最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
明日更新予定でしたが、ゆうべ書いていたら面白くなってきてしまって、ほぼ書き上がってしまい、添削まで予想外に早く終わってしまったので更新致します。
お楽しみいただけたら幸いです。
いろはが葉山先輩達とディスティニーに行った日、私達3人は紗弥加の家に集まっていた。
もちろん私もそうだけど、紗弥加と智子も流石に昨日のいろはの様子が心配になったようで、急遽集まろうかって話になったのだ。
一応私達の方針も決めておかなきゃだしね。
「いろは今ごろ楽しめてるのかな……」
私がそう言うと2人とも神妙な顔をしていた。
「どうだろうね…。昨日の様子だと、たぶん告るんだよね、あの子」
紗弥加の誰に対してとも取れない質問に智子が暗い声で答える。
「うん…。たぶんね。正直厳しいよねぇ、相手が相手だし…。やっぱ楽しめてるはず無いよね…」
「あの子ああ見えてリアリストだから、こんなタイミングで攻めに行っちゃうとは思わなかったよ……」
私もなんとか声を絞りだした。
しばしの沈黙のあと、パン!っと紗弥加が手を叩く。
「ま、あたしらがここでグチグチ言ってても仕方ないかっ!今夜、もしくは明日には何かしら連絡あるかも知んないし、遅くとも月曜になったら結果が分かっちゃうんだから!」
「そーだね!でもさ、私らから聞くのはやめとかない?言いたい事あるなら自分から言ってくるだろうし、言ってこないなら言いたく無いんだろうしさ」
「賛成ー!」
私達は、そう意見をまとめた。なんにせよいろは次第だ。
× × ×
結局当日も翌日も、誰にも連絡が来る事もなく、週が明けての月曜日。
なんとなく重い足取りで教室に入ると、そこにはすでにいろはが居た。
どう声を掛けようかな?と考えていたら、いろはも私が教室に入ってきたのに気付いたようで、先に声を掛けられてしまった。
「香織おっはよー!」
あれ?元気だぞ?
「……あ、いろはおはよー!」
うーん…。挨拶返したはいいけど、二言目が出てこないな。
するといろはは、
「いやー、土曜日超楽しかったよー。やっぱすっごい混んでて疲れちゃったから、昨日は一日中爆睡だよ」
テヘッとあざとく舌を出した。
あれ?別に無理してるとかじゃ無くて、普通に元気そうだぞ?
あれあれ?もしかして告白してない!?ただの取り越し苦労だったの?
てか告白成功の可能性を考えてないって、友達としてどうなの!?私。
そのあと紗弥加達も教室に入ってきていろはと挨拶を交わし、ぽけ〜っと拍子抜けした顔してる。
そうなりますよねー。
結局そのまま何事もなく過ぎていき、あまりのいろはの普通さに、「聞いちゃおっか!?」と、みんなで顔を見合わせたりしたんだけど、地雷の可能性がストップ高で残っている以上、3人で決めた一昨日の約束通り、こちらからは何も言わないで普段どおりに振る舞った。
事態が動いたのはお昼休み。
いろはが「たまには生徒会室でごはん食べな〜い?これ会長様の特権ね♪」と言いだしたので、あ、これなんかあるわ……と、みんなで頷き合った……
× × ×
「わたし振られちゃった〜!みんな心配掛けてゴメンね!気を遣ってくれてありがとー」
……え?そんなに軽くカミングアウト?
初めて入った生徒会室で、色んな意味で緊張しながらお弁当を広げていると、唐突に、なんのタメも無く、いろはが突然失恋を口にした……
「……あ、えっと……」
3人共言葉に詰まる中、いろはは柔らかい笑顔でゆっくりと言葉を紡ぐ。
「でもね、本当に全然大丈夫なの。振られてスッキリしたって言うか、ホントの意味で一歩踏み出せたって言うか」
なんの嘘偽りも無い笑顔でさらに言葉を紡ぐ。
「別に恋を諦めた訳じゃないしさっ。むしろこれからが本番!って言うかがんばんなきゃっ!って、晴れ晴れした気分なんだよねー」
ぐっ!と小さくガッツポーズすると、一拍あけてからいろははおもむろに私達に頭を下げた……
「だから、色々気遣ってくれてありがとう。とっても嬉しかったし有り難かったです。……実はホントはもっと言わなくちゃいけない自分の中の決意があるんだけど、それはまだ言えないかな〜。でもいつか必ず言うから。だからまたこれからもよろしくお願いします!」
えへっ、とそう言ういろはの笑顔は、あざとくも嘘臭くもなく、本当に心からの笑顔で。
そこに涙なんかは一滴《ひとしずく》だって無かった……!
