最近友達の一色いろはがあざとくない件について   作:ぶーちゃん☆

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【過去編②前編】ゆえに私の友達は恋に仕事にカーニバる

 

 

12月。

私の友達一色いろはが生徒会長に就任してから、まだほんの数日しか経っていないある日のお昼休み。

 

食事を終えた私達は、昼休みが終わるまでの間、いつものようにどうでもいいような事を面白可笑しく語らっていた。

 

私、家堀香織の部活での出来事。

中学時代からの親友、笠家紗弥加の兄貴のマニアックな趣味の話(みんなキモーイ☆キモーイ☆と大喜び)。

同じく中学からの親友、大友智子の中学時代から付き合っている彼氏、友樹君とのおのろけ&クリスマスの予定(あ、ちなみに智子の話はみんな特に聞いてませんでした)

 

そして生徒会長いろはの生徒会の仕事のグチなどなど、内容は薄っぺらく多岐に渡るが、そんなどうでもいいひとときが、年頃の女の子にとっては堪らなく楽しい時間なのである。

 

ていうかまだ数日しか経ってないのに、早くもグチしか出て来ないのね……

 

 

 

 

「おーい、一色!生徒会の件で話があるんだが、少し時間をくれないか?」

 

 

そんな楽しいガールズトークがひときわ盛り上がりを見せる中、ふいに生徒指導も行っている現国教師の平塚先生が、ガラリと教室の扉を男らしく開け放ち、そういろはを呼び出した。

 

「は、はいっ…」

 

おっかなびっくりとパタパタ掛けていくいろは。

 

 

私もそうなのだが、この子もこの平塚静という教師がちょっと苦手なのだ。てか怖い。

 

 

この平塚先生、まさに『格好良いキャリアウーマン像』を体現したかのような容姿と物腰で、女子にも人気があるとても良い先生なのだが、そこはかとなく香る残念臭が隠し切れていない……そしてなにより怖い。

 

 

随分前に、職員室に2人でクラスのレポートを届けに行った時、ファーストだかラストだかのブリットと言う名のボディブローで、男子生徒が悶絶し崩れ落ちる様を目撃してしまってからというもの、私もいろはもこの教師に若干怯えている…

 

 

ブリットってなんだよ……

いやそんな事よりも、昨今はそういうってマズいんじゃないの?なんか体罰的なやつ…

 

 

まぁ的《てき》は的であって、風《ふう》と同じカテゴリのはずだ。

サイゼのディアボラ風ハンバーグが、決して悪魔のハンバーグでは無いのと同じようなモノだろう。

だからあれは決して体罰では無いはずだ。平塚先生セーフです。いやアウトだろ。

 

てか悪魔のハンバーグってなんだよ。怖いよ!

なんならもう私がミンチにされてハンバーグにされちゃうの!?ってくらいに怖い。

 

そういった意味では、あの崩れ落ちた男子生徒は今頃ミンチにされていてもなんら不思議ではない。

あぁ…あの男子生徒は今頃無事人生の続きを送れているのだろうか…?と、見知らぬ男子生徒に思いを馳せていると、いろはが酷く浮かない顔をして戻ってきた。

 

 

「なんかやばい…。高校生になって初めてのクリスマスがぁ…」

 

「どったの…?」

 

「……なんか良く分かんないんだけど、海浜総合高校ってとこの生徒会がさー、うちの生徒会と合同で地域のクリスマスイベントやらないか?って、迷惑な話を持ちかけてきたらしいんだー…」

 

 

地域のクリスマスイベント?

それを他校と一緒にやろうだなんて、まあ!なんて意識が高いんでしょ!

意識の低い生徒会長代表のいろはとは対極に位置する感じね!

なにせ依頼内容の第一印象からして『迷惑な話』だし…

 

 

「わたしまだ生徒会役員さん達とも全然うまく行ってないのに、いきなり他校と合同なんて、ハードル高すぎるでしょー…しかもよりにもよってクリスマスにやるって…」

 

いやそりゃクリスマスイベントをクリスマスにやらないでいつやるんだ?って話ですけどね。年明けてからやればいいの?

