IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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シャルロットは『ワールド・パージ』でいったいどんなものを見ていたのか……







第128話 シャルロットのワールドパージ

 僕の名前はシャルロット・デュノア。

 IS学園に通う――

 

『ワールド・パージ、完了』

 

 ――近年設立され、着々と実績を重ねてきた会社、『井口コーポレーション』の社長秘書。

 しかし、それもあと一週間で終わる。なぜなら……。

 

「お~い、シャルロット~」

 

「ひゃう!?」

 

 いきなりお尻を撫でられた僕は思わず大きな声が出た。

 手に抱えていた資料を取り落としそうになりながら、慌てて両手で抱きしめる。

 

「しゃ、社長!?ま、またそうやってイタズラを――」

 

「こ~ら」

 

「あっ……」

 

 コツンとおでこに拳を当てられ言葉を途中で遮られる。

 

「前から言ってるだろ?二人きりの時は『颯太』って呼んでくれって」

 

「で、でも……」

 

 颯太社長の言葉に僕は口籠る。

 僕がこの会社に来たのはこの会社ができてから二年目の春。僕が前にいた会社をクビになって三ヶ月経ってからだった。

 うちには僕が小さいころから父親がおらず、体の弱い母は僕が高校を卒業するまで頑張ってくれた。が、そこから体調を崩し、入院しがちになっていた。

 母の治療費を稼ぐために職を探すも、なかなか見つからず、頭を抱えていた時に受けた面接で行きついたのが、この会社だった。

 たまたま前任の社長秘書が寿退社で空いていた社長秘書のポストに収まり、そこから交流を深めるうちに、僕らは惹かれ合い、一年の交際を経てあれよあれよという間に婚約していた。

 一週間後の結婚式で僕は颯太と結ばれる。

 

「で、でも、今はまだ仕事中ですし……」

 

「え~?」

 

「しゃ、社長だってまだ仕事が残ってるんじゃないですか?やることをちゃんとやらないと他の社員さんにも迷惑がかかりますし……」

 

「ふ~ん……じゃあ仕事が終わってればいいの?」

 

「ま、まあ…そうなる…んですかね?」

 

「そうか」

 

 納得したように頷きながら自身の机に戻る社長。

 僕はため息をついて本棚に向き直り資料整理に戻る。

 手に抱えていた資料をすべて本棚に収め終え、次の仕事は、と思考を向けたところで

 

「隙アリ!」

 

「ひゃぁぁ!?」

 

 またもや、今度はふとももからお尻にかけてをペロンと撫でられる。

 

「しゃ、社長!さっきも言いましたけど――」

 

「仕事なら終わってるぞ?」

 

「え?」

 

 颯太の言葉に急いで颯太の机に視線を向けると、颯太の机の上には紙の束の山が出来上がっていた。

 

「さて、シャルロット君。俺の今日の午後からの仕事内容はなんだったかな?」

 

「え、えっと……取引先への書類に判を――」

 

「押した」

 

「今度新たに取引する会社の資料に目を――」

 

「通した」

 

「先日会食した社長にお礼のメールを――」

 

「送った」

 

「経理部から上がってきた予算案を――」

 

「チェックした」

 

「その他、書類に目を通していただいて承認・非承認を――」

 

「選別した」

 

「…………」

 

 僕は唖然としながら颯太の机の上の書類を見る。

 すべてにちゃんと判が押され、承認・非承認に分けられていた。

 僕が今言った仕事は完璧に終わっていた。

 呆然としていると、ニコニコと笑みを浮かべて僕の顔を覗き込んでくる颯太。

 

「ねぇねぇ?他は他は?他に午後から俺がやっておく仕事って何があったっけ?」

 

「え、えっと………ないです」

 

「え~?なんて~?」

 

「で、ですから、この後の予定は7時半からの取引先の社長との会食まで、予定されている仕事は無いです」

 

「へ~……ってことはあと3時間もあるな~。あぁこんな時!俺の可愛い可愛い婚約者がいたら、二人きりでイチャイチャできるのになぁ~!――おやぁぁ!!?」

 

「っ!?」

 

