艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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第17話 白浜に立つ

 日本国、沖縄自治州。今から対深海棲艦戦争の最中、10年前に日本政府主導で設置された区域だ。沖縄県域を範囲としており、深海棲艦の脅威が去るまでの緊急措置とされている。

 

 設置当時の沖縄は本土から孤立しており、支援を受けられない状況にあった。在留米軍と防衛軍部隊も壊滅し、危機的な状況にあった沖縄は日本政府に助けを求めるが、同じく危機的状況にあった政府はこれを拒否。代わりに、那覇市に自治政府を設置して自治権を都道府県レベルから引き上げられることによって誕生した。

 ――――実際には、沖縄まで手が回らなくなってしまった日本政府による切り捨ても同然だった。

 

 以後6年間、沖縄は日本本国から完全に孤立してしまう。44式対特殊生物大型輸送機の登場と艦娘の本格運用開始まで、深海棲艦の目を何とか掻い潜ることでしか、外部との物流すら出来ない有様だった。

 八重山列島・宮古列島・尖閣諸島は完全に敵の支配下に入り、自治の及ぶ範囲も沖縄本島と隣接する島々までに後退。壊滅した日米両軍を自治政府軍として再編し、本島南部に集中させ、北部にあった基地は破棄されたり難民キャンプとなったりした。

 

 今でこそ沖縄本島は空路と海路が一応確保され、復興の兆しを見せているものの、4年前までの状況はかなり悲惨だった。

 至る所で飢えによる暴動が起き、市街地は荒廃し彼方此方でスラムが形成された。自治政府軍も、稼働率は1%を下回っていたと言われる。日本政府からも事実上、見捨てられていた形だった。

 そんな沖縄が本島南部に限定してではあるが、4年で陸海空軍の基地を整備し直し、主要な市街地も活気を取り戻しつつあるのは、奇跡と言っても良かった。

 

 

 かつて悲惨な状況にあった沖縄は、今度は対深海棲艦の前線基地となろうとしている。

 日本本国の主導により設置されていた、特生防衛海軍・通称艦娘隊のホワイトビーチ基地。第1世代艦娘の頃は非常設の基地として扱われていたが、石垣島攻略作戦に当たって、簡易ながら本格的な基地機能を有することになった。

 元々は米海軍と日本防衛海軍の基地だったが、深海棲艦の出現に伴って両軍は那覇に移転。その後、開いた土地を艦娘用の基地として使うことになり、今年の1月頃から基地機能拡張の計画・工事が急ピッチで進められていた。

 

 

 

 

 

 拓海と電が再会した二日後の、6月12日。ホワイトビーチ基地は作戦期日を間近に控え、工事の最終工程が慌ただしく進められていた。

 足場は殆どが取り除かれ、真新しい建物がちらほらと見える。艦娘用の仮設宿舎として、大きめのプレハブが付近に多数設置されていた。プレハブは1階建てが使われており、多数の艦娘が泊まるとなると、どうしても数が必要だった。

 

 

 基地内に敷かれた道路に、1台の軍用の小型自動車が停まり、後部のドアが左右同時に開かれる。車両から、一際目立つ長身の少女たちが姿を現した。

 長髪の少女は、艦娘・長門型戦艦1番艦の長門。もう一人のショートヘアの少女は、同2番艦の陸奥だ。二人は車を見送りつつ、並び立って基地の建物一つひとつに目を向けていた。

 

「工事は順調みたいね。私たちが来る必要あったの?」

 

 隣の長門と同様に基地を見回しながら、陸奥が口を開いた。

 

「……提督の指示に従わないわけにはいかないからな。重点的に確認するのは、私たち艦娘にも直接関わる。渡されたメモを見るに、そのところを見ておけということなのだろう」

「そんな大事なことをメモで済ませるの、鳴海提督らしいわね……」

 

 手元のメモ用紙に目をやり、溜め息を吐く長門に陸奥も苦笑いで応じる。

 メモには、「戦術リンクの確認」「出撃カタパルトの確認」とだけ書かれてあった。明け方に呼び出されて何事かと思えば、何も書いていないのと同然なメモ用紙を渡されたのだ。本当ならば、何て人使いの荒い提督だと言いたいところなのだが――――。

