最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
ご覧いただきまして誠にありがとうございます。
本編としましては3話で完結させたのですが、正直想像を遥かに超えた閲覧を頂いた事や、有り難い事に続きを読みたいと言ってくださる方もたくさんいらっしゃいましたので、番外編と言う形で新たに書かせて頂きましたm(__)m
とりあえずは過去編という事で、八幡との絡みが描けないので、内容的にご期待に沿えるか分かりませんが、楽しく読んで頂けたら幸いです。
11月もそろそろ終わりを告げようかという頃のとある日曜日、私は女友達3人で、千葉駅近くのお洒落なカフェであたたかい紅茶と美味しいデザートで午後の一時を楽しんでいた。
本日のお茶会メンバーは私、家堀香織《かほりかおり》と、おな中の親友である笠家紗弥加《かさやさやか》。そして総武高校に入学してから仲良くなった我がグループの中心、一色いろはの3人だ。
このおっ洒落〜なカフェは、千葉駅から少し住宅街に入った場所にある穴場的なカフェで、この近くの高校に進学した紗弥加の中学時代の部活フレンドに教えて貰った、私達のお気に入りのお店だ。
お気に入りといっても今回でまだ4回目くらい。
一介の女子高生には、こんな千葉にそぐわないようなオサレでお高いカフェは、そうそう来れるような所ではないのです!
ここ最近いろはがちょっと心労たまってるから、久しぶりに来てみたんだよね。
「やっぱりここいいよねー!落ち着くし大好き〜」
うんうん。いろはも楽しそうで良かった良かった。
最高潮にご機嫌な時に無意識に出るあの癖が出てないから、最高潮ってワケではないんだろうけど、ま、もっともアレが出るほどご機嫌な時なんて、今まで2回くらいしか見たことないしね。
一度目は初めてこのお店に来た時。
二度目はいろはのおばあちゃんが体調崩して入院しちゃって、無事退院したお祝いを買いに行った時の買い物終わりのスタバで。
私達の存在忘れちゃうくらい無意識に出ちゃうから、いろはにおーいって指摘したら
『はっ!ゴメン!つい無意識にっ!子供の頃は良くやっちゃってたんだけど、ここ最近は全然だったんだけどなー!』
とかってビックリするくらいに激レアで無意識らしいんだけど、まあそんな激レアでご機嫌な素の癖を私達と遊んでる時に出してくれていたなんて何よりです☆
× × ×
午後の贅沢な時間を他愛ないおしゃべりで楽しんでいると、ガトーショコラを口に運びながらも、いろはのロールケーキに狩人《ハンター》の視線とフォークを向ける紗弥加が、ボソリと一言。
「智子のヤツ、今頃楽しくやってんのかなー………チッ」
そう、うちのグループの1人である大友智子《おおともともこ》は、本日彼氏とイチャイチャデート中である…………ともとも〜☆とか呼ばれてるんだろうな。チッ
私も紗弥加も、めっきりと肌寒くなった人肌恋しいここ最近に彼氏と別れたばかりなんだけど、べ、別に羨ましくなんかないんだからねっ!
……と、2人して目と目で通じあい力強くウンウン頷きあっていると、いろはが羨ましそうに言う。
「いいな〜!彼氏……んー。彼氏とまでは言わなくても、大好きな人とこのお店でデザートつつきあったり他愛の無いおしゃべりたくさんしたりして、まったり幸せな時間過ごしたいなぁ」
な!なんですと!?
この女!それは私達に対する挑戦状と受け取ってもいいんですかね。
「アンタ、ここに連れてこれる男なんてより取り見取りじゃん!」
「そーだよ!昨日だって中西君とデートだったんでしょ?先週の日曜も中西君で土曜は田辺でしょ!?この男女の敵めっ」
2人でキツいツッコミを入れると
「別にデートじゃ無いしー。ただ買い物に付き合って荷物持ってくれたから、お礼に食事とカラオケに付き合ってあげただけだよー?」
刺されろっっっ!!
