最近友達の一色いろはがあざとくない件について   作:ぶーちゃん☆

29 / 54


お待たせいたしました!ついにラストです!
まぁいつになるか分からない新刊の発売待ちってだけのお話ですけど。

なので一応のラストと言うことで、特別サービスとして今回は私が今まで書いてきた中で一番長くなりました!(スミマセン長くなっちゃっただけです)


こんなサービス、滅多にしないんだからねっ☆





【ifバレンタイン編FINAL】私の友達一色いろはは、大好きな先輩の背中を押した

 

 

 

「今は……?」

 

 

いろはの表情を見て、それを聞いてしまってもいいのかどうか分からなかった。

でもたぶん、いろはが今日わざわざ私を泊めてまで話をしたかったのは、これこそが目的なんじゃないのかと思った。

私の気持ちを聞いたのも、いろはが気持ちを話したのも、あくまでもコレの為の布石……なんだか私はそう思ってしまった。

 

だから聞こう。たぶん……これから話す事こそがいろはの決意。

 

「今はダメって……どういうこと……?」

 

そしていろはは口を開く。決意を語る為に。

 

 

× × ×

 

 

「わたしはさ、本物が欲しいんだよね」

 

「うん」

 

「もしかしたらわたしにとっての本物が先輩なのかな?って気付いた時、同時にライバルが強力過ぎるって事にも気付いたの……でもまぁそれはそれ。仕方ない事だし、何よりも本物に気付けた事が嬉しかったから、無理矢理にでも和に割り込んでやろう!って頑張ったんだー」

 

だよね。あんた三学期始まってからの放課後は、ホント楽しそうに走ってどっか行っちゃってたもんね。

 

「でも正直な話、結構キツい時とかもあったんだー。あの空気の中に入っていくのに」

 

マラソン大会の後の保健室前で俯いたいろはの背中が頭に浮かんだ。

 

「でもそれでも頑張って、ようやく最近ちょっとずつあの空気の一員になれていってる実感が湧いてきたんだけど…」

 

比企谷先輩と一緒に居るとき、偶然由比ヶ浜先輩や雪ノ下先輩に遭遇しちゃった時とかも、あんなに頑張ってたもんね。

 

「そしたらさ、今度は逆になんだか違和感を感じたんだよね、あの人達の関係に……ここ最近は特にそう」

 

違和感……?あんなに仲がいいのに?

あ、でも……

 

「香織さ、今日一日あの人達見てて、なんか感じなかった?」

 

「……うん。ちょっとだけ、なんか感じた……かも」

 

はるさん先輩が掻き回した後、比企谷先輩と雪ノ下先輩の何とも言えない空気感に、初々しいとか思いながらも痛々しいような……そんな良く分からない感覚が確かにあった、かも。

そしてその様子を儚なげな笑顔で見てた由比ヶ浜先輩。

そしてはるさん先輩の最後のあの言葉……

 

 

「今のあの三人はさ、なんか違うんだよ。本物を目の前にしてるのに、でも本物を手に入れるのが恐くて、誰も傷付けないように大事に大事に扱ってるカンジ。なんか綺麗だけど脆いガラス細工でも扱ってるみたい……」

 

……そっか。だからこそあんなに痛々しく見えたのか……

 

「確かに目の前にした本物を大事に扱いたい気持ち、すっごい良く分かる。でもさ、それってなんか違わない?……どんなに綺麗な細工が施された高級な食器だったりグラスだったりしてもさ、その食器達は食器として生まれてきたのに、汚したくないから……傷つけたくないから、棚の奥にしまい込んだり飾ったりしたって、そんなの本物じゃないよね……?」

 

「………」

 

「あの人達はさ、恐がってるんだよ。本物を手に入れる為に何かを傷付ける事を。何かを壊しちゃうことを。……そんなの本物なんかじゃない。ただの馴れ合い」

 

傷付けないように大事に、でも震えながらビビりながら触れ合う関係か……確かになんだか痛々しい。

 

