最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
私は今、学校から程近いコミュニティーセンターに来ている。
うん。なんだかここって懐かしいなぁ……!
「おいっ!稲村そこ邪魔っ」
あのクリスマスイベント以来だもんね〜。
ま、もっとも私はイベント当日に一度来たってだけで…
「うっせーなぁ!そっち通りゃいいだろうが!」
いろはは毎日ここに通いつめてたんだもんなぁ……
あの時は毎日大変そうだったなっ、いろはのやつ。
「副会長……稲村先輩……あの……仲良く……」
でもその甲斐あってか、クリスマスイベントは大成功だったけなっ!
うん!あれはホントに良かった。
「……どうせ藤沢さんは……本牧の味方なんでしょ……どうせ俺なんてさ……」
あれだけ揉めてたのに、海浜さん側の用意したバンドやらなんやらの演奏では会場中盛り上がってたし……
「そんな……私べつに副会長だけの味方なわけでは……」
でも何よりも良かったのは、やっぱあの演劇よね!
「おい稲村!藤沢さんを責めんじゃねぇよっ!」
あの主役を演じてた小学生の女の子、すっごい可愛かったし、
「ちょっと〜……副会長も稲村先輩も書記ちゃんもいい加減にしてくださいよぉ!……あー……マジ面倒くさっ……」
天使達のキャンドルサービスなんて、ホント幻想的だったもんなぁ……!
「いろはちゃんも落ち着いてよぉ……香織ちゃぁん!どぉにかしてぇっ」
あれ?なんかエリエリが一人で騒いでんな……私は今、煌びやかなクリスマスの思い出に浸ってんのよ。後にしてくんない?
「そんな……一色さん!私はべつに……」
そうそう!特にあのキャンドルサービスが…
「おい一色!別に藤沢さんは悪くないだろ」
「そうだぞ会長!藤沢さんは関係ない!」
…………………
「あーはいはい……はぁ……もうマジ面倒くさい……早く来てよー、せんぱーい……」
だ、だからあのキャンド…
「香織ちゃぁん!私お手洗い行ってくるぅ!」
だから……その……
「本牧先輩も稲村先輩も、一色さんを責めないでください……」
…………あー、もうやだ……もう帰りたい……
「なっ!……お、俺は会長を責めてなんかないよっ!?沙和子ちゃん!」
「そうだよ!別に一色を責めてるわけでは……てか本牧、お前どさくさに紛れて急に沙和子ちゃんじゃねぇよ……」
「あ?」
「は?」
「またそっから始まんのー……?せんぱーいっ……」
私、家堀香織は、今まさに修羅場に立ち会いながらも負けじと現実逃避をしながらイベントの準備をしている真っ最中なのであるっ!
てかなにこのどうでもいい修羅場……漫画でもアニメでもドラマでも、私いまだかつてここまでどうでもいい修羅場なんて見たことないんですけど。
私、今こんなにどうでもいい修羅場に巻き込まれてるほど心の余裕ないんですよねー……
なにせ自分自身が修羅場一歩手前なんですものっ☆
いやんまじ笑えなーいっ!
× × ×
うわっ……早く準備しないと参加者が会場入りしてきちゃうじゃんよ……
私はトイレに行ったまま一向に帰ってこない襟沢の首根っこをひっ捕まえてホールへと優しく引きずって来ると、優しく睨み付けて優しく作業をさせた。
しかしこの雰囲気はよろしくない。マジでいつまで睨み合ってんのよ、あのモブ二年生二人組……
ため息を吐きつつパタパタと走り回っていると、留守番をさせられていた猫がご主人様のご帰宅の気配にピクリと反応するかのように、いろはが急に色めき立った。
するとヤバいキャッチコピーの書かれた手作り感満載のポスターの束を胸に抱くと、あとよろしくー!とキラキラ笑顔で玄関の方へとダッシュで駆けていった。
てか未経験者歓迎!まではまだ分かるけど、ノルマなしとかアットホームな雰囲気とか独立するためのノウハウとか一体どこに向かってんのよいろはす。
今日は将来社会に出た時いろはの部下にだけは絶対にならないと心に誓った記念すべき日でした。
それにしてもおいおい会長様よう……この雰囲気を放置して逃げんのかよ……と玄関の外へと目をやると……
どくんっ……
いやいやどくんっ……じゃねーよ。いやまぁ確かにどくんとしちゃいましたけどねっ!テヘッ☆
そこには会場入り時間まではまだかなりあるというのに、やはり可愛い後輩が心配なのか奉仕部の皆さんが中の様子を覗いていた。
てかいろはのあの笑顔は、先輩が来てくれた嬉しさ+この場から逃げ出す気満々な心の表れでしょ……あのクソ会長め……!この雰囲気放置して行っちゃうのかよ!もう帰っちゃおっかな……
あ、やばい……比企谷先輩と目が合っちゃった……私はペコリと頭を下げた。
あ、比企谷先輩がちょっと気まずそうに私にだけ分かるくらいにチョコンと片手をあげてくれた!
