艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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 お久しぶりです。
 今回は、あの人のターンです。


Interlude 01 辿り着く地で

 

 石垣島攻略作戦が行われているのと時を同じくして、立花由里はとある場所に来ていた。

 鹿児島県は鹿児島市。湾に浮かぶ桜島を望む港近くに止めたレンタルカーの中から、由里はその島を見つめていた。

 

 3週間前には、桜島で火山活動の活発化とその後の急速な鎮静化という、不可解極まりない現象が発生。これが僅か1日の内に、起こっていた。桜島の観測史上例に無いこの事態を受けて、政府は全島を立ち入り禁止区域に指定する。

 

 そして、その同日に島根県の三瓶山が突然活動を開始。活火山に指定はされていても、噴火の予兆がそれまで見られなかった火山の異変は、近辺に出現していたある怪獣との関連性が、各メディアで取り沙汰されていた。20世紀末の富士山の噴火とそれに関わる一連の事件という前例が、その説を後押しする要因にもなっていた。

 

 世間では、桜島と三瓶山の活動には関連が無い様に思われているが、由里は寧ろ逆だと考えていた。

 

 第4の護国聖獣、阿吽魏羅珠(アンギラス)。「続・護国聖獣伝記」に記載されている、“火の神”とも言うべき怪獣の特徴が、三瓶山近辺に出現した怪獣と酷似していた。

 マグマのような赤みを帯びた表皮と、炎を吐き出すその様は、由里が手にしているその本の記述と一致する。

 本を読む限り、伊佐山吉利は阿吽魏羅珠を《火山そのもの》と捉えていたようだ。

 それらの内容と桜島、三瓶山の両火山の変化や周辺で起こった地震データなどを調べ、本の記載と照らし合わせる。そこから確証を得られたわけでは無いが、由里はそれらの現象が阿吽魏羅珠によってもたらされたものだと考えていた。

 

 

 6月6日の早朝、桜島は小規模の地震後に活発化。同7時ごろには三瓶山が噴火を開始し、直後に巨大な4足歩行生物が発見される。ほぼ同時刻に、青木ヶ原樹海から飛び立った千年竜王が呉を目指して各地を進撃。4足歩行生物はこの動きを予期していたかのように、真っ直ぐ呉へ。

 千年竜王を撃退した生物は、三瓶山付近まで引き返し行方を眩ませる。その1時間から2時間後には、小規模な噴火を繰り返し、大規模噴火の予兆すら見せていた桜島の活動が急速に収まっていた。

 由里は、この生物は元々桜島の地下におり、千年竜王の活動に呼応するように地下深く潜り、マントルを通って三瓶山から出現したと考えている。あまりに突飛な考えではあるが、20世紀末の2体目のゴジラと富士山噴火の関連を知っていると、笑い飛ばせる話でもない。

 

 

 

 

 

「白瀬……拓海……」

 

 桜島から視線を外し、由里は手元の資料に目を落とす。

 あの老人――伊佐山吉利が口にしていた「新米少佐」という言葉を頼りに、艦娘隊――特生防衛海軍内部に該当する人物を調べた結果、彼の名前が出て来た。

 2038年10月25日生まれの18歳で、この1ヶ月間で民間人から所謂「提督」の職についた青年だ。それ以前の経歴は、一切不明。書類上のデータで見つかったのは、たったのこれだけだ。あまり褒められた方法では無かったが、やっとの思いで掴んだ情報はそれだけだった。

 出身地や通っていた学校、士官学校の在籍記録、海外での類似人物の目撃情報なども洗ったが、該当する項目は一つとして無かった。まるで、ある日突然現れたかのようだ。

 白瀬拓海に宛がわれた「新米少佐」という階級名も、前例が無い。准将や准尉のようなものらしいが、「新米少佐」の階級を新たに置こうとしていた、という話も見当たらない。

 

「あまりに都合が良すぎる……」

 

