ではどうぞ!
「いやぁ~、今日は楽しかったわね」
学園まで帰ってきたところで師匠が大きく伸びをしながら言った。
喫茶店を後にしてからはそれまでと同じように色々とお店を物色し、気に入ったものを買うなど、ウィンドウショッピングに興じた。
師匠もいくつか新しい服を買い、現在その服たちの入った紙袋三つは俺が持っている。今日は色々と相談にのってもらったし、何より今日はデートである。荷物持ちくらいお安い御用だ。
「師匠。今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「ちょっとはお悩み解決の役に立ったかしら?」
「はい。師匠の言ってたこと、すぐには無理かもしれないけど、もう少し自分のこと見つめ直してみようと思います」
「そう……」
俺の答えに師匠が目を細め優しく微笑む。
そんな風に話していると、いつの間にか寮の玄関まで帰って来ていた。
「あ、井口君…と、生徒会長、おかえりなさい。二人でデートですか?」
と、玄関でばったり相川さんに出会った。
相川さんは冗談めかして言う、が――
「ええ。楽しかったわ~。颯太君と買い物デート♡」
言いながら笑顔で俺の腕に自分の腕をからませて密着して言う。
「ええ!?ほ、本当にデートに行ってたんですか!?」
師匠の言葉に相川さんが驚く。
「ちょっと師匠……」
「あら?何か間違ってたかしら?」
「………間違ってないです。デートでした」
悪戯っぽく笑いながら首を傾げる師匠に俺はため息をつきながら頷く。
「そ、そんな……まさか井口君と会長がそんな関係だったなんて……」
「一応言っておくけど付き合ってるとかじゃないからね?」
驚愕する相川さんに一応訂正をしておく。
「で?相川さんも玄関にいるってことは、どこか出かけてて今帰ったところとか?」
俺は話題を変えるべく、相川さんに訊く。
「あぁ、うん。そうじゃないんだけどね。私の場合は今日届く手紙があったから取りに来てたのよ」
ほら、と言いながらポケットから封筒を取り出す相川さん。
「あ、そうだ。井口君にも何か荷物届いてたよ」
「俺に?……あっ、そう言えばこの間Ama〇onで買い物したんだった」
「そっちに置いてあるよ」
相川さんは言いながら玄関わきの扉を指さす。
そこは簡単に言えば保管室だ。
学生寮にいる人間に手紙や荷物が届いた場合一旦学園の校門わきにある受付に届けられ、最低でもその日の夕方には寮に届けられる。
それを保管室にある部屋番号別の郵便受けに、そこに入らないものも保管室内のスペースに保管される。
「ありがとう。確認しとくよ」
「うん。それじゃあ私はそろそろ行くね」
頷いた相川さんが言う。
「それじゃあ井口君、また明日ね。会長も、さようなら」
「ああ、また明日」
「それじゃあね」
「あ!二人のことは内緒にしておきますね?」
「だから違うって……」
「アハハハ~。わかってるよ~。冗談冗談♪」
笑顔でそう言い残し、手を振りながら相川さんが去って行く。
「……はぁ、本当にわかってんのかねぇ~」
俺はため息をつきながら呟く。
「アハハハハ~、これで噂になったりしてね」
「そうなったら師匠が困るんじゃないですか?」
「別にいいわよ。颯太君なら」
「え……?」
師匠の言葉に俺は思考が止まる。まさか、それって――
「前々から颯太君って私のM奴隷って噂が流れてるし」
「何それ初耳なんですけど!?」
今明かされる驚愕の真実に思わず叫んでしまう。
「ほら、最初の特訓の時に颯太君を張りつけにしてアサルトライフルぶっ放したことあったじゃない?あの一件が尾を引いてるらしくて、いまだに颯太君と私はM奴隷と女王様の関係だって噂が根強く残ってるのよ」
「うっわ、知りたくなかったなぁ~」
何か月前の話だよ。人の噂は七十五日じゃないのか?
