IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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残り一基!
はたしてその決着は!?





第115話 男は黙って力尽く

 相対する『ゴーレムⅢ』のブレードを構えた対複合装甲用超振動薙刀《夢現》で受け流す。

 辛くも受け流した簪はバックステップで距離をとり、

 

「く……奥の手があるけど……これじゃあそれを使う暇も――」

 

 と、簪の思考を中断して『ゴーレムⅢ』の超高密度圧縮熱線が襲う。

 寸でのところで避けた簪は

 

「これで、どう……!?」

 

 そのまま狙いを定め、速射荷電粒子砲《春雷》を放つ。

 『瞬時加速』で避け、ブレードを構えて接近してくる『ゴーレムⅢ』の一撃を《夢現》で受ける。

 

「くっ!お、重い……!」

 

 『ゴーレムⅢ』の一撃に片膝をつく簪。

 

「こ、このままじゃ――」

 

「簪、そのまま動くな!!」

 

「っ!?」

 

 突如背後から聞こえた声に反応する。

 その直後、簪の頭上から四本の荷電粒子砲が『ゴーレムⅢ』を襲う。

 

「大丈夫か、簪!?」

 

「そ、颯太!それに――」

 

「遅れてすまない」

 

 吹き飛ぶ尻目に簪が顔を上げると、簪の左右にそれぞれ颯太と箒が並び立つ。

 

「颯太、箒!もう一体の方は……!?」

 

「片付けてきた!箒がだけどな!」

 

 簪の問いに答えながら颯太が右手を差し出す。

 

「ありがとう……」

 

 その手を受け取りながら簪は立ち上がる。

 

「さて、あいつはどうやって倒すか……」

 

「さっきのはおそらく私と楯無さんが相手していたやつだ。やつは楯無さんのおかげでだいぶダメージを受けていたはずだ。しかし……」

 

「マジかよ……俺どれくらいあいつにダメージ与えられてたかな……」

 

 箒の言葉に颯太は嫌そうな顔をする。

 

「どうにか一発ドカンとダメージを与えないと……」

 

「それなら、私に考えがある!」

 

「何!?本当か!?」

 

「うん!実は――」

 

「おっと!」

 

 簪の言葉を遮って颯太が《火打羽》を広げて前に出る。

 直後、前方から飛んできた超高密度圧縮熱線が《火打羽》を撃ち、四方に散る。

 

「作戦会議はここまでみたいだ。簪、それはすぐにできるのか?」

 

「ご、ごめん……ちょっと時間が欲しい」

 

「了解した!颯太!私たちでその時間を稼ぐぞ!」

 

「ああ!……しかし、足止めするのは構わんが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「颯太……それ、死亡フラグ……」

 

「おっと!じゃあ普通に倒すとしようか」

 

 言いながら颯太は左腕を後ろに隠すように《火人》を構える。

 

「さぁ、残すはこいつだけだ!行くぜ!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

 三人は頷き、同時に動く。

 颯太と箒は左右から挟むように分かれて攻撃を仕掛ける。

 簪は少し離れた位置で両手足の装甲を解除し、二手二足、指五本につき二枚の球状キーボードを、合計八枚を同時に操作し始める。

 

「大気の状態……各弾頭の機動性、タイムラグ……爆発における相互干渉、発揮できる攻撃力……」

 

 簪の目の前に数十枚のウィンドウが開いている。

 今簪がしていること、それは、最大四十八発の高性能爆薬弾頭ミサイル、その一つ一つをすべてマニュアル操作で命中させようというのである。

 

「スゥ……ハァ……」

 

 大きく深呼吸し、クリアーになった意識で、簪は極限まで集中し

 

「この『山嵐』から、逃れられる……?」

 

 肩部ウィング・スラスターに取り付けられた六枚の板がスライドして開く。

 その中から、八連装ミサイルが六ヶ所・計四十八発が一斉に顔を出した。

 

「力を貸して、『打鉄弐式』!」

 

 ドドドドドドドドドッ!

 

 すさまじい音ともにミサイルが一斉に発射される。

 

「ダイレクト・リンク、確立……!マニュアル・ロック、開始……!二人とも!避けて……!!」

 

「「っ!」」

 

 簪の言葉に同時にふたりは飛び退く。

 簪の放ったミサイルが『ゴーレムⅢ』へ向けて襲い掛かる。

 その動きは直線的なものではなく、複雑に三次元躍動をしながら急接近していく。

 『ゴーレムⅢ』は可変シールドユニットを展開し、同時に左腕の熱線でミサイルを撃破しようとする。が、完全にマニュアル制御されたミサイルは『ゴーレムⅢ』の動きに合わせて回避、加速、方向転換を行いながら的確に可変シールドユニットの中枢を破壊していく。

 防御のすべを無くした『ゴーレムⅢ』はスラスター制御による回避に切り替えるが、それを逃がすまいと第二射のミサイル群が襲う。

 全身にミサイルを受けながら、そのミサイルの大元を止めるべく、簪に向けて『瞬時加速』で接近する。

 

「っ!?」

 

「させるかよ!」

 

 簪を庇う様に間に入った颯太が身構える。

 そんな颯太を排除するべく、『ゴーレムⅢ』は左腕を鞭のように構える。

 

「っ!その一撃を待ってたぜ!」

 

 構えた左腕を、その軌道を正確に捉えた颯太は〝あえて〟《火打羽》を使わずに左肩で受け止める。

 

 ゴギンッ!