 あまりにも不可解な事だが、それを推測するにしても情報がまるで無い今、それは不可能だ。考えても仕方が無い。経歴が分からないとなると、次は人物像だ。

 彼の人となりについては、幸い噂程度に漏れ聞こえて来ていた。知人を使って得た情報を整理すると、基本的に「艦娘たちと付かず離れず」の関係を維持しており、司令官としての将来性は期待されている……といったところだ。上司部下の関係を維持したり、家族のように扱ったりと、両極端な司令官が多い中、そのどちらでも無い人物だというのは珍しい。一方で、艦娘「榛名」とは他の艦娘たちと比べて極端に親しくしているようだ。

 その他の人間関係としては、同じ艦娘隊の鳴川光樹少将とは年の離れた友人といった間柄で、その秘書艦である「三笠」とも多少交流がある。そして実質的な直接の上司は、芝浦兼続大佐だ。最近、試験的に設立された部隊に共に配属されているらしい。

 

「司令官としては、可もなく不可もなし……」

 

 多少歪さを感じる部分はあるが、それは本人に会って直接確かめなければならないだろう。

 ただ、彼に会ってどうすればいいのだろうという疑問はある。

 伊佐山吉利は、「続・護国聖獣伝記」を彼に見せろと言うが、それが何を意味するのかは分からない。この書物の中身は、大半が阿吽魏羅珠に纏わる記述で占められている。恐らくは、白瀬拓海と阿吽魏羅珠に何らかの関わりがあるのかもしれない。

 

 そして、白瀬拓海と関わりのある「女」であり、千年竜王を狂わせた原因であるらしいこと。伊佐山吉利本人は、曖昧な物言いをしていたが話の流れから、そう言いたかったのだろうと推測は出来る。

 こちらは、千年竜王が樹海を飛び立った日とその前後に当たりを付けて調べている最中だ。

 

 白瀬拓海と接触する渡りは、3日前に何とか付けることが出来た。艦娘隊に申し込んだ結果、翌7月1日に、呉鎮守府本庁舎でというということが向こう側から伝えられた。

 意外だったのは、応対に鳴川少将が直接当たったことだ。

 何らかの対深海棲艦作戦の準備が行われていることを、由里は察知していた。ゴジラが沖縄を襲撃する前後に、ホワイトビーチ基地で大規模な動きがあったことから、容易に察することは出来た。

 そのような状況であれば、鳴川少将も多忙に違いない筈だ。実際、由里が横須賀に電話を掛けた時点で、彼は鎮守府を留守にしていた。

 由里は元々、「艦娘隊の新米少佐に会いたい」と問い合わせただけで、鳴川少将が出て来るとは思っていなかった。どこから応対しているのか気にはなったが、それを聞く暇は無かった。

 何故、彼が出たのかも不明なままだ。

 

 

 

 由里は手元の書類を助手席に置き、車を発進させる。

 桜島を見に来たのは元々、活動が従来通りに戻っているかをこの目で確かめるためだ。直近の火山情報や付近の住民からの聞き込みで、島は普段の活動に戻っていることは分かった。今のところは、それだけで十分だ。

 もし阿吽魏羅珠が再び現れるようなことがあった際に、参考に出来るという点において収穫と言える。

 阿吽魏羅珠の出現に関する一連の情報は、由里の推測を交えた上で特生防衛軍には伝えてある。その影響か、鹿児島市内には警戒にあたる軍関係者の姿も見られた。

 

 

 

 車を南に走らせること約1時間、由里はもう一つの目的地・池田湖へと到着していた。

 ここはかつて、護国聖獣の1体で水の神最珠羅(モスラ)が目覚めた場所だ。当時、由里が「護国聖獣伝記」の内容に確信を持つきっかけを与えた場所でもある。

 インファント島とのモスラとは違い、あくまでクニを守ることに重きを置いており、人間に対しても容赦の無い行いをする。それは、46年前に若者たちが繭のようなものにくるまれ、溺死させられていた事件に如実に現れている。個々の人間にこまで牙を剥いたモスラは、後にも先にも件の聖獣だけだ。

