艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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第6話 再会・後編

 大和との挨拶を終えた後、拓海たちは比較的軽い物資の搬入を手伝うことになった。

 他の艦娘たちも手伝っており、文字通り人海戦術と言えた。

 

 この島に来たのは、2個艦隊。総勢56名の艦娘がいるのだ。作業も捗るというものだろう。

 それぞれの艦隊には、主力戦艦や空母が集中配備されているようだ。武蔵や長門、赤城や加賀など、層々たるメンバーが集まっている。

 ここまで大規模なのは、榛名たちの救出と、泊地棲鬼の大艦隊攻略のためといったところか。

 

 一晩、艦隊は島に泊まっていくと聞いてどうするのかと思ったが、使える空き部屋は全て使うのだそうだ。

2階や3階には段ボールを貼りつけて、一時的に雨風を凌げるようにするという。なるべく要塞内に入れるように、廊下や他の空きスペースなども使用するらしい。

 

 今回は臨時だから仕方が無いが、いつか準備が整った時に、ウェーク島やミッドウェー諸島の攻略拠点にもなるらしい。そんな時に、先の大戦の遺物をそのまま流用していては、手狭になってしまうことが容易に想像出来る。

 それを回避するために、後々本格的な改装工事と備品の搬入が行われるとは、光樹の談だった。

 

 

 

 

 

 日が落ち、夕食を済ませた後、拓海は再び要塞の3階に来ていた。

 今度は、南の窓の方から海を臨む。

 頬に当たる仄かな風が、心地良い。

 

「何だ。ここにいたのか、拓海。探したぞ」

 

 振り返ると、自分が知っている頃よりも遥かに老けた光樹の姿があった。

 

「そりゃ、悪い。半日も経ってないのに、何だか疲れてさ」

「この島に来て、あれよあれよとイベント続きだからな。誰だって疲れるだろうさ」

 

 光樹は肩を竦めると、歩いて来て拓海の左隣の窓縁に肘を置く。

 拓海から見る光樹の横顔は、拓海も知らない、色んな経験をしてきた人物の顔だった。

 疲れているようでいながら、何かの目標に向けて活き活きと進んでいる、そんな大人に見える。背も少しだけ、伸びているような気がする。

 

「こうなっている理由はまあ、さっき聞いたからいいけどさ……。お前、何があったんだよ? これじゃあまるで、浦島太郎になったような気分だ」

 

 大きな溜め息を吐き、疑問を光樹にぶつける。

 一緒に流されたと思ったら、33年後の未来で、親しかった親友は年を重ねている。

 わけが分からなくて、ストレスが溜まりそうだ。

 

「話せば、長くなるかな。なんせ、33年だからな。気が付けば、もう50だ。俺も、この島に流れついて、自分が生まれてない世界だと知って、驚いたよ。何もかも違うんだからさ」

「お前が、生まれてない……?」

「ここの自衛隊の人に助けられてから、本土に行った時、調べて貰ったんだ。そしたらさ、俺の祖父母に当たる人物が全員、死んでたんだ。1954年、東京でね」

「ゴジラ……」

 

 頭の中に、元の世界で見た1作目のゴジラの記憶が過ぎる。

 光樹の話が事実なら、彼の父母はそもそも生まれてないということになる。光樹が生まれる要素が、どこにも無いということだ。

 

「ああ。その後はゴジラの出現は無かったが、怪獣の出現は相次いだ。そこで、1964年に対怪獣専門組織だった防衛隊を特生自衛隊に昇格。以後、怪獣の脅威から日本を守り続けて来たってところだ。2015年時点での成果は、散々なものだったみたいだけどね」

「2体目以降と、その他の怪獣か」

「ああ。1984年にそいつが出現。で、2体目はデストロイアとの戦いで死亡。3体目が成体ゴジラになった。この時期にゴジラの骨が発見、3体目を警戒した機龍開発が始まる。しかし開発が終わる前に3体目が死亡。4体目――例の怨霊が現れた」

 

 拓海もゴジラ映画は一通り目を通しているが、ゴジラに関連した歴史がそもそも違っていることに、驚く。

 