「あんなの間近で見てたらさ、勝ち目が薄くて討ち死に覚悟で張り合うよりもずっと辛い……だから張り合ってもしょうがない。だって勝ち目が無いどころか勝負にすらならないんだから。わたしがどんだけ頑張ったって、傷付けるのが恐くて逃げてるだけの人の本物になんかなれっこないじゃん」

 

そっか。だからいろははあんなに儚く自虐的に笑ってたのか。

 

「でもちょっとは思ったんだー。これはチャンスなのかも知んないって。お互いに傷付け合うのが恐くて踏み込めないでいるんなら、わたしがその逃げ場になっちゃえばいいんじゃん?って。……へへぇ!なんだかんだ言っても最近結構先輩わたし意識してるしねー。元々わたしに甘いし、こんな状態で告白したらもしかしたら上手くいくかも知んないな〜って。わたしに逃げてくれば、あの二人のどちらか一方だけを傷付けずに済むからっ」

 

元気にそう言ういろはの顔は、元気とは真逆の顔だった。

 

「でもさ……やっぱり本物から逃げた先に居るわたしじゃ本物にはなれないんだよ……そんなの、わたしが欲しがってる本物なんかじゃない……」

 

『なんか違う!こんなんじゃない!』

 

トイレでの叫びと怒り、そしてゴミ箱に投げ捨てられたチョコレート。そしてひとつだけあげたクッキー。

この子はずっと苦しんでたんだ。

 

「このままじゃいけないな〜って。このままじゃ誰も先に進めないな〜って。……だから今日はるさん先輩呼んだんだ。あの人なら、今のあの人達の馴れ合い関係に対して、なんか問題提起してくれるんじゃないかって…………で、まんまとしてくれた。グッチャグチャに」

 

『それが比企谷くんのいう本物?』『コレがそうなの?』『今の比企谷くんたちは、なんかつまんない』

 

冷めきった眼差しでそう投げ掛けたはるさん先輩達を見ていたいろは。

今のいろはも、あの時とおんなじ顔をしてる。

 

「いろはは……どうするつもりなの?……どう……したいの?」

 

 

そしていろはは言う。

この女の、一色いろはの決意を。

 

 

「わたしは………………先輩に本物を手に入れさせてあげたい」

 

 

× × ×

 

 

本物を手に入れさせてあげたい……それはつまり自分は身を引くという宣言……

いろはは、大好きな先輩が本物を手に入れられる為に自分は諦めるのか……でも……

 

「いろは……あんたはそれでいいの……?自分から降りて、それで諦めつくの……?」

 

……だって、そんなのいろはらしく無いじゃん!

あんたはいつだって打算的で計算高くて小悪魔的で!

好きな人の為になにもせずに自分から身を引くなんて……そんなの一色いろはらしく無いよ……っ!

 

しかしいろはは……この女は私の質問にこう答えたのだ。

 

 

 

「諦める?なんで?」

 

 

「………は?」

 

いやいやなんでそんなにキョトンとしてんの!?

あれ?またいきなりシリアス崩壊!?

 

「なに言ってんの?香織。わたしが本物手に入れるのを諦めるわけないじゃんっ」

 

いやそんなにアホを見るような目で見ないでよっ!

なんなのこの置いてけぼり感っ!?

 

「だって!あんた先輩に本物を手に入れてもらいたいって言ったじゃん!?」

 

するといろはは事もなげに語りだす。

どうやら、いろはすの真なる決意表明はこれからのようですよ?

 

 

「だからさー、あの人達にはあの人達で、一旦決着つけてもらうのっ!そうしないとなんにも始まらないからさー」

 

えぇぇぇ!?一旦決着って!?

 

「今先輩が求めてる本物はさ、残念ながらわたしじゃないの。悔しいけどあの人達の中にしか無いんだよ。いくらわたしがあの空気に無理やり横入りしたってさ」

 

「いやそれは分かったけど……」

 

「でもあの人達は決着から逃げようとしてる。腹立つことにっ!分かるっ!?」

 

「あ、は、はい!」

 

「そこで逃げ続けてたらわたしには一生出番なんか巡ってこないワケじゃん!?……だから一旦決着つけてもらうんだよっ」

 

えっと……理解が追い付きません。一般人のわたくしめ如きには……

 

「だってさ!決着つけるって事は、比企谷先輩が本物手に入れちゃうって事じゃん!一旦もなにも手に入れちゃったらもう手遅れじゃないの?」

 

するといろははニィっとスゲー悪顔をした。

なんかはるさん先輩に近くない!?その顔!

