「――で、ここはやっぱり開幕と同時に俺が瞬時加速で仕掛けて一夏を引き離してさ」
「でもそうなると颯太の背中がガラ空きだよ?」
「そこはほれ、《火打羽》でカバーして」
「颯太のスタイルって、《火打羽》に頼りすぎだよ……。もっと、いろんな可能性を考えて……」
タッグマッチまであと一週間を切った頃、夕食後に俺と簪は俺の部屋に集まり各ペアに対する対策を練っていた。
今考えているのは一夏&鈴ペアへの対策だ。
近接戦を得意とする二人だ。こちらとしては相手の優位にならないようになりつつ上手く自分たちのペースに持ち込みたいところである。
「そうは言うけどな、俺が一夏の相手をしている間は簪が鈴の相手をしてくれるだろ?」
「それはそうだけど……」
「なら大丈夫だ。簪なら安心して背中を任せられる」
「……う、うん……」
俺が笑いながら言うと、釈然としないながら満更でもない様子で簪が頷く。
「でもまぁ、俺が《火打羽》に頼りすぎって話は耳が痛い。これからもう少し気を付けることにするよ」
「ぜひそうして…」
俺の言葉に神妙な顔で頷く簪。
「さて残りの日程でタッグの練度を上げつつ動きを確認するとして……」
「問題はお姉ちゃんたち……」
俺の言葉に簪もため息をつく。
「第四世代IS『紅椿』と箒……それに――」
「師匠……あの人に対してはどんな作戦たてても全部掌の上って気がするよ」
言いながらガシガシと頭を搔く。
「それでも、何も準備しないよりはまし……」
「だよなぁ~」
ため息をつきながら立ち上がる。
「ちょっと休憩しよう。お茶淹れるよ。何かお茶菓子とかあったかな……」
「っ!………あ、あの!」
お茶を淹れようと備え付けのキッチンへ向かうと、後ろから簪が立ち上がる。
「ん?どったの?」
「そ、その……こんなのを…用意してたんだけど……」
言いながら簪が紙袋を差し出す。来た時から持ってて気になってたけど、なんぞお菓子でも持ってきてくれていたみたいだ。
「へ~、ありがとう。開けても?」
「う、うん」
少し恥ずかしそうにもじもじしながら頷く簪。
俺は紙袋の封をしているテープを外し、中を覗く。
「お!カップケーキ!しかもこの色この匂い……抹茶か!」
「に、苦手だった?」
心配そうに訊く簪にニッと笑いながら言う。
「飲む方はな。お菓子とかに加工したやつはむしろ好き」
「変わってるね」
「俺もそう思う」
苦笑いして言う簪の言葉に頷きながら一つ手に取り食べてみる。
「うっま!」
「っ!」
俺が言うと同時に簪がパッと顔をほころばせる。
「ほ、ホントに?」
「ああ、おいしい!やっぱ頭使った後は糖分だな。これどこで買ったの?購買?こんなのあるなんて知らなかったよ」
「そ、その……」
俺の言葉に逡巡しながら簪が口を開く。
「それ……売ってないよ。私が、作ったから……」
「そうなの!?すごい!これ売り物と大差ない…って言うか売り物よりもおいしい!」
「あ、ありがとう……」
俺の賛辞に嬉しそうに微笑む簪。
「気にいったなら……また作って来るよ?」
「まっじでっ!?ぜひ頼む!」
「うん!」
お願いしているのは俺の方なのに、なぜか簪は心底嬉しそうに微笑みながら大きく頷いた。
「さて、こんなにおいしいお茶菓子を用意してもらって悪いが、生憎インスタントしかないんだが、コーヒー、紅茶、緑茶、どれがいい?」
「う~ん……じゃあ、紅茶で」
「OK!虚先輩みたいな味を期待するなよ。安物のティーパックだ」
俺の言葉に笑いながら頷く簪を見ながら俺はお茶の用意をする。
俺の用意したお茶と簪のカップケーキを食べながら俺たちの作戦会議は消灯時間ギリギリまで続いた。