最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
その②になります♪
ではではどぞ!
「さてと、んじゃそろそろ部活でも行ってきますかね」
「行ってらー」「ばいばい香織ー」「香織ちゃんまた明日ねぇ」
深き友情で繋がった友たちと、放課後になっても相も変わらずバレンタインという名の血の祝祭を盛り上げんと騒ぐ魑魅魍魎にまみれた教室に別れを告げ、私は我が在るべき場所が存在する特別棟へと向かう。
勇者かおりん、旅立ちの時である。ふひっ!
「ねぇ……なんか香織ちゃんまた一人でニヤニヤしてて怖いんだけどぉ……」
「ほっとけば。どうせまた脳内旅立ちシチュエーションでも楽しんでんでしょ」
「香織は中学の時からほんと変わんないよねー。たまに一緒に居るのが恥ずかしくなるよね」
おいおい聞こえてんぞ、深き友情(笑)で繋がった友たちよ。そして智子さんちょっと酷すぎやしませんかね。
お願いだから聞こえないように言ってっ!クラスのみんなに聞こえちゃうぅ!
明日の朝イチで襟沢をシメることを心に誓いつつ、私は涙を拭いて部室へと向かうのであった……
くっそう!泣くもんかぁ!
了
いやいや終わんないから。
もうちょっとだけ続くんじゃ。
× × ×
茶番もそこそこに、教室棟を抜けて渡り廊下を渡った先にある特別棟に入り、我が部室のある三階へと向かう為に階段を上る途中の踊り場で、とてもとても意外な人物と遭遇した。
「ありゃ、比企谷先輩じゃないですか。どもですっ」
「……おお、家堀か。……うす」
私はよく部活に行くときにこの階段使うんだけど、ここで比企谷先輩と遭遇したのは初だから、ホントに結構意外!
「なんかこんなトコで比企谷先輩に会うなんて珍しいですね〜。どうかしたんですか?」
「ん?ああ、なんか雪ノ下が珍しく紅茶を切らしてるらしくてな。んで飲み物がねぇから下の自販まで買いに行くだけだ」
「あー、成る程です。ふふっ、例の千葉のソウルドリンクですか?」
「おう、分かってんじゃねーか。なんだもしかしてお前も愛飲者か?」
ちょっと!?あなたそんなにキラキラした目が出来るの!?どんだけMAXラブなのよ……
てかMAXラブって、ちょっと愛が重くないかしら?
「や、やー……アレはさすがに上級者向け過ぎてちょっと……」
「……そうか」
ちょっとそんなにしょんぼりしないでよ……なにこの罪悪感!
MAX仲間が欲しかったのかしらん?
おっと、千葉県民御用達エナジードリンクの話なんてどうでもいいや。
せっかく会ったんだから例の件でも聞いとこうかな?
「あ!それはそうと聞きましたよ〜?なんかいろはの提案で、お料理教室という名のバレンタインイベント開催するらしいじゃないですかー」
「ああ、なんかそうみたいだな」
「いやー……なんかまたまたうちのいろはがご迷惑お掛けします〜」
クリスマスの件といいフリペの件といい、ホントうちの小悪魔がサーセン。
「まぁ元々はうちへの依頼だからな。別に迷惑とかは掛けられてねぇよ」
確かに三浦先ぱ……ある女子生徒からの依頼ってのは聞いてるけど、結局はそれを上手いこと利用した私利私欲大作戦だもんなー。
「それに今回は今んとこ本当になにもしてねぇしな。なんか本番も味見役をやらされるだけで終わるみてーだし」
ふふっ、その味見役こそがメインイベントなんですよ?
「……あー、そうだ。それはそうと……だな……」
ん?
比企谷先輩は急にどもり始めたと思ったら、少しだけ赤くなった頬をポリポリと掻きながらそっぽを向いた。
え?なにこれ。
まさか突然告白でもされちゃうのん?「そういやお前もイベント来んのか?お前のチョコも味見出来たら嬉しいんだが」とか言われちゃうのん?
どどどどうしましょ!?
友情と愛情の狭間に揺れる私は一体どうしたらいいのっ!?
