艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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 今回、艦これ要素が全然ありません(オイ

 それでは発進!


第20話 因縁の対決

 機龍Ⅱを吊り下げたしらさぎⅡの2号機と3号機、それを先導するようにしらさぎⅡ航空隊隊長機の1号機が、九州上空を飛んでいた。機龍Ⅱを吊り下げている分、速度は落ちるがそれでも目的地へと急行する。

 目指すのは、既にゴジラが上陸している長崎市だ。

 

 

《長崎市街が見えてきた。柳田、準備しておけ》

 

 柳田中尉の乗る、しらさぎⅡ2号機に1号機からの無線が入った。しらさぎⅡ航空隊隊長の三澄中佐の声だ。

 

「了解」

 

 後部に設けられた機龍Ⅱの操縦用座席で、柳田は操縦桿に手を添える。前方の窓を覗き込むと、そこ彼処に真っ赤な火の手が上がっている長崎市街の光景が見えた。

 

「うっひゃあ、酷いな。こりゃ」

 

 前の操縦席で、増田中尉が声を上げる。

 柳田たちは事前に、30分ほど前に海上の防衛線は突破され、 “しなの”が大破しそれ以外の海軍からの支援艦艇は全て撃沈。上陸を許してしまい、今は地上部隊が対応しているということは聞いていた。しかしそれでも食い止めることは出来なかったようで、海岸付近などは火の海となっている。

 

「増田。早く着陸地点を探そう。あのゴジラ、何処かへ一直線に歩いてる」

 

 同い年である増田の言葉に同意しつつ、遠くに見えるゴジラを見て柳田は言った。周囲に熱線をばら撒いたり尻尾を振り回したりして蹂躙しつつ、その進路はほぼ北に向かっている。

 

《北……。拙いな。このまま進んで行けば、佐世保に突き当たるぞ》

「おいおい、あそこって確か……」

「防衛海軍の基地と、艦娘隊の佐世保鎮守府がある場所だ」

 

 三澄の言葉を聞いて呻く増田に、柳田は頷いて先を続ける。

 ゴジラにどんな意図があるのかは分からないが、ここで食い止めなければ佐世保だけでなく、進路上にある地域にも被害が広がってしまう。

 

「着地場所、どうするんだ? あんまり時間が無いようだが」

 

 増田が、柳田に尋ねた。

 見ると、ゴジラは市街地中心部から外れるにつれて、徐々に移動速度が上がっているようだ。こんな状況では、落ち着いて着陸させられる場所は無いだろう。

 進路を塞ぐようにしても、攻撃に晒される危険がある。かと言って安全な場所では、後ろから追いかけなければならなくなる。

 そこまで考えて柳田は、あることを思い出して「そうだ」と声を漏らした。

 

「何だ? どっか良い場所でもあったか?」

 

 前を見たまま聞いてくる増田に、柳田は首肯する。

 

「ああ。――――機龍Ⅱをこのまま、上空で切り離そう」

「はっ?」

 

 柳田の言葉に、増田は素っ頓狂な声を上げた。今にも振り返りそうな勢いだったが、2号機の操縦桿を握る彼は、それをぐっと堪えている。

 

「柳田、本気で言ってるのか? 下手すりゃ、俺たちまで巻き添え食って落ちる」

「45年前は、それをやってのけたんだ。上手く切り離せば、あとは俺が何とかする」

「……どうりで家城少将に気に入られていたわけだ」

「あの人は武勇伝に事欠かなかったからな……」

 

 増田の呆れ声に、柳田は呟くように返す。

 二人の間に沈黙が訪れたところで、1号機の三澄から通信が入った。

 

《柳田中尉》

「はい」

《空中発進を許可する。2号機、3号機共に切り離し用意だ》

「――――了解! 機龍Ⅱ、発進準備! ブースター、点火用意!」

 

 三澄から下された指示に柳田は素早く答え、発進準備の作業に入る。柳田が右手にあるスイッチを操作すると、吊り下げられたままの機龍Ⅱの脚部と背部の46式バックパックに格納されていたブースターが展開する。

 いつでも点火が可能になったところで、増田が柳田に話し掛ける。

 

「ほんとにやるのかよ?」

「許可は貰った。2号機の機体制御は任せたよ」

「……あいよ」

 