よーしっ!頑張るぞー!
キリンさんが好きです。でもこんな現金な自分のほうがもっと好きですっ☆
× × ×
先輩たちにポスター張りの指示をして楽しそうにキャッキャウフフしてる寒空の下のいろはを見ながら、暖房の効いたコミセンの中で押し黙って作業する寒々しい気持ちの私……
こっちは室内で暖かいんだもん!この二月の寒空で作業してるいろはなんて、ぜ、全然羨ましくなんかないんだからねっ!
はっ!いろはが近くのコンビニから買ってきたホットドリンクを皆さんに配ってる……!
はっ!千葉県民御用達のエナジードリンクをニンマリ顔で比企谷先輩に渡してる……!
ちくしょー!血涙が滲み出る程に羨ましくなんかないんだからぁっ……!
最近めっきりとご無沙汰だった謎のツンデレキャラが連発で私の脳内を侵食していると、そこへ新たな一団がやってきた。
どうやら本日の主役の葉山御一行様がご到着したようですね。
葉山先輩を見とがめると、急にいろはが営業用スマイルを張り付けて葉山先輩に突撃していった。
あいつ……まだそれやんの……?もう逆効果にしか見えないんだけど……
もう引くに引けない状況なのか、その状況から急に比企谷先輩に告白してサプライズ演出を狙ってんのかは分かんないけどもね。
そんないろはに獄炎の視線が突き刺さってますね。でもいろははまったくもって意に介しませんね。
あいつマジっべーわ。
てか私、なにげに三浦先輩と初遭遇じゃね!?
まぁ会話するような事もないだろうけど、なんか緊張してきたー……
そしていろははそんな三浦先輩と争うような格好で葉山先輩を両脇から挟むと、コミセンの中へと誘い込もうとしてる。しっかしなんであそこまで挑発するかね……
「はぁ〜……三浦様……」
後ろから襟沢の艶めいたため息が聞こえてきたんですけど、うん、聞かなかった事にしよう!
なんか今にリアルにお姉様な世界に突入しそうで割と本気で恐いんですが。
てかこいつマジでどこポジション狙ってるんですかね?はい。オチ要員です。
× × ×
そのままみんなでコミセンに入ってくるのかと思いきや、葉山先輩がいろは達を先に行かせて、まだ外に居る比企谷先輩となんか話でもあるみたい。
あの二人って、本当にどういう関係なんだろ?普通に考えたら接点なんてひとつも無さそうなのになぁ。
なんか近くでぐ腐腐っとかブハァとか聞こえてくるんだけど、たぶんそれは足を踏み入れたらいけない世界なんだなと思い、あえて気付かなかったことにしようと思いました。まる。
ちなみに前を通り過ぎる三浦先輩を見ながらモジモジはぁはぁしてる変態も居たけど、そんな二つの危険な世界の入り口を見て見ぬ振りをしながら、調理室に向かう一段からいろはをフィッシングした。
ちょっとお話があるのです!
階段をのぼり調理室に向かう道すがら、一団から少し離れた位置でこそっと耳打ちする。
「ちょっといろは!あんたいつまで葉山先輩にちょっかい出してるフリしてんのよっ!こないだ頑張って悪あがきしてみるって言ってたばっかじゃん!」
まったく!こっちはそんな比企谷先輩に絶賛横恋慕中で悩んでるってのに!
あんたは堂々と告れんだからいつまでもそんな事やってんじゃ無いっての!
……絶賛横恋慕中って……
するといろはは何だかばつが悪そうな表情ながらもぷくっと膨れっつらをした。
「うっさいなぁ……わたしだって思うところあるんだもんっ!ちゃんと色々考えてるもんっ!」
なんかいろはがもんもん言っちゃってますね。
自然体で居られる比企谷先輩と不自然体でしか居られない葉山先輩との狭間でキャラ崩壊しちゃったのん?
でもまぁ、やっぱ色々と思うところがあんのかなぁ……複雑ですものね。私含めて!
キャッ!ちゃっかり関係性に私も入れちゃった!
× × ×
早めに来てくれた奉仕部御一行様と葉山御一行様の手伝いもあり、一階に放置されたままだった割れチョコだの砂糖だのの材料が入った手付かずの段ボール群もようやく調理室へと届く。
マジであざっす!ホントは生徒会のモブ男子のお仕事だったんですよ、そういった力仕事な雑用は。
いつまでも誰得な修羅場やってる場合じゃないっての!
