最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
今回でこのシリーズがラストになります!
お楽しみいただけましたら幸いです☆
マラソン大会の翌日。季節は今日より二月へと移り変わる。
「くぅ〜っ……身体痛ったいっ……」
私、家堀香織は、マラソン大会の後遺症(筋・肉・痛☆)と戦いながら、駅から学校までの道のりをのそのそと歩いていた。
てかマラソン大会の翌日は是非とも休みにすべきよね!
昨日は誰かさんのオンステージのせいで女子マラソンの平均ペースがめっちゃ上がっちゃって大変だったわ〜……。
結局昨日は、あのままいろはと会う事は無かった。
片付けが終わって帰ってきた紗弥加達にアレを話す事も出来ず、本当にもやもやな気持ちのままマラソン大会は終了した。
あ〜……でも私達には関係無いから行かなかったけど、マラソン大会の後には打ち上げと言う名の葉山祝勝会をどこぞの小洒落たパブでやるとかって、いろは言ってたなぁ……。
あの子、あんな状態で行けたのかしら……。
そろそろ校門という所まで差し掛かった時、不意にスマホが歌いだした!
ヤベェッ……!思いっきりアニソンのままじゃん……っ!
マナーモードにし忘れてたぁ……!
くっそぉ……!誰だよこんな時間にぃ!周りに生徒超いんじゃん!もう顔が超熱いじゃんかよぉっ!
と涙目になって、掛けてきた相手に八つ当りする気まんまんで電話にでると紗弥加だった。
『……なによ?』
『いやいやなんで朝からそんなに不機嫌!?』
『……べっ、別に機嫌なんて悪くないんだからねっ!』
やべー……周りが「あの美少女からアニソン聞こえてきたんだけど……」って冷たい視線を向けてくるそんな空気の中、テンパってツンデレキャラ降臨とか、私社会的に終わってんじゃん!……え?被害妄想強すぎですって?
隠れオタってのは敏感肌なのよっ!
『まぁいいや。あのさ、いろは知んない?てか一緒に居なかったりしない?』
『いろは?いや、知んないけど……てかまだ学校着いてないし。……どしたの?』
ふと昨日の保健室前の光景が頭を過った。
なにか……あったんだろうか……?
『あー、いや、別に大したことじゃないんだけどさ、智子がもう30分以上前にいろはと教室で会ったらしいんだけど、荷物だけ置いてどっか行っちゃったらしいんだよねー。部活か生徒会室でも行ってんのかなー?』
いろはがそんなに早く教室に居たの……?
前は真面目に朝練出てたからいつも早く来てたっぽいけど、ここ最近はずっと遅めに登校してきてたんだけどなぁ……。
『とりあえず了解〜。教室着く前に見かけたら声掛けとくよ』
『ほーい。んじゃまたあとで〜』
スマホを切った頃にはちょうど校門に差し掛かる頃だった。
どうしたんだろ?いろは……。
そのまま昇降口に向かおうと歩いていた時ふと香織ちゃんは、VS七英雄戦ばりにピコーン☆と新しい技を閃いたっ!
「……駐輪場……かも」
私はそのまままっすぐに駐輪場へと歩を進めた。
× × ×
居たっ……なにしてんの?あの子……。
やっぱりいろははそこに居た。
つい先日駐輪場で夫婦漫才をしていた場所、つまり比企谷先輩がいつも自転車を停めているであろう所からはちょうど死角になりそうな場所に身を潜めていた……アホか……。
あの子、マフラーも手袋もしないで何やってんの……?
いろはは両手をスリスリ擦り合わせたり、はぁぁっと息を吹き掛けたりしながら、ぴょんぴょんと跳ねていた。
もしかしてここで30分以上待ってたの……?
はぁぁ……まぁなにがしたいかは一目瞭然だね。
でもあのバカ、風邪ひくっての!
まったく!このままほっとく訳にも行かないっしょ!
私がおバカに声を掛けようかと、前に進もうとしたちょうどその時、駐輪場に囚われたいろは姫を救いだしに来たかのように、白馬ならぬママチャリに跨った目の淀んだ王子様が到着したのだった!
私は慌てて隠れてしまう!
自転車を定位置に停める比企谷先輩←身を潜め覗き込むいろは←様子を伺う家堀香織……。
なにこの図……とっても危険でとってもシュール。
比企谷先輩が自転車の鍵をかけて校舎に向かおうかと身を翻したその時、潜んでいたいろはの目がキラリと妖しく光り口元がニヤリと上がった!
