と言うわけで連日投稿!
「それでは、開会の挨拶を更識楯無生徒会長からしていただきます」
虚先輩がそう言って、司会用のマイクスタンドから一歩下がる。
「ふあー……ねむねむ……」
「しっ。のほほんさん、教頭先生が睨んでる」
「ういー……」
一夏の言葉にものすごく注意して見ないとわからない程度にのほほんさんが頷く。
ちらりと視線を向けると、一夏の言う通り教頭先生が睨んでいる。
やれやれと思いながら視線を壇上の師匠に戻す。
「どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は生徒の皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかりと見ていてください」
よどみなく澄んだ声でしっかりと言う師匠。
相変わらずの圧倒的な存在感。普段のお茶目な感じは今はすっかりなりを潜めている。こういうのをカリスマと言うのだろう。
しかし、師匠の人気の秘訣はこの存在感だけではない。
「まあ、それはそれとして!」
ぱんっ、と扇子を開く。そこには「博徒」の文字が。
「今日は生徒全員に楽しんでもらうために、生徒会である企画を考えました。名付けて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!」
わあああああっ!と、綺麗に整列していた生徒たちが一斉に騒ぎ出す。
「って、それ賭けじゃないですか!」
「織斑庶務、安心しなさい」
「え?」
「根回しはすでに終わってるから」
「だから合法だ」
ニッコリと笑みを浮かべる師匠の言葉に頷きながら俺も言う。その証拠に教師陣は誰も――織斑先生だけ頭が痛そうにしている――反対している様子はない。
「それにな、これは賭けじゃないんだよ。あくまでも、〝応援〟だから。自分の食券を使ってそのレベルを示すだけ。そして見事に優勝ペアを当てられたらその分の配当がもらえるだけ」
「それを賭けって言うんだよ!」
俺の言葉に一夏が全力でつっこむ。
「だあいたい俺そんなの知らないぞ!?」
「おりむー、全然生徒会に来ないから~」
「俺たちだけで多数決で決めました」
「くっ……。確かに最近鈴と練習してたから……」
一夏がなんてこった、とでも言いたげな様子で頭を抱えている。
さすがの師匠のカリスマ、この提案にいっきに生徒全員のハートをがっちりつかんだようだ。
俺もこの後さっそく俺と簪ペアに最高額食券を賭けとかないとな。
「では、対戦表を発表します!」
師匠の言葉に師匠の後ろに現れた大型の空中投影ディスプレイに視線を向ける。
この組み合わせは公平を期すために師匠を含める俺たち生徒会役員も今この瞬間まで知らされていない。
生徒全員同様この瞬間ドキドキしながら表示される組み合わせを息を呑んでみると――
「んなっ!?」
思わず変な声が漏れた。
第一試合、井口颯太&更識簪 VS 篠ノ之箒&更識楯無――
(初っ端かぁぁぁぁぁぁ~)
そう言えば一夏と組んだ時も初っ端から大本命のラウラとだったなぁ、なんて思いながら俺は生徒の列に視線を向ける。
(ここからじゃ見えないけど……簪大丈夫かな……)
〇
「~~~(ガクガクガク)」
大丈夫じゃありませんでした。
第四アリーナのピットで控える俺たち。
ISスーツに着替え終わった俺の視線の先には椅子に座り込んで手を胸の前で握りこみ、ガクガクブルブルとまるで携帯のマナーモードか、とつっこみたくなる震え具合だった。
このまま放っておくとクローゼットにでも隠れてしまうんじゃないだろうか。
「お~い、バイブレーション簪~」
「べ、別にブルーベリー色の化け物には追いかけられてない……」
「おや、意外と冷静だな」
だいぶ余裕がなさそうに見えるがツッコミを入れるくらいの余裕はあるみたいだ。
「まあどっちかと言うと簪の今の顔の方がブルーベリーみたいに青くなってるぞ」
「~~~(ガクガクガク)」
緊張で青白い顔になって震える簪。今にも吐きそうな顔をしている。
「………はぁ~、簪」
俺はスッと簪の前に屈み、
「ほれ」
握りこんでいる簪の手をその上から包み込む。
「っ!?」
