艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

2 / 40
弐 深海棲艦と人類

 深海棲艦。そう呼ばれている正体不明の生物群がいた。

 彼らは突如として現れ、2年で人類から制海権を奪い取ってしまった。

 

 既存の兵器は全く効かず、核兵器にまで頼ったことがあったが、一時的に殲滅出来ても、すぐに別の群団が現れて補ってしまう。放射能汚染も物ともせず、我が物顔で悠々と航行している姿が目撃され、この方法も挫折することになる。

あまりにも数が多く、世界各地に散らばっているからだ。しかも、活動領域は海。人類にとって、始まりの場所であり、いつ何時も欠かせない領域。そこが、奪われてしまったのだ。

 

 第3次世界大戦中、彼らによって小さな島々から構成される国々は、再編を余儀なくされた。人々は強制的に移住させられ、無人島になったところさえある。特に、東南アジア・オセアニアでよく見られた光景だった。

 

 日本も例に漏れず、離島を中心として避難が行われた。戦時下体勢に元々あったため、北はアメリカと共に奪取していたクリル列島のうち、択捉島まで後退。南では小笠原諸島を放棄。沖縄方面では、一部の住民を除いて沖縄本島に県民が集められた。

 

 深海棲艦はその生命力と制圧力により、人類に打撃を与え、大戦すらも終結に向かわせてしまうほどの影響力を見せた。

 

 世界は何としても、深海棲艦に対抗する必要があった。しかし、明確な答えを誰も見つけられずにいた。

そこに一つの解決策を見出したのが、日本だった。

 

 かつての軍艦たちの記憶を宿した、武装を施された乙女たち。彼女たちは、手始めに小笠原諸島を奪還して見せる。

 この報が世界中を駆け巡った時、多くの人々が歓喜に沸いた。艦娘を自分たちの国にと、希望する者も現れた。

 しかし、艦娘の真実を知る者たちはそれを断り、それでも尚諦めきれずに真実を知ったものは、再び独自の道を歩んでいくしかなかった。

誰かが、去り際に見送りの日本人にこう言ったという。

 

「貴方たちはあの亡霊で、一体何を為そうとしているんだ」

 

 

 

 

 そんな人間たちを余所に、深海棲艦は海の占拠を続ける。

 彼らの存在は大戦を終結させたが、同時に新たな戦争の火種ともなった。

 

 人間同士の戦争の。

 

 シーレーンが破壊され、国境再編が進むことに異を唱える者たちは、当然の如く現れた。時には過激な行動により、激しくぶつかり合う。

 深海棲艦と戦う力を得た日本の国民は思った。

 

 こんな時に、内輪揉めをしている場合じゃないだろう。

 

 誰しもがそう考えたわけでは無いが、しかし追いつめられていた人々の多くが、そんな想いを持っていた。

 しかし、そんな彼らに対して、日本人は何もしなかった。何も出来なかった。手を差し伸べることをしなかった。

 

 深海棲艦、そして怪獣という脅威の前に、彼らは自分たちのことで精一杯だったのだ。

 

 

 少女は、その矛を穿つ。

 

「勝手は! 榛名が! 許しません!」

 

 

 少女は、夜の海を切り裂く。

 

「魚雷次発装填済みです。これからです!」

 

 

 

 

 

 艦娘は、海を航海する。

 深海棲艦によって奪われた海を、解放するために。

 

 

 深海棲艦は、海を航海する。

 その目的は、彼らにしか分からない。

 

 

 

 彼らは、海を航海する。

 己が内に秘める、譲れないものを守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 そして彼女は、黒き亡霊の咆哮を前に、何を思うのか。

 彼らは、黒き亡霊の咆哮に、何を恐れるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 彼ら彼女らの戦いが、始まる。

 




お待たせしました。

プロローグは今回で終了です。次回からは本編に入ることになります。

次話は、少々お時間をいただくかもしれません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。