最近友達の一色いろはがあざとくない件について   作:ぶーちゃん☆

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そして私の友達が本物のバレンタインを迎えたら③

 

 

めくるめくような、素晴らしき面白可笑しい光景が繰り広げられる事に胸を躍らせて、私は眼下に広がる踊り場を、階段の手すりにコソッと可愛く隠れていつものように覗き見る。

 

いやいや、なんかこういう言い方すると、まるで私がいつも覗いてるみたいじゃないですか。

どうも。覗きと2次元が趣味ですっ♪でお馴染みの、リア充女子高生こと家堀香織です。

やだ!乙女度メーターが残念側にレッドゾーン☆

 

 

と、そんな今更な自己紹介をついついしてしまうほどに(今更って言っちゃったよ)、私の予想に反して、しばらくのあいだ眼下ではめくるめくような光景が広がらずにいた。

なぜなら、すぐさま動きを見せるかと思われたヤツが、未だ動きを見せずにいるのだ。

 

私はてっきりいつものように「せんぱーい!私お仕事超頑張ってるんですよー?ほらほらぁ、早く頭ナデナデしてくださいよぉー」とでも言うものかと思ってたよ。

まぁそんなセリフ聞いたこともないし、そもそもそれキャラが崩壊しちゃってますけどね。

 

「お、おい一色……特に話がねぇんなら、俺はもう行きたいんだが……」

 

なぜだか口を開かないいろはに痺れをきらした比企谷先輩が、困ったように問いかける。

 

だったらとっとと早く行けばいいじゃん八幡さんよぅ!って?

 

それは無理なんですよねー。なぜならいろはは口は開かないけど手は出してるから。

まぁ早い話が、比企谷先輩の袖をちょこんと摘んだまま動かないんですよ〜、もうあの子ったら!

 

 

なんなんでしょうかね、あの光景は。

袖を摘んだまま、俯いて膨れっ面してるいろはと、一度食い付いたら雷が鳴っても離さないスッポンの如きいろはす相手に、グイグイと引っ張っていろはの手を外そうと無駄な努力をしている比企谷先輩。

 

そして待つこと数十秒、比企谷先輩も私も頭の上にいくつも疑問符を並べていると、ついにいろはがこんな言葉を低音(低温)で発するのだった。

 

「……せんぱーい。わたしが珍しく一生懸命がんばってるってのに、なにいつの間にか香織と仲良くなってて、裏でこそこそとイチャイチャしてんですかねー……」

 

デスヨネー。

やっぱ原因は私ですよねー。

ようやくお待ちかねの夫婦漫才が開演したってのに、なぜだか恐怖心が先行しちゃって全然ワクワクしてこないんです私……

 

 

× × ×

 

 

「あのな……だから別に仲良くなんてなってないと言ってんだろ」

 

「それはどうですかねー。そのわりにはなんかデレッデレしてたように見えたんですけど」

 

「は?別にデレデレなんかしてねーっつの」

 

「そうは見えませんでしたけどー。嬉しそうにニヤニヤしてたくせに…………。まぁ香織は中身は残念ですけど、いい子だしガワは可愛いですしねー。年下好きの先輩に可愛い後輩が懐いてきたら、そりゃニヤけちゃいますよねー」

 

残念言わないでっ!とんだとばっちりだよ!

いやまぁガワは可愛いとかいい子とかって褒められてますけども。

…………ガワって……

 

「まぁ見た目は良くて明らかにリア充なのに、中身が残念っぽいってのはなんとなく分かってるが」

 

バレちゃってるよ。

いやいや残念じゃねーし。ざ、残念じゃないよね……!?

 

チクショウ!見た目は良いって思われてるって事で、嬉しくてほんのり桜色に染まった可憐な頬も台無しだよ!

いやでも見た目は良いって思われてんだうへへ。

 

「まぁなんにせよたまたま会っただけだし、一色に隠れて一色の友達と仲良くしてたなんてことはないから安心しろ。どうせわたしの友達と仲良くしてるとかキモいんでごめんなさいとか言うんだろ?」

 

マ、マジですか比企谷先輩……やきもちですよやきもち!

あんた鈍感キャラ通さないと死んじゃう病かなんかにかかってんの?

 

「…………はぁぁ……はいはい。まぁそれですよそれ……むぅ」

 

オタクでは無いにせよ、オタクでは無いにせよ、2次元に精通した私からしたら、その深〜いため息のあとのぷくっと頬っぺ、今日ばかりはお察しします。

え?なんだって?って言わないだけ、多少マシかも知んないけどもっ。

 

「……じゃあ、なにをあんなに楽しそうに話してたんですかー?」

 

おいおいいろはす。あんた嫉妬に狂いすぎだよっ!

