IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第105話 誕生日会

 

「せーのっ」

 

『一夏、誕生日おめでとうっ!』

 

 シャルロットの声を合図にパァンパァンッとクラッカーが鳴り響く。

 

「お、おう。サンキュ」

 

 時刻は夕方五時、場所は一夏の家。

 

「どうしたんだよ、あんまり楽しそうじゃないな」

 

「いや……この人数は何事だよ……」

 

 俺の言葉に答えながら一夏が視線を巡らせる。

 今日集まったのは俺以外には箒、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロット、簪、師匠に加え、蘭と弾、今日初対面の一夏の友人の御手洗数馬、さらに生徒会役員ののほほんさんと虚先輩、さらにさらに新聞部のエースの黛薫子さんまでなぜかいる。

 

「いいじゃん、祝ってくれてんだからさ」

 

「そうだけど……なんていうか、あんな事件の後でよく騒ごうって気になるなぁって……」

 

「逆だろ」

 

 ワイワイと騒いで入りみんなを見ながら一夏に笑いかける。

 

「あんなことがあった後だからこそ、みんな騒ぎたいんだよ」

 

「……かもな」

 

 俺の言葉に一夏が頷く。

 今回の一件も亡国機業の目的は不明ではあったが前回同様、今回のターゲットも俺だったように思う。確証はないが……。

 今回も結局わからないことだらけで、学園関係者、織斑先生や山田先生は慌ただしく対応に追われていた。

 ――ただ一つ気になったことがある。

今回の襲撃者、サイレント・ゼフィルス。やつは戦略として途中一夏を狙った。俺が気になるのはそこだ。

なぜあいつはわざわざ一夏を狙った?

あの時あそこには一夏以外にもラウラとシャルロットがいた。一夏と違い機体に損傷を追っていたラウラとシャルロットを狙う方が逃げられることもない、少なくとも俺ならそちらを狙っただろう。

 それなのに、何故?

 

(あいつの目的が何にしても……二度とあいつの相手はごめんだな)

 

 あいつにあてられたプレッシャーもそうだし、あいつとの市街地戦闘のせいで取り調べに加えて織斑先生からの拳骨をいただいた。めちゃくちゃ痛かった。

 取り調べを受けたのは今回の件に関わったメンバー全員だったので、結局解放されたのは四時を過ぎてからだった。

 

「はぁ~」

 

 ため息をつきながら織斑先生に貰った拳骨を受けた頭を掻きながら俺はキッチンからリビングへと追加のジュースやお菓子を運ぶ。

 一応リビングにいろいろ広げてはあるがこの人数だ、すぐに必要になるだろう。

 少し行き来する間に一夏は

 

「なんかうまそうなもの食べてんな」

 

「おう。こっちのケーキは蘭が、こっちのラーメンは鈴がくれたんだ。どっちも手作りだってさ。うまいぜ」

 

「へ~……」

 

 言いながら見ると蘭と鈴は謎のにらみ合いをしていた。

 そんな二人はもはや見慣れたものなのか、おいしそうにラーメンをすする一夏。

 

「………………」

 

「……一口いるか?」

 

「っ!――いやっ、やめとく!せっかく鈴がお前のために作ったんだからお前が…食べる…べきだ…な……」

 

「よだれふけよ」

 

「おっと」

 

 あまりにうまそうに食べるのでついジッと見てしまった。

 よだれを拭きつつ後ろ髪惹かれる思いでリビングに行き、ソファーに腰掛ける。

 

「ふぅ」

 

「お疲れさま……」

 

「おう、簪。ありがとう」

 

 簪が差し出してくれたコップを受け取る。中身はコーラのようだ。

 そのまま簪は俺の右隣に座る。

 

「大変…だったね」

 

「まあな。正直疲れた。二度とごめんだね」

 

「アハハ……」

 

 言いながらソファーに体を預ける俺に簪が苦笑いを浮かべる。

 

「颯太く~ん、楽しんでる~?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「……師匠。重いです」

 

「ふふん、いいじゃない。減るもんじゃなし」

 

「減りますよ。主に最近職務放棄気味の俺の理性とかが」

 

