最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
1月も中旬に差し掛かり例の作戦会議から数日後、いろはが朝からご満悦な表情で私の所にやってきた。
うっわ……なにその表情……。締まりなさすぎでしょ……。
「おっはよー!いやぁ、昨日の放課後は超楽しかったよー!」
「そなの?まさか……アレ、やったの……?」
するといろははによによしながら身振り手振りで説明してきた。なんかウゼー。
「真っ赤になって声かすれさせちゃって、『いない、けど……』………だぁってさぁっ!ふひひ〜っ!や〜ん!超面白かった〜っ!」
うわ……マジでやったんだ!ま、まあ確かにアレやられたらいくら葉山先輩でも…………、って、え?葉山先輩がそれ?キャラ崩壊してね?
二次創作ならキャラの名前を使っただけの別モノって罵られるレベル。
私の頭上に大量の疑問符がふよふよ回ってる事などお構い無しに「あんなに照れちゃうとは思わなかったよ〜!あれ絶対意識しちゃったでしょ〜!」だの「なんかもう超可愛くてナデナデして抱き締めたくなっちゃった〜!」だのと未だ興奮醒めやらぬご様子。
「……えっと、それって葉山先輩……なんだよね?」
「うへへ〜っ……へ?なんか言ったぁ?」
聞いちゃいねー。
自分から話してきたんだからちゃんと会話のキャッチボールしようよ!いろは野球やろうぜ!
「どしたの〜?いろは朝から超ご機嫌じゃーん」
「ねーっ!なになに何か良い事でもあったのぉ?ちなみに良い事と言えば昨日とも君がさぁ〜……」
いろはのなんか知んない幸せオーラに紗弥加たちも参戦してきたのだが、誰も聞いてない智子のとも君情報と相変わらずにへら〜っとしながらのいろはの独り言、めんどくさくなっちゃってスマホ弄りだしちゃった紗弥加とでもうカオス状態。
今日もいろはの変化に対しての疑問を聞く機会を逃してしまった……。
そういえば変化といえばもう一つ!
最近いろはが登校してきても、いろはす臣下たちがご機嫌伺いしてこなくなったんだよね〜。
なんかいろはの冷め過ぎた態度に警戒してると言うか恐れてると言うか。
フレンドリーに挨拶してきてバッサリ斬られた時のダメージって半端ないですもんね。
中一の時クラスでジャンプ読んでたちょっぴりオタクな男子グループの中に入ってって、『私も朝見たよ〜!アレ超面白かったよね〜』と笑顔で話し掛けたら、超青ざめて散っていかれたのは良い思い出☆
見た目ハデ目なリア充っぽい私が急に入っていったら、オタクをバカにしに来たと思って警戒しますよね〜……でも当時はかなり凹んだよ……。
あのやっほーってフレンドリーに挙げた手の所在の無さっていったらもうね!
あれ以来、学校で漫画の話はしなくなりました……。
そんな趣味友達ちょっと欲しいから、いろはに海老名先輩とか紹介してもらおうかなぁ……。
アレ?どっかから逃げてーって声が聞こえたような?
しかし今日はそんないろはに一人の勇者が戦いを挑んできた!
バスケ部次期エースと名高いD組の中西君である。
最近すっかり付き合いの悪くなったいろはに我慢出来なくなったのかな?
「なあなあいろは〜!最近全然遊んでないじゃん。また買い物付き合うから、次の休みにでも遊びに行こうよ〜」
中西君って言ったら、いろはの休日荷物持ちの中でも群を抜いたお気に入りのはず。
そんな彼にどう対応するのかで、いかにいろはの様子がおかしいのかを計れるはず!……とクラス中が見守っていると……
「あ、翔太君ごめんね。最近生徒会忙しいし、もうそういうのやめたんだ」
さっきまでニヘラニヘラして弛みきった顔はどこへやら、魅惑的な笑顔も猫なで声もない、あまりにも予想外の普っ通〜の冷めた笑顔と冷めた口調で一閃!
これにはさすがに中西君もクラス中も言葉を失ったよ。
心で泣きながら去っていく中西君の背中を見つめながら、これはもうただ事じゃないと確信したね!