 溜め息を吐きながらも増田は操縦桿を握り直し、機体を安定させる。柳田はそれを確認すると、後ろで機龍Ⅱの尻尾を吊り下げている3号機の後部座席に、無線で呼びかけた。

 

「朝村少尉。準備は良いか?」

《いつでも行けます》

「カウント3で、機龍Ⅱを切り離す。ちょっとでもタイミングをずらせば、バランスが崩れて事故は免れない。――――行くぞ」

《は、はい!》

 

 朝村少尉の返事を聞くと、柳田は2号機と機龍Ⅱの首筋を繋ぐワイヤーの接続強制解除用のスイッチに手を伸ばす。

 

「2号機、接続強制解除、用意!」

《3号機、接続強制解除、用意!》

「3、2、1――――解除!!」

 

 柳田の合図と共に、機龍Ⅱの首筋と尻尾に繋がれていたワイヤーが弾け、機体が下に向かって降下し始める。

 衝撃で揺れる2号機の中でワイヤーを収納し、柳田はすぐさまブースターに火を入れる。

 

「機龍Ⅱ、発進!!」

 

 

 

 炎上する長崎市街を進むゴジラに向け、機龍Ⅱのブースターが全開で火を噴く。一瞬滞空した後、機体は一気に加速する。

 銀の龍は尾を撓らせ、街にブースターの轟音を響かせながらゴジラへと突撃。

 柳田はあっという間に遠くなっていく龍の背中を見ながら、遠隔操縦で必死に起動が逸れないようにコントロールする。

 脚部とバックパックのブースターによる推進力で、機龍Ⅱはゴジラへと急接近し、銀色の巨体を体当たりさせた。

 反応の遅れたゴジラは右半身後方に体当たりを受け、斜め前へと弾き飛ばされ、瓦礫と埃が巻き上げられる。

 機龍Ⅱはゴジラに体当たりした反動を利用して、半ば強引に着陸すると、ゴジラが飛ばされた方に身体を向けた。

 

 

「機龍Ⅱ、着陸完了――――」

 

 一先ず不意打ちは成功し、柳田は2号機の後部コクピットで安堵する。機体バランスの制御が危うくなり掛けたが、何とかなったようだ。

 

「ったく、“3式”より倍はデカいってのに、よくやるな。柳田……」

 

 感嘆と呆れの混じった声で、2号機の操縦桿を握る増田が言う。

 柳田は機龍Ⅱの損傷個所が無いかをモニターを見て確認しつつ、苦笑いを浮かべて答えた。

 

「帰ったら、中條さんにどやされるな」

「そら、あんな無茶やったらな。整備長のあの人が、一番ヤツの面倒を見てるんだ。腹括れ」

《二人とも、お喋りはそこまでだ。そろそろゴジラが起き上がるぞ。柳田、機体チェックは済んだか?》

 

 1号機で先行してゴジラの様子を偵察していた三澄から、無線通信が入る。

 

「こちら柳田。機体、武装共に異常はありません」

《了解。武装使用のタイミングは全て柳田に一任する。遠慮はするな》

「了解。機龍Ⅱ、戦闘態勢に移行します」

 

 無線が途切れると柳田は意識を切り替え、天井のモニターに視線を移す。モニターには、機龍Ⅱの頭部に内蔵されたカメラからの映像が映し出されていた。

 画面の向こうでは白く濁った目をしたゴジラが、こちらの様子を注意深く伺っているようだった。その瞳を見つめていると、まるで得体の知れない何かに呑み込まれそうな気分になる。

 

「武装ロック解除。攻撃開始」

 

 柳田は一度頭を振って画面を睨むと、右手の操縦桿に取り付けられたトリガーを引いた。

 

 

 

 柳田の動きに同調するように、機龍Ⅱが金属的な咆哮をあげた。

 バックパックユニットの両肩から前の部分に突き出した部分、その横に左右対称に設けられた46式8連装ミサイル発射装置が開く。多数の小型誘導ミサイルが次々に吐き出されると、それらは曲線を描いて前方の敵に殺到した。