 

「それが終われば、明日まで好きに休んでいい、か……」

「大和や扶桑たちが聞いたら、怒るわよね」

 

 長門は、自身が所属する横須賀鎮守府に帰った際のことに頭を悩ませる。今ごろ、大和たちはこの時期に二人が抜けた分、余計に忙しくなっているだろう。

 

「せめて、土産でも買っていかないとな」

 

 現在でも沖縄は余裕のない状況だが、本土との交通が回復してからというものの、販売業でも回復傾向にある。那覇に行けば、丁度良い物が売っているだろう。

 

「さて、行くとしようか。陸奥」

「そうね。長門」

 

 二人は頷き合い、メモに書かれた項目を実行に移すべく、動き始めた。

 

 

 

 

「こちら長門。陸奥、聞こえるか?」

 

 長門は左耳に手を当て、無線通信を開く。繋げる先は、基地中央部にある司令部施設だ。

 

《こちら陸奥。ちゃんと聞こえてるわ。戦術リンク―CROCS(クロックス)―、動作問題無し。長門の現在位置、出撃ドック、カタパルト前。艤装リンク、問題無し。コンディションのモニタリング、良し。自立飛行型カメラユニット、接続問題無し。100mの海上で滞空中。1kmの海上に、駆逐イ級を1隻だけ確認したわ》

 

 無線の奥から、陸奥の声が返る。

 今行っているのは、長門と陸奥が属する第1戦隊の司令官・鳴海武少将からメモで指示された事だ。

 新しく設置した戦術リンクの動作や、出撃カタパルトの動作に問題が無いかを実際に運用し、確認する。そのためには、実戦と同様の形式を取った方が良いだろうということで、長門は出撃カタパルト前に立っていた。

 陸奥の方は、司令官の代わりに司令部施設に出向いていた。戦術リンクで扱う情報量は多いため、オペレーターも数名配置されている筈だ。

 

「イ級か。丁度良い。奴には、ここで消えて貰おうか」

 

 不敵な笑みを浮かぶ長門に、陸奥の苦笑交じりの声が入る。

 

《もう。あんまり無茶しないでね? 勝手に沈んじゃダメよ》

「心配するな。私とて、一人で消えるつもりはないさ。一人残されるのもご免だ。陸奥がいないと、寂しいからな」

《なっ、長門っ――――!》

 

 無線の向こうで、陸奥の上擦った声がする。この様子だと、司令室では顔が真っ赤になった陸奥が見ることが出来るだろう。

 長門は小さく微笑んだ後に顔を引き締めた。

 

「長門型戦艦1番艦、長門。出撃する!!」

 

 長門の声を合図に、出撃ドックに警報が鳴り響く。長門が「出撃」と書かれた円形のデッキに足を踏み入れると、その部分だけを残して周囲の床が展開。鎖に吊り上げられるようにして、彼女の艤装が姿を現す。

 艤装が腰の高さまで持ち上げられると、スカートのベルト部分に接続される。

 

《艤装、固定確認。長門との接続問題無し》

《カタパルト、射出準備!! 注水開始》

 

 陸奥以外の複数のオペレーターが、プロセスを確認する声を発する。

 再びけたたましい音量の警報が鳴り響き、海とドックとを隔てていた分厚いシャッターが上昇。同時に、下り坂のカタパルト1本の溝に、海水が満たされる。

 

《進路クリア。長門、いつでも行っていいわよ》

 

 今度は陸奥の声が聞こえて来て、長門は頷く。

 

「了解。長門、発進!」

 

 長門は注水されたカタパルトに歩を進めると前傾姿勢になり、両足の主機の駆動を開始させる。主機は唸りを上げて海水を巻き上げ、長門の身体を一気に前へと押し出した。

 勢いよく発進した長門は、下り坂のカタパルトを、海水を散らしながら一気に駆け降りる。速度を殺さずシャッターを潜り抜けると、そこはもう、蒼く広々とした海だった。

 