「家堀さんだっけ?これはこっちでいいのかな?」
爽やかなイケメン顔を振りまき、葉山先輩達も私達生徒会(いや私、生徒会じゃないですけどもー!)の指示で卓の準備を手伝ってくれていた。
「はい。ありがとうございます!」
なにげに初接触じゃね?
やっぱ近くで見ると本当に爽やかイケメンさんですわ。その余りにも爽やかな笑顔で悩殺された私は、ふとこう思った。
やっぱりなんだか薄ら寒いと。悩殺されてないじゃん。
この人は、あの人と違って“自分”てモノを持てていないんだろうな……
どんな理由かは知んないけど、なんかそれはそれで可哀想な気もするな。
………だからいろはって、あんなに意固地になってまで、あんなに感情をストレートにぶつけようと必死な三浦先輩を煽ってんのかな?ちょっと一度真正面から三浦先輩を見てみなよ……って。
なんか私いい話に持ってこうとしてますけど、でもそんな三浦先輩は、葉山先輩に優しく声を掛けられた私を睨んでますけどもね?
恐いですっ!
そして襟沢は私の隣でそんな三浦先輩をハートフルな目で見つめ続けてますけどもね?
恐いわっ!
そして違う卓では、いろはや雪ノ下先輩に、戸部先輩が辛辣に扱われて「っべーっべー」五月蝿いですけどもね?
まぁ……それはどうでもいっか!
そんな中、私は『やばいっ!比企谷先輩が近く通った!』とか『やばいっ!今見てたのバレちゃった!?』なんて乙女チックな邪念など持つ事もなく、持・つ・こ・と・も・な・く!!……ほ、ほんとに持ってなんか……ないんだからねっ!
ん!んん!真面目にこのカオスな空間で準備を続けていると、外の方からまた新たなる一団がガヤガヤと近付いて来たようだ。
「やぁ、いろはちゃん。いやー、よかっ……パートナーシッ……アライアンス……オファ……」
なんか色々と長いこと語ってたみたいだけど、なに言ってんのかよく分かんなかったから割愛させて頂きました。
「ですねー、お疲れさまですー」
だっていろはも流してるしねっ。
しかし出会い頭から強烈なジャブをたたき込んでくるね!
これはアレだ。噂のパルスのファルスのルシがパージしてコクーン会長さんだ!
マジで強烈ぅぅっ!
しかし意識高い軍団の本番はここからだったのだ!
「……ビジネスチャンス……クラウドファンディング……スキーム」「それアグリー」「インセンティブを還元……メソッド……アーリー……刺さる」「……レモネード……」「……ケース」
……チクショウ……ちょっと面白くて割愛しきれねぇよっ……
なにがなにに刺さっちゃうの!?レモネードをケース売りしちゃうの!?
これはもう連続ジャブと言うよりは一撃一撃がKO級の必殺パンチ!
これぞまさに意識高く相手の意識を根こそぎ刈り取っていく伝家の宝刀カタカナデンプシーロールだぁっ!
まっくのっうち。まっくのっうち。
脳内後楽園ホールでは熱い実況と観客が一体となり、我らが生徒会長様がどんな反撃を見せるのかの期待半分、まさかこの一試合だけで半年以上費やす(大量の休載含む)のではないかとの不安半分で見守る中、いろはの出したカウンターパンチは一撃でその場をおさめた。
「あはっ☆そうですよねー!すごーい♪」
…………いろは、やっぱあんた凄いよ……まさかの内容完全無視。
なにが「そうですよねー」なのかなにが「すごーい」のか全然分からん……
そしてさらになにが凄いって、いろはのそのカウンターに満足したのか未だにフリーダムにぐるんぐるんとデンプシってる海浜さん達。
ああ……この扱いの仕方で正解なんですね。勉強になりました。
対戦相手じゃなく、まさかの観客の意識を刈り取る攻撃に脳内後楽園ホール中が若干白目を剥きかけていると、デンプシー軍団の中から一人飛び出してきた……
「あ、比企谷じゃん。やっぱ来てたんだー」
なぁっ!?だ、誰!?
なんか他校から飛び出してきたかなり可愛い女子が比企谷先輩に絡みに行ってんだけどっ!?
てかなんかちょっと私と見た目とか被ってるんですけど!?
なに?主役交代!?ここにきて私リストラされちゃうのん?
あ、自分にちょっと似てる自覚がある女の子の容姿をかなり可愛いって絶賛してる所はスルーでオナシャス。
なんか比企谷先輩を中心に雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩にも絡みに行ってるんだけど、比企谷先輩達の様子を見るになんか修羅場な空気感……
まさかここにきて新たなヒロインの登場とは……!くそっ……天然スケコマシめっ……!