それ以上追及すると、あんたがその場で茹ではすになっちゃうからおやめなさい?

まぁ、比企谷先輩が正直に「君を心配してたんだよ」なんて、葉山先輩みたいなキラキラスマイルで言うわけないけど。

想像してみたらちょっぴり気持ち悪かったです。

 

「べ、別に大した話じゃねぇよ……」

 

「…………へぇ。そうやって隠すんですかー。……はっ!まさかそうやってわたしの友達と仲良くすることで段々とわたしの外堀を埋めていって最終的に断れないように企ててから告白するつもりですかすみません正直逆効果でしかないですごめんなさい」

 

ばばっと両手を前に伸ばしてペコリとお辞儀の、ご存知お断りポーズ!

でもそのお断りは、他の女と仲良くしないで!って意味なんですけどねっ。

 

「あー、はいはい。この流れからでも振られちゃうのね」

 

呆れた顔した比企谷先輩と、相変わらずの長台詞ではぁはぁと息を切らすいろは。

ふぅ、でもこれでようやく普段の空気に戻ったみたい。

ふふっ、とりあえずこれにてこの不毛な話題にも終止符が打てたようですねっ!

 

「まぁこの件はとりあえずはここまでにしときましょうかねー。……あした本人に聞くんで……」

 

いやぁぁぁ!?ボソリと一言付け加えないでぇっ!?

 

どうやら終止符が打たれたのは話題じゃなくって私の方らしいですよ?ウフフフフ……(白目)

 

 

× × ×

 

 

ようやく夫婦の痴話喧嘩が一段落したこの場においても、未だ漫才は終わらない。

ここんとこ、いろは毎日のように先輩成分が足んない〜……とかってボソボソと独りごと言ってたから、補給する気まんまんで一向に袖を離そうとしないんだよね〜。

 

「……まぁそれはそうと、準備の方は捗ってんのか?なんにも相談とか来ねぇけど」

 

「超捗ってますよー。ハコ押さえとかもう済んでますし、資金繰りの秘策なんかはわたしが考えたんですからー」

 

資金繰りの秘策ってなんだよ。

そんな悪そうな顔で言ってるの見ちゃうと不安しか無いよ。

なんかクリパんときのどっかの会長みたいに他校とか巻き込んで、相手の予算とか引っ張って来そうな予感で悪寒。

 

「……資金繰りの秘策ってのがなんか恐えーし、お前がやったのってそんだけ?」

 

「なんですとぉ!?失礼なっ!ポスターの告知文言とかだってわたしの案ですぅー。あとは材料とか道具とかの手配だってちゃんと手を回してますし、諸々のリストとかの書類まとめるのだってわたしなんですからねー!」

 

「ほー……マジで結構真面目にやってんだな」

 

「えへへ〜、当たり前じゃないですかー!わたしここ数日は休み時間もお昼休みも放課後も返上して走り回ってるんですからねっ」

 

えっへん!と並の胸を精一杯に張るいろは。

ま、すっぽりと手に納まるジャストサイズで、まぁいいんじゃないかしら?ふふふんっ。

 

「そうか。やっぱお前ってやりゃあ出来んだよな。成り行きとはいえ、お前を生徒会長に推した身としてはひと安心だわ。……あー、アレだな……元々はこっちにきた依頼なのにそんなに頑張ってくれちまって、なんかありがとな」

 

おっと!突然の捻くれ無しのお礼に、いろはすの頬が桃味になっちゃいましたよ?

 

「……なっ!?と、突然素直にお礼とか、ちょっとズルすぎやしませんかねこの人…………ま、まぁこれはわたしにも利益があることなんで、特別に割安で貸しにしといてあげますよっ」

 

「へっ、お前の利益でもあるのに利息付きの貸しになっちゃうのかよ」

 

明らかな照れ隠しのいろはの憎まれ口に、比企谷先輩はヤレヤレって感じで苦笑い。

なにお互いに視線交わして微笑んでんすかね。しかもコレ、袖摘みっぱなしの光景だかんね?

くっそ、イチャイチャしやがってよーぅ!いろはす桃味甘過ぎんよ!

 

「ふっふっふ!でも貸しなのに、さらに義理とかあげちゃうんですよ?わたしっ」

 

このやりとりで気を良くしたのか、いろはがチョコあげちゃう宣言をぶちかまし始めちゃった!

