艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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 最初に言っておく。 
 榛名さん、ごめんなさい……!!


第3話 破壊神、記憶の欠片

 それから1時間が経過した、ヒトヨンマルマル。

 南鳥島上空を雲が覆い、雨が降り始めた。

 拓海と艦娘たちは一時、作戦会議室にて集合し、動きを確認する。

 

「それじゃあ、皆の健闘を祈ってるよ」

 

 拓海の言葉を合図に、艦娘たちは直ちに、艤装を背負って海に出て行く。

 

 敵の包囲網に隙を作るための作戦が、今ここに始まった。

 

 

 

 

 

 早速、7人の中で最も速度の出る島風が先行し、索敵に入る。

 続いて神通以下、第6水雷戦隊が続き、さらにその後ろを榛名が航行していた。

 

 空を灰色の雲が覆い、そこから雨と風が吹き付ける。

 波は思いの外高いが、作戦の実行には大して影響しないだろう。

 

 

 榛名は5人の背中を見つつ、拓海の顔を思い出す。

 

 出会い方は最悪だったが、話してみるうちに悪い人では無いということは分かった。

 何故、自分のことを知っていたのかは定かでは無いが、この人なら何かやってくれるかもしれない。そんな予感がした。

 

 島に取り残され、後半には駆逐艦の子たちを動かせない状況に陥った中、榛名は神通と共に敵の掃討を行っていた。

 少しでも皆を安心させたかったし、自分が動くことで事態が良くなることを信じ、動き続けた。

 それで、無茶を重ねてしまった結果なのだろう。

 榛名は数日前に、敵艦載機の攻撃と戦艦の砲撃によって、大破してしまった。その時、神通も中破し、悲痛そうな顔をしながらも助けてくれた。

 要塞に何とか逃げ帰った時には、駆逐艦の皆も心配させてしまった。

 自分の未熟さが招いた結果なのに、これでは余計、自分がしてきたのは何だったのかと考えてしまう。仲間を泣かせてしまうまで無茶をして、何の意味があるのだろうかと。

 

 その後、榛名はドラム缶風呂形式の簡易修理ドックに入り、何日も入渠していた。資材が少なく、フル稼働で修理できるほどではなかったためだ。普段なら、高速修復材が無くても一日か二日程度で直せていた筈だ。

 

 自分が大破してしまった所為で、神通には一人で戦って貰うことになってしまった。

 彼女は自分以上に、敵と近距離で戦っていた。修理速度も比較的早いから、入渠が終わり次第、すぐに海に出て行ってしまう。

 

 榛名は、自分が情けなくて仕方が無かった。

 

 自分の判断の甘さが孤立を招き、駆逐艦を疲弊させる。そして自分も無茶を押し通した所為で大破し、戦線離脱をせざるを得なくなる。結果、神通にまで負担が掛かってしまい、彼女も損傷を繰り返す。

 

 完全に、悪循環に陥っていた。このままでは、隊の壊滅もそう遠くない。

 

 

 そんなことを思って途方に暮れていたとき、拓海と出会った。

 

 やっと入渠が終わり、見張りも兼ねて外に出ると、東の海岸に彼が仰向けで倒れていた。

 見るからに、漂流してきたとしか思えない恰好だった。

 周りには深海棲艦もいる。怪我をしていないかと思うと、居ても立っても居られず、榛名は彼に駆け寄った。

 

 近くで見てみると、日の光で乾いてはいるものの、やはり濡れた跡があった。身体に異常は無いようだが、しかし意識は無い。

 もしもの時のことを頭の片隅に置きつつ、声がけをしてみると、彼はすぐに起きた。

 無事だったことにホッとするのも束の間、気が付いた拓海に抱き付かれる。

 

 全く初対面の相手に、まさかそんな事をされるとは思わず、反射的に彼の頬を張ってしまった。

 叩いてしまったこと自体は申し訳なく思うが、しかし抱き付くとは幾らなんでも、度が過ぎているだろうと思う。

 

