IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第102話 レース開始と突然の攻撃

 わぁぁぁぁ……!と、壮大な歓声がピットの中にいる俺たちのところにまで聞こえてくる。

 今は二年生のレースが行われている。抜きつ抜かれつのデッドヒートのようで、最後まで勝者がわからない大混戦らしい。

 

「あれ?この二年生のサラ・ウェルキンってイギリスの代表候補生なのか」

 

「そうですわ。専用機はありませんけど、優秀な方でしてよ」

 

 わたくしも操縦技術を習いましたもの、と一夏の問いに応えつつ続けるセシリア。その姿はもうすでに『ブルー・ティアーズ』の高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を展開している。

 俺ももうすでに同じように『火焔』を起動し最終チェックをしている。

 ピットには俺とセシリア、一夏の他にも参加者である箒、鈴、ラウラ、シャルロットも控えている。

 

「すっげーな、鈴のパッケージ。なんていうか…でかい!」

 

「ふふん。いいでしょ。こいつの最高速度はセシリアにも引けを取らないわよ」

 

 増設スラスターを四基積んでいる高機動パッケージの『風』は、それ以外にも追加胸部装甲が大きく前面に突き出ている。………普段より巨乳に見えるとか言ったらぶっ殺されそうだから黙っていよう。

 衝撃砲が普段と違い真横を向いているのは、妨害攻撃のためなのだろう。

 完全なるキャノンボール・ファスト仕様、このメンバーで一番今日のレースに有利かもしれない。

 

「ふん。戦いは武器で決まるものではないということを教えてやる」

 

 格好いいセリフとともに登場する箒。

 箒は展開装甲をマニュアル制御にすることでエネルギー不足を解消したらしい。

 

「戦いとは流れだ。全体を支配するものが勝つ」

 

 三基の増設スラスターを背中に装備したラウラが話に入ってくる。

 

「俺だって今回からこいつがあるんだ。熱暴走気にせず戦えるってのはでかいぜ」

 

 俺はちらりと背中の新しいスラスターに視線を送りながら言う。

 俺の背中に新たに追加されたスラスターは薄いプレートのような五枚の畳まれた翼のようなフィン。

またこれはみんなには隠しているがその五枚のフィンに隠れるように三枚のバレルフィンは独立した射撃装備として形成された砲弾による広域射撃を行うことが可能だ。

これらはスラスターとしての使用はもちろんこれ自体が機体各所へ伝達されるエネルギーの流量調節を行う新装備でもある。

 

「みんな、全力で戦おうね」

 

 そう言って締めたシャルロット。肩に左右一基ずつ、背中に肩の物よりも一回り小さなものを二基配置した、計四基の増設スラスターを装備している。

 指南の技術者の人たちが開発と調整を繰り返した結果出来上がったのがこのスラスターだ。元々はオーダーメイドのカスタムされたウイング・スラスターをさらに改造に改造を重ねて出力を足したのである。

 

「みなさーん、準備はいいですかー?スタートポイントまで移動しますよー」

 

 山田先生の若干のんびりとした声が響く。

 俺たちは各々頷きマーカー誘導に従ってスタート地点へと移動する。

 フゥー、と大きく息を吐き出し視線をコースの先へと向ける。

 

『それではみなさん、一年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

 

 大きく響くアナウンスに俺はグッと顔を引き締める。

 俺たちは各自位置に着いた状態でスラスターを点火。

 超満員の観客の見守る中、シグナルランプが点灯した。

 

 3……2……1……Go!

 

「っ!」

 

 急激な加速とともに背後へと流れていく景色。すぐにハイパーセンサーからのサポートで視界は問題なく追いつくが、スタート加速の一瞬酔いそうになる。

 視線を前に向けるとまず前に飛び出たのはセシリアだった。

 あっという間に第一コーナーを過ぎ、セシリアを先頭に列ができる。

 

「一夏、颯太、お先!」

 

 俺とその後ろにいた一夏を抜きながら勝負をかける鈴。

 

「あ、おい!」

 

「もらったわよ、セシリア!」

 

 横を向いていた衝撃砲を前面に向けて連射する。

 その弾丸をかわそうと横にロールしたセシリア。それを爆発的な加速で鈴が抜き去る。

 

「くっ!やりますわね!」

 

「へへん!おっそーい!」

 

「ぜかましのマネしてる余裕はないぜ、鈴!」

 

「なっ!?」

 

 一気に加速する鈴の肩を《火神鳴》で掴み強引にコースラインから外して後方に引き、入れ替わるように俺がトップに躍り出る。

 

「さあここから――」

 

「――甘いな」

 

「何っ!?」

 

 俺の一位も一瞬だった。鈴の背後にぴったりと付いていたラウラが俺の前に出る。

 

「くっ!しまった!」

 

「遅い!」

 

 咄嗟に隠し玉のバレルフィンを展開しようとしたが、ラウラの判断の方が早かったらしく大口径リボルバー・キャノンがわずかに早く火を噴く。

 《火打羽》で弾丸を逸らすも、高機動の被弾で大きくコースラインから外される。

 大きく後続を引きはがしたラウラ。俺は一度はトップに躍り出るもまた後を追う形になった。

 

「くっそ!負けてられるか!」

 

 さらに加速を加え、先頭から引き離されないように食らいついていく。

 

「やってるね、颯太」

 

「おお!来たなシャルロット!」

 

「キャノンボール・ファストはタイミングが命だからね。僕もそろそろ行かせてもらうよ!」

 

「させん!」

 

 シャルロットの追撃に俺もさらに加速を加えて白熱のデッドヒートが続く。

 背後では一夏と箒が格闘戦を行い、そこに鈴とセシリアの攻撃も重なる。

 俺とシャルロットはデッドヒートを続けながら眼前のラウラを追いかける。

 白熱のレースは二周目に突入――そんな時、異変は起きた。

 

「……………」

 

 突如目の前のラウラとシャルロットが上空から飛来した機体によって撃ち抜かれる。

 俺はたまたまラウラに攻撃しようと伸ばしていた左の《火神鳴》のアームに当り、機体本体にはダメージはなかったが、左のアームはイカれたらしい。

 

「!?」

 

 コースアウトするラウラとシャルロットを庇いつつ視線を向けるとその突然の襲撃者は口元を歪めるように笑みを浮かべる。

 バイザーに覆われて見えないはずのその視線が俺を捉えたように感じた。

 俺の背筋に寒気が走る。

 その笑みはまるで俺を獲物と見定めた狩人のようだった。

 


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