 

「……一体いつ誰が、この世界に本物はひとつだけって言った?」

 

 

私はその言葉にあるひとつの可能性を思い浮べた……

 

そう……私たちオタ……いやいや違いますから。私はそういうんじゃありませんから。

と、とにかくそっち系の方々の永遠の夢!ラブコメの結論に困った作者の禁断の究極奥義!!

まさにミラクルパラダイス☆

 

 

そして私は劇画タッチな顔をして(妄想)、いろはにその究極の答えを問いただす。

 

「……い、いろは……ま、まさかあんた……ハーレム展開狙ってんの……?」

 

 

「……………………は?」

 

これだけ真剣に聞いたのに、香織ちゃん史上最大級の軽蔑の眼差し頂きましたっ☆我々の業界ではご褒美です。

 

「香織ってさ、たまに本気で意味分かんないしキモいよね。ガチでそういうのやめた方がいいって。せっかく可愛くてモテんだから」

 

やめてっ……!ご褒美は最初の一撃だけなのっ……!

そのあとの淡々とした言い聞かせはただただツライだけっ……

 

「まぁいいや」

 

いいの!?それはそれでキツいっ!

 

「本物ってのはさ、別にひとつっきりのモノじゃないと思うんだよね。……だからさ、先輩には逃げずに一旦本物を手に入れて貰って、その上でわたしがそれ以上の本物になっちゃえばいい!先輩の本物のカタチがどんなモノかは分かんない。でもそっからがわたしの勝負だと思ってる」

 

「えっと……つまり……略奪愛……?」

 

なにそのつい最近自分に降り掛かってきてるかのような悪魔の囁きっ!

いやん胸が苦しいっ!

 

「略奪……いやいや言葉悪すぎでしょ……香織がソレ狙ってたからって……」

 

「ねねね狙ってにゃいよっ!?」

 

噛むわ裏返るわもう大変☆

 

「まぁ先輩にとっての本物が、本当にただ雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩との恋愛事なのかどうか知んないからなんとも言えないけど、もしそうなら…………そういう事になっちゃうかな♪」

 

いやここにきてテヘペロ☆じゃねぇよこの女(白目)

無駄に可愛い分全然可愛くないからね!?

にしたってさぁ……

 

「それって…………分が悪過ぎない……?だってずっと願ってきた本物を手に入れた後に、さらにそれ以上の存在になるなんて……無理なんじゃ……」

 

するといろはは笑顔を陰らせて俯く。

今さっきまであんなに元気だと思ってたのに、良く見たら顔が真っ青だし手も震えてる……

この子は……本当はこんなにも恐いんだ。本当は不安で不安で押し潰されそうなんだ……

それなのにいろはは無理して笑顔で答える。

 

「そりゃね。でも、一体なんの為にわたしこんなに頑張っちゃってると思ってんの?いざ勝負の時に、いつでも優位な位置に立ってられる為に頑張ってんだよっ。…………先輩はさ……他人からの好意をすっごい疑うんだー。すぐ裏を読んじゃうの」

 

そうだよね。比企谷先輩って、そういうトコあるよね……

 

「だから付かず離れず頑張ってんの!くっ付き過ぎて逃げられちゃわないように。かといってあなたを想う気持ちに裏なんかないんだよ〜って信用してもらえるように離れすぎないように」

 

「いや、いろはかなりくっ付き過ぎだと思いますけども……」

 

「だ、だって……いつも廊下とかで見掛けた時に……抱きつきたいのとか超我慢してるしっ……」

 

ポッ……じゃねぇよ。そこは常識的に我慢すんだろ普通。

それが罷り通るんなら、私も抱きついちゃうっ!