 最珠羅の出自にも、不明な点は多々ある。どこで生まれ、どこからやってきたのか。インファント島を日本の学者が調査したことがあったが、あちら側にも記録らしいものや言い伝えなどは残っていなかったという。

 尤も、魏怒羅(ギドラ)婆羅護吽(バラゴン)も出自がはっきりしていないのは同じだ。過去、バラゴンやキングギドラが出現した例はあるのだが、それらの個体はいずれも護国聖獣とは全く別の怪獣だ。

 

「どうしても抽象的な話になってしまうわね」

 

 溜息を漏らし、そういえばかつての自分は魂がどう、ともっと曖昧なことを真剣に考えていたことを由里は思い出す。

 それ自体が大きく外れているとは思わない。当時の人々が、何らかの脅威で怯えていたがために、自分たちに牙を剥いた者らを守り神としたのだろう。

 

 車を降り、由里は湖岸へと出て湖を眺める。

 湖面は穏やかに揺れているだけで、変化は何も感じられない。

 怨霊ゴジラと思しき怪獣が5年前に現れてから今まで、護国聖獣がそれを迎え撃ったことは無かった。

 何故、という疑問は尽きない。しかしかの千年竜王が復活していたというのなら、最珠羅や婆羅護吽も再び目覚めるのではないかと、由里は予感していた。

 妙高山に眠る婆羅護吽は、復活の兆しを見せていなかった。ならば次は、最珠羅がどうなっているかを確かめる必要がある。池田湖へと来たのは、そう考えての事だった。

 

 

 ふと視線を横にずらすと、岸辺に人影を見つける。由里からさほど遠くない所で男女3人と思しき人影が、1匹の犬を囲んでいる様子が窺える。顔立ちや服装からして、若者といったところだ。それぞれが、手に野球バットや木の棒らしき物を持っている。

 

「――――っ」

 

 犬の悲鳴と若者たちの笑い声を聞いて、由里は息を呑む。

 彼らが犬を弄んでいることは、傍目から見ても明白だった。犬の怯え切った様子と身体の状態を見るに、既に何度か殴られているのだろう。このまま放っておけば、犬はそのままなぶり殺しにされてしまう。そして、若者たちがそれをやめるつもりが無いことも、見ていてよく分かった。

 あまりの痛ましさに、若者たちを止めようと由里は咄嗟に彼らの方へと足を踏み出す。その瞬間、由里はここで起きた事件のことを思い出していた。

 

 46年前、若者たちが不可解な死を遂げた事件だ。少なくとも由里は、あの事件が最珠羅によるものだったと確信している。その原因は何だったのか。

 由里は、当時のテレビニュースの記憶を掘り返す。

 若者たちの遺体が発見された現場で、木箱に詰め込まれていた犬が、警察に保護されている映像が流れていた。

 一見、両者の関係は不明確だがそこに最珠羅という存在を加えると認識は自ずと変わる。

 

 そこまで考えて、杞憂であって欲しいと祈りながら由里は若者たちに近づいて行く。

 距離にして、200mといったところだろうか。逸る気持ちに従って小走りに駆けるが、流石にこの年齢ともなると短距離とはいえ少々きついものがある。それでも、由里は足を止めようとは思わなかった。

 

「ちょっと、君たち――――」

 

 ここまで近づけば声が届くだろう、と思うところまで来て若者たちに話し掛けようとしたとき、変化は突然起こった。

 

 湖面が前触れも無く飛沫を上げ、水中から現れた巨大な存在が若者たちに襲い掛かる。

 その巨大な何かが撒き散らした水を頭から被り、由里は咄嗟に身を屈めてやり過ごす。上から落ちてくる水が途切れ、恐る恐る目を開けると、若者たちがいた場所は目を覆いたくなるような惨状と化していた。

 木に叩きつけられて首があり得ない方向に曲がっている者、《それ》が持つ細い脚に胸を貫かれている者、まるで食いちぎられたかのように上半身が無くなっている者――――。

 それを目にした瞬間、由里は思わず口元を抑えて込み上がる吐き気を堪える。あまりの事に思考を停止しかけるが、そこに佇む巨大な存在を見て、何が起こったのかを理解する。

 