「3体目って、“ジュニア”だよな?」

 

 “ジュニア”――――ゴジラジュニア。ゴジラの同族で、生まれた直後には“ベビーゴジラ”と呼ばれていた個体だ。人間の手で、保護された過去を持つ。

 

「殺されたんだよ、4体目に。小笠原諸島でその死体が打ち上げられていた。当時は、機龍関係やデストロイア以前の出来事による予算逼迫で、十分な迎撃が出来なかった。メーサーの運用予算すら下りなかった有様だ。3体目が、あまりに何もしてこないことでの油断もあったろうがな。護国聖獣も確認されるが、叶わず。最終的には、この怨霊は倒すことに成功。そして、翌年と翌々年に5体目がゴジラの骨を求めて上陸。2014年には、当時最大のゴジラだ。こっちは、日本にはノータッチだったけどな。この辺りは、拓海も大体知ってるとは思う」

「――――それでよく持ったな、日本……」

 

 光樹の口から語られる話に、拓海は内心舌を巻く。

 幾つかの映画の世界が一つになったような状態で、ずっと日本は戦ってきたのだ。戦果が散々でも、国が残っている時点で誇っても良いような気がする。

 

「6体目ってことは――富士山の麓に街は無かったか?」

「“ジャンジラ”だったか。開発計画はあったが、取り潰しになってるな。ゴジラを強く警戒した、特生自衛隊と政府からの圧力が掛かってる。代わりに、浜岡がムートーの襲撃を受けているな。事件後は、特自と米軍に接収されている。で、サンフランシスコでゴジラとムートーが戦闘。俺が流れ着いたのは、この翌年だな」

 

 ゴジラが、日本各所に既に現れていたのなら、無理も無いのかもしれない。計画が立ち上がった時期は知らないが、2体目が現れた後ならば納得が行く。

 日本の代表的な富士山の麓に、都市を作るだけでも様々な障害があるというのに、止めにゴジラだ。慎重にならざるを得ない。

 

「それじゃあ、他の原発の方はどうなってるんだ?」

「新規建造は下火になっていたな。何せ、『どうぞウチに来てください』って言ってるようなもんだからな。スーパーXシリーズがあったとはいえ、限界もある。向こうの世界に比べたら、遥かに原発への警戒感は強いな。おまけに今は、深海棲艦の対応で手一杯だから、使うにしても効率化しなくちゃいけない。こんな時に、ゴジラが来たらヤバいってんで新エネルギーの開発もしているが、民間に行き渡るまでは、まだ遠いな」

「なんつーか……。皮肉だな。ゴジラが出て来たってのは、かなりデカいみたいだ」

 

 そのおかげで、という言い方も変かもしれないが、核への危機意識が強まる。一方でエネルギー問題もあるだろうから、難しいところだ。

 

「それも日本に限るがな。他の国は、対岸の火事だと思っている。今まで襲撃が無かったのを幸いにしてな。このご時世だから、新しく導入する国も出て来るぐらいだ。特に、再編された国々で目立っているな。こういう国は、人口が流入した分、エネルギーもいる。それを賄うためなんだろう」

 

 日本にばかり集まる怪獣。そして、深海棲艦によって噴出するエネルギー問題。供給能力を欲している国からすれば、渡りに船なのだろう。

 自分の国には、ゴジラは来ないという気持ちが、更にそれを加速させる。

 

 

「で、お前は今の今まで何をしてたんだよ? 微妙に機密に触れてる気がするけど」

「そりゃ、こっちに飛ばされてすぐに特性自衛隊に入ったからな。その10年後に、6体目のゴジラ戦で実戦デビュー。その2年後に、深海棲艦の発見だ」

 

 思い切りの良さに呆れる反面、あちこち旅行に引き摺り回されたことを思い出して、納得する。だが、最後の方の言葉が少し引っ掛かった。

 