 

でも確かにハードルは高そうだ。

 

 

「とにかく放課後に先生と役員で会議するらしいから、断固反対せねばっ!」

 

 

ぐっ!と小さくガッツポーズを決めて、わたしガンバっちゃうよアピールするいろははいつも通り通常営業のあざとさなのだが、頑張る方向が超後ろ向き過ぎるでしょ…

 

 

× × ×

 

 

翌日、もちろんいろはは死んだ目をしていた…

 

そりゃね!平塚先生が絡んでる時点で、抵抗なんて無駄に決まってますよ!

 

 

「くっそぉー…!わたしのクリスマスがぁ…………こ、こうなったら!とりあえず様子見て、一応頑張りましたが無理でしたアピール出来る下地を作った上で、アイツを上手い事利用してやるっ……!」

 

などと、先ほどから意味の分からない供述を繰り返しておりますが、なんか言ってる事怖いよ!?

いろはすってば悪役まっしぐら!

 

 

「わ、私はとも君とクリスマス忙しいけど、応援してるから、が、ガンバってねっ」

 

ふぁいとっ!とガッツポーズをする智子を、いろはは淀んだ半目で睨んでいた……

くっ!友樹と智子のともともカップルめっ!

いろははその白けきった眼差しで智子を爆発させてしまえばいいのに。

 

 

× × ×

 

 

さらに翌日。

昨日は近くのコミュニティーセンターで、海浜総合高校と初会合をしたらしい。

さらに目が死んでいた。

 

 

「マジでやばいよ…。なんか呪文が飛び交ってるんですけど…。カスタマーサイドに立ったロジカルシンキングなソリューションでウィンウィンって、なに……?」

 

頭を抱え、げっそりした表情で謎の呪文を唱えるいろはす。

 

ああ…やっぱり意識高い系なのか…依頼からしてそっち側っぽいもんな…

 

よく意味が分かんないから要約すると、パルスのファルスのルシがパージしてコクーンみたいなものなのだろうか……?

 

あ、結局どっちにしても意味分かりませんでした☆

 

 

「しかも一応付き合いでごはん行ったりアドレス教えたりしたら、もうゆうべから何人もバンバンお誘いのメール来るしさー。あーめんどくさい…これはいよいよもって、早速奥の手を使わなければ…」

 

 

いろはさんはたったの1日で、早くも奥の手の投入を決めたようです。

でも話の後半部分はいろはすがいけないんだと思いました。

 

 

× × ×

 

 

週が明け、奥の手を投入したらしいそれからのいろはは、毎日目まぐるしく表情を変えていた。

時にはやる気を失い、時には生き生きと。

 

「はぁ〜、やっぱりアレ便利だわ〜♪」と安心した悪顔を見せた時のいろはは、特に生き生きしていました。

 

あまりにも黒くて怖いから追及はしないけど、いったい何が便利なのかしら…?

 

それでも全体を考えると、内部事情(どうもやっぱり生徒会役員と上手くいっていないらしい)や外部事情(とにかく海浜の生徒会長がまじヤバいらしい)の不協和で、そろそろマズい所まで来ちゃってるらしいけど…

 

 

「はぁ…生徒会長になって初めての仕事が大失敗とか…」

 

と、もうイベントが失敗する事は、いろはの中ではほぼ確定事項になってしまっているようだ。

 

結局事態は一切好転しないまま、海浜総合高校との初会合から10日ほど経ち、イブまではついにあと1週間程度と迫った金曜日、その日は朝からいろはの様子がおかしかった。

 

 

朝からなんだか思い悩んだ様子で、何度も深い溜息を吐いていた。

 

 

昨日なにかあったんだろうか…?

確か昨日は会合が休みになったと海浜さんから連絡が入ったみたいで、ちょっとホッとしたような顔をしてたのに…

 

ま、そもそも時間も余裕も全く無く、イベント失敗待った無しの状態での会合中止のお知らせでホッとしちゃうなんて、色々と末期なんだろうけども。

 

 

「……いろはさぁ、何かあったん…?もしかしてイベント中止とか…?」

 

いや、中止なら中止の方が、悲惨な結果で赤っ恥かくよりは幾分マシなのかも知れないけどね。

 

「ん?んーん?なんでも無いよ?…………………あ、あのさぁ香織…」

 

なんでも無いんじゃないんじゃない…

 

「……香織は……何か、本物…って持ってる…?」

 

「…………は?」

 

「いや!ごめん、何でもない…」

 

 

胸の前で慌てて両手をぶんぶんしていたのだが、また「ふぅ…」と溜息を吐いた。

 