「お姉ちゃん!く、くっつぎすぎ…!」

 

「ちぇ~。傷心のお姉さんを慰めてほしかったのに」

 

 言いながら師匠が体を離す。

 ちょうど俺の頭に乗っかっていた柔らかいものが離れていくのは少し名残惜しかった。

 そのまま師匠も俺の左側の空いているスペースに座る。

 

「傷心って……」

 

「その眼は疑ってるな~?色々お姉さんにもあるのよ」

 

 やれやれとため息をつく師匠。

 

「どないせぇってんですかい?」

 

「社長さ~ん、わたしドンペリが飲みたいな~」

 

「キャバ嬢か!」

 

「でも、今の座り方だとキャバクラで女の子はべらせてるみたいよ」

 

 言われてハタと気付く。俺を挟むように簪と師匠の三人でソファーに座るこの状況をはたから見たら、なるほど確かに、キャバ嬢をはべらせているみたいだ。

 

「――もう、ちょっと目を離すとこれなんだから」

 

 顔を上げるとため息をつきながら言うシャルロットが立っていた。

 

「楽しそうでよかったね」

 

 なぜかジト目で睨まれる。

 

「楽しそうに見える?」

 

「楽しそうに女の子はべらせてるように見える」

 

「…………そう言えば一夏は?」

 

 俺は話題を変えるために視線を逸らしながら言う。

 

「ラウラが庭に来てくれってことで今庭に行ってるんじゃないかな」

 

「ふ~ん」

 

 確認すると一夏の他にもラウラと箒、そして弾と虚先輩の姿がなかった。

 ラウラや箒は一夏へのプレゼントを渡しているのだろうが、虚先輩たちは……上手くやっているといいが。

 先輩へ心の中でエールを送りつつ俺もお菓子など飲み食いしながら楽しむことにする。

 数分もすれば一夏たちも戻ってきた。

 そういえば俺もプレゼントをわたしてなかったと、プレゼントの入った袋を持って一夏の元へ。

 

「一夏、ほいこれ」

 

「おお、ありがとう!」

 

「いろいろ考えたがオタグッズよりそっちの方がいいかと思って、俺の地元のお菓子にしたぜ。日持ちするし後でゆっくり食べてくれ」

 

 俺の言葉を聞きながら一夏は袋から箱を取り出す。

 

「へ~、颯太の地元のお菓子か。うまそうだし、今開けて食べてみようぜ」

 

「やめろ!」

 

 袋の包装紙を破こうと手をかけた一夏の手をガシッと掴みできるだけ自然な表情を心掛ける。

 

「その…こんだけ料理とかお菓子あるしさ、わざわざ開けんでもいいだろ。日持ちするし〝ゆっくり〟〝一人の時に〟でも食べてくれよ」

 

「日持ちするなら大丈夫だって。それにこれだけいるんだからすぐなくなるんじゃないか」

 

 俺の制止も聞かず一夏はお菓子の包装紙を開ける。

 

「お~い、みんな!颯太が颯太の地元のお菓子くれたぞ~!みんなで食べようぜ!」

 

 一夏が箱を開けながら言うとゾロゾロとみんなが集まる。

 落ち着け俺。お菓子はちゃんと入っている。この箱の仕組みにはそうそう気付くわけが――

 

「あれ?この箱なんかおかしくない?」

 

 みんなが受け取り各々食べ始めている中、師匠がふと呟く。

 

「なんていうか…箱の外から見た厚みと深さがあってない感じ」

 

 しまったばれた!