「最珠羅……」

 

 由里はその巨体を見上げて、そう溢す。

 毒々しさを感じる極彩色の羽を持ち、先の曲がった尾と紫色の眼をした巨大な昆虫型の怪獣。蝶と蛾に加えて蜂のような特徴は、禍々しさと美しさを同居させていた。

 最珠羅は器用に足を動かすと、呆然としている由里の前に迫る。紫の瞳は由里を見下ろし、彼女の表情を克明に捉える。

 由里は、まるで圧迫されているかのような感覚を抱いていた。一歩でも下がれば、殺されてしまうのではないかと錯覚する。それほどに、由里は眼前の水の守り神に圧倒されていた。

 

「――――――!」

 

 最珠羅が由里を見下ろしたまま鳴き声を上げると、辺りの木々が騒めき、湖面が波紋を描いて揺れる。

 自分の根本――ありていに言えば、命そのものが今にも脅かされようとしている感覚に内心震えながら、尚も由里は最珠羅を見上げ続けた。

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせながら、由里は目の前の巨大生物を観察する。

 インファント島のモスラからはあまりにかけ離れた、禍々しい特徴は当時から特に変わるところが無い。しかし、その大きさは全く違っていた。

 由里がざっと目測した限りでは、当時の倍以上というところだろうか。翼、胴、脚、頭に至るまで、何もかもが大きくなっている。それが一層、由里に圧迫感を与えることに繋がっているのだろう。

 思考に耽りかけたところで、由里は現実に意識を戻す。

 最珠羅から意識を背けないようにしながら、由里は周辺の様子を確かめる。

 

 ――――最珠羅は若者たちを襲う時、一対の羽を持つ成虫の姿で水中から姿を現した。46年前に最珠羅は、この場所から幼虫から成虫へと変態し、大空へと舞い上がった。今回も再び幼虫から活動を開始したと仮定するには、その証明たる繭の存在はどこにも見当たらない。

 

 ふと、先程彼らに囲まれていた犬がどうなったのかと、姿を捜す。由里が見る限りでは、犬はどこにもいないようだ。最珠羅が若者たちを襲った直後に、遠ざかっていく怯え切った鳴き声を由里は耳にしていた。少なくとも、この場からは逃げ果せたのだろう。

 ただ、あの傷と人間たちから受けた仕打ちのことを考えれば、犬がトラウマを持ってしまったのは確実だ。それに、遠目からではあるが、傷の具合を鑑みるにこのまま放っておけば死に至ってしまう。そのことだけが心配だが、今の状況ではどうしようもない。

 

「…………」

 

 由里はもう一度、視線を最珠羅の方へと戻す。

 いつの間にか最珠羅からは威圧感が感じられなくなり、その代わりに由里をじっと観察するかのように彼女を見つめていた。

 それだけで、やはり自分は下手をすれば殺されていたのだと由里は確信を得る。

 

 ここに来て初めて、由里は護国聖獣の恐ろしさというものを実感していた。

 若い頃には終ぞ感じることの無かった、神と呼ばれる怪獣の脅威。当時から、聖獣たちがそういう存在であることは知っていたが、実際にそれを体験した今、それは魂に刻み込まれたと言っても良い。

 

 最珠羅は後ろに下がり、由里から距離を取ると双翼を上下に動かし、身体を宙に持ち上げる。羽ばたきによって周囲に風を巻き起こしながら、最珠羅はみるみると高度を上げていった。

 やがて由里が首を真上に向けるほど高く飛び上がると、ゆっくりと加速しながら南の方角へと向かって移動を始める。

 

「まさか」

 

 由里は最珠羅がこれからどこへ行き、何をしようとしているのかを自ずと理解する。

 先日の千年竜王のように、何れかの場所を襲撃しようとしているのでは無い。あれは明確に、倒すべき敵を見定めて向かおうとしている。

 そして、最珠羅がこれから戦おうとしている敵は――――。

 

「ゴジラが、現れるっていうのね」

 