なんか向こうの生徒会長も入り乱れての気まずい空気になってんだけど、新たなヒロイン候補が比企谷先輩に笑顔で「んじゃ、またねー」と手を振りながら海浜メンバーの中に戻ると、とりあえず一応その場は終息した。
あとからノコノコ出てきて笑顔でまたねー!じゃねえぞコノヤロウ。
いやん私ひとの事いえなーいっ!
とにかく気になって仕方ないから、チョイチョイといろはを呼び出しヒソヒソと小声でお話するよ?
「ちょ、ちょっといろは!だ、誰よアレ!?なんか比企谷先輩と超仲良さげだったけどっ!?」
なんか私必死すぎじゃね?
「あー、折本先輩ね。なんか先輩とは中学の同級生らしいよー」
妙に淡々と語るいろはす。
「でさー、何度聞いても教えてくれなかったんだけどさー、あの二人中学の時になんかあったらしいよー」
は!?なになんかあったって!?なにそれ由々しき事態じゃないのよっ!
てかそんな情報、なんでそんなに淡々と語ってんの!?この子ったら!
あんたがそんなんじゃあねー!といろはに視線をぶつけようと横目で見ると、なんか目の光彩失って闇落ちしてましたっ。
あまりにも恐すぎたのでそっと立ち去りましたっ。エヘヘっ☆
× × ×
あれ……?待てよ……?
ちょっと私と似てる女子が昔比企谷先輩となにかあったって言うんなら、これ私にもワンチャンあんじゃね?……うへへ……
なんてことは決して頭の片隅でも一切まったく考えたりせずに、闇落ちしたままいろはが奉仕部の元へと帰っていくのを見ていたら……………あれ?目の錯覚かな?なんか一人増えてない?
その増えたらしき一人を見咎めた闇落ち小悪魔は、一気に浄化されて現実に引き戻されたようです。
あの危険な目のいろはを一気に現実に引き戻した天使は城廻先輩だったようです!
いろはって城廻先輩苦手なんだよね。
自分が作り上げたなんちゃってほんわかゾーンを、天然ほんわかゾーンで全部持ってかれちゃうから。
養殖が羨望の眼差しでどんなに空を見上げても、悲しいかな天然の破壊力には歯が立たないのですよ。
苦々しい顔をしたいろはを遠くから見ていたら、城廻先輩が「頑張るぞー!おー」と手を上げた。
なにあの癒し空間!ほんわかするやろーっ!
でもいろはは白い目で見てますけどね。
懲りずにもう一度「おー」とやる城廻先輩に、恥ずかしながらも「お、おー」と手を上げた比企谷先輩に死ぬほど悶えました。まる。
…………あー………もう私いつ死んでもいいやー……比企谷先輩が可愛すぎて生きてるのがツライ……
なかなかの時間、一人気持ち良くトリップしていると、そこはかとない圧力を感じて現実に引き戻されました……
「ひゃっはろー!ごめーん、遅れちゃった?」
我に帰った私はそちらへ目を向けた。
うっわ〜!なにあの綺麗なお姉さん……何者?
てかなんであんなに綺麗なお姉さんにすごいプレッシャーを感じたんだろ?と隣を見ると…………
襟沢のバイブ機能がぶっ壊れていた……誰かぁっ!襟沢のバイブ機能をOFFにしてあげてぇっ!?
どうやらあの綺麗なお姉さんの登場により、このノルマがなく、アットホームな雰囲気で、将来独立するためのノウハウを得られるというお料理教室は、この危機的クライシスにより更なるリスキーで危険なデンジャラス空間へとメタモルフォーゼ級の変身を遂げ、もう私達にはイニシアティブな主導権は握れないみたいです☆
続く
ありがとうございますぅぅぅっ!
気が付いたらまさかのお気に入り3000超えでしたっ!
まさかこんな事になろうとはっΣ( ̄□ ̄;)
思えば最初の3話で完結したはずの物語でした……
それが今やなぜか20話になり、しかもこんなにもたくさんのお気に入り……(涙)
もう有り難すぎて読者さまに足を向けては眠れませんっ!
………どこに足向ければいいのでしょうか……?下?立ち寝?上?逆立ち寝?
というわけで、あざとくない件の21話でした!
あざとくない件では初の原作添いになってしまったので、こんな感じで極力原作に絡まない済むように、原作でも全く絡みの無かった生徒会役員達と行動を共にさせる事により、“外野からバレンタインイベントを見学しているスタイル”でやっていこうと思ってます。もちろん多少は絡みますが。
なのでいろはすの出番がホント最小限です><いろはすファンの皆様スミマセン(ノд<。)゜。
ただシリーズ後半にはちゃんとオリジナルで出番を用意しますのでご安心ください!
ただ……さすがにあの原作の原作添いじゃ、いつもの八色夫婦漫才は無理そうですね〜(汗)
それではまた③でお会いしましょう!