× × ×
翌日からのいろはは、まるで人が変わったかのように仕事に取り組んでいた。
どうやらほんの少し光明が射したらしく、「これはわたし達次第でなんとかなるかもっ」と、休み時間もお昼時間も本やらプリントやらとにらめっこして、海浜側にプレゼンする企画を練っていた。
どうやら子供達主演の演劇をするらしい。
ああでもないこうでもないと、溢れ出んばかりのやる気と熱意、そしてワクワク感を滲ませながら演出を考えていた。
まじですか…、いろはす。
あのいろはすさんが、こんなにも生き生きと仕事をしてますよ!
一体なにがいろはにこんな変化をもたらせたのかな。
葉山先輩に振られたこと?
イベントに光が見えたこと?
一歩踏み出せたこと?
まだ話せない決意のこと?
なにかはまだ分からないけど、いつか話してくれる日が来るのかなっ……
× × ×
12月24日、ついに来ましたクリスマスイブ!
その日私達3人は、学校近くのコミュニティセンターに、クリスマスイベントを見学するために訪れていた。
なんと智子も参加!
友樹君はさすがに渋ったらしいんだけど、どうしてもとお願いして、なんとか夕方まで空けてもらったらしい。
やるじゃん!智子!でも今夜はお楽しみですね?(ゲス顔)
今日はいろはは演出やら管理やらで忙しいだろうと思い、イベント見に行くよっ!とは言わないまま勝手に来ちゃったから、いろはがこっちに気付く事もなく、私達は単純にクリスマスイベントを楽しんでいた。
びっくりしたのは葉山先輩のグループが来ていた事!振ったばっかりの女の仕事っぷりを冷やかしにくるなんて、どんな鬼畜プレイなのよっ!?
ま、普通に考えていろはが呼んだんだろうけどね。ホントあいつ鋼だわ!鋼メンタルだわ!
なんかもう色々錬成しちゃいそうな勢い。
等価交換で友樹君を持ってかれてもいいのよ?
さて、まずは海浜総合高校側のプログラムのようだ。
出張クラシックの演奏や海浜生徒のバンドの演奏で、クリスマスソングやらの荘厳だったり軽快な音楽が奏でられると、コミュニティセンターに集まった子供達も親御さんも、お年寄り達もみんながひとつになって楽しんでいた!
なかにはノリノリに踊り出しちゃうおじいちゃんなんかもいたりして(笑)
うん!なかなかいいじゃん、海浜さん!
あれだけ失敗待ったなしだったって割には、すごくいいよっ!
いろはがちょっとだけ教えてくれたんだけど、どうやら我が校の側から、海浜さんを発奮させる爆弾を落とした人たちがいるらしい。
危うくイベント中止も辞さない空気になりかけたらしいんだけど、これだけ盛り上がってるんなら、陰の功労者だね!
口には出さなくても、あちらさん側も本当は感謝してるかもね。
× × ×
そして……。いろはがそれはもう一生懸命に情熱を傾けて企画した、子供達による演劇が始まろうとしている…。
「あ!見て見て!いろはが舞台袖から観客席覗いてるよっ(笑)超緊張してるー」
「あははっ、ホントだーっ!……って!なんか私も緊張して来ちゃったよ…!?」
「ん?でも誰か知らないけど男子と話してる…。なんか一気にリラックスしちゃったみたいだね。仲いい人なのかな?」
ワクワクドキドキを隠しきれずにいろはの様子を見ていると、やがて会場の照明が落とされ、あたりは暗闇に包まれる……
賢者の贈り物……。
それが今回いろはが選んだ演目だ。
私このお話知ってるんだよね。お母さんが好きだったなぁ…(いや、母さんご存命ですよっ!?)
子供の頃はよく意味が分かんなかったんだけど、ちょっぴり大人になってから背伸びしてお母さんに借りて読んでみたら、とってもいい話で心がポカポカしたのを覚えてる…。
暗闇の中、可愛らしい子供の声でナレーションが始まると、舞台に明かりが灯り、ひとりの可愛らしい少女が登場する……。
綺麗で大人びているのに、たどたどしくも一生懸命にお芝居をする姿につい微笑ましくなる。
子供達の舞台はとても素敵なものだった。
よくこういう子供のお芝居を学芸会レベルとか陳腐とかって揶揄する人たちも居るけど、私はそうは思わない。
緊張した面持ちだけど一生懸命に演じる子供達の演技は、見ているだけで優しくなれるから。
舞台上も観客席も、なんだか不思議な浮遊感の緊張と安堵を繰り返しながら、演劇は滞りなく進んでいく。
そしてついにフィナーレ。
「メリー・クリスマス」
というナレーションと共に、あまりにも可愛らしい天使が舞台上に舞い降りた。
「めりーくりすまーす!」
と、危なっかしい手つきでケーキを運ぶ。
あまりの可愛らしさに会場が優しい笑顔に包まれると、その刹那、ホールの扉が開き、これまた可愛らしいたくさんの天使達が客席にケーキを運ぶ……!
