IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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予告通り番外編です。
しかも書いてたらまた長くなったので前後編に分けます。
てなわけでまずは前編をどうぞ!





お気に入り件数3200記念 「アポトキシン」 前編

 その異変に、最初に気付いたのは、一夏であった。

 

「あれ?颯太は?」

 

「そう言えば……」

 

「まだ見てないね」

 

 一夏の言葉に簪と楯無が言い、その場にいるいつものメンバー、一年生専用機持ちメンバーが頷く。

 とある日曜日の朝、朝食を食べ終えたいつものメンバーは一人足りないことに気付いた。

 

「おかしいわね。颯太って日曜日はいつも早起きじゃない?」

 

「ニチアサを見るために早起きをするといつも言っていたな」

 

「簪ちゃんも同じ理由で昔から早起きよね」

 

「ニチアサは正義」

 

 鈴、ラウラの言葉に頷きながら楯無が言うと簪が誇らしげに言う。

 

「でも、もう終わってる時間だよね?」

 

 シャルロットが時計を見ながら言う。

現在の時刻は9時を過ぎたところである。

 

「もしかして風邪か?起きられないほど寝込んでいるとか?」

 

「だとしたら大変ですわ。少し様子を見に行きましょう」

 

 セシリアの提案にみな頷き、颯太の部屋へと向かった。

 

「お~い!颯太~!起きてるか~?」

 

 颯太の部屋にやって来た一同はノックをしながら声を掛けるが、ドアの向こうからは何の反応もない。

 

「おかしいな……ってあれ?」

 

「開いてる……?」

 

 試しにシャルロットがドアノブに手を掛けるとドアはすんなりと開く。

 

「入ってみるか」

 

「そうね。声も出ないほど体調を崩してたらことだしね」

 

 一夏の提案に楯無が言い、全員で部屋に入る。

 

「颯太~?」

 

「起きてる~?」

 

「てか、生きてる~?」

 

 ゾロゾロと全員で入って見渡すが

 

「アブ?」

 

「おかしいな。颯太がいないぞ」

 

 見渡す限り颯太の姿はない。

 

「バ~ブ」

 

「どっかに隠れてるとか?」

 

「でも隠れられるところなんて限られてるし……」

 

 言いながら全員で手分けして狭い部屋の中を探す。

 

「ハ~イィ~」

 

「ベッドの下にはいないな」

 

「アブアブ」

 

「クローゼットの中にもいないね」

 

「アバブア~」

 

「洗面所にも」

 

「シャワールームにもいない」

 

「アバ~」

 

『…………』

 

 全員が探せるところを探し終え、考え込む。

 

「ところでさ……」

 

 と、一夏が重苦しい様子で口を開く。

 

「みんな気になってたけど、たぶんあえて触れなかったんだろうけどさ。俺、そろそろ無理だわ」

 

「わ、私も……」

 

『だよね……』

 

 一夏と簪の言葉に他のメンバーも重苦しく頷き

 

『…………』

 

 ゆっくりと同じ方向に視線を向ける。その視線の先には――

 

「ハ~イィ?」

 

『誰っ!?』

 

 全員の視線を受けた人物、一人の赤ちゃんが首を傾げる。

 

「え、誰!?なんでここに赤ちゃんがいるんだ!?」

 

「アバブ」

 

 一夏が叫ぶがどこ吹く風で好き勝手におもちゃ――部屋に置いてあったであろう颯太の持ち物のミニカーで遊んでいた。

 その赤ちゃんは二歳くらいで、なぜかだぼだぼの大人用の無地の緑色のTシャツを着ていた。

 

「とりあえず――おい、赤ん坊」

 

「アブ?」

 

 ラウラがベッドの上の赤ちゃんに話しかけると、赤ちゃんは顔を上げてラウラを見る。

 

「お前いったい何者だ?どうしてここにいる?」

 

「チャ~ン」

 

「何!?」

 

「アババブアバ」

 

「なんと!?」

 

「ハ~イィハ~イ!」

 

「なんてことだ……」

 

「……すごい。会話してる」

 

「ラウラ、赤ちゃんの言葉なんてわかったんだ……」

 

「で?その子は何て言ってるんだ?」

 

 一夏が訊くとラウラはゆっくりと頷き

 

「うむ……なるほど、わからん」

 

「わからないのかいっ!?」

 

 神妙な表情で言うラウラに鈴がツッコミを入れる。

 

「あんた、さっきまで会話してたじゃない!」

 