 

「へ?マジで?」

 

「ですです!まぁ義理も義理、超義理ですけどねー。んー、貸しも含めて30倍返しくらいでいいですよ?」

 

んー、と顎に指を当てて小首を傾げてあざとシンキングポーズをしてから、可愛らしくパチリと小悪魔ウインクをかますいろはだけど、30倍返しとは穏やかじゃない!

 

「いやお前可愛くウインクってレベルの要求じゃねぇからな?それ」

 

「どさくさに紛れて可愛いとかもしかして口説いてるんですかちょっと気が早くないですかねあと数日待っててくださいごめんなさい」

 

「いやなんでだよ……」

 

いやいや……なんでだよはこっちのセリフだよ。

あと数日後にはわたしから告白しますぅ!って言われてんぞ八幡さんや!

 

てかあの恒例のお断り芸って、いろは自身なに口走ってんのか理解してるのかしらん?

今までのお断りを比企谷先輩がトボけずに全部理解してたら、とっくに告白なんて終えてるみたいなもんだからね?

 

「ま!セコセコな先輩に今からこんな話してたって意味ないですよねー。なのでそこら辺は先輩の“男としてのランク!”にお任せします♪」

 

「一番最悪なお任せになっちゃったよ……」

 

「ですので義理の件に関しては一旦置いといてー、今現在の頑張ってるわたしに対してのご褒美としましては、とりあえず今から奢ってもらう飲み物で手を打ってあげましょー。やりましたね先輩!大サービスですよっ」

 

「え?なに?飲みもん奢る事は決定してんの?」

 

「だって先輩これから自販行くんですよね?だったら当然じゃないですかー。し、か、も!今なら可愛い後輩のわたしが一緒に自販まで付き合ってあげる特典付きなんですよ?こんな可愛い生徒会長をはべらせて校内を闊歩できる優越感とか、プラマイで考えたら先輩にとってプラスしかなくないですかー?」

 

「なにその超理論……」

 

あまりの無茶苦茶な理論に、呆れて口も開けずに論破されてしまった格好となっちゃった比企谷先輩の袖をグイグイ引っ張って、いろはは満面の笑顔で自販へと向かう。

 

「ほらほら、早く行きますよー!わたしはヒマな先輩と違って忙しいんですからねー」

 

「おいやめろ。だから校内で袖引っ張んじゃねぇと何度も言ってんだろが」

 

「おやおや〜?まさか先輩、袖じゃなくて手を繋いで引っ張られたいんですかー?」

 

「……もう袖くらいいくらでも引っ張ってください……」

 

 

ぷっ!うんざり顔の比企谷先輩を、素敵な悪い笑顔でニヤニヤ見つめて引っ張っくいろはは超楽しそう!

 

ふふっ、あんたここんとこホント頑張ってたからね〜。

爆発すりゃいいのにとか思う一方、たまにはこんなのもいいかもね!って思っちゃうっ。

このひとときを楽しんでしっかり充電して、もうひと頑張りして万全の態勢でバレンタインに臨みなさいな♪

 

 

 

───私は、そんな二人の背中を眺めつつ、「おいおい、こりゃまだ漫才続くじゃねーかよ☆」と独りごちて、ワクテカで階段を掛け降り…

 

「家ぁ〜堀ぃ〜……」

 

られませんでしたっ!

おやおやー?

ふむふむ。どうやら今私は子猫の如く首根っこをギリギリと捕まれているみたいですな。

 

「ひぃっ!ぶっ、部長っ!?」

 

「……あんた部活来ないと思ったら、こんなとこでなに油売ってんのよ」

 

「い、いや……そっ、そのっ!ア、アレがアレでして…………えへへっ?」

 

「まぁ!素敵な笑顔ねぇ!…………あんたいい度胸してんじゃない……」

 

 

アカンこれ死んだわ。

 

いやぁぁぁ!私にはまだ夫婦漫才を後世にお伝えするという大事な義務がぁぁ……!

 

 

──こうして私は夫婦漫才に後ろ髪を引かれながらも、現実には後ろ髪を掴まれ引っ張り回され部室へと連行されて、優しい部長と温かな先輩方から、完全下校時刻までに校庭100周を命じられたのでした。

私、文化系の部活に入部したような記憶があったんですけど?

 

いやん!もうこういうオチはお腹いっぱいなのんっ……!

 

 

 

続く






1話まるごと夫婦漫才に使ったのはなにげに初ですね(笑)
まさか八色漫才だけでこんなに長くなるとは思いませんでしたけどっ(^^;)
この空気感が懐かしくって、ついつい長くなっちゃいました☆



ではまた次回です!


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