 

 

 

 

 カタパルトに不調は無く、その後の出撃でも戦術リンクシステムは問題無く作動した。確認された駆逐イ級も、長門の41cm連装砲の長距離砲撃によりあっさりと撃破。特にこれといった問題も起こらず、長門はホワイトビーチ基地に帰還していた。

 

 艤装を整備工廠に預けて外に出ると、陸奥が待ちわびた様に長門に駆け寄って来た。

 

「……何だ。どうした、陸奥」

 

 奇妙なくらいにニコニコとした笑みを浮かべる陸奥を見て、長門は困惑の表情を浮かべる。

 

「お帰り、長門」

「あ、ああ。ただいま、陸奥……」

 

 大したことも無く帰って来ただけなのだが、この違和感は一体何だろうか。いや、陸奥がこんな笑顔をしているときは、大抵自分が何かしでかしてしまった時だ――――。そんな風に思っていると、陸奥が長門の左腕に抱き付いて、彼女の顔を上目遣いで見つめた。

 

「うふふ。長門は私がいないと、寂しいのよね?」

「――――っ!?」

 

 悪戯っぽい笑みに変わった陸奥を見て、長門は自分の耳が熱を持ったのを感じる。陸奥は離れようとする長門の腕をがっちりと固定し、甘えるように寄り添う。

 

「オペレーターの皆にも、聞かれちゃったわね。長門()()()()()?」

「かっ、からかうのは止せ。陸奥」

「あらあら。何を恥ずかしがっているの? 私との仲じゃない」

「べ、別に恥ずかしがってなど……!」

 

 陸奥の甘え攻撃を、長門は邪険に出来ない。出撃前のことを言っているのだろうが、それはそれで事実であり、否定し難かった。

 思えば、自分が可愛い物好きだと陸奥に知れてしまった時にも、こんな風にからかわれて大変な思いをしたものだ。

 そんな長門の反応を一頻り楽しんだ陸奥は、微笑んだまま腕の拘束を解き、一歩後ろに下がった。

 

「私だって、一人は嫌よ。戦わずに沈むのも嫌だけど、戦って沈むのも嫌。だから、生きて帰るわ。長門のことも一人にしないわ」

 

 陸奥は、どこか遠くを見るように目を細める。それは恐らく、長門もよく知っているものだ。記憶の遥か遠く、この身体を得る前の頃の事だろう。

 

「……そうだな」

 

 これから先、今以上に厳しい戦いが待っている。直近だと、石垣島攻略作戦だ。もうあんな思いはしないと胸に誓いつつ、長門は陸奥と共に歩き出した。

 

 

 

 

「ねえ、長門。彼のこと、どう思う?」

「彼? ――――ああ、白瀬拓海のことか」

 

 暇を持て余した二人は、作業の邪魔にならないようにと誰もいない波止場に来ていた。

 不意に陸奥に話を振られるが、すぐに長門は拓海のことに思い至る。

 

「この間、彼の演習艦になってたでしょ」

「武蔵との演習か……」

 

 長門は、拓海の顔を思い出して溜め息を吐いた。

 拓海は先月から、横須賀鎮守府で「新米少佐」となるべくカリキュラムを受けている青年だ。

 長門が演習で拓海の指揮を受けたのは、つい5日前だ。

 

「やはりと言うか、まだまだ背中を預けるには足りんな。あれは中々の冷や汗ものだ」

「武蔵に機動戦を仕掛けて、最後は近接戦で一本取らせたのは、流石だと思うわよ? あれで長門、初めて武蔵に勝てたじゃない。武蔵も驚いてたわ」

「それでもだ……。寿命が縮むかと思ったな」

 

 1対1だったため、常に動き続けて砲撃を加えていくというのはまだ分かるものの、相手に悟られないように近づく時には、どうなるのかと思った。悟られてしまえば、こちらが46cm主砲で手痛い反撃を受けてしまう。ある意味で、命がけの駆け引きみたいなものだったのだ。

