最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
友達の一色いろはが謎の変貌を遂げた三学期初日から数日ほど過ぎ、学校中は葉山先輩と雪ノ下先輩の話題で持ちきりになっていた。
しかしその頃にはすでに別の問題も起きてきていた。
なぜか葉山先輩告られ事案が多発するようになってきたらしいのだ。
正直私って乙女ちっくな思考をあんまり持ちあわせてなくって、好きな人に彼女が出来たらしいと噂になってから告白する女の気持ちが良く分からないんだよねー。
しかもその相手が相手だし。
ほら私って子供の頃から男子的趣味を持ち合わせて来たじゃないですかー……っていろはかよ!
漫画って言ったら断然少年漫画!
現実にこんなん居るかよ!って気持ち悪いくらいの爽やか完璧超人の背後に花が咲くとか草生えるわって感じだし、ゲームだってアニメだって男の子趣味丸出しっす!
け、決してオタクってわけじゃないんだからねっ!
アレ?でも今話題になってる人は花が咲きそうな完璧超人でしたね☆
そして今朝、実際に目撃してしまったのです。件の告白事案というやつを……。
× × ×
「うぅ〜……、この時期の朝は地獄だわ〜……」
海沿いの我が校の冬はまっこと厳しいでござる!
私は目をバッテンにして、通学中に購入したホットココアをカイロ替わりに校内へと入って行った。
う……、この寒さでちょっともよおしてきちゃったよ……。トイレトイレっ!
こーらっ!はしたないゾ☆香織っ!
ここからなら混んでる可能性の高いトイレより、人が居なさそうな特別棟のトイレの方が安心安全!
私はササッと特別棟に向けて足をのばした。
「ふ〜っ……スッキリスッキリ!危うく漏れかけたぜっ!」
こーらっ!はしたないを通り越しておっさん一直線だゾ☆香織っ!
やばいやばい……。私よ乙女心を取り戻せぇっ!と心の中で乙女とおっさんのリトル香織が熱いバトルを繰り広げていると、「……あ、あのぉっ!」と近くで女の子の声が聞こえた。
ん?何事だ?こんな人気の無い特別棟で朝から艶っぽい声出しやがって、全くもってうらやまけしからん!
と、おっさんリトル香織と乙女リトル香織が一瞬でフュージョンし、声がした方を角から覗き込んでみた。
乙女仕事しろ。
「あのっ……、葉山くんて、雪ノ下さんと付き合ってるって……ホント……?」
キターーーーー!!
フュージョンしたリトル香織が大はしゃぎ!
てかもうただの私そのものでしたねっ!
「いや、それはただの噂だよ」
「じ、じゃあ!……その……、わたしと……じゃ……、その……、ダメかな……?」
じゃあって……だからなんでそうなんのよ……?
葉山先輩は雪ノ下先輩と付き合ってないってのが、この女子生徒の質問に対しての解じゃないの?
そっからなんで私と付き合わない?に発展すんのかなぁ……?
「……ごめん。君の事は良く知らないし、俺は今誰ともそういう関係になるつもりないから」
「……そっか……。ゴメンね……?急にこんな話しちゃって……っ!……じゃあね」
口元押さえて走ってっちゃった……。
残念でしたー。
ってか君の事は良く知らないって、知り合いとかでも無いんかい。
ホント顔と人気くらいしか知らないで惚れたつもりになってるんだろうね、スイーツ(笑)乙女は。
恋ならともかく愛ってのはそういうもんじゃないでしょうに。
私もこう見えて結構告られたりしますけどぉー?
でも告ってきた相手がほぼ知らない人だと、「え!?なんで告ってくんの?どこ見て好きになったの?どうしてそれでOK貰えると思ったの?」って……、結構本気で困るんですよね〜……。
いや、マジで男なら告ってくる前にもっと自分を一生懸命アピールしてこいよ!
と。
もっと告る相手の内面と己の内面を突き合わせてお互いを理解し、させてから思いっきりぶつかってこいよ!
と、そう思うわけなんですよ、ええ。
どんなに見てくれが良かろうがどんなに爽やかに見えようが、中身知らなきゃ付き合えるわけないじゃん。
付き合ってからお互いを知っていけばいいって?
いやいや!なにそのギャンブル!順番違うっての。
失敗が目に見えすぎてて限られた青春タイムが勿体ないですからっ!
その点いろはは偉いよね。
まず外見から入ったにしても、ちゃんとマネージャーとして自ら飛び込んでいって、ちゃんとアピールして自分の存在を相手に見せ付けてから行動したわけだからね。
一方的な片想い段階ならいざ知らず、相手の内面も良く知らない、自分の内面も見せていない……って段階で告るとか、正直意味分からん!
