艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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 流血描写があります。苦手な方はご注意を


第15話 炎と黄金

 拓海や翔鶴、第2戦隊の面々は、目の前にいる2体の怪獣を信じられない様な面持ちで見上げていた。

 

 防衛海軍基地よりやや北に着陸した、竜にも似た黄金の3つ首怪獣と、山を抜けて建物を破壊しながら呉市街を突っ切って、相対する赤茶けた4本足の怪獣。

 磯貝や艦娘たちは、ゴジラ以外で初めて見る巨大怪獣に戸惑いの色を隠せていなかった。

 

「あ、あの黄金色が、キングギドラか!?」

 

 事前に情報を得ていた磯貝が口をあんぐりと開け、恐怖を顔に貼りつけながら、黄金の怪獣を指差している。翔鶴も、似た様な表情を浮かべている。第2戦隊の6人も無線で情報を得ていたため、割とすぐに片方については理解出来ていたが、やはり作る表情は同じだ。

 

「魏怒羅……。千年竜王……」

 

 前にいた世界で見た映画を思い出して、拓海は黄金色の怪獣をそう呟いた。

 3本の首それぞれに生える、曲線の多い角。胴に対して短く見え、木の幹のように太い首は、がっしりとした印象を与える。

 キングギドラと聞いた当初は宇宙怪獣や未来怪獣を思い出したが、目の前にいるそれは、そのどちらでもなかった。

 天・地・海――それら全てを制覇する最強と謳われた護国聖獣、千年竜王以外の何者でも無かった。自分の記憶よりも倍は大きいようだが、それでも間違い無い。

 

「白瀬さん、知っていらっしゃるんですか?」

 

 傍に居た榛名の問いに、拓海は無言で頷く。この状況で説明をしている余裕は、流石の拓海にもある筈も無かった。

 拓海がキングギドラの正面方向に視線を滑らせると、鎮守府の建物の向こうにも、やはり見覚えのある4本足の怪獣がいた。

 

「あっちは、アンギラスか」

 

 暴竜アンギラス。ある時はゴジラの敵として、またある時はゴジラの味方として、シリーズで存在感を示していた怪獣だ。やはりこちらも、体格は倍ほどあるように見える。

 背中に時として武器にもなる、前方に反り返った棘を多数持ち、狂暴な顔は歯をむき出しにして、敵を睨んでいる。体色も、拓海の記憶の中よりも大分赤味が掛かっているようだ。

 拓海以外の面々は、拓海の言葉に「まさか」という表情をしながら、アンギラスを見上げている。

 拓海が横須賀鎮守府内の図書館で調べた際に知ったことだが、アンギラスは80年前に1体確認されて以来、日本での確認記録が無いようだった。現在の教科書では名前しか載っておらず、写真は自前で探すしか無い。そんな経緯があってか、拓海以外の面々はあれがアンギラスとは分からなかったようだ。それほどまでに、注目されていなかったのだ。

 

 

 

 拓海たちが避難も忘れて茫然と見上げる中、戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 先に動いたのは、キングギドラだった。

 3つの首から、連続して黄色い光を帯びた稲妻のような引力光線が、呉市街の建物を破壊し、吹き飛ばしながらアンギラスに襲い掛かる。

 アンギラスは前足を屈めて身を低くし、キングギドラの光線に耐える。その間に、口から炎のようなものが溢れ出していた。ギドラの光線をやり過ごし、口に炎を限界まで溜める。

 光線が途切れた瞬間、ギドラに向けて口を大きく開け、球体の形を成した炎を一気に吐き出した。炎の弾が、不意を突かれたギドラの胸に直撃、大爆発が起こる。ギドラは悲鳴を上げながら、衝撃で後ろに背中から倒れ込んだ。ギドラの背中に、建物が次々と押しつぶされ、埃が舞い上がり、破片が飛び散る。

 

 

 アンギラスが、火を吐いた。初めてそれを見た時、拓海は一瞬理解が追い付かなかった。

 あの怪獣が火を吐く場面など、見たことが無い。というかそもそも、存在しなかった。だが、拓海の目の前で確かに吐いたのだ。

 

 

