最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
なぜか第3話が前後編に分かれちゃったの巻〜(白目)
しん、と静まり返る教室で、たぶん……いや、間違いなく大好きなのであろう先輩の真実を知ってしまい、肩を震わせて俯くままのいろは。
「……いろは」
あんだけ楽しそうに先輩と話してるとこも見ちゃったし、あんだけ楽しそうに先輩の話をするとこも見ちゃったから、今いろはがどんだけ辛い気持ちなのかはよく分かる。
……いや、分かるだなんて無責任なことを、軽々しく言っちゃっていいことじゃないんだろうね。それを分かるって言ってもいいのは当事者だけなんだから。
でもね……一色いろは、あんたにはそんな姿は似合わないよ。
あんたはいつだって余裕の笑みを浮かべてるムカつく小悪魔なんじゃないの?
懐いてる先輩がちょっと嫌われ者だって知ったくらいで落ち込むなんて、そんなの私たちの親友の一色いろはじゃないでしょうが。へー、それがどーかしたぁ? くらい言えよバカっ!
……こんないろはは見たくない。でも、悔しいけど今だけはどうしようもないのかもしれない。だから私は……んーん? 紗弥加も智子も、この一色いろはにこんな姿を晒させている張本人をキツくキツく睨み付ける。
俯いたままのいろはに、勝ち誇ったムカつく笑みを向けているこのクソ女に。
「襟沢……っ」「……あんたさぁ!」「マジムカつく……」「ぷっ」
…………ん?
ん? ん? あっれ〜?
いま私たちグループは襟沢に向けて怒りの言葉を放ったよね?
なんか変なの混じってなかった?
あれぇ? と思ったのは私だけじゃないようで、皆して疑問符を浮かべた間抜けヅラで、目を合わせて首をかしげる。
おい、なんでお前まで一緒になって私達と見つめ合ってんだよ襟沢。
そして私達はその変な音がした方向へと目を向ける。
そこには……
「……く、くくく……っ」
なんかいろはすが俯きっぱなしで超ぷるぷる震えてますが。
あ、あれ……? そりゃ確かに最初から肩を震わせてはいましたけども……なんか思ってたのと違くなーい?
「……ア、アハハハハハっ! ひーっ! も、もうダメっ! ぶはぁっ!」
そしてついにいろはが壊れた。机とかバンバン叩いて悶え苦しんでんですけど。なにこれ。
「ひーっ……ひー……ふぅ……ぷっ……くぅっっ!」
いろはは笑いを堪えようと、息を深く吸ったり吐いたりとなんとか呼吸を整えて、ようやく落ち着いてきたようだ。
…………え? いやいやちょっと待って!? もしかしてずっと震えてたのって、ただ笑いを堪えてぷるぷるしてただけなのんっ?
うっそマジかよ。次話に跨いでまで引っ張ったせっかくのシリアス返せよこんにゃろう。とんだシリアスクラッシャーだな。
いやん次話とか言っちゃった☆
「ハァ、ハァ……あー、そっかぁ。なーんだ、うん。そういう事かー。……ふーっ……なるほどねー……あの噂の二年生が先輩だったなんてね。ぷーっ! ヤっバい超笑えるんですけどー。なんで今まで気付かなかったんだろってくらいにイメージぴったりすぎー」
さんざん笑い倒してようやく落ち着いてきたいろはは、一転、呆れたような、優しくも哀しげな微笑みを浮かべた。
「……はぁ、先輩はやっぱり前からそんな事ばっかしてたのかー。……ったく……だからあんな事になっちゃうんじゃん……ホント……あのバーカ」
なんだろ、この笑顔。物凄く切なそう。
さっきまでは大好きな先輩の真実を知っちゃってショックを受けてるのかと思ってたけど、今のこの表情は全然別物に感じる……
なんていうのか、そんな薄っぺらい感情じゃなくって、もっと深くて優しくて哀しいなにか。
そんないろはの内心はまったくもって分かりようがないけども、とりあえず置いてきぼりになってしまった私達(襟沢含む)は視線にていろはに説明を求ム。
「……ん? なに?」
「いやいやなにじゃないから! え、なに? どゆこと!?」
なんで分かんないのん? 結局ツッコんじゃったじゃん。
「どゆこととは?」
「いや、だってあんた比企谷先輩? があの二年生だって聞かされて凹んでたんじゃないの?」
「だ、だよね! てゆーか凹んでるどころか泣いてんのかと思ったよ!?」
堪らず智子も一緒になってツッコんできた。
「は? なんでわたしがそんなことで凹まなきゃなんないの? てか泣くわけないじゃんなにいってんのー?」
なぜか心底バカにされる私達。
あれ? 私達がおかしいの?
「だってさぁ、大好……あ、いや……気に入ってる先輩が学校中の嫌われ者って言われたら、普通キツくない……? だって、“あの”二年じゃん?」
なぜかバカにされて茫然自失な私達に成り代わり、紗弥加が参戦。
そうよ、言ったぁさい。
「だって先輩だし」
確実に語尾に草が生えてるであろう感じで、けらけらと笑ういろはす。あんた先輩を尊敬してんじゃねーの?