「ちょっと待て。発見って……」

「そ。俺が見つけた。証拠も揃えて上層部に訴えたが、見事にスルー。早めの対策が出来なかったせいで、今の有様だ。その後、第3次大戦に従軍。途中で深海棲艦が現れて、俺の対抗兵器開発案が、通ったわけだ。幸いこっちじゃ、過去の対ゴジラ兵器のノウハウが使えそうだったからね。利用させてもらった」

「――――それ、ますます言っちゃいけないことなんじゃないか? よりにもよって、艦娘の生みの親がお前かよ」

 

 あまりにもペラペラと大事な情報を言ってしまう光樹に、拓海は頭を抱えたくなる

「この島にいるやつで知ってんのは、俺と拓海と、三笠くらいだろうさ。他の子たちは、機密漏洩しかねないから、知らんな。お前だから、言うんだぜ?」

「それで、いつも三笠といっしょなわけか……」

 

 話しているところを見たのは僅かだが、あの気安い会話と三笠の光樹への信頼具合からして、長い付き合いだろうとは思っていた。

 

「まあ、な。おかげで、蔑ろにし過ぎて妻と娘には頭が上がらないよ」

「――――――オイ!?」

 

 朗らかに笑う光樹に、拓海は思わず声を上げてしまう。

 

 ――――馬鹿なんじゃないんだろうか。

 

「でも、ほら、三笠って可愛いだろう? 頼り甲斐もあるし」

「……お前、それ絶対家族の前で言うなよ?」

「悪い、もう言っちまった」

「馬鹿かよ!?」

 

 もう、どこから突っ込みを入れたらいいか分からない。普通、手遅れなんじゃないんだろうか。というか、こっちで家族が出来ていたのか。

 

「それは重々分かってるさ。おかげで、会う度に愚痴を言われるからな……。そこに三笠も加わって来るから、余計タチが悪い」

「お前なあ……」

 

 よくもまあ、楽しそうに笑えるなと思う。

 彼らには彼らなりの事情があるだろうから、それ以上は突っ込まない。

 

「――で、艦娘がどうやって生まれた、とかは聞かせてくれないのか?」

 

 話を戻すと、光樹が苦い顔をして頭を掻く。

 

「それなんだがな……。俺が作ったっていう話自体は、信頼出来る相手にはしてもいいことになってるが、それ以上はストップが掛かってる。その先は自力で調べてくれ、としか言えないな」

「何だよ、それ……」

「まあ、こんなこと言ってる時点で、臭ってるようなもんだが。こっちのクビもあるからね」

 

 光樹は親指を立てて、首を横に真一文字になぞる。

 

「そういや、あの怨霊ゴジラのことも聞いてなかったよな? 沖にいた奴って、明らかにそれだったけど。倒されたんじゃないのか?」

「それもノーコメントだ。悪いな」

「いや、いいけどさ」

 

 きっぱりと言う光樹に、拓海も引き下がるしかなくなる。

 

「世間じゃ、情報が錯綜してるんだよね。2002年のゴジラだ、とか7体目の個体か、とか。よく、怨霊ゴジラって分かったな?」

 

 光樹の問いに、拓海は頷く。

 

「熱線吐いた後の爆発が、キノコ雲だったんだよ。あと、シルエットかな。首が前に突き出て、ずんぐりむっくりな、さ。榛名は悲鳴を上げるし、神通や暁たちなんか震えてたな。忘れようとして振る舞ってるみたいだし。ゴジラとの間に、なんかあるんじゃ――って、お前は答えられないんだっけ」

「こんなやつで、すまんな。それに、こういうのは自分で調べて貰った方が、面白いと思ってさ」

「そんなとこだろう、と思った」

 

 しかし、光樹も随分と意地の悪いことを言う。

 肝心なことを教えてくれないとは、生殺しにされたような気分だ。

 

「――――どうやったら、調べられる?」

 

 そんな風に尋ねると、光樹は拓海を見て瞬きを二度繰り返し、それから溜め息を吐いた。

 

「それ、まじで言ってんのか?」

「大マジだ。榛名のあの怯え様を見て、ほっとけるかっての」

「はあ……。そうだな……、特別ヒントだ。東京府旧首都区――23区のことな。それと六菱重工。特生防衛軍のお得意先だ。旧首都からなぞってみるといいな。知ったら知ったで、口封じがあるだろうから、その辺は覚悟しとけよ?」