 次々にミサイルが着弾、爆発し、ゴジラは呻き声を上げる。

 間髪入れずにバックパックの敵に面したユニットから、ロケット弾も発射された。

 通常の艦艇や陸上兵器では考えられない様な数の弾を、機龍Ⅱは雨あられと撃ち出し、辺りは爆発による煙が充満していく。

 目の前の相手を敵と認識し、ゴジラは体勢反撃に出ようとするが、機龍Ⅱはそれを許さない。ミサイルの発射を一旦止めつつ、ロケット弾だけは叩きつけながら前進を開始した。

 両腕に装着し、バックパックとケーブルで繋がった46式2連装レールガンユニット二つを照準すると、そこから黄色い光を帯びた高速の弾丸が、ゴジラの胸を穿たんと飛び出す。

 ゴジラは悲鳴にも似た声を上げるが、機龍Ⅱは柳田に操られるがまま、一切の躊躇も無く攻め立てていった。

 

 

「…………」

 

 2号機後部のコクピットで、柳田はモニターを見つめながらゴクリと生唾を飲む。殆ど勢いに任せるまま攻撃に出たが、思いの外ゴジラに効いているらしい。こちらに圧倒されて、向こうからの反撃はこちらに届いていない。熱線を吐かれないかと冷や汗を掻いたが、こちらも今の所その傾向は無かった。

 しかし、油断は出来ない。相手はあのゴジラだ。その中でも、飛び切りしぶといことで知られている個体。ふとした瞬間に攻撃を受けて、大破に追い込まれることも無いとは限らない。

 柳田はグローブをはめた手が汗ばむのを感じながら、左右それぞれに握った操縦桿を前に倒す。同時にカメラの映像から、機龍Ⅱがゴジラに接近していく様子が映る。

 右手を一度操縦桿から放し、右側に配置された数々のボタンの内の一つを押し込む。すると、機龍Ⅱから送られてくる映像のモニターとは別に、コクピットに埋め込まれている機体状況が示された画面の一部が青く点滅した。画面には機龍Ⅱの前方の機体図があり、右腕部のレールガンユニットがその光で塗られている。

 次に機龍Ⅱの右側面図が写されると、レールガンユニットの砲身の間から、短剣のようなものが突き出ていた。レールガンユニットに内蔵された46式メーサーブレードが、使用可能になったことを示している。

 

「――――見える場所まで移動するか?」

 

 格闘戦を仕掛けようとしていることを、窓の向こうに見える機龍Ⅱの背中を見て察した増田は、柳田に声を掛ける。

 

「ああ。熱線を撃たれても、すぐ回避出来る距離で良い」

「分かった。中佐、行ってもいいか?」

 

 増田は頷いて、無線で1号機に呼びかける。返答は直ぐにあった。

 

《許可する。ただし無茶はするな》

「了解。2号機、移動を開始する」

 

 そう言って、増田はしらさぎⅡ2号機の機体を傾け、ゴジラと機龍Ⅱの戦闘域にぎりぎりまで接近する。機体を慎重に移動させながら、肉眼でも戦闘の様子が分かる場所を確保する。

 その間に、機龍Ⅱは右腕から突き出したメーサーブレードで、ゴジラとの格闘戦に移行していた。

 

 

 

 ロケット弾の発射を止めて、機龍Ⅱはゴジラに正面からぶつかる。同時に右腕のメーザーブレードをゴジラに突き立て、電流を流し込もうとするが頑丈な皮膚に阻まれる。メーサーブレードはあっさりと折れ曲がってしまうが、機龍Ⅱは構わずゴジラを力ずくで押す作戦に切り替えた。

 ゴジラも対抗して押し返そうとして、両者の力は拮抗する。互いにその均衡を崩そうと体勢を変え、その度に周囲のビルや家屋が巻き込まれる。

 

 このままでは埒が明かないと判断した柳田の操作により、機龍Ⅱは一度ブースターを噴かせて後退する。

 着地の衝撃を身体で上手く流して再び攻撃に転じようとしたところで、黄色く光る双眸に搭載されたカメラが、青白く光るゴジラの背びれを捉えた。

 機龍Ⅱは左右のミサイル発射装置から誘導ミサイルを連続発射し、ゴジラの熱線を回避すべく身を屈める。

 ミサイルの着弾と、ゴジラの熱線発射は全く同じタイミングとなった。

 撃ち込まれた数十発分の爆発でゴジラは照準を狂わせ、熱線はバックパックの右肩のミサイル発射装置に直撃した。

 

 

 