ああ神様!……あなたはなんて罪深いの?こんな非道いイジワルをするなん…
「……一色は、ちゃんとやれてっか……?」
そんなわけありませんでしたー(棒)
いやんちょっぴり恥ずかしい☆
「えっと、ちゃんとやってるとは?」
いくら半分ネタとはいえ、そんなアホなことを妄想してちょっぴり恥ずかしくなった私は、羞恥を悟られないように冷静に聞き返す。
ここで噛んじゃったりしたら目もあてられないですからね(遠い目)
「やー、その、あれだ……。なんかアイツ、お料理教室やりますよー、とか言いだしたから、てっきりどうせまたこき使われんだろうなと思ってたら、珍しく自分らだけで色々と頑張ってるみたいでな……で、ここ数日奉仕部に顔も出さなくなったもんだから、ちゃんとやれてんのか……って思っただけだ」
…………ほっほーう?
なるほどなるほど、これはこれは!
つまりこれはいろはが心配で仕方が無いってことじゃないですかやだー!
なによこの人ったらん!
普段はいろはが付きまとって来るのを面倒くさそうにしてる癖して、ホントは凄い心配してんじゃないのよ〜。
良かったじゃんいろは!あんた愛されてるよぉ!
それにしてもまったくぅ、捻くれた心配のセリフを吐くだけで、そんなに顔を赤くしちゃってからに!
どうしようちょっと可愛いんだけどこの人。
「ふふっ、心配しなくても大丈夫ですよー。バレンタインに向けて、いろは頑張ってますからっ」
「……いや、別に心配してるっつーワケでは無いんだが……。あーアレだ……普段人を奴隷みたいに雑用押しつけてくる奴がこういう時に来ないと、なんか気持ち悪いっつーか居心地悪いっつーか……これはアレだな。いざ来た時にはすでに手遅れ状態になってて、修羅場に巻き込まれそうで恐いってヤツだな」
……こ、これは噂に違わぬ捻デレさんですな……
そんな照れくさそうな顔して、なにが「べ、別にあんたの心配なんてしてないんだからねっ(セリフに多少の捏造有り)」よ。
私はそんな先輩を見て、ついついニマニマしてしまう。
ああ、そりゃあのいろはがスケコマされてデレンデレンになるワケだわ。
だって、この姿見てるだけでもなんだか可愛くって仕方ないってのに、さらにメチャクチャ頼りになる先輩なんでしょ?
そんな人が「……ったく、しゃーねぇなぁ」なんて言いながらも一生懸命自分の為になんかしてくれたら、そりゃ堪んないんでしょうよ。
「にひっ!比企谷先輩は、ホントいろはを可愛がってますなぁ」
「いやなんでだよ……ただのめんどくせぇ後輩だっつの……」
うっひゃあ!……確かにコレにハマると危険そうだわ〜。
確かにちょっといいなっ、とかコッソリ思ってはいましたけども、思ってたよりも危険ドラッグだわコレは。
ふむ。まぁさすがに今からヤツラとバトる気なんかはさらさら無いけど、この捻くれた男にいろは達が全滅させられて、完全フリー状態になったあとならちょっとだけ狙ってみてもいいかも知んな…
「あれー?せんぱーい!こんなトコでなにしてんですかぁ?…………香織も先輩なんかとなに話してんのー……?」
っひぃっっっ!?
ほんの……ほーんのちょっぴりだけ邪な考えを楽しんでいたそんな時でした。
階段の下からとっても可愛らしいんだけど、とってもとっても恐ろしく冷たい声が校舎に、そして私の心臓に響いてきたのでした。
涙目になりながらガクブルで階下へと視線を向けると、そこには我らが主・一色いろはすちゃんが、とても素敵な笑顔をたたえたままなのに、もんのすごいドス黒いオーラを発しながら私を見ていらっしゃいましたのん……☆
× × ×
胸に書類を抱えて、一階の廊下からきらんっ♪(鬼乱っ♪)とした笑顔で私達を見上げていたいろはは、ゆっくりと踊り場へと這い上がって来た。
いやもう這い上がって来たって表現自体がちょっとおかしいんですけども、だってなんかホンっトに笑顔で階段のぼって来てるだけなのに、貞子さんが変な動きしながら近付いてくるみたいなオーラが具現化してるんですものっ。
これアカンやつや。
「やだなー、香織ー。いつの間に先輩とそんなに仲良くなってたのー?」
踊り場へと辿り着くや否や、私の肩をぽんっと叩きながら、先ほどから一切変化のない笑顔でそう訊ねてきた。
人体の神秘ってまじやばーいっ!
人って、こんなに殺気まみれでこんな笑顔が出来るんですねー!