 それから会議室に入って、拓海が話していた作戦は、確かに一理あるかもしれないと思った。寧ろ、何故今まで気付かなかったのだろう、とすら思ったくらいだ。

 作戦自体は、そこまで「凄い」と言えるものではないかもしれない。しかし各艦の特性を把握した上で、この作戦を提案してきた。

 

 榛名は、この人物に自分たちを託してみたい、と思った。

 

 ――彼なら、私の「提督」になってくれるかもしれない。

 

 

「――さん。榛名さん」

 

 前を航行していた電に声を掛けられて、榛名は意識を現実に引き戻す。

 

「どうしたの? 電ちゃん」

「もうすぐ作戦海域ですよ。大丈夫なのです?」

 

 電は前進を続けたまま、後ろを行く榛名を心配そうに見ている。

 

「うん。ありがとうね、電ちゃん。頑張りましょうね」

 

 努めて笑顔を向けると、電も安心したように笑う。

 

「はい、なのです!」

 

 そう言って、電は前を向いた。

 

 

 ――作戦海域は、目の前だ。

 

 

 

 雨で視界が悪い中、敵の目標艦隊をある程度目視出来る位置にまで来ると、神通が水雷戦隊を二手に分ける。

 右の方、敵艦隊の左翼には神通と暁、響。左舷方向、敵の右翼には雷と電が向かう。

 既に敵艦隊は交戦に入っているようで、その相手は撹乱役となった島風だ。

 

 榛名も速度を落とし、砲撃準備に入る。

 背部の35.6cm連装砲を4基積んだ艤装が動き、X字に展開する。肩越しに2基、腰の横から2基が顔を出す形だ。

 展開が完了すると、砲を回転させ、前方の敵艦隊――戦艦ル級フラグシップに向けて照準を合わせる。

 あとは、タイミングを待つのみだ。

 

 

 島風が6隻編成の敵艦隊の周りを、連装砲ちゃんと共に自由に動き回り、注意を引く。

 これに気を取られた軽巡ホ級と駆逐ロ級が向きを変え、艦隊の行動を乱した。

 

 僚艦が、支援するか連れ戻すかでもたついていたところに、両翼から水雷戦隊の砲撃が加わる。

 左翼の戦艦ル級エリートと、右翼の重巡リ級がそれぞれ反応し、神通たちと雷たちに砲撃を加える。

 神通たちは砲撃を避けるために散会し、再び陣形を戻して砲撃と同時に魚雷を装填。射線確保をした上で、海中に叩き込む。

 魚雷の航跡が見えないまま敵は回避しようとするが、遅い。

 次々と爆発が起き、2隻は損傷する。

 

 体勢を崩したところで、島風と担当する敵を交代。援護しようと射撃準備をしていた、ル級のフラグシップとエリートの両方の撹乱に入った。

 その間に、混乱状態に陥っていたホ級とロ級に魚雷を撃ち、撃沈する。

 間髪入れずに踵を返すと、島風の援護に向かった。

 

 体勢を立て直そうとしていた、ル級エリートとリ級を神通たちが砲撃で損傷を与え、妨害する。

 雷と電が、島風が相手をしているもう1隻のル級エリートとル級フラグシップに接近し、砲撃を加えていく。

 2隻が混乱し、互いの距離が離れたところで、島風たち3人が離脱。

 電が無線で榛名に向かって、叫んだ。

 

「今なのです!!」

 

 

 ――――来た!

 

 電の声を聞いて、榛名は直ちに九一式徹甲弾を装填、ル級フラグシップに狙いを定める。

 

 ここで、失敗するわけにはいかない。

 

「主砲! 砲撃開始!!」

 

 榛名の声高に叫ぶと同時に、4基の主砲が火を噴く。

 

 全8門から撃ち出された徹甲弾は、油断して背中を見せていたル級フラグシップに殺到していく。

 徹甲弾は次々と目標に突き刺さり、炸裂。内側から敵を食い破っていった。

 たまらずル級フラグシップは爆発を起こし、叫ぶ間もなく海中に沈んでいった。

 