 ギドラが倒れ込んだところに、海の方から多数のミサイルが撃ち込まれ、爆発を起こした。何事かと思い拓海が海を見ると、巡洋艦“むさし”が低速で航行している。前甲板に煙の残滓が立ち昇っているのが見えることから、ミサイルを発射したのは“むさし”だろう。

 止めを刺したかのように思われたが、それでやられるキングギドラではなかった。黄金に輝く球形のバリアを纏い、跳び上がる。“むさし”は次のミサイルも打ち込むが、バリアに阻まれる。

 効かないと見るや否や、“むさし”の後甲板からクレーンのようなものが頭をもたげる。先端部分には、銀色のパラボラアンテナのようなものがあった。それは「43式ハイパーメーサー殺獣光線発射管」と呼ばれる、“やまと”型巡洋艦に見られる特徴の一つと言える武装だった。

 アームが左舷方向に旋回し、キングギドラに狙いを定める。瞬間的にエネルギーがチャージされ、アームを伝って先端部分から高出力の黄色い閃光が放たれる。しかしその光線でさえも、ギドラの強固なバリアを貫通することは出来なかった。

 ギドラは纏っていたバリアをそのまま前面に押し出し、メーサー光線を押し返しながら反撃に転じる。纏う者のいなくなったバリアが後部甲板に直撃し、メーサー発射管が破壊される。それに伴って小さな爆発が起きるが、船体にはさして異常は無く、戦闘行動は可能なようだ。

 

 ギドラは“むさし”に向けて羽ばたこうとするが、それを邪魔するかのようにアンギラスが尻尾に噛み付く。そのまま頭を振ると、力一杯ギドラを地面に叩きつけた。

 衝撃で土が巻き上げられる中、ギドラはすぐに身を起こし、3つの口でアンギラスの身体に牙を突き立てた。ギドラの身体に黄色い閃光が奔ったかと思うと、それが一気にアンギラスの身体に流し込まれる。

 直にギドラからの電撃を食らったアンギラスは声を上げ、身悶えした。電撃がギドラの牙を伝い、アンギラスの全身へと流し込まれる。その度に、アンギラスの全身にも黄色い閃光が迸った。

 

 

 

 

「い、嫌っ!」

 

 背後から声がして振り返ると、こちらに背を向けた榛名が後退りながら、正面にいる人物を睨んでいた。金剛たちもそれに気が付き、その人物へと視線を集める。

 

「ど、どうしたんだ榛名。俺と逃げないのか?」

 

 周りの視線を集めていた人物――磯貝が、榛名に手を差し出しながら疑問を顔に浮かべている。

 

「お姉さまたちは、連れて行かないんですか!?」

「何を言ってる。この鎮守府はもう、お終いなんだ! 俺は、榛名さえいてくれればいい! 他の連中なんか知ったことか! だから、一緒に逃げよう」

 

 アンギラスとギドラの戦いを脇目で見ながら、焦ったような表情を浮かべる磯貝。榛名は金剛と拓海の間まで後退ると、磯貝から目を逸らした。

 

「私は、貴方とは行けません。お姉さまたちを残していくと言うのなら、私も残ります」

「バ、バカな! そこにいるガキや足手纏い共と、一緒に残るつもりか!?」

 

 はっきりとした拒絶の意志を受けた磯貝が、足を一歩踏み出し、興奮して叫ぶ。彼が口走った言葉に、その場の空気が凍り付いた。

 

「どういう意味だ? 磯貝」

 

 射る様な目を磯貝に向けて、日向が言う。

 

「聞こえなかったのか? 足手纏いだと言ったんだ。お前らは邪魔なんだよ!」

 

 磯貝の怒鳴り声に、日向は声を詰まらせる。

 

「私たちは、貴方をどうにか信じてやってきたのニ……。そんなのって酷いデス」

「そいつぁ、ご苦労なこったな。行くぞ、榛名」

 

 泣きそうな金剛に冷淡な声を返して、磯貝が榛名との距離を詰めて行く。比叡や霧島、伊勢などの他の艦娘たちは、ショックを受けたままその場に棒立ちになっていた。

 そんな彼女たちの表情を見て、拓海は磯貝の歩みを遮るように榛名の前へと進み出ていた。

 

「何だ、お前。まだいたのか」

 