いろはと付き合い始めて半年以上経つが、こんなのは始めての事だ。

仕事の悩みとかじゃないの?と思ってたのだが、どちらかと言えば人間関係、ともすれば恋に悩む純情な少女のようにも見えた。

 

紗弥加達と顔を見合わせるが、ただ事じゃなさそうだし、いろはの事だから色々あるんだろうな…と、みんなあえて気にしないよう振る舞った。

 

 

 

今は無理に言わなくても、聞いてほしい時、相談したくなった時に話してくれればいいよ?いろは。

 

 

× × ×

 

 

その日の夜、私はお風呂上がりでポカポカになった身体を冷まさないように、ホットココアを片手にベットの上で毛布に包まって、お気に入りの漫画を読んでいた。

 

うーん!この至福の時間が堪りませんなぁ♪

 

 

そんな至福の時間を堪能していると、ふいにスマホの着信音が鳴り響いた。

 

こんな時間に誰だろ?

 

ココアと漫画を置き、手に取ったスマホの液晶画面を覗くと、そこには一色いろはの名前があった。

 

 

メールならともかく、こんな時間に電話してきたのなんて初めての事だ。

ふいに今日のいろはの様子が思い出される…

 

『も、もしもし?どうかした!?』

 

『あ、香織?ゴメンね、こんな時間に』

 

『ううん?全然大丈夫だよー。なんか話したい事でもあったん?なんでも聞いちゃうよぉーっ?』

 

わざと明るい調子で話し掛けると、電話の向こうでクスッと笑う声が聞こえた。

いろはも、今日一日自分の様子が変だった事、そしてその事で私達が心配していた事は分かっていたのだろう。

 

だからこそ、私が明るく振る舞った事で、つい笑みがこぼれちゃったんだろうね。

 

 

『え、え〜っとさー、明日なんだけどさぁ、…わたし、クリスマスイベントの視察を兼ねて、先輩方とディスティニー行く事になったんだー』

 

びっくりした…今日おかしかったから、なんか悩みの相談かと思ったら、思いもかけない返答だった。

 

『へ?………そ、そーなの!?いいなぁ!先輩方って、葉山先輩とか!?』

 

『うん、そう…葉山先輩も来るよ』

 

『うわー、クリスマス時期に憧れの先輩とディスティニーとか、超羨ましいんですけど〜!』

 

さっきまでと同様、私は明るく振る舞ってはいるが、なんだろう…。ディスティニーに憧れの先輩と遊びに行くっていうのに、いろはがとてつもなく緊張している様子が伺えて、それに引っ張られて私もなんか緊張して手が震えている。ドキドキも止まらない。

 

『へへー、いいでしょー。でね、明日はちょっと……、……………思いっきり楽しんできちゃおっかな〜……って、……香織達に報告しとこう!って思ってさ』

 

『なによ〜っ!なにその嫌がらせ!爆発しろっ♪』

 

 

 

 

 

 

分かってる。たぶんあんたは何かを決意したんだね…

へへ〜って笑ってる声、かすかに震えてるよ…?

 

今のあんたの表情も、なんとなく分かるよ。

たぶん引きつって泣きそうな顔を、無理して笑顔にしてるんでしょ…?

 

 

ったく…。仕事の事で悩んでんのかと思ったらコレだもんね、この女は…

心配して損しちゃったよ。

 

だから私はいろはに満面の笑顔ととびっきり明るい声でこう言ってやった。

 

 

 

 

 

 

『よし!いろは!思いっきり楽しんできなっ!!応援してるからねっ』

 

 

 




この度もご覧いただきましてありがとうございます。

スミマセン!前回といい今回といい、前・後編に分けるつもりは無かったのですが、どうしても書いているうちに思いのほか長くなってしまい、また分割する事となってしまいました。

後編は土曜日には更新予定です。


あと、以前に別にアップした短編が、今回の作品の前編と後編の間の出来事のいろはす視点のお話だったので、もしかしたらそちらをご覧いただくと、今回の前編・後編がより楽しめるかも知れません。
全然作風が違うので、好みとは別物になってしまうかも知れませんが…


追記

そういえばついに今夜からアニメ俺ガイル二期がスタートですね!
まだ出番はおあずけでしょうが、早く喋って動くいろはすがみたいですね〜!

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