 演劇の様に大仰な動作で困った困ったと頭をひねっていた颯太が大きな動作とともに僕を指さしながら振り返る。

 

「ねぇ?俺の可愛い可愛い婚約者のシャルロット?仕事が終わればいいんだよね?終わってるけど?」

 

「そ、それは……」

 

 言い淀む僕をそっと後ろから颯太が抱きしめる。

 

「ね?どう?」

 

「で、でも……まだ仕事が残って……」

 

 さわさわと太ももを撫でられる。

 

「いいじゃん。俺の相手をするのも、仕事のうちってことで」

 

「んっ……。わ、わかりました……」

 

 かぁっと顔を赤らめて僕は小さく頷く。

 と、いきなり颯太は僕を抱え上げるように抱き上げると机の上に対面に座らせ、そのまま詰め寄ってくる。

 

「シャルロット……」

 

「だ、ダメ……誰かに見られたら……」

 

「大丈夫。この時間ここに来る人なんてそうそういないし、みんな俺たちのことは知ってるだろ?ドアだって鍵かかってるし……あっ」

 

「え?」

 

 と、颯太は言葉の途中で僕の後方に視線を向ける。

 つられて視線を向けると、そこには天気のいい日差しの差し込む窓が――

 

「もしかしたら向かいのビルからなら見えちゃうかもな」

 

「っ!?そ、そんな……!?」

 

「まあ大丈夫だって。こんな時間に向かいのビルをじっと見てるような人なんていないって」

 

「で、でも……」

 

 言いながら顔を近づけてくる颯太に僕は言い淀む。

 

「気になるようならカーテン閉めるけど……いいの?」

 

「い、いいって……何が……?」

 

「だって――」

 

 言いながら颯太が顔を近づけ、僕の耳元に口を寄せる。

 

「見られてるほうが興奮するんじゃない?」

 

「っ!!」

 

 颯太の言葉に僕は自分の顔をがさらに赤く染まって言うのがわかる。

 

「ハハッ、ごめんごめん」

 

 言いながらちゅっ、と頬に軽くキスをする颯太。

 そのまま机の端に置かれていた小さなリモコンのスイッチを押すと、ゆっくりとカーテンが閉まっていく。

 

「シャルロットが可愛くてついいじめたくなったんだ」

 

「え……?」

 

「シャルロットの可愛いところ、他の人には見せたくないな。その顔は俺だけが知ってる、俺だけが独り占めしてたいな」

 

 そう言って照れたように微笑む颯太の顔に心臓が高鳴る。

 照れ隠しをするように僕の前髪をかき分け額に優しくキスをする颯太。

 僕の心臓の音が颯太にも聞こえてしまっているんじゃないかと思えるほど高鳴る胸は痛いほどで、今にも心臓が口から飛び出してきそうだ。

 

「シャルロット……」

 

 言いながら颯太がゆっくりと僕を机に押し倒していく。

 

「そ、颯太……」

 

「シャルロット……」

 

 互いに名前を呼び合いながら、颯太の手がゆっくりと僕のスーツの上着のボタンに延ばされ、同時にゆっくりとその唇が僕の唇へと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――って感じのタイミングで俺が飛び込んでさ」

 

「…………」

 

 一夏が苦笑い気味に言う言葉を颯太は無言で聞いていた。

 

「その後は他のみんなとあまり変わらないかな。『ワールド・パージ』の颯太の目が金色と黒色に変わって、その颯太を倒して事なきを得たって感じだな」

 

「………そうか」

 

 一夏の言葉を噛みしめるように、自分の中に落とし込むように深く頷くと颯太が顔を上げる。

 

「なるほど、確かに知り合いが自分でそんなエロい夢を見てたら、反応に困るな」

 

「だろ?」

 

「ああ、役得とか言えないわ」

 

 苦笑いを浮かべながら言う颯太に一夏も同意してくれる人物ができてうれしそうに頷く。

 

「まったく、五人とも揃いも揃ってなんであんなのばっかりだったのか……」

 

「……願望」

 

「え?」

 

 ぼそりと呟いた颯太に一夏が訊き返す。

 

「『ワールド・パージ』は対象者の秘めた願望や渇望する夢を形にするって言ってたな」

 