「で、でもさぁ、……なんつーか……最低なヤツって、学校中で噂になった人なんだよ……? その……ショックだったりとか、軽蔑したりとか……普通そういうのすんじゃん……?」
そう言う紗弥加はさすがにちょっと言いづらそう。
そりゃね、友達の懐いてる先輩の悪口を本人に言うなんて、並大抵の嫌さじゃないもんね……
するといろはは紗弥加を見て……いや、私達の顔をすっと見渡してから、顎に人差し指をちょこんと添えて、んー……っと一思案。
「そういう事ねー。うん、みんなの言いたい事は分かったかも。……まぁ、そりゃね? 普通だったらこの話を初めて聞かされたら、ちょっとうわって思うかもね。……でもそれは先輩の事をよく知らなければの話で、先輩がどういう人かって理解してる人だったら、呆れこそすれ……軽蔑とかはしないかな」
「呆れても、軽蔑は……しない……?」
そう問う私に、いろはは自信たっぷりに並の胸を張る。
「そ。先輩は確かに嫌なヤツだし、周りからは最低って思える行為だって平気でやっちゃうバカな人ではあるんだけどね、……でも、その最低な行為にはそれなりに理由があるんだよねー。あの人は意味もなく他人を傷つけるような真似は絶対にしない。だって、そんなの先輩にとって非効率でしかないもん。だから文化祭の悪い噂もたぶん間違いではないんだろうけど……そうしないともっと大変な事になってたからなんじゃないかなー。うん、なにがあったのかは知んないけど、それは間違いないねー」
腕を組んでうんうん頷いて、一人で勝手に納得してしまったいろはの表情には一切の迷いがない。
……なんだよこれ? 超負けた気分なんだけど。
ラブ的な惚気では無いけれど、これ以上の惚気話ってある? だって、どんだけ信頼してんのよってお話だもん。
なーんか心配してた私達がバカみたいじゃね? なんて苦笑しながら目と目で通じ合う私達ではあるけども、この中で納得していない人物がひとり。
せっかく勝ち誇ってたのに、突然あっさりと展開を引っ繰り返されて固まってしまっていた襟沢がハッと我に返り、動揺も隠しきれずに顔を真っ赤にして食い下がってきやがった。
「……い、いろはちゃんさぁ、そんなに無理しなくてもいいよぉ!? そ、そりゃあんな最低な人と親密にしてたってのがバレたら恥ずかしいのは分かるけどさぁ……!」
「別になんにも恥ずかしいことなんかないけど? ……そもそも恵理ちゃんさー、先輩のこと知ってるの?」
「そ、それは知ってるよぉ! だ、だって文化祭のときみんな最低な二年生って言ってたじゃぁん!」
「あはっ♪ “み、ん、な”だってー、超ウケるー! 会った事も話した事もないのに、その“みんな”が言ってるの聞いただけで知ってるってコトになっちゃうんだー。じゃあ恵理ちゃんにとっては、こないだのワイドショーで不倫疑惑で噂になってたあのゲイノージンも知り合いなんだぁ! すっごーい! ……あ、じゃあもしかして恵理ちゃんってアレ? テレビでしか見たことないイケメンアイドルを「あの人って超いい人だよねぇ☆」とかって訳知り顔で言っちゃうタイプ? あはは、恵理ちゃんてば超ピュア〜」
「……ぐぎぎっ」
これはもう完全に攻守逆転ですわ。いや、いろはにとっては、そもそも攻められてる時間なんて存在してなかったのかも。
つまりは開始直後からずっといろはすのターン!!
「ぷっ、なんも知んない癖に、噂だけ信じて誰かを馬鹿にすんのって、ホンっトくっだらないよねー。ピュアな恵理ちゃんは知らないかもしんないけど、芸能リポーターの人達はお仕事で言ってるだけだからねー? わかる? ビジネスね、ビジネス。 ……まぁ? 仮に恵理ちゃんが先輩の事を多少知ったところで、お子さまにはあれを理解するのはちょぉっと難しいかなー。だからごめんねー? 先輩の良さが分からない人にはなに言われてもなんも感じないやー」
こいつっ……! なんも感じないやー、とか絶対嘘だろ……完全に襟沢を殺しに掛かってるんですがそれは。
そしていろはは一方的な虐殺に終止符を打つべく、ニヤリと頬笑みトドメを差しにいく。
完全に猫科の狩り方ですねありがとうございました。
「まぁ? 恵理ちゃんがこの先もわたしを弄る為に先輩の悪口を広めるならどうぞご自由にー。……でーもー、それバレたら…………雪ノ下先輩に目ぇ付けられる覚悟くらいはしといた方がいーかもね」
へ? なぜ唐突にあの有名人の名が?
