最近友達の一色いろはがあざとくない件について   作:ぶーちゃん☆

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やはり私の友達はあざとく微笑む

 

 

「いろは…」

 

 

私は俯いたまま肩を震わせるいろはから視線を襟沢に移した…

紗弥加達も勝ち誇った顔してご満悦な襟沢を睨んでる。

 

「襟沢…あんたさぁ!なん」

 

「ぷっ!」

 

 

「???」「???」「???」「???」

 

ん??なんだ今の?

私達はその音がした方へ顔を向けた。

そこには…え??なんかいろはさんが超プルプルしてるんですけど!そして…

 

「くくく…く………アハハハハハっ!ひーっ!もうダメっ!ブハッ!」

 

ヤバい!いろはが壊れたっ!?なんか大爆笑してるんですけど!?机とかバンバン叩いてるし!

 

「ひーっ…ひー…ふぅ…ぷっ…くぅっっ!」

 

なんとか笑いを堪えようと必死に息を整えて、ようやく落ち着いてきたみたい…

 

………え?いやいやいやいや!俯いて肩震わせてたから超心配したのに、ただ笑いを堪えてプルプルしてただけっ!?

 

 

「あー…ハァハァ…なんだ、うん。そういう事かー…ふーっ…なるほどなるほど…いやぁ、あの噂の二年生が…ブッ!せ、先輩だったなんてね。プーっ!ヤバいウケる!言われてみればイメージぴったり過ぎるっ!むしろなんで今まで気付かなかったんだろっ…不覚っ…くくっ……ふぅ、ううん!うん!…まったく…あの人は前からそんな事ばっかしてたのかー。ま、そういう事なんだろうな、うん。本当に先輩ってバカだなー!」

 

1人ウンウン頷いて納得してるいろはには悪いんだけど、おいてけぼりな私達は視線でいろはに説明を求める。

 

「ん?なに?」

 

どうやら視線だけでは気付かないようだ。って気付けよっ!なんだよそのおとぼけフェイス!

 

「えっと…いろは?どゆこと?ショックで泣いてんのかと思ったら大爆笑って…」

 

「へ?なんでわたしが泣かなきゃいけないの?」

 

心底不思議そうな顔してキョトンとしてるいろはに智子が尋ねる。

 

「いやいやだって大好…仲のいい先輩が、噂の最低な二年生って聞いたらそりゃショック受けるっしょ!?」

 

「いやだって先輩だもん(笑)むしろ納得?」

 

「納得って…だって酷い人って噂じゃん…?」

 

紗弥加が呆れたように訊ねる。

 

「うーん。まぁ確かに酷い人ではあるよねー。でもただ酷いってわけじゃ無いんだなー、コレが。酷い事したならしたなりの理由があるんだよ、あの人には。ま、何があったのかは知んないけど間違いないねー」

 

突然の爆笑劇にずっと固まってた襟沢がようやくハッと我に返って動揺を隠しきれずもなんとか食い下がる。

 

「い、いろはちゃんさぁ、無理しなくてもいんじゃなぁい!?そりゃあんな最低な人と親密にしてたってのがバレたら恥ずかしくて気まずいのは分かっけどぉ」

 

「は?…なにが恥ずかしくてなにが気まずいのか良く分かんないんだけど…、恵理ちゃんさー、最低な人って言うけど、ちょっとでも先輩の事知って言ってるのー?なんも知んない癖に噂だけ信じて人を馬鹿にすんのって、ほんっとくだらないね」

 

「はぁ?だって学校中で話題になってたっしょ!?」

 

「プっ、学校中だって(笑)。自分自身の意見とかないのー?ま、仮に多少知ったところで、お子さまには難しいかな?あの先輩を理解するのは。まぁ別に先輩の良さが分からない人には何言っても無駄だし何言われてもなんも感じないけどさー」

 

そして一拍空けてからニヤリと挑発するように忠告する。

 

「まぁ恵理ちゃんが先輩の悪口を広めるならどうぞご自由にだけど、バレたら雪ノ下先輩に目ぇ付けられる覚悟くらいはしといた方がいーよ?」

 

「は?な、なんで雪ノ下先輩が出てくんのよ!?」

 

「だってー、先輩は雪ノ下先輩の所有物みたいなもんだしー、わたしが先輩を借りようとしただけで超不機嫌になるんだよねー。マジで超怖いよー?」

 

「え…?」

 

「あ、あと結衣先輩も超怒ると思うよー?」

 

「は?結衣先輩って…由比ヶ浜…先輩…?」

 

「そー。あの人も先輩大好きだからなぁ。つまりどういう事か分かるよね?結衣先輩を敵に回すって事は、恵理ちゃんの崇拝する三浦先輩も敵に回すって事だよ♪三浦先輩自身も、結構先輩の事買ってるみたいだしねー」

 

「…………!!」

 

「あー……でもやっぱりわたしもあんまり面白くないかも。一応尊敬してる先輩だしねー。わたしの事嫌いでわたしの悪口言う分には別に構わないけどさ、あんまり先輩の事悪く言うなら、せっかく会長って立場があるわけだし、職権濫用して色んなトコに手ぇまわして、学内的に抹殺しちゃおっかなー?ナンチャッテ」

 

ニコニコとそう言うと、次の瞬間にはとんでもないどす黒い声でこう付け加える…

 

「……………だって、元々恵理ちゃんに与えてもらった職権だし、お礼はちゃんとしなくっちゃねー」

 

仄暗い瞳と冷淡な笑顔でテヘッとするいろは。いやマジ超怖いです。そんな超こえーいろはに見つめられてる襟沢は…

 

 

…………あ、ヤバイ泣きそう!早く逃げてー!