 

 

でも、うん。だからくっ付き過ぎないアピールの為に葉山先輩が予防線なのか。

 

「だからさ、こうやって少しずつ少しずつ先輩の中のわたしを大きくしていって、いざ先輩が逃げずに本物を手に入れた時こそ勝負すんの!あなたの一番の本物はわたしだぞー!って!」

 

「でも、やっぱりそれってさ……」

 

勝ち目が無さ過ぎる……そう言いたくてもとてもじゃないけど言えない。

その辛さは……今の私なら良く分かるから……

 

するといろはは震える手でパジャマをギュっと握ると、とても穏やかな……でも小悪魔全開なニヤリ笑顔でこう言うのだった。

 

 

 

 

 

「……だってさ……そんなに簡単に手に入れられたら、本物なんて言わないじゃない?」

 

 

 

 

 

震えて泣いちゃう程の不安と恐怖なのに、そんな感情を押し殺してまでのいろはの笑顔と決意に息をのむ。

こいつ……やっぱりとんでもないな……!

私は、こんなに凄い女に追い付けるのかな?

 

 

× × ×

 

 

そこで一旦話を区切ると、落ち着けようかといろはがホットココアを淹れてきてくれた。

 

ほぁ〜……落ち着く〜……

今日はもう色々衝撃が強すぎて、今が今日一日でようやく落ち着けた瞬間かも〜。

もっともとっくに日は跨いじゃってますがね。

 

いろはもそんな悩みをずっと一人で抱え込んでて、その上あんなお料理教室の状況をわざわざお膳立てまでして、さらにさらに私への尋問と決意表明と、かなり気を張っていたんだろう。

お互いにふぅふぅしながらホッと一息ついてる時にちょうど目が合ってしまい、なんか噴き出してしまった。

 

 

「ま、そういう事だからさ!香織が横恋慕すんのも略奪愛狙うのも自由だけど、今はまだあの人たちの邪魔はしないでねっ。香織に急に告白なんかされたら先輩のヘタレハートが揺らいじゃうからさ」

 

もう略奪愛ネタはやめてぇっ……!

 

 

………あ、そっか。今日のお泊り会の目的ってそれかっ……

 

「べっ……別に告るつもりなんて無かったしっ……てか略奪愛はもうやめてと切実にお願いします」

 

でも告白云々の話題が出た事だし、一応聞いてみよっかな?

 

「てかさ、いろはは先輩があっちの決着つけるまでは告んの我慢とか出来るわけ?いつになっちゃうとか分かんないのに」

 

「むぅ〜……もちろん今の状態で告る気なんて無いけど〜……無いつもりだけど〜……もしかしたら辛抱たまんなくて言っちゃう……かも?」

 

ダメじゃん。

私が冷ややかな目を向けると慌てて一言。

 

「しないよ!?うん。しないはず……で、でもさ、もし万が一しちゃったとしても、ほぼ百パー振られるしノーカンって事でオナシャス!」

 

慌てすぎて戸部先輩出てきちゃってっから……

 

「ま、振られたら振られたで、それもまた布石になるしね!先輩には恋に破れてもひた向きに頑張る可愛い後輩アピールも散々してきてるし〜♪」

 

こ、この子どこまで計算ずくなの……!?

 

「たく〜……さっきまでの格好良い決意はどこ行っちゃったのやら。ブレブレすぎ〜!……まったく……人には告んなとか言っといてさー」

 

いやまぁまだ告る気なんてさらさら無いですけどね?今私が告ったって、は?で終わっちゃいますし!

 

「むっ!だったら告ればー?強制は出来ないし!でもどうせ香織なんかが告ったって、は?何言ってんだコイツくらいしか思われないよーだ」

 

カッチーン☆

分かり切ってた事だけどそうまでハッキリ言われちゃうと、ちょっとだけイラッっときちゃいましたよぉ?

 

「ふ〜んっ!いろははそうやって私に対していつまでも余裕でいればいーよ!もしかしたら最終的に比企谷先輩の隣に居るのは私かも知んないしー!」

 

「………なんで?」

 

恐いよっ!!