「せーんぱいっ!」
突然のあざとい強襲に驚いた比企谷先輩と、嬉しさを隠し切れずによによと駆け寄るいろはとの、恒例の夫婦漫才が幕を開けるのだったっ!
× × ×
「え?……なんで居んの?」
超待ってたいろはにこうかばつぐんの一撃が入りました。
酷いよっ!比企谷先輩っ!
「ちょ!?朝イチで可愛い可愛い後輩が声を掛けてくれたっていうのに、それは酷くないですかぁ?」
「いや、だって……なんで居んの?」
いろはのほっぺがぷくーっと膨らんだっ!
本日最初のあざと風船頂きました!
「べっつに居たくて居たわけじゃありませんー!今日は朝から生徒会の仕事があって、たまたま!た・ま・た・まここ通っただけですー」
そんなに寒さで真っ赤になった顔してたまたまもなにもあったもんじゃないでしょ……。
「へ、へー……そいつは朝からご苦労さん……じゃっ」
ホントこういう時の比企谷先輩のレスポンスの速さはマジ半端ない。
「じゃっ!じゃないですよー。わたし超寒いんですけどー」
「じゃあ早く校舎入れよ……」
そりゃそうじゃ〜
「それまで我慢出来ませんっ!」
そういうといろはは何かを閃いて悪魔の微笑を浮かべた。
「…………ていっ!」
「ひゃいっ!おいっ!」
「うっわ……ちょっとマジで気持ち悪くて無理ですごめんなさい。……ほぉぉ〜……温ったか〜い……さすがに自転車漕いで身体を動かしてきただけはありますねー」
……私もちょっとびっくりしちゃった……。
いろはが比企谷先輩に飛び付いて、冷えきった両手を先輩の両頬を挟むようにあてている……。
なんてーの?超あざとい。
ほかに生徒居ますけど……大丈夫なの?超見られてますよ?
「お前いきなりなにすんだよ!そしてこの状態でも振られちゃうの?」
「……そんな事はどうだっていいんですよー……」
まぁ振り芸はいつものことだからいいっちゃいいんだけど、その状態はそんな事ってレベルじゃないですよ?
「……えっと……せんぱい祝勝会すぐ帰っちゃったじゃないですかー……?」
「お……おう。ああいう席は苦手だからな……もともと顔出しだけのつもりだったし……」
「せ・め・て!わたしに一言くらい声かけてくれてから帰ったって良かったじゃないですかぁ……ちょっと聞きたい事だってあったんですから〜……」
「おう……そりゃ悪いことしたな。そっちはそっちで盛り上がってたし、邪魔しちゃ悪いなと思ったからな……。聞きたいことってなんだったんだ?」
すると急に俯くいろは。
「………えっと……その……けが……」
さっきまでの寒さで赤くなった顔とは全然種類の違う朱みになった顔で、俯きながらボソボソと喋ってる。
「……え?全然聴こえねぇんだけど……」
「だっ……だからぁ……そのぉ。……お怪我!お怪我の方は大丈夫だったんですかっ!?」
なんか恥ずかしさのあまりにキレ気味に怪我の心配をするいろはす……!
そっかぁ……やっぱりずっと気にしてたのか……。
あんなに心配してたのに、怪我の具合聞けなかったもんなぁ。
「け、怪我?……お、おう。まだちょっと痛てぇけど、まぁ大丈夫だぞ」
すると、たぶん誰にも聞こえないくらいの小さな声で、「良かった……」って、言ったのかな……。
口の動きしか見えなかったから定かではないけど、なにかを一言漏らしたあとに安心しきったようにすっごい優しく微笑んでた……。
さっきからず〜っと俯きっぱなしだから、比企谷先輩には全然見えてないだろうけどね。
「……え……と、サンキューな。なんでそんな事知ってんのか知んねぇけど、まさかそんなに心配してくれてたなんてな……」
比企谷先輩が照れ隠しにガシガシと頭を掻くと、ようやくいろはが顔をあげた。
それもなぜか極上の小悪魔笑顔で!