 5年前、東京に突如出現したゴジラは日本各地に大きな爪痕を残している。法律には明記されていないが、実質的に首都として機能していた東京を完全に破壊。一時期は日本という国家が崩壊しかけるまでに至った。それでも生き残れたのは、官民共に形振り構わず復興に全力で当たったからなのだろう。

 ゴジラは日本を混乱に陥れた後、4年間に渡って世界各地に出現し、国際情勢にも深刻な打撃を与えるに至った。

 世界のあちこちに出現したゴジラだったが、中でも被害が深刻だったのは紛争などが行われている戦闘地域だった。一度戦闘地域に姿を現すと、両方の勢力を襲撃・蹂躙し、皆殺しにしてしまうという事件が多発。生存者がゼロという、常軌を逸した事態にまで発展していた場所もあったそうだ。

 その後に、ゴジラが襲撃したニューヨークやデトロイト、バンクーバーなどでも、迎撃に向かったアメリカ軍やカナダ軍は殲滅されている。都市部での被害は、やはり大きなものだったが、軍が特に被害を受けていたのは同様らしい。

 そんな暴れ方はまるで、戦争そのものやそれをもたらすものを憎んでいるようにも見えた。

 尤もそれは、由里の思い違いであるのかもしれない。それでも、彼女にはあの怨霊がそういった妄執で動いているように見えて仕方が無かった。

 

「ゴジラが現れる場所は…………」

 

 由里は懐からタブレット携帯端末を取り出し、インターネット上の地図ページを開く。

 最珠羅が向かった方角は南。そして、今までにゴジラが出現した場所の傾向としては、戦闘地域が多かった。

 ならば、両者が敵対する場所はある程度見当が付く。

 

「八重山列島……。この辺りで、ぶつかるかもしれないわ」

 

 それは偶然か必然か、艦娘隊による大規模な対深海棲艦作戦が行われている地域だった。

 由里の情報が確かなら、そこには鳴川光樹や白瀬拓海の両名もいる筈だ。

 

「――――最珠羅が現れたのは、特生防衛軍がとっくに察知しているだろうから……。警告はしておいた方がいいでしょうね……」

 

 兎に角、この場所で起こった事件は警察と軍の両方に連絡をしておかなければならない。現場検証にも協力することになるだろう。

 他に出来ることと言えば、つい先ほど自分が目にしたことを文章として纏めて記録すること。自分が目にし、耳にし、肌で感じ、考えたこと――――それらを未来の人々に残し、事実という名の記憶を受け継いでいくことだ。

 今を生きる人々に伝えるには、由里はこの何十年という時間の中で知ってはならないことも知ってしまっている。それに、世の中の出来事(ニュース)を伝えるのは他の人間にも出来ることだ。

 ならばこれから先の時代、自分が死んだ後に生きる人々に向けて、何らかの記録を残せないかと由里は考える。何百年という時間が経って、記憶が風化してしまったとしても構わない。今、自分の目にしたものを未来の人々に伝えることが、由里の目的だ。

 だからと言って、自身が関わっている人間やこれから関わることになる人間が、どうなっても良いというわけではない。無事でいて欲しいと思うのは、偽りのない気持ちだ。

 

「まぁ、影からこそこそと覗いてくる連中には分かりっこないと思うけど」

 

 由里は独り肩を竦めながら、警察や軍へ通報すべく手にした携帯端末から各所へ電話をかけ始める。

 空を飛んで、どんどんと遠ざかっていく最珠羅の後ろ姿を見つめながら、由里は己がすべきことを、改めて胸の内に刻んでいた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 彼の者、守り神也

 

 されど常に人を守ること、能わず

 

 彼の者守るは、ヤマトの水也

 

 

     池田湖畔、古碑文より

 

*****

 

 




 前回の投稿から大きく間が出来てしまいましたね……。
 私生活とモチベーションの変化があったり、元々書いてたものに「これじゃない」感を抱いてしまったり……。
 投稿間隔は毎度のことですが、安定しないと思います。

 それはそれとして、サブタイトルの意味、気付いてくれる人はいるかな……?

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