私まじピトーさんに肩叩かれたラモットさん。
「っへ!?……仲良くなんてっ……べ、別にたまたま会っただけだじょ!?」
ハタ坊でてきちゃったよ。
「そーなのぉ?なんかずっとすっごい楽しそうに話してたけどー」
え?いつから見てらっしゃったんですかねこの人。
「いやホントホント。私部活。比企谷先輩自販。ここ、会った」
もうコントだろこれ。私ってこんなに片言だったかしら?
「あー、さっきも家堀に説明したんだが、雪ノ下が紅茶切らしちまっててな。だからまぁ俺がアイツらの分も買いに行かされてんだわ」
「へー、なるほどです。それにしてはなんか楽しそうでしたけどねー」
「は?……んなことねぇよ」
比企谷先輩は少しだけ照れくさそうにそっぽを向いて頭をがしがしと掻きだした。
…………いやぁぁっ!比企谷先輩やめてぇぇ!
あなたアレでしょ!?さっきいろはのこと心配してたのを私に突つかれたばっかなのに、その本人が急に目の前に現われちゃったから照れくさいんでしょ!?
でもあなたの目の前に居る小悪魔には、その照れ方はそうは見えないのよぉっ!
「…………へぇ」
低っく!声低っく!!
痛い痛い!!私の柔肌に悪魔の爪が食い込んでますからぁ!!
お願いだからさっきから私の肩に置かれっぱなしのその手をどけてください……
君は信じられるのかい?
登場時からここまで、いろはすスマイルは一切微動だにしてないんだぜ?
てかさ、いろはってこんなに嫉妬深かったっけ!?
確か前に、まだ葉山先輩好きだった頃に、千葉で葉山先輩が他校の女子と遊んでた所に偶然出合わせたっていう翌日に、
『やー、まさか葉山先輩が他の学校の女と遊んでるなんて超意外だったよー。ちょっとビビったけど、あれくらいならなんとかなるだろうし、まぁいっか』
とかって軽〜く言ってませんでしたっけ……?
こ、これが偽物の恋と本物の恋ってやつなのか……!
どどどどうしましょ!マジこえぇマジやべぇ。
これは生き残る為に私に残された選択肢は二つ。
一つはこのまま逃げ出すか……
「い、いっけなーい!私ってば、早く部活行かなきゃ先輩にシメられちゃうんだったー☆」
恐怖に駆られた私は迷わず離脱を選択しました。
二つめの選択肢なんて無かったんや。
「そーなの?別にもっと先輩と楽しくお喋りしてれば良かったのにー」
もうその笑顔勘弁してください。たぶん今夜夢に出ますよそれ。
てかさ!別に私ってば、一切やましい事なんてしてませんよね?
ただちょっと邪な考えが頭をよぎっちゃっただけじゃないですか!
「や、やー、マジで急ぐからさっ!んじゃねー、いろはー。それでは失礼します比企谷先輩」
「おう」
「じゃあねー、香織ー。…………また明日」
果たして明日なんてあるんでしょうか……?
いろはから頂いた「……また明日」というそれはそれは恐ろしい一言を胸に刻みながら、私は心にこう誓うのでした。
──うん!比企谷先輩には極力近づかないようにしよう!こっそり先輩を狙っちゃおうぜ♪なんて恐ろしい企みは、別の世界線の私に任せときゃいいじゃない!──
とね。
がんばれっ!違う私!
私はまだ見ぬ別世界の私の安否に胸を傷めつつ、そっとその場を去って行く………………………わきゃーない。
だってこれから私のすぐ近くでは、楽しい楽しい夫婦漫才が繰り広げられるんだよ?
市原悦子を師と仰ぐ、見ちゃった家政婦志望の私としては、こんな極上のエンターテイメントを見ちゃわないわけにはいかないでしょう!
てなわけで、階段を上がっていったフリをしてコッソリ覗いている私の視線の先では、今日も比企谷先輩といろはの夫婦漫才が幕を開けるのでしたっ。
続く
香織、釘を刺されるの巻。
というわけで、今回は八幡回でしたがありがとうございました!
香織も受難続きですねw
乙女が仕事を始めた世界線では修羅場シーンを書いてないのに、こちらでは乙女が仕事を始めそうな直前で修羅場(修羅に一方的に血祭りにされる場所)に巻き込まれてしまった為に、乙女が長期休暇旅行に旅立ってしまいましたw
ホントはこのまま八色夫婦漫才に突入しようかと思ったんですけど、最近は1話が長くなってく一方なので本日はここまでです!
ではまた次回お会いいたしましょう☆