「ほら、ガッチゴチじゃん。しかも指先が冷たい。力入れすぎて手に血が通ってないぞ。ほら、リラ~ックス♪」
簪の目に視線を合わせ冷たくなった手を擦りながらニッコリと笑う。
「そ、颯太っ?」
「あんまり力み過ぎるなよ?四月とは違うんだ。別に簪と師匠は仲悪いわけじゃないだろ?」
「それは……」
「だったら、あんまり気負わずに行こうぜ。簪一人で戦うんじゃない――俺たち二人で戦うんだからさ」
「颯太……うん」
俺の言葉に頷く簪。さっきまでガッチガチに握りこまれていた手からちょっとずつ余計な力が抜け、少しずつ冷たかった指先にぬくもりが戻ってくる。
「さっ!大きく息吸って~……吐いて~……」
「スゥ~……ハァ~……」
俺の言葉に合わせて大きく深呼吸をする簪。
「……落ち着いた?」
「……うん」
「よし!じゃあ俺たちの成長の成果、師匠に見せてやろうぜ!」
「うん!」
そう言ってお互い笑い合い――
パシャッ
と、横から音ともに眩い光が目を刺す。
「「っ!?」」
急なことに視線を向けると
「いやぁ~試合前にコメントと写真貰おうと思ってたけど……それ以上のものが撮れたわ!」
いい笑顔でサムズアップする黛先輩が立っていた。
「いや……何してんですか?」
「タイトルはそうね……『井口颯太と更識簪、見つめ合う二人!試合前の逢瀬!』これね!」
「やめてください、師匠に殺される!」
あのシスコンの師匠に知られたら事実無根でも問答無用で殺される!
「おい、簪!お前も何か――」
「お、逢瀬……颯太と…私が……」
「簪~?ちょっと~……?」
顔を真っ赤にしてあわあわと何かを呟きながら顔を真っ赤にして俺の握っている手を凝視している。
「じゃっ!私そろそろ次の人のコメント貰いに行かないと!アデュ~」
と、にこやかに走り去って行く黛先輩。
なんだか追いかけるのもかったるい。このまま走って追いかけてもこれからの試合にも関わる。
「はぁ……嵐のような人だった……」
「逢瀬……逢瀬……颯太と…逢瀬……」
「お~い!簪~!戻ってこ~い!」
「はっ!」
言いながら顔の前で手を振ると、少し体を震わせて簪の意識が戻ってくる。
「えっと……とりあえず落ち着いたようなら手を放してもいい?」
「えっ………」
なぜか簪が少し寂しそうな顔をする。
「いや…言いづらいんだが……試合前にトイレに行っておきたいと言いますか……」
「っ!ご、ごめん……どうぞ……」
先ほどとは違う様子で顔を赤く染めた簪はおずおずと手を抜く。
「ごめん……じゃあ、ちょっと行ってきます……」
謎の気まずさを感じながら俺はそそくさとトイレへと向かって行った。
〇
「フゥ~……」
用を足した俺は手を洗おうと流しに手を出すと
「え?」
震えていた。
手を洗おうと伸ばした手がガクガクと小刻みに震えていた。
「おいおい……俺も大概ノミの心臓だな……」
言いながら胸に手を当てる。そこではドクンドクンと心臓が早鐘を打っていた。
ゆっくりと目の前の鏡に視線を向けると、今更緊張している自分を自覚したせいか、数秒前に見た時よりも強張った自分の顔が映っていた。
「っ!」
気を紛らわせるように手を洗い、ジャブジャブと顔を洗う。
「こりゃ、簪にえらそうなこと言えないな……」
自嘲気味に笑いながらパンパンッと顔を叩き鏡の中の自分を睨む。
「簪にあれだけ言ったんだ。リラックスしていこうぜ」
大きく深呼吸し
「よし!」
緊張のほぐれた顔にいつも見慣れた笑みを浮かべ、俺はピットに戻ろうと歩みはじめ――
――ズドォオオオオオンッ!
「っ!?」
突然、地震のような大きな揺れが襲う。
しかもその揺れは一回で終わらず、連続して数度起こる。
バランスを崩しかけて流しの縁に手をつきながら姿勢を立て直そうとすると、バシャンッ!と派手な音を立てて、周りの明かりがすべて真っ赤に変わる。続けてあちこちに浮かんだディスプレイが『非常事態警報発令』の文字が浮かぶ。
『全校生徒は地下シェルターへ避難!繰り返す、全生徒は――きゃあああっ!?』
緊急放送の先生の声が突然途切れる。
続けて、また大きな衝撃に校舎が揺れる。
「いったい何が……――っ!簪は!?」
俺は胸中に湧いた不安に走り出していた。