 

「~~~っ!!ぅぅんぬぁぁぁ!!!!」

 

 そのまま受けた左腕で『ゴーレムⅢ』の顎を的確にアッパーカットで打ち貫く。

 

「肩ぁ!入ったぁぁぁぁ!!」

 

 そのまま浮き上がった『ゴーレムⅢ』のがら空きのボディに《インパクト・ブースター》を装着した右腕で殴る。

 

「ぶっ飛びなぁ!!」

 

 『エキゾースト・ヒート』の重い一撃に吹き飛び地面を転げる『ゴーレムⅢ』。

 その転げていった『ゴーレムⅢ』を――

 

「『紅椿』ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 箒の叫びに呼応するように『紅椿』の肩部ユニットがジャキッと音を立ててスライドする。

 その形は、まるで巨大な矢尻をつがえたクロスボウであった。

 

『戦闘経験が一定値に達しました。新装備を構築完了しました。出力可変型ブラスター・ライフル《穿千》は最大射程に優れた――』

 

「ええい!鬱陶しい!」

 

 顔の前に突如として表示されたウィンドウを掻き消した箒は、ブラスター・シールドを張ったままの状態で腰を低く落とした。

 

――この装備は大出力射撃武器だ。ならば、PICを機体支持にすべて回さなければ、まともに当りはしない。

 

 何故か、直感的に理解した箒はターゲット・スコープを右目に呼び出す。

 

「左腕、貰ったぞ!」

 

 ビシュゥゥゥンッ!

 

 展開装甲に使われているものと同じ、真紅のエネルギー・ビームが超高密度圧縮状態で放たれる。

 両肩二門で放たれたその攻撃は、すさまじい熱量で大地を焼き払いながら突き進み、『ゴーレムⅢ』の左腕を弾き飛ばす。

 だが、痛みを感じない無人機は強引に姿勢を立て直し、『瞬時加速』で箒に向かって突き進む。

 

「颯太!」

 

「おうよ!」

 

 箒と『ゴーレムⅢ』の間に割って入った颯太は振り下ろされるブレードをその両手に《インパクト・ブースター》を装着して両拳で挟むように白刃取りの要領で受けると、

 

「はぁぁっ!!」

 

 《インパクト・ブースター》による両手同時の『エキゾースト・ヒート』を放つ。

 

 ガギィィン!

 

 両側からの『エキゾースト・ヒート』に衝撃を逃がすことができず、ブレードが砕け散る。

 そのままぐるりと体を回転させ

 

「アリスさん直伝の回し蹴りじゃおらぁぁ!!」

 

 全体重の乗った回し蹴りを『ゴーレムⅢ』に叩き込む。

 蹴り飛ばされ、数度地面を転がり、地面に倒れ伏した『ゴーレムⅢ』を《火神鳴》で抑え込み、右手を胸部に露出したコアに狙い定めて叩き込む。

 

「――ってあれ?」

 

 しかし、ISのコアは『ある特殊なレアメタル』で作られているため、多少の攻撃ではびくともしない。

 

「くっそ!連発したせいで十分な熱エネルギーがない!」

 

「そんな……!」

 

 颯太の言葉に簪が声をあげるが

 

「簪ちゃん!」

 

 離れたところに倒れていた楯無が叫ぶ。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「さっきのお守りを!」

 

「っ!颯太!これ――」

 

 楯無の言葉にその意味に気付いた簪が視線を颯太に戻す。と、簪の目に映ったのは――

 

「ふん~~~~~っぬぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 露出したコアを掴み、強引に引き抜こうとしている颯太の姿だった。

 

「「「なっ!?」」」

 

 その姿に簪、箒、楯無の三人は驚きの声をあげる。

 

「お、おい、颯太!?」

 

「そ、そんな無茶な!!」

 

「知るか、んなもん!どぅぅありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 右手だけで掴んでいたコアを両手で掴み、まるで大根でも引っこ抜くような体制で叫ぶ。

 颯太の叫びに呼応するようにミシミシと言う嫌な音ともに《火神鳴》にビリビリと小さな雷が走る。

 

「颯太!そのままじゃ《火神鳴》が!」

 

「だぁぁぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 簪の声に答えず、『ゴーレムⅢ』の顔面を左足で踏みつけ、足場にしてさらに力を籠める。

 『ゴーレムⅢ』の胸元にも同じようにミシミシと言う音と共に雷が走る。

 

「こぉぉぉれでぇぇぇぇぇぇ!!どぅおぉぉぉぉだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 最後にさらに力を振り絞り、さらに引き上げる。

 

 ブチブチブチッ!

 

 まるで地面に張っていた根っこが千切れるようにコアから伸びていた数本のコードを引き千切りながらコアが引き抜かれる。

 

「ぬおっ!?」

 

 今までコアを引き抜くために込められていた力そのまま後ろに倒れる颯太。

 コアを抜かれたことでその機能を停止する『ゴーレムⅢ』を尻目に、引っこ抜いたコアを握りしめて颯太が右手を掲げる。

 

「コア!!とったどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 そんな颯太の姿に三人は呆然としながら見つめていた。が――

 

「あぁぁ!!ひ、《火神鳴》がぁぁ!!《火神鳴》がうんともすんとも言わないぃぃぃ!!!アキラさんに殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 突如現実に戻った颯太の叫びに

 

「「「……プッ」」」

 

 誰ともなく吹き出し、三人は声を揃えて笑い出したのだった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!指とれたぁぁぁぁぁぁ!!!?だ、誰かぁぁぁぁぁ!!!あ、アロン〇ルファ持ってきてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 




と、いう訳で無事撃破です。
しかし、この後も颯太君には地獄が待っていそうです……(;´・ω・)

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