「まあそんなわけだから、今更恋人って噂されても平気、って言うか奴隷とご主人様よりはノーマルでしょ?」
「まぁ……そうなんですかね?」
師匠の言葉も一理ある気がするが、なんか納得がいかない。
「……考えても仕方がない。噂のことは気にしないことにします」
「その方がいいわね」
俺の言葉に楽しそうに師匠が笑うのを尻目に俺は歩き出す。
「あれ?颯太君、荷物はいいの?」
と、師匠が俺の服を引っ張りながら訊く。
「あぁ……後で取りに来るんでいいですよ。先に師匠の部屋にコレ、持って行きましょう」
俺は言いながら手に持っていた紙袋を軽く持ち上げて言う。
「いいわよ。それくらい自分で持って行くわ」
「でも……」
「今日は十分楽しかったから、ここまででいいわよ」
「……わかりました。じゃあ、コレ」
「うん。ありがとう」
俺は言いながら差し出した紙袋を師匠が頷きながら受け取る
「で?颯太君は何を買ったのかしら?」
「えっと、ちょっと待ってくださいね……」
俺は言いながら保管室に入り荷物受け取りの手続きをする。
「――やっぱり注文したやつみたいですね」
箱に張られた伝票と箱の側面に描かれた独特の笑ったようなロゴマークでわかる。中身は開けなくても、俺がここ最近買ったものなんて一つしかないので間違いないだろう。
強いて言えば思ったよりも少し重い気もするが。
「ちょっとごちゃごちゃする頭の中を切り替えたくてガンプラ買ったんですよ」
「またプラモデル、ホント好きね」
師匠が呆れ顔で言う。
「そうは言いますけど、面白いですよ。細かい作業多いですけど、拘れば拘っただけ面白いですし。好きな機体を自分の手で作り上げるって言うのがまたいいんですよ」
「ふ~ん、私やったことないけど、そんなに面白いんだ」
「えっ、師匠やったことないんですか!?」
「ええ」
「もったいない。物は試しでやってみればいいのに」
「……そうね、颯太君がそこまで好きなんだし、今度やってみようかしらね」
俺の言葉に興味をそそられたらしい。こういう時こそ布教活動のチャンス。
「だったらこれあげましょうか?」
「え?でも……」
俺が荷物の箱を差し出すと、師匠が困ったように箱と俺の顔を交互に見る。
「いいんですよ。プラモデル好きを増やすチャンスですし。何より、プラモデル作って頭切り替えなくても、今朝までほど頭の中ごちゃごちゃしてませんから」
「………そう。じゃあ、お言葉に甘えて、それ貰っちゃおうかしらね」
「どうぞどうぞ」
俺の差し出した箱を受ける師匠に俺は箱を渡す。
「あ、代金――」
「いいですよ。今日いろいろ相談にのってもらったんで。これはそのお礼も兼ねて」
「でも、貰ってばかりじゃ悪いし……あ、そうだ!あれがあったわ」
言いながら師匠は持っていた紙袋の一つから小さな包みを取り出す。
「もともと颯太君にあげるつもりだったけど、はいこれ」
「なんですかそれ?」
「今日の思い出に私からプレゼント」
笑顔で小さな包みを差し出す師匠に、俺はそれを受け取り封を開ける。
「これは……キーホルダーですか?」
「そうよ」
俺の問いに師匠が頷く。
それは、メタルチャームのおしゃれな水色のキーホルダーだった。
何かの形をあしらっているようで、よくよく見るとそれは――
「……『K』ですかね?」
「正解!ちなみに私も付けてるわよ」
言いながら師匠はポケットから自身の携帯を取り出す。
そこには同じようなデザインの緑色のキーホルダーがぶら下がっていた。俺の『K』とは形が違い、おそらくそれは『S』をかたどっているのだろう。
「私のは『S』。颯太君のイニシャルの『S』よ」
「へ~……じゃあこっちの『K』は……?」
「そっちは私の名前のイニシャルよ。今日の記念にお互いのイニシャルのキーホルダーにしてみたわ」
「………ん?ちょっと待ってくださいよ」
俺は師匠の言葉に首を傾げる。
「師匠は『更識楯無』なんですから、『K』なんて入ってないじゃないですか」
俺の言葉に、師匠はよくぞ訊いてくれたと言わんばかりに微笑む。
「実はね、私の名前、本当は『楯無』じゃないのよ」
「えっ!?師匠今まで偽名使ってたんですか?」
「ん~……偽名ってのも違うのよ。『楯無』って言うのは更識家の当主が代々名乗る名前でね。私も当主になったときに『楯無』を襲名したの。だから私には当主としてじゃなく、私の本当の名前が別にあるの。簡単に言えば諱ね」
「へ~、諱。それはまた時代錯誤な」
師匠の言葉に俺は感心する。
諱なんてマンガやアニメとか二次元の世界や時代劇なんかでしか聞いたことが無かった。やはり師匠の家は特殊なのだろう。
「てことは、師匠の本名、諱はKから始まるってことですか」
「そういうこと。いい機会だから特別に教えてあげるわ、私の本当の名前」
言いながら師匠は一歩俺に歩み寄り手招きをする。
俺はその意図を察し、師匠の方に右耳を近づける。
師匠がさらに俺の耳に顔を近づける。
そっと俺の耳に吐息がかかる。
そのぬくもりに、少しドキドキしながら、小さな、しかしはっきりとした声が耳に届く。
「私の名前は、『刀奈』。『更識刀奈』って言うのよ」
〇
「なるほど……刀奈に簪。師匠の家はなかなかに和風の名前を付けてるな」
俺は一人呟きながら携帯を見る。厳密にはその携帯に着けられているキーホルダーを、であるが。
あれから改めて荷物も増えたことだし部屋まで運ぶと言ったのだが、師匠には断られてしまい、俺は一人自室に戻るため廊下を歩いていた。
「しっかし、そんな結構な秘密をなんでまた俺なんかに」
俺は師匠と別れてから考えていた疑問を口にする。
確か諱って昔は結構重要なものじゃなかったかな?マンガとか時代劇の知識だけど、確か、諱を呼んでいいのは親とか上司、他の人がそれで呼ぶのは失礼にあたるとか。
あとは諱を知るということはその人の霊的人格を知ることと同義で、諱を使うのは新しい主君への忠誠を誓うときや義理の親子や兄弟が契りを結ぶとき、あとは結婚のときだけで………――ん?