「主砲、直撃弾! 目標の撃沈を確認しました!」

 

 榛名が無線で報告すると、拓海から指示が飛んで来る。

 

《よし! 全艦、南の海岸まで撤退! 榛名はそのまま、島風と一緒に神通さんたちの撤退を掩護してくれ》

「了解です!」

 

 そのやり取りの直後、直ちに神通たちが撤退を開始する。

 島風が連装砲ちゃんと共に残った3隻を撹乱し、榛名が砲撃を加えて撤退支援を開始した。

 

 神通と暁型の4人が抜けると、島風も離脱する。

 敵はル級エリート1隻が、未だ戦闘の意志を残していることを確認して、榛名がさらに砲撃を加えた。

 敵の攻撃が防がれるのと同時に、榛名の脇を水雷戦隊が抜け、榛名も全速力で後退。交戦海域を離脱する。

 

 両翼の敵艦隊が援護に来た時には既に、榛名たちは海岸付近まで撤退を終えていた。

 

 

 

 島の南の海岸に着くと、榛名は敵の追撃がないか確認する。

 この時には雨も強くなり始め、視界が悪くなっているが、敵影は認められない。頭に装着した電探にも、特に異常は無かった。

 

「敵影、認められません。白瀬さん、通信の方はどうですか?」

 

 榛名が無線に問いかけると、奥から答えが返って来る。

 

《うん。衛星通信が、さっき横須賀に繋がった。第1・第3艦隊が、支援輸送機に先行してこっちに向かってるみたいだよ。――作戦、成功だね》

 

 その言葉を合図に、駆逐艦たちが「やったー!」と声を上げて跳び上がり、喜びを露わにする。

 神通も胸を撫で下ろして、駆逐艦たちと笑い合っていた。

 

「ありがとうございます! 白瀬さん」

《いや。俺は何もしてないよ。こっちからは、無線しか聞こえてなかったし。榛名たちが頑張ってくれたおかげだよ。――ありがとう》

「いいえ。白瀬さんのおかげです!」

 

 拓海の最後の言葉のニュアンスに、何となく違和感を覚えたが、特に気にすることなく榛名は称賛の言葉を贈る。

 

《俺がしたのは、作戦の提案と、最後の撤退指示だけだよ。大したことなんて、何もしてない。頑張ったのは、榛名たちだ。俺を褒めるよりもまず、自分たちのことを誇ってくれ》

「――はい。ありがとう、ございます……!」

 

 その言葉に素直に従い、榛名は礼を述べた。

 

 確かに、作戦を成功させたのは自分たちだ。

 油断は出来ないが、今この瞬間だけは、小さな成功を喜ぼう。

 

 

 

 

 

 

 拓海の言った通り通信網は回復したらしく、榛名たちにも通信があった。

 第3艦隊の、第1艦隊との兼任をしている司令官からだった。

 彼は今、低速飛行をして艦隊の後を追う支援輸送機に搭乗しているらしい。あと1時間もあれば、来るとのことだった。

 

 

 通信を終え、待機のために島に上がろうとしたまさにその時、異変が起こった。

 

 最初に気が付いたのは、暁だった。

 

「ねえ、あっちの海、なんか盛り上がってない?」

 

 そう言って暁が指差すのは、島から1km離れた辺りだった。

 確かに、あの辺りだけ海面がやけに盛り上がっている。その事に違和感を覚えていた時だった。

 

 海面から、その正体が姿を現す。

 

 最初に長い尾のような物が空に向かってしなり、一気に海面に叩きつけられ、ここからでも確認できるほどの大きな水柱が立つ。

 直後、何か刺々しい山のような物が海面から顔を覗かせた。

 そのまま、迫り上がっていくと、巨大で真っ黒い生物が上体を起こす様子が、見て取ることが出来た。

 

 視界が悪くてはっきりとは見えないが、そのシルエットから榛名は心に何か、ざわついたものを感じる。

 

「何よ、あれ。新手の深海棲艦?」

 