「いや、以前颯太に借りた日本の喜劇の演劇DVDでやっていたから、場を和ませようと……」

 

「あんたの冗談わかりづらいのよ……」

 

 ため息をつきながら鈴が赤ちゃんに視線を向ける。

 

「そもそもこんなに小さいんじゃ自分のことを伝えるなんて難しいんじゃないの?」

 

「完全に手詰まりだな」

 

 鈴と箒が言い、一夏たちが重苦しく頷く中、楯無、簪、シャルロットの三人がジッと赤ちゃんを見つめ、時に服の裾をめくったりする。

 

「……ねぇ?どう思う?やっぱりそうよね?」

 

「はい、おそらく」

 

「たぶん……」

 

「だよね?」

 

「ん?三人はこの赤ちゃんが何者か知ってるのか?」

 

「「「…………」」」

 

 三人は無言のまま頷く。

 

「……信じられないけど、この子――颯太君よ」

 

『…………はぁ!?』

 

 楯無の言葉に簪とシャルロットを除く全員驚愕の声をあげる。

 

「そ、そんなわけ……」

 

「根拠なら、ある……」

 

 箒の言葉を遮り簪が口を開く。

 

「私たち三人は颯太の実家に行ったとき、颯太の子どもの頃の写真を見た」

 

「その中で見た颯太の二歳の頃にそっくりなんだよ、この子」

 

「で、でも、他人の空似ってことも……」

 

「根拠ならまだあるわ。見て」

 

 セシリアの言葉に楯無が言いながら赤ちゃんの服をめくる。

 服の下にはこれまたダボダボの紺色のトランクスを履いていた。

 

「これは颯太君のパンツよ。この柄、間違いないわ」

 

「へ~……ん?なんで楯無さんが颯太のパンツの柄を知って――」

 

「更に見て。ちょっとごめんね?」

 

 鈴の疑問を遮って楯無が続ける。赤ちゃんを優しく抱き上げた楯無はトランクスのお腹の部分を少しずらす。

 

「この足の付け根、股関節のところに三個ホクロが並んでいるでしょ?颯太君も同じところに同じ並びのホクロがあるのよ」

 

「へ~………ん?何で楯無さんが颯太のそんな際どいところのホクロの位置を――」

 

「しかもこれ!」

 

 さらに疑問を問おうとする鈴の言葉を遮って楯無は続ける。

 

「この子がおもちゃにしてるこのリング、これって……颯太君の『火焔』の待機状態よ」

 

「颯太が、自分のISほっぽってどこかに行くとは思えない」

 

「しかも指南のISって待機状態でも持ち主の生体情報を確認してるの。もし別の人が勝手に持って行ったり身に着けるとアラームが鳴るの。これが問題なくリングのままってことは――」

 

「この子が『火焔』の持ち主であるってこと……ってわけか」

 

 シャルロットの言葉を引き継いで一夏が言う。

 

「以上のことを鑑みるに!この子は理由はわからないけど颯太君である可能性が高いわ!」

 

「ハ~イィ!」

 

 楯無が力強く言うと、それを肯定するようにニコニコと笑みを浮かべながらバタバタと手足を振る赤ちゃん。

 

「でも、言われてみれば……」

 

「どことなく颯太さんの面影がある気がしますわね……」

 

 自信満々な三人の様子にみな納得し始める。

 

「というか、なんだか大人しいな」

 

「バブ?」

 

 楯無に抱っこされる颯太(仮)をジッと見ながら箒が言う。

 

「あ、あの…楯無さん、僕も抱っこしてみていいですか?」

 

「あ、それでしたらわたくしも是非。赤ちゃんを抱っこする機会なんてこれまでありませんでしたもの」

 

「じゃあみんなで順番に抱っこしてみましょうか」

 

 と、楯無の言葉に順番に、まずシャルロットが抱っこする。

 

「よ~しよ~し、颯太~」

 

「ハ~イィ」

 

「ほ~らいい子でちゅね~」

 

「ハ~イハ~イィ!」

 

 満面の笑みで颯太(仮)を抱っこしてリズミカルに体を軽く揺らすとご機嫌に笑う颯太(仮)。

 

「ほ~ら、颯太さん、いい子ですわね~」

 

「ハ~イィ」

 

 続いて抱っこするのはセシリア。

 

「ウフフ。いつもはふてぶてしいのに、こんなに小さくなると可愛らしいですわね」

 

「アブ?」

 

「ウフフ。子どもと言うものはいいものですわね」

 