「……へ? な、なんで雪ノ下先輩が出てくるの!?」
「ホントになにも知らないんだねー。……それはね? 先輩が雪ノ下先輩が部長を務めてる部活の部員だから。……でもただの部員じゃなくってね? なんてゆーかぁ、お気に入りの所有物? 的な? だからね、私が先輩を借りようとしただけでも超不機嫌になるんだよねー、あの人。あれマジで……すっごい恐いよー……?」
な、なんとあの先輩が、まさか氷の女王の所有物とはッ!
襟沢みたいなエセ女王じゃ蹂躙不可避。
「……ふぇ……?」
「あー、あとねー、結衣先輩もちょー怒ると思うよー?」
「ゆ、結衣先輩って……え……? ゆ、由比ヶ浜……先輩……?」
「ですです。由比ヶ浜先輩っ。あの人も先輩とちょー仲良しだから。……つーまーりー、どういう事だか…………分かるよね? 結衣先輩を敵に回すって事はー、イコール三浦先輩も敵に回すって事だよ?」
「」
あ、ヤバい、襟沢の口から魂が抜け駆けてる。
なんの気なしに噂の二年生をバカにしてたら、後ろに氷炎女王が控えていたでござる。なにそれ死ねる。
しかも三浦先輩っつったらこいつが何よりも崇拝する女王様。なにそれ即死。
……だがしかし! いろはのターンはまだまだ終わらない!
なんといろはは襟沢の口から出かかっている魂をむんずっと掴んで逃がさなーい。
そのオーバーキルっぷりは、まるでスライムの群れにギガデインをぶっ放すくらいの勇猛さでした! うん。完全にただの虐めである。
「あ! ごめんね、さっきちょっと嘘吐いちゃったかも! 恵理ちゃんに言われてもなんも感じないって言ったの、あれちょっと嘘かもっ」
てへっ、と頭をこつんこしてるいろはの目は、どうやら一切笑ってませんね。
「あれね、わたしもやっぱあんまり面白くないかもー。これでも一応それなりに尊敬してる先輩だしねー。わたしを弄りたくてわたしの悪口言うぶんにはぜんぜん構わないんだけどー、そんなくだらない目的の為にあんまり先輩のこと悪く言うようならー、……せっかく会長って立場があるわけだし、職権濫用して学内的に恵理ちゃんを抹殺……デリートしちゃおっかな?」
言い直しぃ! 言い直しの意味ィィ!!
えへへ♪ っと満面の笑顔でそう言うと、次の瞬間にはとてつもなくどす黒い声で、そっとこう囁いたのでした……
「……………だって、もともとは恵理ちゃんに与えてもらった会長職だしー? ……人として、与えていただいたご恩はしっかりとお返ししなくっちゃだよ……ね?」
仄暗い瞳と冷淡な微笑でペロッと舌を出すいろはすが恐すぎて、ちょっぴりチビりそうになってしまったのは内緒! あと一押しで乙女が散らされちゃうとこでした☆
そして、そんないろはの頬笑みを一身に受けている襟沢はといえば……
ちーん。ご臨終です♪
どうしよう、あまりの無惨さにちょっと同情しちゃったじゃない。
今にも泣き出しそうな、生まれたての小鹿よろしくぷるぷる可愛く震えているエセ女王様に興味を無くした我らが小悪魔いろはちゃんは、
「さてと、早くお昼ごはん食べちゃわないと……って、誰かさんのせいでもうほとんど時間残ってないじゃーん! ……やっぱ抹殺しちゃおっかな」
などと物騒なことを呟きつつ、慌てて残りのお弁当を食べだした。
やめたげてよぉ! ビクンビクンしはじめちゃったからぁ!
「……いろはってさ、やっぱ変わったよね。比企谷先輩の事、すごい信じてんだね」
白目を剥いて痙攣しかけている襟沢はさておき、私は目の前でハンバーグをはむはむと咀嚼する友達に、そう訊ねずにはいられなかった。
今のこいつは、私の知る一色いろはとは、どうしても違う女の子に見えてしまったから。私の知るいろはよりも、ずっと素敵でずっと本物なナニカに。
そしたらさ? 事もなげにこう言うのよねー、この子は。
「んー、わたしは別に先輩のことなんて信じてないからね? 先輩のことをちゃんと見てる人なら、ちゃんと知ってる人なら、普通に“分かる”ことだもん。そーゆーのって、信じるとは違くない?」
──なーんかもう信頼が天元突破しすぎてて、聞いたこっちがアホらしくなっちゃいますよねー。
おいおい、それを信じてるって言うんだよ! ふふっ、心の底から、ね。
こうして至って平和な日常は、何事もなく今日も無事に過ぎていくのでした〜。
こんな日常は嫌っ! 胃がキリキリしちゃうわ。
続く
ありがとうございました!
すいません……どうしても長くなってしまいそうだったんで、前後編に分けてしまいました><
ホント昔はなんであんなに短くまとめられたんだろ……?
ではまた次回ですノシ