 

 光樹の意外な譲歩に、拓海は思わず彼を見返す。

 ノーコメントと言っていた割に、素直すぎないか。

 

「お前、それ言っていいのか?」

「拓海が榛名大好きだってのは、よーく知ってるからな。俺だって、三笠がいる。同じ立場だったら、やっぱり知りたがったろうよ」

 

 光樹の口から出て来る言葉に目を白黒させていると、2階から誰かが上がって来る音がする。

 振り向くと、その音の主は他でも無い、三笠だった。

 

「三笠さん……」

「“三笠”で良いですよ。白瀬さん」

 

 三笠はそう言って笑いつつ、拓海と光樹の間に立って、窓の外を見る。

 

「さては、三笠。さっきの話、聞いてたな?」

 

 参ったような顔で、光樹が三笠に話しかける。

 三笠はくすりと笑うと、光樹を横目で見やった。

 

「提督、ちょっと口が軽すぎませんか? 一人前の幹部といて、それはどうなんです?」

「別にいいだろう。こいつは親友なんだから」

「良くありません。何かの拍子で、漏れたらどうするんですか? 提督だって、自分で言っていたじゃないですか」

「世間のことがあるからな。隠していなかったら、今みたいな艦隊は作れなかったよ」

 

 二人だけの会話に置いて行かれ、拓海は混乱する。

 言っている意味が、まるで分からない。

 

「それ……、俺の前で話して良いことか?」

 

 拓海は、今聞いてはいけないことを聞いているような気がして、横槍を入れる。

 

「ん? ああ、いや。すまない。確かに話すことじゃ無いな」

 

 それもそうだと言わんばかりに、光樹は話を切り上げる。

 

「すみません、白瀬さん。こんな提督ですけど、普段は口が堅いんですよ?」

「……本当か?」

 

 三笠は苦笑して言っているが、どうにも信用出来ない。この世界での光樹のことをよく知らないのだから、尚更だ。

 

「ええ。私との関係だって、上手く隠してるみたいですし」

「何ですか、その不穏な言い方は……」

 

 さっきの話からして、どうにも気になる。

 すると、三笠が悪戯っぽい笑みを浮かべて、光樹の顔を覗き込んだ。

 

「人目はばからず、私の事を抱きしめちゃうくらいですから。ね? 提督」

「おいっ、こらっ! 誤解を生むようなことを言うな! いや、間違ってないけど違うっていうかだな!?」

 

 爆弾でも放り込まれたかのように慌てだす光樹に、拓海は白い目を向ける。

 

 これは、あれだ。もしかしなくても、もしかするヤツだ。

 

「まさかとは思うが、愛人とか言うまいな……?」

「正解です。白瀬さん」

 

 あっけらかんと言ってしまう三笠の言葉に、眩暈がしそうになる。

 自分の親友は、こんな奴だったかと思うと、溜め息が出た。出ざるを得なかった。

 

「ちょっ!? そうじゃなくて、娘とか相棒とか、そういう一言じゃ語れない関係であってな?」

「でも、私のことが好きなのは事実ですよね?」

「そ、それは……」

 

 慌てる光樹に言う三笠の横顔を見て、拓海は確信する。

 これは、完全に三笠にからかわれている。光樹の反応を見て、楽しそうに笑う顔が、何よりの証拠だ。しかし、そこに嫌味めいたものは感じられない。

 

「奥さんとは決着付きましたけど、娘さんはどうするんです?」

「ぐ……。頭の痛いことを言ってくれるなよ……」

 

 頭が痛くなりそうなのは、こっちも同じだ。

 結婚している上に、娘がいる。もう、これはアウトなんじゃないだろうか。

 

「勘弁してくれよ……。妻のことだけでも、命が幾つあっても足りなかったんだからさ……」

「いいえ。ちゃんとしてください。大体、提督が自分で言ったんじゃないですか。『自分で何とかする』って」

 