 

「それでも、呉から帰って来た後は随分と見違えたんじゃない? 前は、結構艦娘に無茶を強いる戦法が多かったし」

「第3戦隊の司令官が殉職した市街戦だったか。何があったんだろうな」

 

 長門は磯貝風介とは直接の面識は無いが、彼に関しての良い噂はあまり聞かない。拓海は、そんな人間と向こうで会って来たのだという。磯貝の死も間近で見たそうだ。その時の出来事が、彼に何らかの変化を与えたのだろうが――――。

 

「あら? もしかして気になるの?」

 

 陸奥が楽しげな視線を、長門に送る。

 

「気になると言えば、気になるな。だが、陸奥が期待するようなことは思ってない。彼がどんな人間で、どんな司令官になっていくのか。それが気になるだけだ」

 

 肩を竦めて、長門は問いに答える。

 

「まあ、そうね。私もちょっと、気になるわ。もちろん、榛名との恋路もね」

「陸奥、お前……」

 

 陸奥が何か良からぬことでも企んでいるのかと、長門は疑いの目を向ける。そういう事は、外野が首を突っ込んでいい問題では無いだろう。

 

「大丈夫よ。あくまで、影からこっそり覗くだけだから」

「そうか……」

 

 彼女がそう言うのだから、そうなのだろう。陸奥はからかうような事を言っても、基本的に嘘は吐かない。その辺りは長門もよく知っていたので、これ以上何か言うのは止めておくことにした。

 

「白瀬拓海に榛名と言えば、南鳥島の怪獣の件があったな」

 

 話題転換とばかりに、長門は先月頭のことを口にする。あの時は孤立した部隊を救出するために、2個艦隊で南鳥島に向かった。残敵の確認を行ったが、影一つ見当たらなかったことを思い出す。島から南東部の海域に、一時的にせよ放射能汚染が残っていたことも気になる。

 

「ゴジラだって話だったわね。去年の南アメリカ紛争以来かしら……」

「ああ。それが日本近海に戻って来たとなると、いつ深海棲艦との戦闘に影響が出るか分からんな」

 

 今月は、南鳥島戦以来の大規模作戦が控えている。この時期にゴジラが現れでもしたら、多少なりとも作戦に影響が出るだろう。そんな事態にはならないで欲しいが、現状では打つ手が無いと長門は思う。

 

「そうね。“戦争あるところにゴジラあり”って言うくらいだもの。第1世代の子たちは、ゴジラとは遭遇してないみたいだけど」

「ここ数年はずっと、海外目撃されていたそうだからな。運が良かったと言うべきだろう」

 

 しかしそれは、第1世代の艦娘や日本周辺に限定してのことだ。世界では、“白い目のゴジラ”がアラビア半島や欧州、アフリカ、北米などを次々と襲撃している。ただでさえ深海棲艦で打撃を受けていた各国は、ゴジラによって更に危機的状況に陥れられていた。

 “白い目のゴジラ”なのかどうかは目撃証言でしか無いため確認できないが、もし日本近海に来ているとするならば、日本も他人事ではいられなくなる。

 

「長門も気を付けてね? 貴女だって、無関係じゃないんだから」

「ああ、榛名が言っていた……」

 

 榛名はゴジラを遠くから目撃した際に、軍艦だった頃の記憶が呼び起され、酷く動揺していたそうだ。どんな記憶かまでは、長門は聞いていない。しかし話から想像するに、記憶というのは恐らく“あの光”のことだ。

 長門もかつて、その身を以って“あの光”を体験している。だからその事を知っている陸奥は、長門を心配しているのだろう。

 

「分かっている。ありがとう、陸奥」

「ふふ。どういたしまして」

 

 互いに微笑み合うと、長門と陸奥は踵を返し、海に背を向けた。

 

「――――どうしたものかな。この後は、完全に暇なわけだが……」

「1日暇なのも、考えてみれば初めてね。折角来たんだし、まだ見てないところを回らない?」

「基地探検か。作業の邪魔にならない程度に、行くとしようか」

 