 先に砂浜に上がっていた暁が、どこか呑気な声で言っているのが聞こえる。

 

 いや、あれは――――――深海棲艦などでは無い。

 

 そう、確信した直後。

 

 黒い生物が頭を上げ、空に向かって咆哮した。

 大気を震わせ、今にも裂かんとするザラついて濁った、耳を(つんざ)きそうになる鮮明な声。

 その声に怯えて、神通や駆逐艦たちが口々に言い始める。

 

「いったい、何なんでしょうか……」

「おうっ!?」

「レ、レディーがこの程度で……」

「姉さん、震えてるって。――でも、これは……」

「な、何なのよ。この声」

「はわわわっ!?」

 

 不意に南海岸近くにある、要塞の非常扉が開き、中から拓海が飛び出してくる。

 彼の顔には、驚愕の感情が貼り付いていた。

 

「あの、白瀬さん。あれは、一体――」

 

 神通が尋ねようとした瞬間、光が瞬き、雷鳴が轟く。驚いて全員が音のした方向――黒い巨大生物に注目する。

 

 荒れた海の上に、その生物に向かっていく深海棲艦の影が見えた。

 それを前に、生物の背中が青白く光る。

 

 光が一瞬、消えたかと思うと――。

 

 巨大生物が口から青白い光を発射し、近づいてきていた深海棲艦の群れに向かって、光の束を発射した。

 深海棲艦たちは瞬く間に焼き払われ、直後に巨大な爆炎と煙が上がる。

 キノコ雲の形に上がる雲を見て、榛名がポツリと呟いた。

 

「原爆――――――――?」

 

 ふと、あの日の呉で見た記憶が、榛名の脳裏を過ぎる。

 そして、現地の人々には聞こえていなかっただろう、多くの怨嗟の声――。

 

 再び発せられた、真っ黒い巨大生物の咆哮が、榛名の心を揺さぶった。

 

「――――きゃあああああッ!!」

 

 ――怖い。

 ――怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……!

 

 身体が震え、全身から沸き立つ悪寒に必死に堪えながら、榛名が裏返った声で悲鳴を上げた。

 神通たちが驚いて、榛名の元に駆け寄る。

 拓海も慌てて、自分の靴やズボンの裾が濡れるのも構わず、神通たちの後に続いた。

 

 

 ――あれは、いったい何?

 

 真っ白になりかけた頭の片隅で、榛名は考える。

 

 キノコ雲、恨みと憎しみに満ちた咆哮――――。

 何故? 何故、今になって?

 

 しかしそんな疑問もすぐに吹き飛び、榛名は悲鳴を上げ続ける。

 

 

 それしか、自分の心を守る手段は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、ゴジラ……ですか?」

 

 神通の問いかけに、拓海は頷いた。

 

 現在拓海は、要塞の中の空き部屋の一室に、神通と共に床の上に座っていた。

 目の前には、急場しのぎで敷かれた段ボールの上で、榛名が寝息を立てている。段ボールは、榛名をこの部屋に連れ込んだ際に、暁たちに頼んで持ってきて貰ったものだ。

 榛名の目尻には、僅かに涙の跡が残っている。

 

 拓海は胡坐を掻いて彼女を見下ろしつつ、隣の神通と言葉を交わす。

 

「神通さんは、聞いたことあるかい?」

「話だけでしたら……」

「そうか……。俺も、東の海岸で榛名と会った時に、聞かせて貰ってはいたんだ。メモはしたけど、正直、半信半疑だった。あんなデッカイ怪獣が、まさかいるわけが無いって。――だったら、特生防衛軍は何なんだって話になるけど」

「そうですか……」

「神通さんは、あの時何か感じた? その、榛名じゃないけどさ」

 

 神通はゆっくりと首を縦に振る。その表情は、恐怖と困惑が入り混じったようになっていた。

 

「私も、榛名さんほどではないですが……。あの怪獣が叫んだ時に、自分の根本的な何かを揺り動かされてしまったような、そんな気持ちでした。暁ちゃんたちも、多分私と同じだと思います。明らかに、怯えていましたから」