「メリークリスマス」
と、舞台上の主演女優ちゃん達が蝋燭に灯をともすと、天使達も会場中でケーキの蝋燭に灯をつけ、ひとつ、またひとつと会場に灯火を広げていく。
可愛い天使達のキャンドルサービスだ。
薄暗い会場が天使達の笑顔の灯火で幻想的な光に包まれた……!
そう…、これがいろはがああでもないこうでもないと試行錯誤し、考え付いたフィナーレのかたち……
この演出はいろはから相談や報告を受けて知ってたんだけど、机上で考えて文章と図面におこしただけの物と、こうして実際に体感するのとは全然別物!
「綺麗……」
「うん…。そうだね…」
「やっぱこっちきて良かったぁ…」
私達もおもいっきり感動しちゃったよ。ついつい乙女チックになっちまったよ…。
………やるじゃん!いろは!!
× × ×
「メリークリスマースっ!かんぱーい!」
「いえーいっ☆かんぱーい!」
「初仕事おつかれー!かんぱーい!」
「ありがとーっ!かんぱーい!」
12月25日、クリスマス当日。
クリスマスイベントの翌日、私達はお気に入りのおっしゃれーなカフェでクリスマスパーティーをしていた。
イブが仕事になっちゃったいろはには内緒で、私達はクリスマスと慰労を兼ねて、事前に予約をとっていたのだっ!
これで「えー、クリスマスはデートの予定が入ってるんですけどー」なんて言おうものなら、確実にファーストブリットっ!が炸裂していた所だったのだが、誘ったらとても喜んでくれたので、我が拳はひとときの休息を得られたようだ…。
てか私ブリット気に入っちゃってんじゃん…。
ちなみに今日も智子はしっかり参加!
またまた渋る友樹君をなんとか宥めて参加してくれた。なんならもうこのまま別れてしまえばいいのに。
でも、ゆうべはおたのしみでしたね?(ゲス顔)
「昨日来てたなんてびっくりしたよ!だったら声掛けてくれたら良かったのにー」
「でも忙しそうだったじゃない?あのあとだって片付けしたり、役員さんと海浜さん側達と打ち上げクリパだったんでしょ?」
「そうそう!まあ大成功の打ち上げだし楽しかったけど、めっちゃ疲れたよー」
「だろうと思ったから、昨日は声を掛けずに、本日の慰労の席を用意したわけです!」
「いやー、ホント感謝感謝です」
「でも昨日はホントに大成功だったよね!あのラストのキャンドルサービスとか、私かるくウルっとしちゃったもん」
「私もー!でもどっかでなんとかファイヤーすごかった!とか聞こえてなかった(笑)?」
「ぷっ!聞こえてたー!あれ確実にキャンプファイヤーと混じってるよね(笑)」
「うちの生徒じゃないと信じたい(笑)」
などと笑いあい語らいあいながら、カフェ特製クリスマスケーキとシャンメリーを頂く。
いや!ホントはシャンパン飲みたかったし、実はこっそり用意してるんだよ!?
でも店員さんがダメっ!って飲ませてくれないんだよー…。
そりゃ高校生だし持ち込み禁止だし、ダメなのは当たり前なんですけどねー。
あとで誰かんちで二次会でもやりますかねっ!
「それにしても、いろはホント頑張ったよね。正直あの頑張りは驚いたよ!」
私がそう訊ねると、紗弥加も智子も力強くウンウンしてる。
「へっへー、まぁね〜!でも、ちゃんと頑張って認めて貰えるのって、結構いいかも!……実はさ、自信が無いです…って言ったら、雪ノ下先輩が言ってくれたんだ。『できるわ。あなたを推した人がいるのだから、それを信じていいと思う』って」
そう言ういろはは、その時の情景を思い浮かべるようにそっと目を閉じた。
「でさ!一生懸命頑張って劇も大成功したら、わたしを推してくれた人が、『結構良かったぞ。お前にしてはなかなか頑張ったんじゃねえか?』って褒めてくれたんだ…!へへ〜っ、推してくれた人に頑張りを認めてもらえるのって……、結構悪くないかもっ」
そう言ういろはは超笑顔っ!
そして、にひっ!ととびきりの笑顔でこう付け加えた。
「だからさ、わたしあれもこれも、色々がんばっちゃうよーぉ?」
推してくれた人か……
葉山先輩、応援演説とかしてくれたもんねー。『お前にしては頑張ったんじゃねえか?』って、全然葉山先輩っぽくないけどね。
まったくぅ……恋の為に仕事も頑張るなんて、実にこの女らしいんだから……(笑)
恋ゆえの仕事、仕事ゆえの恋。
どっちにしろ、ホントあんたらしいよ。
ふといろはに視線をやると、頬杖を突いて窓の外のクリスマスイルミネーションを優しげに見つめ、ハミングするように小さな小さな声で、幸せそうに歌っていた………
よしっ!私の友達の一色いろはよっ!思う存分恋に仕事にカーニバれっ♪
過去編、了
最後まで読んで頂きありがとうございました。
八色成分が深刻な不足状態ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
次回も一週間以内には更新したいと思っております。