「は?先輩なに言っちゃってんですかぁ?たかがマラソン大会でみっともなくコケたくらいの怪我なんかでわたしが心配するわけないじゃないですかー?……おやおやぁ?可愛い後輩が心配してくれてると勘違いしちゃいましたぁ?嬉しくなっちゃいましたかぁ?」
「お前ホント最悪な……」
顔を引きつらせて呆れ顔の比企谷先輩を、ほんっとに超〜嬉しそうな顔でニヤニヤとさらに罵倒を続けるいろはす☆
「大体〜、先輩なんかが葉山先輩と勝負になんかなるわけないじゃないですか〜?身の程を知りましょうよー!結衣先輩から聞きましたよ?なんか三浦先輩の依頼の為に、まーた無茶したらしいですよねー」
「別に葉山に勝つつもりで走ってたわけじゃねぇっての」
「でも結局は自分の身の丈に合わない無茶をして、すっころんで怪我したんですよねー?超カッコ悪くて超キモいです」
「そりゃ悪うござんしたね……」
すると口を尖らせてまた下を向く。
「……まったく……なんで先輩は他人の為にそんな無茶ばっかりするんですかねー……マジでキモくてマジで無理です……」
いろは……
「心配してくれる人達を無視してそんな無茶ばかりしてたら……またクリスマス前みたいに呆れられてバラバラになっちゃいますよ〜……?」
ただ心配してるだけかと思ってたら、あいつ怒ってるんだ……。
「一色……」
「……ほんっとに先輩はバカですねー。また味方が一人も居なくなっちゃってもいいんですか〜……?」
するといろはは俯いていた顔をあげてまた前を向く。
切なげな潤んだ瞳で……でも精一杯あざとく小悪魔的に笑顔を浮かべて……。
「……でも……仕方ないですねー!先輩ですしね!……だから、もしまた先輩が一人ぼっちになっちゃったとしても、わたし“だけ”はずっとせんぱいの味方でいてあげますっ」
ずっと……かぁ!
そう言い切ると、小悪魔さもあざとさもない、とても暖かで優しい笑顔を比企谷先輩に向けた。
「ちょ……一色……?」
「なーーーーーんちゃってぇっ!……ドキドキしちゃいましたぁ?嬉しくなっちゃいましたぁ?意識しちゃいましたかぁ!?……ただからかっただけなので変に意識して勘違いして告白とかしてこないでくださいねまだタイミング的に今じゃないんで無理ですごめんなさい」
「お前な……」
いろは……あんた照れ隠しもそこまでいくともう職人芸だよ……。
しかも、ちなみにここまで比企谷先輩の頬っぺたにずっと手をあてたままだからねっ!?
そっちを照れ隠せよっ!
「って!いつまでもこんなとこでバカやってる場合じゃないですよっ!遅刻しちゃいますよ遅刻!早く行きますよっ」
「じゃあまず俺の顔からこの手を離せ」
「しょーがないですねー!……んじゃ、えいっ」
「だからお前はなにすんだよ……」
ようやく手を離したかと思ったら今度はポケット強襲だよ……マジでイチャイチャカップルかよ……爆発すればいいのに……。
「おぉぉ……温かい」
「人のポケットで暖を取るんじゃありません!おいっ!離せっ」
「いいから行きますよー!ホラホラ〜っ」
「このまま校舎入んのかよ……」
ピッタリと寄り添いながら……いや、いろはがウザがる比企谷先輩にピッタリくっつきながら、そのまま昇降口へと向かう二人。
そっか……そうだよね。
あざとい小悪魔生徒会長一色いろはともあろう者が、あの程度の逆境なんかで下を向いたままのわけないよねっ!
うん!例えほんのひととき俯く事があろうとも、やっぱりあんたはそうやってあざとくしたたかに前を向いてるのが一番似合ってる。
ふふっ!私の友達一色いろははそうでなくっちゃねっ!
私はそんな、とっても凸凹でとっても素敵な二人の先輩と後輩の仲睦まじく並んだ背中を、いつまでもいつまでも見送るのだった……!
カンコーン…………
………え?
ちょっと?今チャイム鳴り終わらなかった……?
やっばぁぁぁぁぁぁぁいっ!
え!?なにこれ?私が遅刻すんの!?
私、家堀香織は、本日二月一日、今まで必死に築き上げてきた皆勤賞をついにこの日手放すのだったっ!
いやんなにこのオチっ☆
おしまい
ついに終わってしまいました(泣)
当初は三話分とか言っていて、結局五話になってしまいましたが、最後まで楽しんで頂けたでしょうかっ?
やっぱり香織を動かすのが一番楽しいです☆
しばらく寂しくなるなぁ……。
まだあざとくない件を覚えていて下さいましたら、11巻の内容次第ですけどまたひと月後くらいにお会い出来たらお会いしましょうっ!
それではっ!