「そっか……」

 

 

 榛名が悲鳴を上げた後、1kmの沖合では深海棲艦とゴジラの激戦が繰り広げられているようだった。

 北や南の方から深海棲艦がゴジラの方へ向かい、砲撃を加えているように見えたのだ。

 南東の奥の方からも、深海棲艦の大群がゴジラに突っ込んでいくのが見えた。

 おまけに何かに弾かれたように、雨脚が強くなっているにも関わらず、大量の艦載機までもが飛んでいるのも見えた。

 

 しかし、ゴジラはそんな攻撃は全く物ともしていなかった。

 

 尻尾で敵を薙ぎ払い、艦載機共々、熱線で丁寧に焼き払って行く。

 そして、熱線が当たって爆発する度に発生する、あの灰色がかった白いキノコ雲。

 

 遠目にはハッキリと見えなかったが、あれは多分、怨霊ゴジラだ。

 この世界に来るよりも以前、一度だけそんな特徴を持ったゴジラが出て来る映画を見た覚えがある。

 シルエットもかなり大きいが、あの執拗な攻撃も含めて、特徴がかなり一致していた。

 

 映画の通りなら、あのゴジラは少なくとも、今から100年ほど前の戦争で死んだ人々の集合体なのかもしれない。

 そうでなければ、榛名のあの動揺ぶりも説明出来なかった。

 

 

 艦娘たちは、自分が軍艦だった頃の記憶を持っている。それを元に、艦娘は生まれたのだそうだ。

 神通と話す中で、拓海はそれを知った。

 向こうの世界のゲームでも、そういったことに言及する艦娘は当たり前のようにいたから、あまり驚きは無かった。

 

 呉の空からも、原爆による雲が見えたのだと言う。そうなると、当時大破着底したままだっただろう榛名が、見ていても不思議では無い。

 榛名は、その時の記憶が呼び覚まされたのだ。

 

 

 拓海の話を聞いて、神通は納得したように静かに頷いた。

 

「確かに、そう考えると自然なのかもしれません。皆が震えたのも、そのゴジラが怨霊だと考えると、分かる気がします。――白瀬さんは本当に、私たちの知らない世界から、来たんですね」

「まあ、ね……。まだ、実感が湧いてないところもあるけど。でも半分、これも現実なのかって受け入れ始めてるよ」

 

 拓海は苦笑しながら、榛名を見つつ答える。

 

 

 そう思えるのも、榛名や神通たち艦娘が「生きている」からなのかもしれない。

 画面の向こうで決まった音声を返すのでは無く、生身で話し、考え、悩み、喜怒哀楽の感情を表す。

 それらの反応は、生きていなければ中々得られないものだ。

 そしてそこには、拓海の知らない彼女たちが、沢山いる。そう考えると、これが夢だとは到底思えなくなっていた。

 

 

 

 

 ゴジラが、襲って来た深海棲艦を返り討ちにした後、南鳥島の通信は完全に回復した。

 低電力で賄わなければいけないのは相変わらずだったが、使える無線は全て使えるようになったのだ。

 ゴジラ出現の報を受けた第1・第3艦隊及び輸送機は、警戒を厳として南鳥島に上陸するようだ。

 

 しかしゴジラの方はと言うと、南鳥島をじっと見つめた後、何故か南東方面の方に向かって行った。

 泣き崩れて、榛名が明らかに戦えない状況でこっちに来られたらどうしようかと思ったが、ゴジラは南東に進路を変え、去って行った。

 

 取り敢えず助かったことに安堵し、榛名を運び込んだ後、2階に上がってその方向を見てみた。

 視界も悪く、当然ながら見えなかったものの、幾つかの爆音とゴジラの咆哮は、島まで聞こえて来ていた。別の深海棲艦と、交戦していたのかもしれない。

 

 

 

 

 

「まさか、榛名さんがそんな過去をお持ちだとは、知りませんでした」

 