 

「一夏君、ちょっとその箱貸して」

 

「あ、はい」

 

 師匠に言われて箱を渡す一夏。

 

「えっとこれは……」

 

 お菓子を一度全部外に出し、空になった箱をごそごそと探る師匠。

 よし、逃げるか。

 

「颯太、どこ行くの?」

 

「お姉ちゃん、颯太…確保した……」

 

「シャルロットちゃん、簪ちゃん、ナ~イス!」

 

 ガシッと両肩を掴まれた俺は見事に逃げ損ねた。はい、詰んだ。

 

「あ、ここのへこみか」

 

 師匠が箱の端に指を入れ、ポコッと二重底の蓋を外す。

 

「こ、これは!?」

 

 その中身に師匠が驚愕の表情を浮かべる。

 

「な、中に一体何が……!?」

 

 なかなか続きを言わない師匠に一夏がつばを飲み込みながら訊く。

 

「お姉ちゃん?」

 

「楯無さん?」

 

 不審に思ったシャルロットと簪が首を傾げながら箱の中を覗き込むと

 

「こ、これは!?」

 

「なっ!?」

 

 同じように驚愕の表情を浮かべ

 

「「「え、エロ本だ!」」」

 

「エロ本!?」

 

 三人が声を揃えて言い、一夏もその単語に驚く。

 

「しかもこれは普通のじゃなくて、俗に同人誌って言われる代物だわ」

 

 箱からその物を取り出しながら師匠が言う。

 

「颯太君?これはどういうことかな?」

 

 ジト目で見てくる師匠の視線をかわしながら

 

「え、エロ本?ナンノコトデスカナ?それは普通の一般的な同人誌ですよ」

 

「「「へ~?」」」

 

 俺の言葉に三人がジト目で睨みながら本に視線を向ける。

 

「『金髪ツインテールの眼帯娘と剣道しながらニャンニャン』……」

 

「最近の漫画って全年齢版でもなかなか攻めた題名のものが多いですよね」

 

「表紙に…『R-18』のマークあるけど……?」

 

「そういうロゴマークなんじゃない?」

 

「………内容最初から十八禁っぽいけど?」

 

 少しだけ中身をめくり、顔を赤らめてすぐさま本を閉じたシャルロットの様子にさらに冷たい目で睨んでくる師匠たち。

 

「「「颯太(君)?」」」

 

「……………っ!」

 

「「「「あっ!逃げた!!」」」」

 

 一瞬の隙をついてダッシュで逃げるが

 

「お姉さんから逃げられると思ってる?」

 

 と、背中に衝撃を感じたと思ったらいつの間に床に転がされていた。

 

「なっ!?」

 

「は~い、大人しくする~」

 

 そのままてきぱきとどこから取り出したのかロープで縛り上げられる、亀甲縛りで。

 

「なんで縛るんですか!?」

 

「だって颯太君が逃げるから」

 

「なんで亀甲縛りなんですかね!?」

 

「後学のためよ」

 

「どんな時に使おうって言うんですか!?」

 

「それは………ポッ」

 

「ポッ、じゃねぇよ!」

 

 亀甲縛りで叫ぶもんだから縄が食い込んで痛い。しかも俺が騒ぐから周りからの視線が痛い。

 

「で?これはどういうことなんだよ?」

 

 一夏が困惑気味に訊く。

 

「待ってください誤解です。健全な男子高校生が友人の誕生日にエロ本を贈る、いたって常識的な行動ではないでしょうか?」

 

「「「そんな常識はない」」」

 

 俺の言葉に三人は言い、一夏も苦笑いでフォローもしてくれない。

 

「それに……颯太君、これただエロ本をプレゼントするだけが目的じゃないでしょ?」

 

「っ!」

 

 師匠の言葉に俺は一瞬動揺を滲ませる。それを目ざとく見つけた師匠が口元に笑みを浮かべる。

 

「この本やけに要素詰め込んでるわね~。『金髪』に『ツインテール』で『眼帯』で『剣道』ね~?」

 

「……し、仕方がなかったんですよ~!!」

 

 俺は泣き崩れるように首を垂れる。

 

「俺だって……俺だって本当はこんなこと、したくなかった……でも、でも……!」

 

「「「颯太(君)……」」」

 

「でも…でもやるでしょ!だってそうしたら断然面白くなりそうじゃないですかっ!!」

 

「「「颯太(君)!!」」」

 

「あ、はい、すみません」

 

 三人の怒気を孕んだ声に俺はすぐさま謝る。

 

 

 

 

 

 

 その後、事情を知った箒、セシリア、鈴、ラウラに鉄拳聖裁!されるまで、俺は部屋の隅で縛られたまま放置されたのだった。

 


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