「バックパック、右肩部分に被弾した!」

 

 柳田は舌を打ちながら、被害状況を確認する。損害状況モニターには、バックパックユニットの右半分の武装部分が赤く光っていた。ミサイル発射装置に直撃したことで、誘導ミサイルは使用不可。ロケット弾の発射装置は無事だったが、無理に使えば爆発を起こす危険性があった。

 

「中條さん、すみません!」

 

 状況を素早く捉え、柳田は機龍Ⅱに次の命令を送った。

 

 

 

 柳田からの信号を受信し、機龍Ⅱは上半身を前に倒す。すると背負っていたバックパックユニットの右半分が、ブースターを噴かせながら分離する。

 ユニットの右半分は機龍Ⅱの背中を離れ、正面にいるゴジラに激突した。それを両手と腹で受け止めて踏ん張ろうとするゴジラは、しかしブースター全開のユニットに押され、後退りする。建物を幾つか薙ぎ倒しながら数百m進むと、ややあってゴジラを押していたユニットが突如、爆発した。

 柳田が押したスイッチの信号を受け付け、自爆を起こしたユニットは、残存していたロケット弾と誘導ミサイルまでも誘爆させる。それに伴って爆発は大きなものとなり、ゴジラはその衝撃でたまらず転倒した。

 そこにバックパックユニットの左半分も叩き込まれ、続けざまに爆発・炎上が引き起こされる。

 ゴジラを襲った爆発は周囲の建物も巻き込み、周囲は激しい火災に呑み込まれる。機龍Ⅱはゴジラの様子を確かめるべく、身軽になったその身体で、炎と煙に包まれた一帯に双眼を向け続けた。

 

 ややあって、火の中からゴジラが現れる。その瞳には明らかな憎悪の色が宿っており、鳴き声を上げると機龍Ⅱに真っ直ぐ向かう。

 一方の機龍Ⅱは、バックパックとの接続が途切れたことで使い物にならなくなったレールガンユニットを両腕からパージした。

 『重装型』から『高機動型』へと移行して身軽になった機龍Ⅱは、両手をドリル状の47式対獣掘削装置(スパイラルクロウ)に変形させる。両手がドリルと化した機龍Ⅱもゴジラへと接近し、再びぶつかり合う。

 掴みかかって来るゴジラに対し、機龍Ⅱは左腕のスパイラルクロウで斬りつけ、先ほどの爆発で抉れた皮膚に右腕を突き刺す。ゴジラの左胸に刺さったスパイラルクロウは唸りを上げて回転し、皮膚を食い破っていく。これに悲鳴を上げたゴジラは逃れようとするが、ドリル形態を解除した左手と追撃によって失敗した。

 右手のスパイラルクロウの4分の1が皮膚に食い込んだところで、ゴジラは機龍Ⅱの右腕を掴む。ゴジラの背びれが発光するのを確認した機龍Ⅱは、スパイラルクロウを引き抜いて、脚部のブースターを噴かして離脱。直後にゴジラの単発の熱線が吐き出され、機龍Ⅱはそれを素早く身を屈めることで回避した。熱線が途切れると機龍Ⅱは即座に上体を起こして、反撃に転ずる。

 胸部ハッチが開き、中から47式ハーパーメーサーユニットが露出する。口の内部に搭載された47式3連装メーサー砲と同時に黄色い閃光がゴジラを襲う。頭部と胸部の傷口にメーサー攻撃を受けて、ゴジラ呻き声を発して苦しみ悶える。

 その後も絶え間なく浴びせられる機龍Ⅱのメーサーにゴジラは遂に耐え切れず、地面に右半身から倒れ込んだ。

 

 

 

「よし……」

 

 機龍Ⅱから送られてくる映像や、コクピット内からの景色を見て柳田は呟いた。

 熱線を一発貰った以外は、ほとんど機龍Ⅱが一方的に攻め込み、戦闘は優位に進んでいる。予想以上に皮膚が固く、メーサーブレードが通らなかったときには攻めきれないと思ったが、案外どうにかなっていた。

 

「すげえ……。あのゴジラを押していやがる」

 