 

戦意を失って今にも泣き出しそうな襟沢にはもう興味が無くなったらしく、次の瞬間にはにこぱーっと笑顔に戻り

 

「さ!おべんと食ーべよっ。ってもうほとんど時間残ってないじゃん!」

 

慌てて残りのお弁当を食べだしたいろは。この子、こんなに強かったんだ…てゆーかこれも比企谷先輩の影響で変わったのかな。

 

 

「いろはって、比企谷先輩の事信じてるんだね」

 

いろはの変化を目の当たりにし、私はそう訊ねてみた。

そしたら事もなげに当たり前のようにこう答えた。

 

 

「んーん?別にー?ただ、信じる信じないとかじゃなくて、先輩の事『知ってる』人なら、みんな普通に分かる事だと思うよー?」

 

 

× × ×

 

 

数日後

 

いろはに対しての悪感情や比企谷先輩との仲の邪推などなど、色んな噂が流れてしまうのではないかとの心配は杞憂に終わっていた。

 

単純にいろはの怖さやビッグネーム様たちにビビったってのもあるんだろうけど、比企谷先輩の噂自体を全く気にしない様子や、あざとさなどどこ吹く風、男子の目など気にしない素の爆笑劇を演じたことにより、女子からのアンチいろはの空気は次第に好意的なものへと変わっていった。

 

 

それどころかいろはがあざとさを見せなくなった原因を作ったであろう比企谷先輩と仲よくしてるいろはを好ましく捉える空気さえ出てきたよね、最近。

だってほら、恋する乙女達は、恋敵いろはの変化に安心するじゃない?

男子人気に対する妬みさえ無くなっちゃえば、基本いろはって良いヤツだからね。怒らせたら怖いけど(笑)

 

あ!そうそう。実はあのあと泣きだしちゃった襟沢をいろは自身がフォローしたんだ。

実際いろはは本当に襟沢に感謝しているらしい。色んな貴重な出会いと体験の場を与えてくれたからなんだってさ。

 

そんなこんなで、ここ数日観察してても、一向に悪い噂が一人歩きする様子も無く、この一騒動は一件落着!

 

そんな安堵の気持ちもあり気持ち良く本日の部活を終え、さて帰りますかねと下駄箱から靴を取り出そうとしてたら、いろはもちょうど帰るトコだったみたいで、パタパタと駐輪場の方へ走ってく姿が見えた。

 

「あれ?あいつチャリ通だっけ?いやいや、チャリで通えるトコじゃなかったよね!?」

 

 

なんかあったのかしら?と追いかけてみたら、駐輪場で件の比企谷先輩を発見したいろはが居た。

 

どれどれ、家政婦よろしく、コッソリ覗いて聞き耳を立ててやろうかね!にひっ!

だってあの先輩と居る時のいろはすって面白可愛いんですもの…

 

 

× × ×

 

 

「せんぱーい!せっかく下校時間が一緒になったんだから、駅まで後ろ乗せてってくださいよー」

 

「は?嫌に決まってんだろ」

 

「なんでですかー。こんな可愛い後輩と二人乗りしてたら、それはもうすんごいステータスですよっ?」

 

…ぷくっと頬を膨らますいろは。やはりあざとい…

 

「嫌だって。恥ずかしいっての」

 

「せんぱい頬染めちゃってキモいです。キモいです」

 

「キモいキモい言うんじゃねえよ。大事な事だから2回言ったの?言っとくがお前が思ってるよりずっとダメージでかいんだぞ?」

 

「先輩のダメージなんてどうでもいいです。そもそも恥ずかしいって、先輩なんて学校一の嫌われ者じゃないですかー(笑)今さら周りの目とか気にしちゃうんですかー?」

 

 

「お前マジ許すまじ。最近はお前の事だけでノートが埋まるわ」

 

「えー?先輩の日記にはそんなにわたしの事ばっかり書かれてるんですかぁ?♪」

 

「………ある意味な。てか学校一の嫌われ者なんていう一過性のムーブメントなどとうに過ぎ去ってるっつーの。今の俺は元通りの学校一の認知されてない男だっ」

 

…やっぱ只者じゃないなあの人…そこで胸張るかな普通…

 

「あ、あー…なんかごめんなさい」

 

「謝られちゃった……。いや普通に引きすぎじゃね?なんかフォローとかあるだろ…。……それに…その、学校一の、とか知ってんなら、俺と二人乗りとかマズいって事くらい分かんだろ」

 

「……………あっれぇ?もしかしてわたしの事心配してくれてますー?」

 

