだぜ?俺みたいになっちゃいけないんだ」

 

「…………」

 

「これからお前の面倒を見てくれるであろう俺たちの知り合いも絶対にお前の味方になってくれる。そうやってお前には俺なんかよりもっともっと心強い味方がたくさんできるさ。俺のことなんてすぐ忘れるよ」

 

「っ!忘れるはずないだろ!」

 

 クリスはキッと俺を睨み、立ち上がる。

 

「お、おい!」

 

 俺は呼び止めようとするが、クリスはずんずん歩いて行き、クリスとアキラさんが寝起きする部屋のドアの前で立ち止まり振り返る。

 

「いいよ!アタシのことが厄介になったなら日本政府だろうが何だろうが好きなところに預ければいい!その代わり…アタシがいなくなって困っても知らないからな!後から後悔してもおせぇからな!」

 

「ああ。いつか全部解決したら会いに行くから……」

 

「フンッ!」

 

 俺の言葉に答えず、そっぽを向くとドアを開けて寝室に引っ込むと大きな音を立ててドアを閉めた。

 

「よかったの?」

 

「……ええ、よかったんですよ」

 

 アキラさんの問いに頷きながら椅子に座り直す。

 

「普通に暮らせるならそれが一番です。それは俺たちと一緒にいちゃ叶わない」

 

「「…………」」

 

 俺の言葉に二人は何も言わない。だから俺も話題を変える。

 

「さて、次はアメリカですか……いろいろ事件の概要とか目を通しておきますかね」

 

 俺は言いながら席を立ち寝室に引っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、アキラさんと貴生川さんに連れられ、クリスはバルベルデ共和国にある日本領事館に保護された。

 朝起きて俺に見送られて出て行くまで、クリスは俺を睨むばかりで一言も話さなかった。

 最後に頭を撫でた時だけはいつもなら振りほどく俺の手を黙ってなすがままで頭を撫でられていた。

 

 

 

 

 

 

 数日後、年を越して正月の三が日も過ぎたころ、俺たち三人はアメリカに入国した。

 


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