 光樹が抗議の弁を述べるが、三笠にぴしゃりと言われてしまう。

 もう、どっちが上司でどっちが部下なのか分からなくなりそうだ。

 

「なあ、光樹」

「何だよ、拓海……」

 

 どっと疲れた表情の光樹が、面倒くさそうに応じる。

 

「ちょっと、表でPK戦やろうか。お前、キーパーな」

「ボールが無いだろ。ってか、当てる気満々だよな、それ」

「殴られないだけ、マシだろ?」

「どっちも変わんねーっての」

 

 そんなやり取りの後に、沈黙が訪れる。

 何も、本当にボールをぶつけてやろうというわけでは無いが、しかし光樹の馬鹿さ加減には呆れを覚える。

 

 

 

 光樹の身の回りの話を終わらせたところで、その場はお開きとなった。

 拓海が下に降りようとした去り際、三笠から声を掛けられる。

 

「白瀬さん。榛名ちゃんのこと、お願いします」

「それは……もちろん」

 

 三笠の意味有り気な表情に首を傾げるが、敢えて聞くのは、はばかられた。

 それが何を意味するのか知らないまま、拓海は1階に戻るため、2階へ続く梯子を下りて行った。

 

 

 

 拓海が去って行った後、3階には光樹と三笠の二人が残される。

 夜の海に目を向けながら、光樹が呟いた。

 

「お前も、意地が悪いな。三笠」

「あれ以上は、白瀬さんが自分で知るべきだと考えたんでしょう?」

 

 三笠の問いに、光樹は薄く笑う。

 

「それもあるけどな。勿論、機密だからってのもある。どこで聞かれてるか、分かったもんじゃないからな」

「どうせ知られるなら、いっそ全部、言ってしまったら良かったのでは?」

「――――どうだろうな……。俺は、真実を知ったあいつに、責めて欲しいのかもしれないな。その癖、怖いんだよ。自分のしでかしたことが」

 

 光樹は、吐き捨てるように言う。

 そんな彼の腕に、三笠が肩を寄せて空を見上げた。

 

「白瀬さん、怒るでしょうね」

「ああ。だろうな。おまけに、あいつのお気に入りの榛名は、もろに()()を受けている。第1世代では、見られなかった傾向だ。あれで、潰されなきゃいいが……」

「白瀬さんなら、大丈夫ですよ。ちゃんと、榛名ちゃんのこと、受け止めてくれます」

「どうだろうな……」

 

 光樹も空を見上げて言った。

 三笠が、疑問の目を光樹に向ける。

 

「あの日、ウェークから流されるまで、拓海は自分の内に何かを抱え込んでいた。あの様子からして、誰にも打ち明けられないようなことを、だ。自分のことを受け止められないような奴が、そんなことを出来るのか、少々疑問だな」

「――()()()。白瀬さんのこと、舐めてません?」

「……そうか?」

「あの人は、強いですよ。もちろん、自分のことで強がっているのかもしれませんけど――。でも、好きな人のことなら、どんな無茶でもやってのけそうな……。そんな人です。貴方と似ています」

「言うほど、似てる気はしないけどな」

 

 光樹には、そんな自覚など無い。ただ目の前のことに夢中で、走って来ただけだ。

 その結果が、こんな有様となると、自嘲せざるを得ない。

 

「似てますよ。違うとすれば、頭を使うか身体を張るか……でしょうか」

「……なるほどな」

 

 高校の頃に見た、キャプテンとしてコートを走り回る拓海の姿を思い出す。

 あちこちに指示を飛ばし、状況に合わせて身体を張って対応する、献身的なプレイ。それが周囲の選手たちよりも、一際目立っていたように思う。

 そして、研究に軍での指揮と走り回っていた自分の姿を重ねる。

 

「提督も、どうかご自愛くださいね?」

「ありがとう……」

 

 微笑みながら呟く三笠に、光樹も答える。

 確かに、三笠がいれば、どんなことも乗り越えられてしまうように思えてならない。

 南の空に瞬く星を見上げながら、光樹は決意と覚悟を改めて固めるのだった。

 




 それでは、また次回。

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