イラッと来て挑発したのに、一瞬で萎んじゃったよっ!

 

「だ、だってさぁ……さっきいろはも言ってたじゃん?比企谷先輩は他人からの好意から逃げちゃうって。……だから、意外と同じ趣味を共有して長く友達関係みたいに居られる、私みたいに待つタイプの女の方が、実は比企谷先輩攻略に一番向いてんのかもよぉ?」

 

ヒィっ!だからその目はやめて!

するといろははぷくぅ〜っとごりっぷく〜のご様子。

そして抑揚の無い棒読みで一言。

 

「だよねー。香織って意外と抜け目の無い泥棒猫だもんねー。なにせ友達の好きな人を後から好きになって、その友達が熱出して寝込んでる時にこっそりデート行っちゃうような女だもんねー」

 

吐血寸前っ☆

どうやら藪をつついたらヘビが八万匹くらい出て来たみたいっ!八幡だけにっ!テヘッ

 

 

× × ×

 

 

チュンチュンと小鳥のさえずりに目を覚ます。どうやらいつの間にか寝ちゃってたみたい。

 

結局あれからもず〜っと比企谷トークで盛り上がってたんだよね〜……意識失ったのは明け方か?

 

「……ふっ……まさかいろはの自宅でいろはと朝チュンすることになるなんてねっ……」

 

「なに言ってんの……?」

 

おっと。ニヒルな感じで独り言してたら、朝一発目からの強烈な軽蔑の視線を浴びちまったぜ!

 

「ほらほらバカ言ってないで早く起きて学校行くよー。いつまでわたしんちでノーパンで居るつもりなのよ」

 

いやんっ!

 

 

 

そしてせかせかと登校の準備を済ませ、いろはのお母さんが用意してくれた朝ごはんを有り難く頂くと、私達は学校へと向かうのだった。

 

 

もうそろそろ校門かという所で時計を見たら思いのほかギリギリでビックリ!

 

「なんか結構ギリギリだけど?いろはって最近いつも学校来るの遅いよねー」

 

「んー?そ?この時間なら全然よゆーだよ〜」

 

まぁ間に合うは間に合うんだけど、ここ最近は『寒いから』とふざけた理由でサッカー部の朝練にも顔出してないみたいだし(もちろん午後練もっ!)、良くこの子まだ在籍してられるわね。

 

そして校門をくぐり昇降口へと向かってる最中、いろはがピクリと色めきたった!

ま、まさか!?

 

「よしっ!今日はピッタリ♪」

 

その一言だけ残し、ピューっと走りだしたその先に居たのは……もちろんあの人。今日はピッタリって……あんた最近遅いのはこの為かよ。

 

 

ま、しゃーない!やっぱこれが無ければ終われないっしょ!

 

 

× × ×

 

 

「せんぱーい!おはようごさいますっ!今日も朝から死んだ目してますねー」

 

恒例の夫婦漫才だし、私は聞き役に回ってましょうかねっ。

てかいろはが隣に居る時に朝から比企谷先輩と会話するなんて難易度高すぎィィィ!

 

「うわっ……」

 

「はぁ?朝から可愛い後輩に声掛けてもらえて、第一声がうわってなんですか」

 

「いやだって最近ちょくちょく朝この時間に居んだもん……」

 

「なんですかまさかわたしがわざわざ先輩に会いたくてこの時間に登校してきてるとか勘違いして期待しちゃってましたか自意識過剰すぎてキモすぎですごめんなさい」

 

いろは朝から元気だな……するとっ!

 

「おう、家堀も一緒か珍しいな。昨日はお疲れさん」

 

不意討ちダメ絶対!

 

「あっ……比企谷先輩っ……お、おはようごさいますっ!せせ先輩こそお疲れさまでしゅたっ」

 

最近私の噛みっぷりが黒歴史級な件について。

うん。これじゃあもう一本は書けないわ。

 

「ちょっ!?先輩無視しないでくださいよっ」

 

「だって朝イチから振られるとかキツいんだもん」

 

「だったら振られないようにもうちょっと頑張ってくださいよっ」

 

いろは……それもう逆告白だから……

 

「なにを頑張りゃいいんだよ……」

 

「そんな事より」

 

だからいろはは話の展開が早すぎっ!