「んじゃあ、その時にでも連れてくれば良かったじゃん」
紗弥加が白い目を向け、呆れたように言うと、
「んー…そうゆーんじゃ無くってさぁ…あくまでも『彼氏』とか『ちゃんと好きな人』っ。こういうお気に入りの場所は、ちゃんとそういう人と一緒に来たいな〜…ってさ。……いつか絶対来てやるぞー!おー!」
「あんた中西君が聞いたら泣くよっ!?どうせ『葉山先輩と来た〜い☆』とかでしょ」
「えへへー」
えへへじゃねえよこのヤロウ。
でも、その相手が葉山先輩であれ他の誰かさんであれ、あの子が自分の意志でここに男の子を連れてきた時は、それが小悪魔irohaではなく、乙女いろはの心から望んだ人なのだろう。
「そういえば中西君って言えばさぁ、最近妙にうちのクラスに来ていろはと喋ってない?いろは狙いなのは分かるんだけど、最近ちょっと来すぎじゃない?」
私も思ってたんだよね〜。そしたらいろはは事もなげに
「まぁ、わたしの方から行かなくなったからね。うちのクラスに来てくれた方が何かと都合いいし」
………………………コイツ……
「…………あんたそれ、襟沢に対する当て付けでしょ…」
「ナ、ナンノコトデショーカ??……でも恵理ちゃんがこっちを恨めしそうに睨んでると、ちょっと面白いよね♪」
え?なにこの子悪魔なの?
まぁ、気持ちはわからんでもないけども…
「まぁあれだけ手の込んだ嫌がらせされたらねぇ、襟沢悔しがらせてスッキリしたい気持ちも分かるけど!」
紗弥加がドン引きしながらも遺憾の意を示すのも仕方ないっちゃ仕方ない。
なにせ他のクラスのアンチいろはにまで色々声掛けて推薦人集めて、勝手に生徒会長に立候補させちゃったんだからね…あの女。
もうイジリってレベルはとうに超えてるよねっ!
[注]ちなみにうちの学校にイジメはありません。
「それにしても生徒会役員選挙ってもう再来週じゃん。城廻先輩に相談したみたいだけど大丈夫そうなの?あの雪ノ下先輩とか由比ヶ浜先輩達も協力してくれるんだっけ?」
「うーん…どうだろう…実は雪ノ下先輩達じゃなくって、正直全っ然頼りない人に頼んなくちゃなんない状況になっちゃったんだよね〜…それでもなんとかしてもらわなくちゃだけどー…」
憂鬱そうに頭を抱えるいろは。生徒会長なんかになっちゃったら色々と責任背負わされちゃうし、サッカー部のマネージャー続けんのもままならないだろうからなぁ。
葉山先輩との接点が無くなっちゃうのは面白くないだろうしね。
まぁこんな女の色恋沙汰なんてどーでもいいんだけど、でも……いろはが沈むとうちらのグループも暗くなっちゃうし(べべべ、別にいろはが心配なわけじゃ無いんだからねっ!)、なんとかなればいいんだけどなー…
× × ×
翌週の金曜日。
四時間目の終了を告げるチャイムが校内に響き渡り、本日のお昼タイムが始まる。
私達はいつものように4人でお弁当を広げていた。
数日後には役員選挙も控えているという事で、そんな話題でわいわいやりながらお弁当を食べようかとしていると、視界の端の扉んトコで、見知らぬ男子がうちのクラスの地味男(あいつ名前なんてったっけ?)に話し掛けているのが見えた。
地味友達かなんかかと思ってたら、なんか地味男がオドオドといろはに声を掛けてきた。普段は私らトップグループに話し掛けたり出来ないから緊張しちゃうんだよねごめんねー(…あれあれぇ?…なんかこのやりとり、いつかデジャブ感じそうな予感がするぞー……?)
「…あの〜…一色さん、なんか二年生の人が呼んでるんだけど…」
そう言われた瞬間いろはは…
目をキラッと!
首をグルンと!
そしてほんの一瞬の悲壮感漂うガッカリ顔…
でも次の瞬間には営業スマイルを張りつけて、パタパタと走っていった。
……い、いやぁ…今のガッカリ顔は無いでしょ、いろは…あの二年生もとっても苦い顔してるよ…ま、面白かったからいっか(笑)
どうせ葉山先輩とでも思ったんだろうけどね。
いろはが男子に呼び出されるなんて結構日常茶飯事だし、今回もまた告られの呼出しかなー?どうせバッサリ振るんだろうけど…と、クラスの連中も特に気にもしてない様子(一部男子はソワソワしてるけどねっ)。
でもそんな中、襟沢だけは超チラチラ見てる…超気にしてるよっ。
アイツ嫌い嫌いと言いながら、もうあそこまでいくと実はいろは大好きなんじゃね?
あ…会話が終わって二年生に背中を向けた途端に超嫌そうな表情になってダラダラとこっちに戻ってきた。営業スマイルはずすの早すぎィー!