 前の操縦席で、増田が戦場を見ながら感嘆の声を出す。

 柳田たちが今目にしているゴジラは、この5年間で世界中の国が迎撃を試みたがダメージ一つ通すことすら叶わなかった相手だ。怯ませる程度なら出来たものの、硬い皮膚を貫くことが出来ず、熱線への対処手段も持ち合わせていなかったために悉く返り討ちに遭っていた。

 

「流石は機龍の後継機ってとこだな」

 

 3式多目的戦闘システム(Multi Fighting System – 3)。通称3式機龍。1体目のゴジラの骨をメインフレームとして2003年当時に建造されたその機体は、当時確認された5体目のゴジラに対して、大きな手傷を負わせている。翌年には5体目と共に海底へと消えたが、その運用思想は47式機龍Ⅱにも受け継がれた。

 DNAコンピューターによる高速処理と巨大な身体に見合わない驚異的な機動性能は、機龍Ⅱもこの戦闘で如何無く発揮している。90年代に登場したM.O.G.E.R.A.(モゲラ)やメカゴジラの開発者たちは、これに大層驚いていたとも言われる。

 

 そして、3式機龍が建造当初搭載していた必殺兵器を、機龍Ⅱもまた装備していた。

 

「中佐。絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)の発射許可を。ここで一気に決めます」

 

 柳田の無線への呼びかけに、1号機の三澄が応答する。

 

《許可する。1発撃てば30分は動けなくなる。――――外すなよ》

「了解」

 

 柳田はすぐさま手元にある、他のスイッチ類とは違い大きくスペースを取った赤いボタンのカバーを外し、右手の人差し指を宛がった。スイッチのカバーが外れると同時に、胸部ハッチがハイパーメーサーから別の砲を発射するモードに切り替わる。

 

 47式絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)。先代の機龍にも搭載されていた、絶対零度の光弾で目標を瞬時に凍結し、分子レベルにまで崩壊させる強力な一撃を放つ砲だ。

 威力が高い分かつてはチャージから発射までに時間を要していたが、機龍Ⅱが持つそれはその時間を1秒以下にまで短縮。ボタン一つで即座に発射出来るという代物。その反面チャージから発射と、その後のオーバーヒートを防止するための冷却にエネルギーが取られ、一定時間身動きが取れなくなってしまう。おまけに最大稼働時間が大幅減となる、諸刃の剣だ。

 それは相手に無防備な姿を晒してしまうということにもなり、外すことは出来ない。

 

 機龍Ⅱの機体図を映すモニターでは、胸部ハッチ部分が青く点滅して何時でも発射可能なことを柳田に伝える。それを確認した柳田は、絶対零度砲を発射すべく、赤いスイッチを深く押し込んだ。

 

 

 

 大きく開かれた機龍Ⅱの胸部ハッチで、触れれば今にも凍ってしまいそうな蒼い光が球状となっていく。1秒足らずで蒼い球体は発射され、ゴジラを砕く一撃が発射された――――。

 

 

 ***

 機龍Ⅱから浴びせられるメーサーが止み、ゴジラは痛みにもがきながら敵に濁った目を向ける。

 機龍Ⅱの胸の中央部で何かが引っ込み、また別の何かが露出してきた瞬間、ゴジラは本能的に己の危機を感じ取った。

 ゴジラの背びれが青く光り、黄金の稲妻が鋭く迸る。

 蒼い光弾が発射された瞬間、ゴジラはかつて千年竜王(キングギドラ)の力を吸収して獲得した、青と金が混ざり強化された熱線――――引力放射能熱線の奔流が、その光弾に向けて解き放たれた。

 ***

 

 

 絶対零度の弾がゴジラを氷漬けにするかと思われた時、倒れたままのゴジラが威力を強化した熱線によって阻まれる。

 光弾は熱線との接触面を凍らせ、砕きながら尚も進もうとする。しかしゴジラから延々と吐き出される熱線によって弾は目標から大きく逸れ、遥か後方に着弾した。

 ゴジラに無理矢理逸らされた絶対零度の弾により、着弾した周辺にあった建物は一気に氷漬けとなり、跡形も無く崩れ去っていく。氷の欠片と僅かな瓦礫や構造物を残して、その一帯は瞬く間に更地となるのだった。

 

 

 

「くそっ、外したッ!」

 

 柳田は右手で作った拳で膝を打ち、画面の向こうのゴジラを睨む。避けようが無い一撃の筈だったが、まさかあんな手段に出るとは全く予想していなかった。

 

