「で?どういうことなのか説明してくれるんですよね?」
放課後、説明を求めて一夏は生徒会室にやって来ていた。
「説明って言われても……」
そんな一夏に対して颯太は苦笑いを浮かべながら楯無を見る。
楯無は優雅に紅茶を飲みながら一つ息を吐く。
「この件についてはしょうがないのよ。うちに前からクレームが来ててねぇ~」
「クレーム?」
「織斑君をどこかの部に入れろ~、織斑君をどこかの部に入れろ~ってね」
「はい!」
「はい、颯太君!」
「俺にそういう要望は」
「まったくなかったわ!」
「くそうっ!!」
悲しそうに崩れ落ちる颯太。
「まあそんなわけで、一夏君をどこかの部に入れないと収まりつかなかったのよ」
「え?俺の意思は?」
「だって一夏君どこの部に入るつもりも予定もないでしょ?」
「まあ……そうですけど……。というか俺が入って意味あるんですか?ここの学校基本的に女子部なんですから公式試合とか俺出られませんし」
「マネージャーとして働けばいいじゃん。一夏のするマッサージはあまりの気持ちよさに三途の川が見えるほどだって噂になってるぞ」
「おい、相当尾ひれついてるぞ!」
「一部ではゴッドハンドとかテクニシャンと呼ばれているとか……」
「おいやめてくれ。てか、なんでそんな噂が広がってるんだよ?」
「そりゃお前、原因は一人しかいないだろ」
「……………」
「まあそんなわけだから、諦めて流れに身を任せちゃいなさい」
「はぁ~……わかりましたよ……」
言いながら諦めたようにため息をつく。
「まあいいじゃん。それだけ人気があるってことだよ」
「はぁ……どうせなら同じ男の颯太がいるところの方がよかったよ」
と、颯太と一夏が話している様子を見ながら
「よかったですね。井口君、回復したようですね」
生徒会役員の虚は楯無の前におかわりの紅茶を淹れながら嬉しそうに言う。
「ん~……どうなのかしらねぇ~……」
言いながら紅茶に口を付ける楯無。
「……どういうことですか?」
「ここに普段の颯太君の様子をまとめたものがあるわ」
言いながら楯無は一枚の書類を取り出す。
「読み上げるから颯太君の様子を見ながら聞いててね」
「はい……」
首を傾げながら頷く虚。
「んんっ!え~っと……
『颯太君は一夏君が背後から近づくと……声をかける前に気付く』
『向かい合って話をするときは……必ず両手をフリーにする』
『椅子に座ると……距離を空ける』
『一夏君が声をあげて笑うと……顔に汗をにじませる』
『体に触れると……胸ポケットのボールペンに手を添える』
……その他にもいろいろとあるけど……まだ聞く?」
「……いえ、十分です」
「そう」
紅茶に口を付けながら書類を片付ける楯無。
「言われてみれば井口君と織斑君の間に微妙な距離がありますね」
「さっき立って話してる時はわざわざカバンを床に置いてたわよ」
「あ…織斑君が笑ってます」
「颯太君の顔に脂汗が浮かんだわね」
「あ…織斑君が颯太君の肩を叩きましたよ」
「笑顔のまま胸ポケットのボールペンに手を添えてるでしょ?ほら、目が笑ってない」
「今だに恐怖を忘れられてないんですね……」
「それでも無理して笑顔浮かべてる……ううぅ」
苦笑いを浮かべる虚と涙をこらえるように口に手を当てて俯く楯無。
「あ、そうだ、颯太」
「ん?」
と、一夏がふと思い出したように言う。
「颯太ってこの後時間あるか?」
「ん~……二学期も始まったばかりだし特に仕事はなかったと思うけど……」
言いながら颯太は楯無たちの方を見る。
「大丈夫よ。今のところはないわね」
「夏休みの間にある程度仕事は片付けたので急ぎの物はありませんね」
楯無たちの言葉を受け、「だって」と言いながら颯太は一夏を見る。
「そっか。あのさこの後一緒に(訓練を)やらないか?」
「…………(ポキッ)」
「あ、折れた」
「折れましたね、心が」
〇
「うわぁぁん!もうやだぁぁぁ!」
「よしよし、大丈夫大丈夫。一夏君はもう行ったわよ~」
一夏が訓練に行った後、生徒会室では泣き叫ぶ颯太とそれを慰める楯無の姿があった。
というかストレスが一定値を超えたのかもはや幼児退行したと思える颯太は楯無に膝枕されて頭を撫でられていた。
「もうやだ~!ソウタおうち帰るチカ~!!!」
「もう…いつものかしこいカッコいい颯太君はどこ行ったの?」
「だって~……!だってあいつ言い回しがそれっぽいんだもん~!もはや狙ってるとしか思えないよぉぉぉぉ!」
「そうねそうね。怖かった怖かった」
「ウッ!ウッ!ウゥウェェェ!!」
あまりに泣きすぎてえずく颯太。
「大丈夫よ颯太君。もう大丈夫だから、ね?」
「うぅ…じ、じじょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
顔を涙と鼻水でグジョグジョにしながら泣き叫ぶ颯太の顔をティッシュで拭いながら楯無は母性にあふれた笑みを浮かべる。
「はい、チーンして?」
「チ~ン!」
「はい、えらいえらい」
言いながら颯太の頭を撫でる。
「……………」
そんな光景を呆然と見ながら虚はただただ思う。
「いろいろとダメですね、これ」
その後、緊急処置として颯太は一人部屋に移動することとなった。