ホント断わる側の気持ちも考えてみてくんないかなぁ……、結構くるモノがあんのよ?
と、もう一度コッソリ葉山先輩を覗いてみると、うーん……。やっぱり苦々しい顔してんなぁ……。
いろはすみたいにオールウェルカムスタイルの人間でもなきゃ、断わる事が決定事項の上で告られるのって結構精神的にくるのよね……。
おっと!語弊がありましたよ?
いろはすはオールウェルカムじゃなくって撒き餌を撒いて呼び寄せといて、キャッチもせずにリリースしまくるオールスルースタイルでした☆
いやんホントに小悪魔!
こんなんがずっと続いてるんじゃ、精神的に疲れちゃいますよね〜……。
お疲れ様です!葉山先輩。
× × ×
「おっはよー、香織!」
教室に着くと、そんな愛しの葉山先輩の精神状態など知ってか知らずか朝から元気ないろはす。
うーん……さっき見た事って報告すべきなのかなぁ……。
でも一応先輩女子が無惨にも玉砕したワケだから、軽々しく教室で部外者がワイワイやるような問題でもないしねー。
「いろはー、今日の放課後って時間ある?たまには二人でサイゼでも寄ってかない?」
ピクリと反応するいろはす。紗弥加も智子も加えずに『二人で』と言った所に反応したようだ。
「いいよー。今日は生徒会も仕事ないし!……あっちも毎日行きすぎると怪しまれちゃうんだよねー……」
ボソリと不可解な事を言ういろは。
あっちも?怪しまれる?
この子一体なにしてんの……?
「誘っといてなんだけどさぁ、そういえばマネージャーの方は大丈夫なの?」
「マネージャー……?ああ!サッカー部ね!すっかり忘れてた」
いやいや忘れるってどーゆーことだよ!?
あんた部員じゃないの?
「いやー、最近なにかと理由つけて休んでるから、なんか所属してたの忘れちゃってた☆」
忘れちゃってた☆じゃねえよ。
あっれ〜……?あんたの目的はマネージャー業じゃなくて、それによる見返りなんじゃ無いのぉ……?
見返りよりも生徒会の方が大事になってきちゃったのかな?
それとも生徒会長頑張っちゃってますよ私!アピールの方が効果的なのかしら……
あー、そういや前に『わたしを推してくれた人に頑張りを認めて貰えるのって結構いいかも♪』とかなんとか言ってたっけな。
× × ×
「うーん。じゃあわたしはミラドリとドリンクバーでっ」
「それじゃあ私はたらこクリームパスタとドリンクバーで!」
放課後サイゼに到着し、さっそく注文を終えるとドリンクコーナーへ。
あ、ミラドリとはもちろんサイゼ名物ミラノ風ドリアの事ですよ?
わざわざ説明するまでもありませんでしたね!
ドリンクバーにていろはは珍しくコーヒーを入れてくると、大量のガムシロとミルクを投入しだした!
「ちょっ!いろは!?そんなに甘くしちゃって大丈夫なの!?カロリー高いって!てかそもそもそんなん飲めんの!?」
「んー?今ちょっと甘いコーヒーに挑戦中なんだよねー。その分夕ごはん後のデザートとかめっちゃ我慢してるからだいじょーぶっ」
いぇいっ!とピースで答えるいろはすだが、甘いコーヒーに挑戦ってまず意味が分かんないんだけど。
挑戦してどうすんの?その先になにがあるの?
スイーツ大好きいろはが、夕ごはん後のデザートを我慢してまで甘いコーヒーに挑戦……?
やっぱりなんかおかしいなコイツ……。
コーヒーを一口すすり、うげぇ……と舌を出す。
じゃあやめればいいじゃん!?
「で?わたしになんか話があるんでしょ?わざわざ二人って指定してくるくらいだし」
「あ!そうそう。……一応いろはにはちゃんと言っとこうと思ってさぁ。……最近葉山先輩に告白事案が多発してるって噂じゃん?……実は今朝さ、見ちゃったんだよねー。告白シーン」
「マジでっ!?で?で?」
すっげー勢いで問い詰めてきましたよ!?
いろはす圧が強いっ!略していろ圧!
なので今朝の顛末を説明した。もちろんリトル香織のフュージョンは内緒よ?
「そっかー。ただの噂じゃなくて本当だったんだぁ」
「私も朝からビックリだよ!てかさ、なんで彼女の噂が出てから告んの?しかも相手はあの雪ノ下先輩だよ?告ったって玉砕するだけじゃん」
「香織はやっぱり乙女成分足りてないなー」
ほっとけ!
