IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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今回から二学期編!
題名の通り颯太君が副会長就任です!
そして……


二学期編
第87話 就任しました


 二学期が始まってから数日後。この日はSHRと一時間目の半分を使って全校集会が開かれた。

 内容は今月中旬に行われる文化祭について、そして俺の副会長就任についてだ。

 

「スゥ~~~ハァ~~~~」

 

 俺は壇上脇に待機しながら深呼吸を繰り返す。

 今壇上では布仏先輩が諸連絡を行っている。

 この後師匠からの文化祭についての連絡があり、満を持しての俺の就任あいさつである。

 

「ヒッヒッフ~~~ヒッヒッフ~~~~」

 

「颯太君それ違うわよ?」

 

 深呼吸が若干過呼吸になりそうになりながらどうにか落ち着こうと呼吸を続けていると師匠が苦笑いを浮かべながら言う。

 

「す、すみません……緊張しちゃって……」

 

「落ち着いて落ち着いて。深呼吸……は今してるか。他に緊張を和らげるには……」

 

「だ、大丈夫ですよ。こ、こ、こういう時は、掌にひ、人という字を書いて……飲む!書いて飲む!書いて飲む!」

 

「うん、そうね。でも颯太君気付いてる?それ『人』じゃなくて『入』よ?」

 

「あれ?……あ!こっちか」

 

「うん、おしい。それは『ん』よ」

 

「あれ?え?……やばい!『人』ってどう書くんだっけ!?」

 

 緊張のせいで相当混乱している。たった二画の『人』が書けなくなるとは。

 

「まったく……少し落ち着きなさい」

 

「むぎゅっ」

 

 頬を両側から押さえられ強制的に顔を固定され、真正面から師匠と向き合う形になる。

 

「いつものふてぶてしい感じで行けばいいのよ」

 

「でも……」

 

「デュノア社の社長とか女性権利団体とやり合った時の方がよっぽど緊張するでしょ。それに比べたら、颯太君風に言うならヌルゲーでしょ?」

 

「師匠………瞼のとこゴミついてますよ」

 

「空気を読まないこと言うのはこの口かなぁ~?」

 

「ひだだだだだ!ひだいでふ!」

 

 優しい笑みから冷ややかな怒りをにじませる笑みに代わりながら俺の頬を引っ張る師匠。

 

「まったく……でもそういうこと言えるくらいには落ち着いたみたいね」

 

 言いながら先ほどまでのように、さらに優しく俺の頬を包むように持ち替えた師匠は俺のおでこにコツリと自身のおでこを当てる。

 

「大丈夫。あなたを選んだのは私。誰が何と言おうと私は、私だけはあなたを選んだことを間違いだとは思わないから」

 

「師匠……」

 

「じゃっ!そろそろ私の出番だから行ってくるわ」

 

 そう言って顔と手を放すと、最後に俺の頭を優しく撫でて壇上へと歩いて行った。

 

「……どうしよう、別の意味でドキドキしてきた……。暗くてよかった~。明るかったら取り乱してた……」

 

 俺は大きく息を吐くと壇上に視線を向ける。

 壇上ではいつもの人を喰ったような笑みを浮かべて、自信満々にハキハキと喋る師匠。

 

「やあみんな。おはよう。さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」

 

 ニッコリと笑う師匠。そう言えば今の師匠の言葉で気付いたけど何気にこういう場での挨拶って初めてなんだなぁ。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは」

 

 言いながら閉じた扇子をすっと取り出し、横へとスライドさせる。それに応じて空間投影ディスプレイが浮かび上がった。

 

「名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」

 

 ぱんっ!と小気味のいい音を立てて扇子が開く。それと同時に画面には一夏の写真が大きく映し出された。

 

『ええええええええ~~~~~~っ!?』

 

 驚愕の声に体育館が冗談じゃなく揺れた。

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い――」

 

 ビシ!と扇子で恐らく一夏を指した師匠。

 

「織斑一夏を一位の部活動に強制入部させましょう!」

 

 師匠の言葉に再び雄叫びが上がる。

 そこで俺はふと気付いた。

そう言えば一夏にちゃんとこのこと伝えてたのかな……まあ伝えてなかった方が面白いか。

 

 

 〇

 

 

 さて、師匠のお知らせに沸き立っていた会場がある程度落ち着いたころ、とうとう俺の出番となった。

 

「それでは続いて、我が生徒会の新メンバーを紹介したいと思います」

 

 師匠の言葉に俺は少しビクッとなりながら大きく息を吸い、吐き出すと同時に視線を壇上に向ける。

 

「この二学期より生徒会副会長に就任しました、井口颯太君です。これより就任の挨拶をしてもらおうと思います。井口君、どうぞ」

 

 言われて俺はゆっくりと歩を進める。

 あ、しまった。今一瞬右手と右足が両方出ちゃった。

 何とか修正しながら壇上に立つ。

 ………やばい。見渡す限り人!人!人!あ、一夏いた。意外とわかるもんだな。

 もう一度大きく息を吸い込み吐き出す。そしてマイクに向き直る。

 

「初めましての方は初めまして。一年一組所属、井口颯太です。この度生徒会長に推薦されて副会長に就任しました。まだまだ若輩者で至らぬところもあるかもしれませんが、皆さんよろしくお願いし『ゴツッ!』いだぁぁ!!」

 

 マイクの前でお辞儀をしようとしたら目測を誤りそこそこいい勢いでマイクに頭突きをかましてしまった。

 途端に、先ほどとは別の意味で体育館が揺れた。というか盛大に笑いが巻き起こった。

 くそっ、こういうのはドジっ子美少女がやるからいいんであって、俺みたいなフツメンがやってもただのギャグなんだよ!

 そして当人の俺にはただただ痛いんだよ!

 

「え、えっと……こんな俺ですが、よろしくお願いします!以上です!」

 

 

 

 〇

 

 

 

「アハハ。面白かったねぇ井口君」

 

「う、うん。そうだね……」

 

 全校集会も終わり、少女たちは教室に戻りながら先ほどの一幕を思い出して笑う。

 

「井口君、緊張してたね~」

 

「普通ぶつける?コントみたい!」

 

「あれで副会長とか心配だよね~」

 

 言いながら少女たちは笑う。しかしただ一人、一番後ろを歩いている少女だけは笑みに愛想笑いが含まれているようだった。

 

「あ、ごめん。私…ちょっとトイレ行ってから教室戻るから先行ってて!」

 

「うん、わかった~」

 

 友人たちと別れて一人トイレに入った少女は先ほどまでの笑みを消し、焦ったように呟く。

 

「マズいマズいマズい。なんであいつが生徒会に入っちゃうかな?ホントありえない。織斑君ならまだしもなんであいつが……」

 

 少女はギリリと親指の爪を噛む。

 

「なんでなんでなんでっ……!?ありえないありえないありえないっ……!」

 

 自身の爪を噛み切らんばかりに噛む少女。

 

「……ふぅ………落ち着け、私。とりあえずこのことは速く報告しないと……。定時報告の時間じゃないけどこれは急を要するわ」

 

 言いながら少女は携帯を取り出し、どこかへとメールを送るのだった。

 


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