 

「今朝の先輩は普段よりもより一層目が腐ってないですかー?……もしかして……お料理教室の帰りとか、なんかあったんですか……?」

 

な、なんですとっ!

ま、まさかもう何かしら進展がっ!?

 

「え?あ、や、まぁ別に特に何も」

 

どう考えても何も無いわけなさそう!

 

「………何があったんですか……?」

 

いろはす恐いいろはす恐い!

でも気付いたら私も軽く睨んじゃってたりして☆

 

「あぁ、いや、マジで大したことじゃねぇよ。由比ヶ浜と雪ノ下送ってったら、雪ノ下の母親に夜遊びかと思って怒られちまったってだけだ」

 

それを聞いていろはは(私も)胸を撫で下ろす。

 

「ふむふむ、成る程です」

 

いろは、先輩に本物を手に入れさせてあげたいって言ってるけど、やっぱいざそうなっちゃったら恐いんだろうね……人のこと言えんけどね、私も。

 

「そうですか。雪ノ下先輩のお母さんとか超恐そうですもんねー」

 

「そりゃもうな……」

 

雪ノ下先輩とはるさん先輩のお母様ですからね……

想像しただけでチビッちゃいそう!

比企谷先輩の前でこんなはしたない脳内妄想してるなんて我ながら泣けるぜっ……

 

「それはそうと先輩っ!」

 

「朝から話コロコロ変わんな……で?なに?」

 

「もう何日かでバレンタイン本番じゃないですかー。学校休みですけど、なにか予定とか入ってるんですかぁ?」

 

え?誘うの!?それとも奉仕部リサーチ?

 

「おう。超忙しいぞ」

 

「…………えっ?」

 

いろはの肩がピクンと揺れた。

やっぱり、覚悟はしてても……そう易々と割り切れるようなもんじゃないもんね……

第三者みたいな私もちょっと手とか震えちゃってるし……

 

「なにせその日は小町の受験当日だからな。朝から晩まで神に祈り続けて他には何も手がつかないほど忙しい」

 

「うっわ……出たシスコン…………はっ!まさかそう言いながら実はそれは暇アピールで何も手が付かないからと言ってあわよくば可愛い後輩を自宅に連れ込んでお祈りという名のイチャイチャを強要するつもりなんですね正直なかなか魅力的な提案ではありますがまだお家デートはちょっと早いと思いますのでまずはわたしの身体じゃなく心を開放させるように努力してくださいごめんなさい……はぁ……はぁ」

 

「お、おう。お前も大変だな……」

 

比企谷先輩振られすぎて逆に心配しちゃったよ!一切振ってないしね?

 

「はぁ……はぁ、ま、そんな事はどうでもいいんですけど……ふふっ!何だかんだ言っても、当日は何かしら予定入ったりするんじゃないですかぁ?」

 

いろはは小悪魔顔で先輩を挑発する。

でも先輩には分かんないんだろうな……その小悪魔顔が、いつもよりちょっとだけ寂しそうなのが……

 

「別に……なんもねぇよ……」

 

するといろはは冷めた感じで口を尖らせた。

 

「ふぅ〜ん。まぁいいですけどねー………でも、たぶん……」

 

「たぶん、なんだよ……?」

 

「……べっつにー?……なんでもないですよーだっ」

 

比企谷先輩から視線を逸らしてつまらなそうな顔をしてるいろはを見て思った。

たぶん……やっぱり何かが起こるって、そう思ってるんだろうな……いろは。

 

 

やっぱ……恐くて不安でしょうがないよね。

私なんてなんも決意なんて出来てないってのに、こんなにも胸が張り裂けそうなのに……

 

いろはは私なんかよりも遥かに張り裂けそうな胸を押さえ付けて決意を固めたんだもんね……この人たちが答えを出せるように。

 

