IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第152話 拝啓

 颯太と一夏の試合から一日空けて月曜日の朝、シャルロットはいつもより早めに登校していた。

 日曜日には指南の会社の人が見舞いに来たり試合後のごたごたの処理などに追われ、颯太を見舞いに行けなかったシャルロットは授業開始までに一度颯太の顔を見に行こうといつもより早く登校したのだ。

 

「おう、シャルロット、おはよう」

 

 自身の机に鞄を置いたシャルロットに背後から声がかかる。

 振り返ると一夏が立っており、その周りには箒、セシリア、鈴、ラウラのいつものメンバーが立っている。

 五人とも神妙な顔でシャルロットの顔を見ている。

 

「うん、一夏、それにみんなもおはよう」

 

 そんな五人にシャルロットは笑顔で頷く。

 

「その……あれから颯太は……?」

 

「うん、昨日は僕も忙しかったし、会社の人も大勢来てたし、今回のことの事情聴取もあってお見舞いに行けなかったんだ」

 

「そうか……」

 

 シャルロットの言葉に一夏が俯く。

 いまだに颯太が倒れたことに責任を感じているようだ。

 

「試合の後夕方には目を覚ましてたし、運がよかったのか大事な内臓とかも傷ついてなかった。治療用のナノマシンが効いてるおかげで後遺症とかも残らないだろうって」

 

 シャルロットは治療後に聞いた話を思い出しながら言う。

 

「まあ強いて言うなら少し傷跡が残るかもしれないって。でもこれは無理矢理ホッチキスでとめてた颯太の自業自得だよ」

 

「そう…か……」

 

 笑いながら言うシャルロットに対していまだ一夏の表情は晴れない。

 

「気にしすぎだよ、一夏。一夏が悪いんじゃない。一夏が刺したわけじゃないでしょ?」

 

「ああ……でも……」

 

 頷きながら一夏は顔を上げて視線を動かす。一夏の視線の先にはとある人物の席がある。

 まだ早い時間で一組の生徒はまだ半分も来ていないが、それでも一夏の見つめるその席に誰かが座ることはないだろう。

 

「まさか…相川さんが颯太さんを刺すなんて……」

 

「想像もしていなかったな……」

 

「いまだに信じられないわよ」

 

 一夏の視線に他の面々もそちらに視線を向け、セシリア、箒、鈴が呟く。

 

「あいつもまた、命令されてやっただけらしいがな……」

 

 ラウラは肩をすくめ、シャルロットに視線を戻す。

 

「シャルロットは何か聞いているか?相川に命令をしたやつについて……」

 

 ラウラの問いにシャルロットは首を振る。

 

「みんなと一緒。詳しいことは教えてもらえてないよ」

 

「そうか……」

 

 ラウラはシャルロットの言葉に頷く。

 

「……これが颯太の言っていたことなんだろうな」

 

『え……?』

 

 一夏の呟きに五人が訊く。

 

「颯太に言われたんだ、自分の周りの悪意にも気付けてないって。俺の気付けてなかった悪意って、これのことだったんだろうな」

 

「颯太がそんなことを……」

 

「ああ……俺に見えていなかったものを颯太は見てたんだろうな……」

 

 一夏は自嘲するように笑う。

 

「俺、ホントにこの学園を守れるのかな……?」

 

「なに弱気になってんのよ?」

 

 ため息をつく一夏に鈴が言いながらバシッと背中を叩く。

 

「アンタだって譲れないものがあったから颯太に挑んだんでしょ?だったら最後までやりきりなさいよ」

 

「そうだぞ一夏。それに、お前は一人じゃない」

 

「ええ。わたくしたちだっていくらでも協力しますわ」

 

「この学園を守るために、私たちがお前の力になる」

 

「みんな……」

 

 四人の言葉に一夏が顔を上げる。

 

「そうだよ。みんなだって、もちろん僕と簪だって、それに、颯太だって」

 

「颯太も……?」

 

 シャルロットの言葉に訊いた一夏にシャルロットは頷く。

 

「颯太だってこの学園を守りたい気持ちは一緒だよ。この学園にいる限り颯太も力になってくれるよ」

 

「そう…かな……?」

 

「そうだよ」

 

 不安げな一夏に力強く答えるシャルロット。

 

「まあでも、颯太のことだから初めは渋ると思うけどね。『俺は負けたんだから~』とかなんとか」

 

「フフッ、なんだか想像できますわね」

 

「アイツなら言いそうね」

 

 シャルロットの言葉に笑いながらセシリアと鈴が言う。

 

「それから散々渋って最終的に『しょうがないな~』とか言いながら手伝ってくれるんだろうな」

 

「しかも参加しだしたら嬉々としてな」

 

 箒とラウラも笑いながら言う。

 

「だから、心配しなくても一夏一人でやるんじゃない。みんなでこの学園を守るんだよ」

 

「……ああ」

 

 五人の言葉にやっと初めて笑顔を浮かべて一夏が頷く。

 

「そうだな。俺は一人じゃない。颯太が怪我を治して復帰したとき、協力してくれるようにちゃんとしないとな!」

 

『おお!』

 

 一夏の言葉に五人が力強く頷き、笑い合う。と――

 

「――シャ、シャルロット!」

 

 血相を変えた簪が教室に飛び込んでくる。

 

「ど、どうしたの、簪?そんなに血相変えて……」

 

「シャルロットのところには無かったの!?」

 

「な、なかったって何が?」

 

「これ!」

 

 話が見えず首を傾げるシャルロットに簪は手に握りしめていたものを見せる。

 それは少ししわがいっていたが、白い封筒だった。

 

「それって……?」

 

「いいから探して!私のは机の中にあったから!」

 

「う、うん……」

 

 説明する時間もないかのよう捲し立てる簪の剣幕に押されながらシャルロットは机の引き出しに手を入れる。と、指先に何かが触れる。

 

「………あっ、これかな?」

 

 言いながらシャルロットはそれを取り出す。それは簪の持っている封筒と同じものだった。

 表面には「シャルロットへ」の文字が。裏返してみると

 

「え……?」

 

 そこには「颯太」の文字が。

 

「これって……!」

 

「は、速く中身!」

 

 驚くシャルロットは簪にせかされて慌てて封を開ける。中からは一枚の便箋が出てくる。

 

「…………え……?」

 

 数秒その内容に視線を巡らせ、シャルロットは声を漏らす。

 

「お、おい、いったいそれがどうしたって――」

 

「行こう簪!」

 

「うん!」

 

 二人の様子に意味が分からない顔の面々の中で一夏が訊くが、その言葉を遮って二人は頷き合って走り出す。

 

「え!?お、おい!?」

 

「い、いきなりなんですの!?」

 

「それが何だって言うのよ!?」

 

「いったいどうした!?」

 

 四人の言葉にも答えず二人は脇目も降らず教室を飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 その後、シャルロットと簪は一時間目の授業を受けずに走り回って探しつくした結果、目的の人物に会うことはできなかった。

 ――その日、IS学園から井口颯太が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪へ

 

  俺をヒーローと言ってくれてありがとう

 

                   颯太」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルロットへ

 

  バカな俺をいつも助けてくれてありがとう

 

                   颯太」

 


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