「渾身の一撃を力技で回避するとはねぇ……」

 

 操縦席にいる増田も、ゴジラの芸当に舌を巻いて窓の外を凝視している。

 

「早く次の行動を――――ッ!!」

 

 慌てて左右の操縦桿を動かす柳田だったが、機龍Ⅱからの反応が無いことに気付いて機体状況を示すモニターを見る。

 モニターには機龍Ⅱの全身機体図が赤く点滅し、『冷却中』という警告テロップが表示されていた。

 

「しまった……!」

 

 機体が絶対零度砲を撃った反動で、行動することが出来ない。舌を打ってカメラ映像を確かめるべく顔を上げると、そこには機龍Ⅱの目の前まで迫ったゴジラの姿が映し出されていた。

 

 

 

 ゴジラは機龍Ⅱに接近すると、くるりと身を翻す。回転する勢いを伴って、ゴジラの尻尾が機龍Ⅱの頭部を直撃し、左目が破損して光が消える。その勢いで機体が右に倒れ、瓦礫と埃を巻き上げた。

 機龍Ⅱを再び視界に収めたゴジラは、敵が動かないことを確認すると天高く吠える。

 倒れた敵に追撃を加えることはせず、ダメージを負って戦意を失ったゴジラは進路を変更。元来た道を戻るように海へと帰っていった。

 

 

 

《――――柳田。柳田、機体の損傷具合を報告しろ》

 

 海に消えていくゴジラを窓越しに呆けるように眺めていた柳田は、三澄からの無線でハッと我に返った。

 慌ててモニターをチェックし、機龍Ⅱの損害状況を素早く確かめる。

 

「こちら柳田。損害状況……左眼カメラ大破。絶対零度砲の発射に伴い、現在機体を冷却中。重装型の武装は全て喪失。それ以外の損害は無し。……遠隔操作システムも無事です」

《了解。30分後に再度チェック。機体を起こして、帰投する。春日基地で一泊した後、東京へ飛ぶことになる。パイロット両名、明日も宜しく頼む》

《了解!》

「了解」

 

 3号機パイロットの岡田大尉と、2号機パイロットの増田が三澄の言葉に応答する。

 

《取り敢えずはこのまま待機だ。念の為、警戒は怠るなよ。皆、お疲れ様》

 

 その言葉を最後に、1号機との通信が一旦終了する。それを確認すると、柳田はそれまでの緊張が一気に解けて、背もたれにへたり込んだ。

 

「お疲れ様だったな。柳田」

 

 背後の柳田の様子を感じ取った増田が、苦笑交じりに労いの言葉を掛ける。

 

「ああ……。一時は駄目かと思った」

 

 機龍Ⅱが行動不能に陥り、カメラのすぐ近くに映るゴジラを目にしたときには、心臓が止まるような想いがした。自分はやや離れた場所にいたにも関わらず、死ぬかと思って身構えたほどだった。

 

「まあ、アレ(機龍Ⅱ)も無事だし俺たちも無事だ。今はそれで良いってことにしようや」

「そうだな……。そうすることにするよ……」

「で、帰ったらどうするんだよ? 墓前に報告か?」

「ああ。家城少将に、生きて帰って来られたことを言わなきゃな」

 

 柳田は、かつて孫のように可愛がってもらった老婆――――今は亡き家城茜の優しくも頼もしさを感じる微笑みを思い出す。

 自分がこの世界に入ると決めてから世話になった彼女には、感謝しても感謝しきれない。それは、彼女がこの世を去って3年が経った今も変わらなかった。

 

 柳田は、再びゴジラが消えていった長崎の海を眺める。やや傾き始めた太陽が照らす青々とした海は、見る者をどこまでも深い場所まで引き摺り込んでしまいそうに思えた。

 その海から人間を殺すべく現らわれる、破壊神。

 機龍Ⅱの初陣は、まあまあのものだったと言えるだろう。だが、もっと上手くやれた筈だとも思う。

 今度ヤツと相対した時には、翻弄してやるぐらいの気持ちで行こうと決意を固めつつ、柳田は水平線の向こうをじっと眺めるのだった。

 

 

 

 

 




設定全高
・ゴジラ 130m
・機龍Ⅱ 120m

 両手にドリル……。それ何てメガロ?

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