「うーん……。普段聞き辛い事だからこそ、逆に絶好のアピールチャンスになるってのかなぁ……」
「どゆこと?」
「だから普段は告白する勇気もないようなチキン女でも、まずは噂から入れるじゃない?……で、その流れであわよくば告白までしちゃえ!みたいな」
「はー……成る程ねぇ……」
乙女成分不足の私は、思考回路ショート寸前ですわ。
「やっぱ私には良く分からんなぁ……」
するといろははピコーンと新たな技を体得した!
「じゃあさ!ちょっと香織実験台になってくんない!?わたしちょっと試してみたいから、感想聞かせてよ!」
「じ…実験台……?まぁいいけど。…………え!?いろはが葉山先輩にやんの!?」
「いやまぁちょっとねーっ」
悪巧みしてる時の素の表情になってるよ……。
そしてうーん……と首を傾げて人差し指を顎にあててシンキングポーズ。はいはいあざといあざとい。
「よしっ…じゃあこれで……」
するといろはは急に上目遣いになって私を見てきた。
「先輩……。今付き合ってる人って、……いますか?」
……………。
うおー!やっべー!おっさんリトル香織が無口になっちゃったよ!そりゃ年頃の男の子にはアピールになりまくりっしょ!
「う、うん……確かに……。それで目をウルウルさせて頬でも赤らめられた日にゃあ男なんて一発で落ちますわ……」
するといろはは目をキラキラさせていろ圧を掛けてきた。
「マジでっ!?よぉっし!これは使える!意識させられるかも!さすがに香織相手には無理だけど、先輩相手にだったら緊張しちゃって絶対ウルウルしちゃうし、ほっぺただって超赤くなっちゃうだろうしっ!しかも試しですよ?って一言断わっとけばリスクゼロ!」
なんか大興奮で「香織ありがとー!」とかって両手でがっちり握手を求められております。
んー、なんか知んないけどお役に立ったみたいだし、それじゃあもう1つアドバイスしてあげますかね。
たぶんこの気持ちはいろはにはちょっと分かんないだろうし。
「でさー、葉山先輩要らん告白されまくって結構心労溜まってると思うのよねぇ。ここでいろはが先輩を純粋に心配する心優しい後輩として、気分転換に気楽な感じで遊びにでも誘ってあげたらどうかな?ふくよかな〜……は無いな。まぁ可憐な癒しとしてポイント上がっちゃうかもよ〜?」
そんな私のアドバイスにしばらく考え込んだいろはは、ハッ!となると急にギラリと目を光らす!
いろはすフラーッシュ☆
「そ、それ!……それ使えるよ香織っ!……普段なら先輩にもあの人達にも警戒されちゃうような事でも依頼という形でそれを相談すれば、ヤツから決定的な言質が取れるっ!これは安パイなわたしにとっての最善策なんじゃない!?一気に伏兵にのしあがれるかも!」
安パイってあなた……
ま、まあなんか楽しそうだからいいけど。
でもヤツって……?
「えっと……いろは?」
「……あっ!ごめん香織!ちょっと1人で盛り上がっちゃったっ」
テヘッとあざとく舌を出すいろはなのだが、次の瞬間にはちょっと遠くを見るような目をして表情がガラリ一変した。
「あはは……、いやー、どうせわたしには正攻法じゃ勝ち目ないからさぁ……だからとりあえずはどんな手使ってでも、とにかく意識くらいはさせてやんないと、……へへぇ〜っ、なーんか悔しいじゃない?」
そう言ういろはの顔は、つい今しがた見せた一瞬の物憂げな表情などどこへやら、いつも通りのニヤリと企む小悪魔微笑だった。
葉山先輩大好きいろはが少しでも有利に戦えるように今日の作戦会議を企画したんだけど、なーんか私の思惑とは違う方向に向かって行ってる気がするんだよな〜……。
まぁ張り切っちゃってるみたいだし、一応正解って事でいいのかな……?
しっかし憧れの先輩の恋バナになぜか元気に食い付く一色いろはは、一体なにを企んでいるのやらっ!
続く
すみません。また嘘つきました。
今回のエピソードは三話になると言っておきながら、書いてみたら無駄に長くなりそうで、最低でも四話にはなりそうです……。
……ああ、また新たな詐欺の罪状が……。
しかも八色夫婦漫才をご用意しておきますねっ☆
とか元気に言っておきながら、夫婦漫才は今回エピソードの最終話にしか収録出来ないので、長くなればなるほど夫婦漫才をご用意出来ないというジレンマ……。
なんとか四話で済むように話をまとめます!