俺はそこまで考えて歩をいったん止める。
待て待て待て待て待て待て待て待て待て!
ちょっと待て!
諱を人に知られるってことは、要するにその人自身のすべてを相手に掌握されるってことになるわけだ。
だからこそ新しい主への忠誠や親兄弟の結びつきなんかでしか使われることはない。
じゃあ、なぜ師匠は俺にそれを教えてくれた?
主君への忠誠?――師匠の方が立場上なんだから教えるのはおかしい。よって除外。
義理の親子関係?――俺の両親は健在。そもそも一つしか違わないのに親子関係とかありえない。よって除外。
義理の兄弟?――何故ここに来て急に兄弟になる?親子関係と同じくあり得ない。よって除外。
なら――結婚?
「え…………もしかして師匠の言ってたシャルロットの他にいる三人のうちの一人って……師匠自身のこと……?」
いやいやいや!!!
おかしいって!だって師匠だよ!?
あの美人で何でもそつなくこなす人たらしのカリスマの塊みたいなあの人が、俺なんかを――
そこまで考えたところで、今日の師匠の言葉がフラッシュバックする。
――自分の魅力を自分で否定したら、君のその魅力に惹かれてた女の子たちまで否定することになる
師匠の口からその言葉が出たのは、師匠自身が俺のことを見ていてくれたからではないのか?
俺自身が見ようとしていなかった俺を見て、評価してくれたから、好きになってくれたからこそ、それを否定する俺を叱咤しに来てくれたのではないか?
つまり、師匠は俺のことを……
「………ハ、ハハハ…最後の最後にとんでもない爆弾を落としていったな、あの人は……」
俺は乾いた笑みを浮かべながら呟く。
とりあえず、このことはシャルロットのことと同じく俺のこれからの重要な問題だ。急いで結論を出すべきことではない。
なにより、俺自身こんな複雑な問題にすぐさま答えを出せるわけがない。
きっとまず俺が何よりもすべきことは、それは――
「シャルロットにここ一週間のおかしな態度について、謝らないとな………あぁ……胃が痛い」
俺は重くのしかかるプレッシャーに胃がキリキリと悲鳴を上げる。
とにかく次にシャルロットにあったらちゃんと謝らないと。
今のうちにちゃんとなんて謝るかの文言を考えておかないと、きっとすぐに頭の中真っ白になるから……
――なんて考えていたせいだろう。
考え込んでしまっていた俺は角を曲がる瞬間、その先から人が来ていることに、一瞬反応が遅れた。
何より、その人物が
「あ……颯太……」
今まさに考えていた相手、シャルロット・デュノア本人であるということに、少なからず、――いや、大いに衝撃を受け、一瞬にして俺の頭の中は真っ白になった。
颯太君にどんどんのしかかる爆弾とプレッシャーの数々。
颯太くこのままだと胃に穴空きそう(笑)
さて、第十六回質問コーナー!
今回の質問は味噌おでんさんからいただきました!
「颯太くんと簪さんに質問です。2人が絆を深めるきっかけとなった「天元突破グレンラガン」、その放送開始から今年で10年がたちました。お2人の1番心に残ったシーンはなんですか?」
とのことですが
颯太「一番か……ぶっちゃけ選べないな。複数上げるなら、『カミナのギガドリルブレイク』『シモン復活』『キングキタンギガドリルブレイク』『最終決戦』『結婚式』のあたりかな」
簪「私もそこは外せない。あと、私は『螺旋王との決戦』『多元宇宙迷宮』ははずせない、かな……」
颯太「確かにな!――ってことで一番を絞れない!今あげた以外にも名シーンはたくさんあるし、どのシーンも最高!」
簪「一番を選ぶなんて、ムリ」
なるほどなるほど。
だそうです!味噌おでんさん!
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!