「ハ~イハ~イィ!」

 

 慈しむような表情で微笑みながら颯太(仮)を抱っこするセシリアだった。

 

「む、次は私か」

 

「アブ」

 

 続いて抱っこしたのは箒だった。

 

「う、うむ。なるほど……なんとも言えない気持ちになる」

 

「ハ~イィ」

 

「か、可愛いな……そ、そうか!こ、これが母性というものか!?」

 

 楽しそうに笑う颯太(仮)の姿に何かに目覚めた箒だった。

 

「次は私ね!」

 

「………?」

 

 続いて抱っこしたのは鈴。しかし、先ほどまでと違い、颯太(仮)は不思議そうな顔で鈴の顔をまじまじと見ながら時折鈴の肩や胸のあたりをテシテシと叩く。

 

「ん?どうしたの?」

 

「~~~!~~~!」

 

 数度テシテシと叩いた後、颯太(仮)はこれじゃないと言わんばかりの表情を浮かべ、徐々に顔を崩していく。そして――

 

「ぅぅぅうわぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁん!」

 

 とうとう泣き出してしまった。

 

「えっ!?ちょっとどうしたの急に!?私何かした!?」

 

「うわぁぁぁぁぁん!」

 

 突然のことに鈴が慌てるが構わず颯太(仮)は全身を使って拒絶するようにのけ反る。

 

「あらあらどうしたのかな~?鈴ちゃんが気に入らなかったんでちゅか~?」

 

 楯無が猫なで声を出しながら抱っこを変わる。と――

 

「(ピタッ)」

 

 さっきまで暴れて泣き叫んでいたのが嘘のように大人しくなる。

 

「あれ?泣き止んだ」

 

「ちょ、ちょっと!もう一回抱っこさせて!」

 

 皆が首を傾げる中、鈴が再チャレンジする。が――

 

「うわぁぁぁぁぁん!」

 

「えぇぇぇ!?」

 

 再度泣き始める颯太(仮)に鈴が混乱したように慌てる。

 

「パ、パス!」

 

「は、はい!?」

 

 慌てた鈴は近くにいたセシリアに手渡す。と――

 

「(ピタッ)」

 

「あ、泣き止んだ」

 

「なんでよ!?もう一回よ!」

 

「うわぁぁぁぁぁん!」

 

「しゃ、シャルロット!」

 

「え、僕っ!?」

 

 またも泣き出してしまった颯太(仮)に今度はシャルロットに手渡す。と――

 

「(ピタッ)」

 

「また泣き止んだな」

 

「も、もしかして……いや、まさか……でも……」

 

 と、鈴が何かに気付き、考え込む。

 

「ちょっともう一回挑戦させて」

 

「もうやめておいたらどうだ?これ以上は颯太がかわいそうだぞ」

 

「……大丈夫。次はいける」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「あ、ちょっと待って。準備するから」

 

 言いながら鈴は屈みこんでゴソゴソと何かしたかと思うと

 

「さあ来い!」

 

「鈴…それって――」

 

「いいから!」

 

 シャルロットの言葉を遮って鈴が言うのでシャルロットはそっと鈴を渡す。

 

「うわ……――?」

 

 鈴の顔を見てまたもや泣きそうになった颯太(仮)は、ふと何かに気付き動きを止め――その鈴の先ほどより膨らんだ胸元をテシテシと数度叩き、大人しくなる。

 

「な、泣かなかった。と言うか鈴、それって!」

 

「もしかしてと思って胸にタオル詰めたら……やっぱり……ちょっと!胸で選んでんじゃないわよ!」

 

「ちょ、ちょっと鈴!お、落ち着いて!」

 

 興奮したように抱っこした颯太(仮)を握り潰さんばかりに睨みつける鈴にシャルロットが慌てて颯太(仮)を回収する。が、鈴は口をへの字に曲げて暴れる。

 

「あぁーもう!み、みんなも手伝ってよ!」

 

「お、おう!」

 

「り、鈴さん!子どものしたことですから!」

 

「子どもだろうがこの子は颯太じゃない!つまり颯太が私の胸バカにしたのと同じなのよ!」

 

 シャルロットはいったんベッドに颯太(仮)を戻し、鈴を落ち着かせるのを手伝う。

 

 

 〇

 

 

 

「ごめん、取り乱したわ」

 

 数分後、どうにか落ち着きを取り戻した鈴が謝る。

 

「落ち着いたようでよかった……ところで――」

 