× × ×
さらに数日経ったある日の事、いろはが朝から何やら計画書らしき書類と睨めっこしながらうんうん唸っていた。
その表情を見る限りでは、なんだかめんどくさそうな顔してんな。
「どったの?いろは。なんか厄介ごと?」
「え?うーん……ちょっとねー。面倒ごと頼まれちゃってさぁ……。もーっ!こんな企画なんの予定もしてなかったから、急いで色々用意しなきゃだよ……」
「へー。ちなみに誰に何をお願いされたの?」
するといろはは眉をひそめて小声になった。
「……香織だから言うけどさー、本人に口止めされてるから内緒だよ?」
おお……なんか信用されてるな、私。まぁ口の固さには自信あるかんね!
「……実は葉山先輩に、例の噂を終息させたいから協力してくれないか?って頼まれたんだよねー」
「……マジで!?てか葉山先輩に頼られるなんてポイント高いじゃん!」
と、ヒソヒソ声のままおおくりしております……
って、脳内までヒソヒソする必要なかったね☆
「あ、うん。まぁそれはどーでもいいんだけどさ」
……どーでもいいの!?そこ超重要なんじゃないの!?
って、脳内ヒソヒソが止まらない☆
「……月末のマラソン大会で表彰式やる事になっちゃったんだよねー。優勝者インタビューでなんか言いたいんだってさー」
へぇ〜、成る程ねぇ〜……って!なに!?優勝する事は前提なんだあの人!
どんだけ自信家なんだろ!まぁ自信の裏付けがある人なんだろうけどもさ……。
「だから簡易とは言えステージっぽいモノも用意しなきゃだし、役所に申請とかして公園の使用許可も取んなきゃだし、マイクなんかの音源確保もしなきゃだし……うー、めんどくさい……」
………なんか物凄い違和感……。
だって……、大好きな葉山先輩に頼られてるんだよ?
葉山先輩の噂を消し去れるんだよ?
これこそ推してくれた人に認めて貰える、褒めて貰えるっていう、生徒会長としての立場を思いっきり張り切れるシチュエーションなんじゃないの?
そしていろはは最後にその違和感を決定的とさせる一言を、本当に残念そうにつまらなそうに口にした……。
「……それにさぁ、葉山先輩にどうしても内緒にって言われてるから、先輩には頼れないんだよね……。ホントつまんない……」
……そして翌日、ついにあの襟沢恵理大泣き事変が勃発し、ここ最近の一色いろはがあざとくない件の謎がすべて解けるのだった……。
× × ×
襟沢事変が収束し、いろはと比企谷先輩の駐輪場夫婦漫才を目撃した数日後…………も・く・げ・き!ですからねっ!け、決してノゾキなんかじゃないんだからねっ!
私といろはは移動教室の為廊下を歩いていた。
紗弥加達はお花摘みに行ってから向かうんだってさ。やだ乙女ポイント高い!
特別棟へと向かう途中、向かいから歩いてきた一人の教師に声を掛けられた。
「やあ、一色と家堀か。移動教室かね?」
現国教師の平塚先生だ。
「あ、平塚先生こんにちはです!」
「こ、こんにちは。はい、そーですっ」
私この人苦手なんだよねー……。
だって怖いんだもん。なんちゃらブリットが……。
いや、物理的な恐さより精神的な怖さがね?
だって!三十路の女性がなんちゃらブリットォとか言って男子生徒を悶絶させてるんだよ!?
なんかヤバくない!?色々と……。
あ、あれ……?なんか平塚先生、私の事睨んでない……?
き、気のせい気のせい!……そ、そういえば以前そのなんちゃらブリットを食らって崩れ落ちていた男子生徒は無事に生きてるのかなぁ?
……って!
あの時は名もなき男子生徒とか思ってたけど、記憶の糸を手繰り寄せてみたら……ア、アレって比企谷先輩じゃね!?
マ、マジですか……!なんたる運命の悪戯っ!