「ばっかオメー、生徒会長様に悪い噂なんか立つような学校、小町が安心して入学してこれないだろうが」

 

「はいはい、そういう事にしといてあげますよー(笑)てゆーか先輩のシスコン発言て、たまに照れ隠しの言い訳に使いますよねー(笑)」

 

「は、はぁ?バ、バカ言ってんじゃねーよ!俺の小町を愛する心は、そ、そんなんじゃねーしっ!」

 

「プッ!はいはい♪了解でーす。よし!じゃあ早く行きますよ?」

 

…もうYOU達付き合っちゃいなYO…

 

「いやお前俺の話聞いてた!?だから二人乗りなんかしねえっつうの」

 

「大丈夫ですよー。確かに先輩は学校一の嫌われ者かも知れないですけど、わたしだって女子オンリーで言えばあんまり評判良くないですしねー。嫌われ者同士、二人乗りして帰ったって、ただいつも通り悪目立ちするだけですよー」

 

…なんか会話の内容はものすごく切ないはずなのに、なんだか微笑ましいなぁ。

 

結局しばらくは比企谷先輩があれこれ理由を付けて煙にまこうとしてたけど、なんかいろはがそっと俯いて、ボソッと「……本物……」とか呟いたら、比企谷先輩は急に、まるでハイヤーの熟練の運転手のような、まるで高級ホテルの洗練されたドアマンのような流麗な動きでいろはをチャリの後ろに招き入れだした…

 

 

え?なに!?なんか比企谷先輩を従わせる呪文でも唱えたの!?

私も今度比企谷先輩と廊下ですれ違ったら、本物って呟いてみようかな…面識ないけど。

 

 

ふふんとしてやったりの顔して比企谷先輩を覗き込むいろはの顔は、満面のあざとい小悪魔笑顔だった。

 

あれ?でもこないだは、比企谷先輩に対してもあんまりあざとさを感じなかったような…

 

いや、違うな…『いつものあざとさ』とは違うけど、やっぱあの時も確かにあざとかったんだ。ただ、なんかいつもと違うから違和感を感じてたんだ。

 

 

うーん………

 

 

 

………!!そっか、分かった!違和感の正体!

あざとさの『質』が全然違うんだ!

今までのいろはって、男を騙そう、男を利用しようって打算的なあざとさを使ってたはずだ。

でも今はどう?そういった打算的なあざとさじゃ無い。

 

比企谷先輩はあざといあざといとウザがりながらも照れたりしてるし目もあんま合わせないようにしてる。

そんな照れた比企谷先輩をニヤニヤとからかいたくて、いろははワザとあざとい自分を見せてるんだ。

 

利用したいから打算的に演出するあざとさと、ただ気になる人をからかいたいだけの小悪魔心のあざとさ。

 

そりゃ全然違うよね。違和感感じるはずだわ。

 

 

 

比企谷先輩をまんまと丸め込めて二人乗りして駅まで向かってく、夕陽のせいなのか自身の火照る熱によるものなのかちょっとだけ朱色に染まったいろはの顔は、最っ高に可愛いあざとい笑顔だった。

 

 

 

 

うん!やはり俺の青春ラブコメはまちがイヤ違った。

 

 

 

 

 

やはり私の友達の一色いろはがあざとくないわけがない(ただしせんぱいに限る)

 

 

      了




たった3話ではありますが、最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございました!
このssは、内容そのものよりも、場面場面でいろはすの色んな表情が脳内に思い浮かぶような、そんなイメージで書き上げたつもりだったのですがいかがだったでしょうか?
人生で初めて書いた拙い創作物を、たくさんの方に読んでもらえて感想まで送って頂けて、とてもとても楽しかったです。
物語を創るのって大変なんだなと思うと同時に、こういったサイトに投稿したり、同人誌を書いたり、作家を夢見たりする方々の気持ちが、ほんのちょっと分かった気がします。自分の妄想にしか過ぎない物を人に読んで貰えるって、とても楽しい事なんですね。

このssはひとまずこれで完結ではありますが、今後絶対に思い入れが出てくると思うので、需要があるようでしたら、ネタさえ思いつけば番外編と言う形でこちらに上げてみたいな〜とか思っておりますm(__)m



そして……………遂に明日はいろはすが表紙の10.5巻の発売日ですね!
このssを読んで頂けたような方はまず間違いなくいろはす大好きだと思うので、あと僅かな発売までのモヤモヤを、これを読んで少しでも「気を紛らわせられたな〜」なんて思って頂けていたなら幸いです♪
私はコレ書いててちょっと紛れました(笑)

それでは皆さま!10.5巻のいろはすの活躍を一緒に期待してましょう!



後書き追加…
(注)10.5巻ネタバレ有り


いやー、やっぱり本物のいろはす可愛かったですねー!

今までは八幡or葉山、どちらのスタンスか分からないようにしてましたが、「わたし、編集者と結婚します」→「先輩。編集者おすすめですよ、編集者」とか、恒例のお断り芸(もう断ってない)を見ると、八幡で確定ですね!

あまりにも可愛すぎて、ますますいろはすに夢中になりそうです!

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