「香織達ごめーん…ちょっと選挙の件で用事出来ちゃったみたいだから、ちょっと行ってくるねー…」
と広げたお弁当を気だるそうに片付け始めるいろは。
「う、うん…行ってらっしゃーい…」「行ってらっしゃーい…」「がんばってねー…」
「はぁ〜…なんでわたしがこんな目に…」
なんてブツブツ言いながら肩を落として歩いてくいろはを見送る。
「生徒会の人かなんかなのかねー」
「超やる気なさそう…」
「大丈夫かねぇ…てかさっきの二年生に失礼じゃね(笑)?あの子」
× × ×
お昼時間がもう少しで終わりそうという所でいろはが帰ってきた。
「ただいまー!」
と、なんかちょっと元気そう。
ん?なんか嫌そうに行く前とは明らかに表情が違うな…
なんかこう……男前になった……?……なんじゃそりゃ
うまくいったのかな?なんて私達が顔を見合わせてると、
「わたしさー、生徒会長やってみる事にしたよ」
決意したように楽しそうな微笑みを浮かべたいろは。
「え…?うそ、なんで!?」
「ふふっ。なーんかさー、わたしが思ってたよりも、ずっと面白そうなんだよねー♪」
生徒会の仕事がぁ!?と尋ねようとすると、ぽしょりと一言。
「………あの人………」
と聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟き、ニヤリと悪魔顔を浮かべるいろは…
小悪魔じゃないよ悪魔だよ。
よく聞き取れなかったから、聞き返そうかと思って視線を向けると、いろはは頬杖を突いて窓の外の景色を見つめ、ハミングするように小さな声で楽しそうに歌を口ずさんでいた…
ああ…これはアレだ。最大級にご機嫌な時のアレだ。
楽しくて嬉しくて仕方のない時に出るいろはの癖。
なんかよく分かんないけど、よっぽど楽しい事があったんだねー…と、私達はそんないろはを微笑んで見つめていた。
× × ×
翌週の木曜日、生徒会役員選挙でいろはの見事な演説が行われた。
我が校のアイドル・葉山先輩からの熱い応援演説を背に受け、人に見られる事に慣れたいろはの演説は、まさに見事だった!
カンペも見ずに堂々と一生懸命公約を語る一方、たまにトチッたり噛んだりしては、ふぇぇっと慌てた様子(あざとい)で葉山先輩に不安げな顔でチラリと助けを求め(あざとい)、全校生徒に向き直り頭をコツンと叩きテヘッと舌を出す(あざとい)…
そのたびに体育館には笑いと暖かな歓声が響く。
「一色ちゃんがんばれー」「いいぞー」「俺ファンになっちゃったよー」「いろはちゃん可愛いー」「応援するよー」
などなど、男子からの歓声はもちろん、同級生女子には嫌われているいろはも、上級生のお姉様方には概ね好評らしい。
保護欲をそそられるって言うんですかね。
いろは……あんたそれ絶対わざと噛んでるでしょ……
そんなあざとさ100%の見事?な演説は生徒達の心をしっかり捕らえ、生徒会役員選挙は無事終了した。
選挙は即日開票が行なわれ、翌日にはいろはに会長就任のお知らせがクラスに届くと、その日のLHRで担任がいろはを教壇に立たせ、熱く暑く感動していた…
俺が!この俺が!こいつをここまで導いてやったんだっ!………てな体で。
てかお前だよこのエセ熱血教師!
お前が聞く耳持てるまともな臨機応変教師だったら、そもそもこんなゴタゴタ起きてねーんだよっ!
しらーっとした目で熱血教師の熱弁を聞き流していると、その隣では今や学校中の声援を受け、次期美少女生徒会長として一躍時の人となったいろはが、当初の思惑が外れて、ぐぬぬ顔で悔しがっている襟沢を始めとするアンチいろは連中を、満足気な微笑で見つめていた。
こうして私の友達一色いろはは、総武高校創設以来、初の一年生生徒会長として華々しく就任したっ!
はてさて、この小悪魔系あざと可愛い一年生美少女生徒会長のもと、我が校は一体どうなっていきますことやら……
最後まで読んで頂きありがとうございました。
やはり八幡とのイチャイチャが描けないのみならず、本編との兼ね合いで、いろはすから香織達に八幡の事をあまり言及させる訳にもいかないので、読者様に満足して頂けたかどうかの不安が残りました。
とりあえず本編1話のいろはすとのテンションの変わりようと、カフェでの一幕のバックボーンを妄想で描いた事により、10.5巻でのいろはすの楽しい気持ちを妄想して楽しんで頂けたら幸いです。