あとでいろはすとこの話題で盛り上がろっ♪
「ああ、そういえば一色。進路相談会の準備はどうなっているかね?もう明日に迫っているが、なんの報告も来ていなかったものでね」
「相、談、会……?はわわぁっ……わ、忘れてたぁ!」
いや、はわわぁってアンタ……
「す、すみません!最近急きょマラソン大会の企画とかがあがっちゃって、すっかり忘れてましたぁ〜……」
「そ、そうか。まぁ仕方あるまい。最近生徒会の仕事を頑張ってるみたいだからな。マラソン大会の企画も一色が急きょ立ち上げたらしいな。なかなか面白い事を考えるじゃないか」
「あははは〜……」
おやおや、葉山先輩の名前が出せませんからねー。
さすがに気まずそうですね。
「いや本当に良くやっているよ。まさか一色がここまでやってくれるようになるとはな……。失礼ながら嬉しい誤算だ」
微笑ましくいろはに語り掛ける平塚先生は、こうして見ると美人で優しいホントに良い先生なんだよなぁ……。
残念要素が少しでも軽減されれば引く手あまただろうにのう……。
「本牧も褒めていたぞ。最初はやはり不安しかなかったようだが、今の会長ならしっかりサポートしてやりたいとな。おっと!私がこんなことを言っていたなんて内緒だぞ!」
人差し指を口元にあててウインクする先生を見ていると、本当に心から思うよ!
嗚呼勿体ないと……!ゲフンゲフン
「副会長が……?」
「だがまぁ特定のとある生徒を頼りすぎだと苦笑いしていたがな」
そういう平塚先生も苦笑い!
詳しい状況は知らないけど、いろはって本当に比企谷先輩にべったりなのね〜。
「まあわたしのサポートを誠心誠意するのは先輩の義務ですからねっ!」
えっへんと薄い胸を張るが、オイオイ!いろはすそれ威張るとこちゃうっ!
「あっはっは!まったく!お前たちがこんなにも上手くやるとは本当に思ってもみなかったぞ。ま、比企谷も何だかんだ言いながらもお前をずいぶんと気に掛けているようだしな。せいぜい甘えるといい。そうする事であいつにも良い成長となるだろうし、比企谷と一緒に居ることで君の良い成長にも繋がりそうだからな」
へぇ〜……比企谷先輩って平塚先生にもこんなに愛されてるのね〜!
「もちろんです!もう甘えまくりますよー。甘えまくって、わたしが先輩を成長させてやりますんで♪」
お前も成長しろっ♪
「なので平塚先生!是非とも相談会の手伝いを先輩に依頼したいので、先生の方から言っといてくださいよー。わたしからだと、すーぐ逃げちゃうんで!」
「ははっ!早速だな!了解した。それでは私の方から奉仕部に直接依頼しておいてやろう」
するといろははちっちっち!と人差し指を左右に振った。
「せ・ん・ぱ・いだけで充分ですっ!そんなに人手要らないでしょうし、先輩一人の方がなにかと扱いやすいんで!馬車馬のようにこきつかってやりますよー」
ふっふっふ!と悪巧みする先生と生徒……。うーん!なんて悪の組織感っ☆
「よし!それでは私から上手い事言っといてやろう。……どうだ?家堀、一色は最近ずいぶんと良い成長をしただろう。なかなか面白い方向にな」
「そうですね。なんていうか、いい感じで素が出まくってますねー」
「ちょっと香織ー!それどういう意味ー?」
ぷくーっと頬を膨らますいろはは相変わらずあざとさ100%だが、最近はやっぱり憎たらしいと言うよりは可愛らしく思えてきたかなーっ。
これも良い方向に成長してるってことなのかしらね!
「よし!それでは失礼するよ。君たちも早く行かないと移動教室に遅れてしまうぞ?」
「はいっ!失礼します!……………あっ!平塚先生」
「ん?なにかね?」
「今さらですけど……わたしを奉仕部に紹介してくれて、本当にありがとうございましたっ!」
そう言うと、いろはは深く深く頭を下げた。
いろはは心から感謝しているんだろう。
つい先日、大泣きしちゃった襟沢に対しても言っていたように、とても貴重で大切な経験と出会いを与えてくれた全てのきっかけに。
恭しく頭を下げるいろはに、ニヤリと笑い右手を上げて去っていく平塚先生はとてもとても格好良かった。
来週はついに、いろはが葉山先輩から依頼を受けた運命のマラソン大会だ。
なんだかなにかが起こりそうな予感……。
続く
ようやく本編に追い付きました!
ここまでで三話を使ってしまいました。
おかしいな……今回の短期シリーズ全部で三話のハズだったのに……。
という訳で残り二話ですね(さ、さらに一話増えてやがる……だと……?)
八色成分不足が深刻な状況なので少しでも打開しようと、先日短編で八色をあげておきました!
あざとくない件とは別次元の作品ですが、まだの方はもしよろしければ御覧になってみてくださいませ!
なんか宣伝みたいになっちゃってスミマセン><