「そろそろ胸のタオル取ったら?」

 

「あ、はい」

 

 楯無に言われて胸元からタオルを抜き取る鈴。

 

「はぁ……さて、そろそろ颯太君を元に戻す方法を――」

 

 と、楯無がベッドの方に視線を向けると

 

『…………』

 

「ねぇ?」

 

『……はい』

 

「颯太君は?」

 

『………さぁ?』

 

 ベッドには颯太(仮)はおらず、先ほど颯太のいたところには遊んでいたミニカーだけが落ちていた。

 

『……………』

 

 全員その場で呆然とお互いの顔を見合わせ――

 

「颯太君どこ行ったの!?」

 

「さ、探せ!あの身体でそんなに遠くに行けるわけない!」

 

「あ、あの身体で他の人に見つかったらことだぞ!」

 

「下手をすれば身元不詳で政府に引き取れれてしまうかも!」

 

「マズい!なんとかしないと!」

 

「い、急がないと!」

 

 全員大慌てで部屋を飛び出して行った。

 

 

 〇

 

 

 

「はぁ…休日に仕事と言うのも、教師と言う仕事は本当に大変だ」

 

「そうですね。はやめに仕事を終わらせてゆっくりしましょう」

 

 IS学園の寮の廊下を千冬と真耶が歩いてた。

 休日にもかかわらずやるべき山積みの仕事が待っている二人。

 

「山田君、仕事が終わったら少し晩酌に付き合ってくれ」

 

「いいですけど、明日からも学校ですから、ほどほどに、ですけどね」

 

「わかっているさ」

 

 二人が話していると

 

「ん?アレは……」

 

 千冬が廊下に落ちている何かを見つける。

 

「なんでしょう、これ……」

 

「……男物の下着だな」

 

「したっ!?」

 

 千冬の言葉に免疫のない真耶は顔を赤く染める。

 

「この学園に男なんて二人しかいないんだ。まったく、あいつらのどちらか知らんがこんなところに落とすとは……後できつく――」

 

 それを拾い上げた千冬はため息をつきながら視線を上げると

 

「アブ?」

 

「は?」

 

 目が合った。しかし、その光景に常に冷静な千冬ですら間の抜けた声が漏れる。

 

「ハァイ~」

 

「な、なんでこんなところに赤ん坊が……」

 

 困惑する千冬と真耶を尻目にその赤ちゃん、颯太(仮)はトテトテと歩いて来て

 

「チャ~ン!」

 

 満面の笑みで千冬の脚に抱き着く颯太(仮)が笑顔のまま二人を見上げる。

 

「「か、可愛い……」」

 

 二人が、片や真耶は輝かんばかりの笑顔で、片や千冬はぼそりと声を揃えて言う。

 

「し、しかし、本当に何故ここに赤ん坊が……」

 

「はっ!まさか!織斑君か井口君が学園の誰かとの間に作った子どもなんじゃ!?」

 

 と、真耶が変な方にスイッチが入りかけたところで

 

「あ、千冬ねぇ!山田先生!この辺で赤ちゃん見ませんでした!?」

 

 一夏と専用機持ちのメンバーたちが現れる。

 

「って、あぁ!!いた!!」

 

 と、千冬の脚に抱き着いている颯太(仮)を鈴が指さす。その声の大きさに体をびくりと震わせた颯太(仮)はさらに千冬の脚にギュッとしがみ付く。

 

「おい、これはどういうことだ?説明しろ」

 

「えっと…それはですね……実は信じられないんですが――」

 

「お、織斑君!」

 

 説明をしようと口を開いた一夏の言葉を遮って真耶が声をあげる。

 

「織斑君!正直に言ってください!この子、織斑君の子ですか!?お、お母さんは誰なんですか!?」

 

「ちょ、ちょっと山田先生!?」

 

「そりゃあ学生のうちに赤ちゃんができてしまったの良くないとは思いますが、できてしまった以上ちゃんと認知してあげてください!」

 

「で、ですから先生!?」

 

「ちゃんと正直に言えば先生怒りません!正直に言ってください!でないとこの子もこの子のお母さんも可愛そうですよ!!」

 

 一夏の弁明も聞かず混乱した真耶はマシンガンのようにまくし立てる。

 

「だ、だから――」

 

 詰め寄る真耶の勢いに押され壁際まで押しやられながら

 

「は、話を聞いてくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 一夏の叫び声がIS学園学生寮に響き渡ったのだった。

 


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