 榛名を見つめながら、神通が呟く。

 

「その時にはもう、沈んでたんだっけ」

「よくご存じですね。私は、その2年前を最後に記憶が途切れていますので……。この姿になってから、件の日のことは伺っていましたが……」

 

 重苦しい空気が、その場を支配する。

 あれだけのことがあれば、こんな風になってしまうというものだ。

 

 明るくて元気なイメージを抱いていた榛名が、あそこまでの動揺を見せた。

 拓海が勝手に作り上げた幻想の部分もあるかもしれないが、それでもショックを隠し切れなかった。

 

 隣で神通が立ち上がり、心配げな表情を浮かべながら榛名を見下ろす。

 

「白瀬さんは、榛名さんが目覚めるまで傍にいてあげてください」

「俺で、いいの……?」

「私たちの中では一番、白瀬さんが榛名さんのことをお任せ出来ると思います。あの日のこと、あの怪獣のことは、多分、白瀬さんの方がお詳しいと思いますので」

「そんな、俺は……」

 

 何も、拓海自身もそこまで詳しいわけでは無い。

 「あの日」のことは、歴史の教科書や各種メディアに載っていることくらいしか知らない。

それにゴジラの方も、あの映画で語られていたことくらいしか分からないし、そもそもこちらの世界で、同じような出来事だったとも限らない。

 

「本当に、俺で?」

 

 不安に思って神通を見上げると、彼女はくすりと笑う。

 

「白瀬さんなら、変なことはしないでしょうから。それに、白瀬さんの気持ちは、他の皆も知っていると思いますから。作戦会議の時、事あるごとに盗み見していましたよね?」

 

 どうやら、響だけでなく神通にまでも気付かれていたらしい。

 それにその話しぶりからして、暁型や島風たちにまでも気付かれているようだ。

 

「参ったな……。まあ、ずっと憧れてた子ではあったし」

「白瀬さんの世界にはいなかったのに、ですか?」

 

 神通の指摘に、拓海は冷や汗を覚える。

 そういえば、向こうには榛名たちがゲームキャラクターとして登場することを、全く話していなかった。

 

「あ、いや、その。榛名みたいな子が、タイプっていうか。えっと、その――」

「そうなんですか……?」

 

 慌てて言い繕うあまり、しどろもどろになってしまうが、神通は首を傾げる。

 しかしそれ以上の追撃が無い当たり、一応誤魔化すことは出来たようだ。

 

「は、榛名は、ど、どうなのかな?」

 

 話題を僅かに逸らそうと、榛名の方に視線を移す。

 榛名はすっかり落ち着いたようで、すやすやと寝息を立てていた。冷えた身体を温めるためにストーブを置いてはいるが、風邪を引かないかが心配だ。

 

「それは、ご自分でお聞きになってください」

「そりゃ、そうだよな」

 

 微笑む神通に、拓海はやや気落ちして肩を落とす。

 少し期待してしまった自分が、恥ずかしい。

 

 ややあって、神通は部屋の出口に向け足を踏み出した。

 

「それでは、私はこれで失礼します。そろそろ、輸送機の方と定時連絡がありますので。皆さんの到着する頃になりましたら、また呼びに来ます」

「分かった。お疲れ様、神通」

「いえ。こちらこそ、お疲れ様です。白瀬()()

「えっ……?」

 

 ニコリと神通は一礼すると、拓海が何か言う前に部屋を出て行く。

 

 拓海は、神通が出て行った出口を、ただ口をポカンと開けて見ているしかなかった。

 




 はい、響に続いて榛名も泣かせてしまったクソ提督はこちらです。
 この後、作者は金剛姉妹に徹甲弾と三式弾を雨あられと貰ったのは言わずもがな……。


 さて、本作品にて本格的に、あのゴジラが登場となりました。とっても地味ですけど。
 話の都合上、どうしても艦これサイドに寄ってしまうので、ゴジラの見せ場はまだ先になるかもしれません。
 ゴジラの活躍(?)に期待されている方、申し訳ありません。

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