「は?なんでいきなり不機嫌になってんの?」

 

「別になんでもないですぅ…………とりゃっ」

 

 

「痛てっ……あんだよ……」

 

膨れっ面をしながらも比企谷先輩の脇腹にパンチを入れるいろはがなんだか微笑ましくて……私もちょっとだけ気が楽になれた。

 

 

「ほらほら!そんな事よりもうそろそろ行かないと遅刻しちゃますよっ!せーんぱいっ」

 

いろはは比企谷先輩をクルリと回すと、その背中を優しく両手でポンっと押した。

先輩の耳には届かない小さな小さな声を、ぽしょりと一言添えて……

 

 

「………がんばってくださいねっ……せんぱいっ」

 

 

脇腹を擦りながら、二年生の教室へと向かう背中が見えなくなるまで見つめるいろはのその横顔は、とても優しくてとても暖かくて、そしてとても儚げな、そんな笑顔だった。

 

 

比企谷先輩の背中が見えなくなると、いろはは震える手を胸の前で握り締めそっと瞳を閉じて、ふぅ……と深い深い深呼吸をひとつ。

 

 

「よしっ……行こっか!香織っ」

 

 

そう言ういろはの顔は決意に満ちていた。

これから起こるであろう全てに対して向き合う決意の顔。

 

 

私が答える前にいろはは歩き出す。

その瞳は真っ直ぐに前を向き、その背中はもう決して振り向かない覚悟の背中。

 

 

私はこんなすごい女の背中を追いかけられるのかな?こんなすごい女の背中に追い付けるのかな?

 

 

分からない。分からないけど、今だけは追い付かなくちゃ!追い付いて私もその背中を押さなくちゃ!

 

私は小走りでそのとっても小さくてとっても大きな背中に追い付くと、ポンっと優しく押した。

 

「だね!行こっ!」

 

 

 

 

この先、どんな未来が待っているのだろうか?

夢を叶えられる素敵な未来か、はたまた現実から目を背けたくなるような残酷な未来か……

 

 

でも、このいろはが、一年生にして総武高校トップカーストな超有名人、小悪魔系美少女生徒会長一色いろはが、あれだけ憤慨し、そしてあれだけの決意を見せた未来だもん。

だから私は見守ろう。

 

 

 

この子が、ううん?この子達が足掻いて藻掻いて苦しんで、そして悩みぬいた先にようやく見つけられる“本物の答え”を。

 

 

 

………そして……その時は私も!!

 

 

 

 

 






ありがとうございました!

正直最初11巻を読んだ時、かなり固まりました><
この内容であざとくない件なんか書けんのか!?って……
で、考え抜いた末に今回のお話にしました。

10.5巻から感じていた、いろはすが妙に八幡達の背中を押そうという空気、そして11巻でさらにその空気が強くなったのを見て、あざとくない件的にはこう解釈してみました。

12巻が出たら全部覆されて分岐しちゃうかもしれませんが、一度欲してしまったら、本物の本物を手に入れる為には決して退かぬ!媚びぬ!!省みぬ!!!
いや違った。妥協せず!諦めず!どこまでもひたむきに前向きに!
これが私の理想のいろはす像なんですよね〜!



さて!このあざとくない件を初めて掲載してから、今日でちょうど4ヶ月くらいですかね〜……
まさかこんなに長く続く作品になるなんて夢にも思わなかったです。なにせ本当は最初の三話で終わってたんですから(笑)

こんなに続いたのも、本当にたくさんの読者さまに支えて頂いたからに他なりません!
本当に本当にありがとうございましたっ☆


次の更新がいつになるのか!?
下手したらこのまま終わってしまうのか!?
全くもって分からないので、一応ここでラスト(仮)という事にしておきます!


ま、どうせ完結詐欺だろwwwと思われているでしょうけどもねっ(笑)


そんなこんなで本当にありがとうございましたっ!
またお会いしましょう!←完結じゃないんじゃん



PS.今回ラストを書くにあたって、超〜ひさしぶりに最初から読み返して見ました!
そこで一言。


香織…………どうしてこうなった……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。