 陸奥の提案に、長門も迷わず賛成する。ついでに基地の状況も把握出来るから、一石二鳥だろう。そこまで考えて、自分は休みというものに慣れていないことに気付き、苦笑する。暇を与えられても、ついつい艦娘としての目線で物を見てしまうのは悪い癖だ。

 今後は、休み方というものを考えた方が良いかもしれないと思いつつ、長門は陸奥と共に波止場を後にしようとした。

 

 

「ん……?」

 

 気温が高いこの時期に反して、長門は不意に背筋が寒くなるのを感じた。妙な不安を覚えて、長門は海の方へと振り返る。

 

「あら? 長門、どうかしたの?」

「いや……。どうにも嫌な感じがしたんだ……。陸奥は何か感じないか?」

「私は何も……」

 

 急に不穏な気配を纏った長門を見て、陸奥は首を傾げつつ海に目を向ける。しかし二人の視線の先には、波で揺らぐ青々とした海があるだけだった。

 やはり何も無いことを確認してから、長門に視線を戻す。

 

「なが……」

 

 陸奥は名前を言い掛けて、長門の眉間に深い皺が寄っているのを認めた。こんな表情をするのは、深海棲艦との戦いで厳しい状況に陥った時くらいなものだ。

 長門が見えない何かに視線を向け、唇を震わせる。

 

「何だ……。何がいるんだ……」

「深海棲艦かしら」

 

 そこまで言って、陸奥も長門と同様に言い様の無い不安を、海を見て感じていた。どうにも、波の揺らぎ方が不気味なのだ。深海棲艦も十分に不気味と思える存在だが、彼女らがいたとしても、海はこれほどまでに気味の悪い揺れ方はしていなかった。

 

 ――――ちゃぷり、ちゃぷり、チャプリ、チャプリ……。

 

 まるで海を見つめる二人を嘲るかのように、波が一定のリズムを保ちつつ、しかし不穏に揺れる。

 二人にとって、何か良くないモノであるのは確かだった。海面の下に何があるのかは分からない。だが、“ここから早く逃げろ”という本能にも近い警告が脳裏で強く響いていた。

 しかし、二人の足はその場に釘付けになる。それは怖いもの見たさによる興味なのか。それとも恐怖の余り動けなくなっているのか。

 兎に角、長門と陸奥は固唾を呑んで、波止場の向こうの海面を見つめていた。

 

 不意に奇妙な波音が静まり、いつも通りの気持ちの良い音が辺りに響き始める。そこで二人は、張り詰めていたものを吐き出すように溜め息を吐いた。

 

「な、何だったんだ。今のは……」

「さあ。気のせいじゃないかしら……。きっと、そうよ」

 

 陸奥の自分に言い聞かせる様な言葉に、長門も頷く。今度こそ、長門は基地を見て回るべく、歩き出そうとした。

 

 ――――――しかし。

 

「ねえ、長門。あれ……」

 

 陸奥の張り詰めた声に気付いて顔を見ると、強張った表情をして海の方を指差していた。長門も再び海の方に視線を向けて、そこで初めて異常に気が付いた。

 

「なっ――――!!」

 

 長門と陸奥が見つめる先の海面が、まるで山を描いたかのように盛り上がっている。蒼い山はどんどんと高さを増し、ついに最高点に達した。

 そして海水は重力に引っ張られて下へと落ち始め、代わりにそれを纏っていた者の姿を露わにする。

 二人は釣られるように、唖然としながら上を見上げる。偶然近くを通り掛かった現場スタッフの面々も、同じように首を上に傾けていた。

 

 

 蒼いベールを剥ぎ、姿を現したソレは――――。

 

「ゴジラだと……!?」

 

 悍ましい物を見るように、長門が呻く。

 

 海から出現した怪物――――ゴジラは、白く濁った目でホワイトビーチ基地を一瞥すると、天に向かって怨念に満ちた咆哮を、辺り一帯へと轟かせた。

 




 久しぶりに、ヤツが来た……!

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