「あ、ああ」

 

 颯太の言葉に一夏が頷く。

 

「その世界があいつらの願望や夢だって言うなら……その配役だって……――いや」

 

 少し逡巡するそぶりを見せた颯太は真剣な顔から一転、いつも通りの笑みを浮かべる。

 

「悪い。やっぱなんでもない」

 

「なんだそりゃ。そんな言い方言われたら気になるだろ」

 

 肩透かしを食らい苦笑いを浮かべる一夏。

 

「アハハ、すまん。でも、これは俺が言っていい事じゃないしな。きっとこれは、お前が自分で気付かないと……」

 

「??? それってどういう――」

 

「おっと!もうこんな時間か!」

 

 首を傾げながら問いかけようとした一夏の言葉を遮るように腕時計を見ながら立ち上がる颯太。

 

「俺そろそろ行かないと。織斑先生に事後報告しないといけないんだ」

 

「そ、そうか。お疲れ」

 

「一夏はもう少しゆっくりしてたらいいぞ。動けるようなら夕飯までには戻ればいいしな。戻る前に誰か先生にちゃんと一声かけろよ」

 

「おう。わざわざありがとうな」

 

「いいってことよ。こっちもいろいろう有意義な話が聞けたし。――ホント、なかなかにすごい話を……」

 

「………颯太?」

 

 一瞬颯太の顔が見たこともない表情になったように見えた気がした一夏は颯太の名を呼ぶが、その時にはもうすでにいつも通りの笑みになっていた。

 

「それじゃ、今日はお互いお疲れさん」

 

「お、おう。お疲れ……」

 

 笑顔のまま手を振って去って行く颯太を見送りながら、一夏は少し違和感を感じていたのだった。

 

 

 〇

 

 

 

「あっ!颯太!」

 

 医務室を出て少し歩いたところで、颯太は背後から聞こえた声に振り返る。

 そこには笑顔で手を振りながら小走りで駆け寄るシャルロットの姿があった。

 

「シャルロット……」

 

「一夏の方はもういいの?」

 

「ああ……」

 

 自分の元に駆け寄り笑顔で訊くシャルロットに颯太は頷く。

 

「そっか……ねぇ、このあとなんだけど――」

 

「悪い、シャルロット。俺この後織斑先生に呼ばれててな。そろそろ行かないとまずいんだ」

 

「え?そうなの?じゃあ――」

 

「おっと、一夏のところに長居しすぎた。それじゃあ」

 

「あっ!颯太っ」

 

 言いながら颯太は足早に去って行く。

 後に一人残されたシャルロットは伸ばした右手をゆっくりと下ろしながら後ろ手に持っていた自分と颯太の分の二本のスポーツドリンクに視線を向ける。

 先ほどまで冷蔵庫か何かで冷やされていたらしいそれはペットボトルの表面にうっすらと水滴が浮かび、その水滴をなぞりながら、シャルロットは少しの間颯太の去って行った方向を見つめていたのだった。

 




シャルロットのワールド・パージの内容に関しては悩みました。
原作通りにするかオリジナルでいくか。
結果今日は一日ピンク色なことばかり考えてました。
しかもなかなかいいシチュエーション思い浮かばないし……そのくせ簪とか楯無のシチュエーションは思い浮かぶし……

さてさて颯太君のこの反応は………次回をお楽しみに( ´艸`)



さて、第九回質問コーナー!
今回の質問はGoetia.D08/72さんからいただきました!
「颯太君に質問。火焔に乗った状態で使ってみたいテイルズの秘奥技があったら教えて。(出来れば実演付きで)」
ということですが

颯太「テイルズか……あんまり詳しくないけど、卓也が好きでよくやってたな。俺もよく隣で見たりちょっとやらせてもらったなぁ~。その中でカッコいいなって思ったのは『漸毅狼影陣』かなぁ。こう敵を周りから斬りつけまくる感じとか、全体的なスタイリッシュさとかカッコいいよね」

ほうほう。
ではさっそくそれを実演で!

颯太「よし来た!それじゃあまず――ってできるか!瞬間加速使ってもニ、三回できるかどうかだわ!」

だそうです!Goetia.D08/72さん!
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!

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