 磯貝は、ゴミでも見る様な視線を拓海にぶつける。自分の背後に榛名を隠しつつ、拓海は磯貝と正面から向き合った。

 

「言ったろ。榛名はアンタのものじゃないって」

「フン。お前こそ、榛名を自分のものにしようとしてるんじゃないだろうな? ええ?」

「確かに榛名は俺の想い人だ。だがな、アンタみたいに自分の玩具にしようとしてるんじゃない。榛名は、俺にとって守るべき存在だ」

 

 悪意ある視線を受け止めながら、拓海は言い放つ。それを聞いた磯貝は暫く呆けた顔をしてから、腹を抱えて心底可笑しそうに笑い始めた。

 

「くくくっ。守るべき存在だぁ? てめぇには何の力も無い癖にか。思い上がりも良いところだな」

 

 磯貝は腰に右手を当てると、そこに隠し持っていた物を取り出し、拓海の眉間に向けた。彼が両手で保持していたそれは、黒い拳銃だった。今にも吸い込まれそうな暗い銃口が、拓海の目に入る。

 

「なっ――!」

 

 拓海は息を呑んで拳銃を見つめつつも、その場から頑として動かなかった。

 

「度胸だけはあるみてぇだな。だが、お前に何が出来る? 自分が盾になって、立派に死のうっていうのか? それで守ってるつもりとは、笑わせるな」

 

 銃を固定したまま、磯貝は鼻で笑う。

 

「それこそ笑わせないでくれよ、磯貝。俺は、死にたくなんかないよ」

「へぇ。随分と正直だな。なら、そこをどけ」

「嫌だね。俺は榛名の笑顔を守るって、決めたから。榛名に悲しい顔をさせる奴に、任せてたまるか」

 

 言っていて、恥ずかしくなる。穴があったら入りたい。無くても、どこかからスコップでも何でも持ってきて、穴掘って埋まりたい。こんな事は、言葉に出して言うべきでは無いと、周りから浴びせられる視線を感じて思った。だが、ここできちんと意志を言葉にして、はっきりさせなきゃいけないとも思った。

 しかし磯貝は眉をピクリとも動かさず、引き金に指を掛ける。

 

「そうか。なら、お前は死ね」

 

 磯貝の指に力が入り、今まさに引き金が引き絞られようとしている。

 

 ――――ここまでか。

 

 そう思って目を閉じた時、強い地響きが拓海たちを襲った。足元が大きく瞬間的に揺れた直後、コンクリートに亀裂が入る。

 顔を上げると、キングギドラがコンクリートの地面に凹みを作って二本の足で立ち、三本の首は拓海たちを見下ろしていた。

 拓海はさっきまで戦っていた筈のアンギラスの姿を探すと、ギドラの遥か後方で蹲っていた。度々電気のような光が体表を駆けていくのを見る限り、先程の攻撃で痺れているようだ。

それからギドラに視線を戻すと、三本の首が赤く不気味に光る目を細めている。

 

(あれ? キングギドラって目が赤かったか……?)

 

 内心で首を傾げていると、拓海に向けて銃を構えたままの磯貝が、恐怖に震えた声を出して訴えた。

 

「お、おい! 早くそこをどけ! でないと、殺すぞ!!」

 

 磯貝がその言葉を口にしたとき、ギドラが目を見開き、前屈みになりながら真ん中の首を彼に向かって突き出した。

 突然迫って来た影に、磯貝は上を見上げて表情を硬直させる。及び腰になり、銃を放り出して逃げ出そうとしたときには、既に遅かった。

 

 ギドラの口が大きく開かれ――――。

 

「たっ、助け――――」

 

 最後まで口にする前に、磯貝が上からギドラの口に覆われる。ギドラは磯貝を口にしながら頭を上げ、もがいていた磯貝に止めを刺すように上下の尖った刃で噛み切る。磯貝の右脚が血を撒き散らしながら地面にボトリと落ち、身体はギドラの喉の奥へと消えていった。

 ゴクリと喉を鳴らし、磯貝が呑み込まれる。ギドラは再び、足元にいる拓海たちに視線を戻し、頭を近づけて来た。

 磯貝が死んだことへの反応をする隙を与えず、ギドラは赤い瞳でじっと見下ろす。

 金剛は「Shit……」と呟き、比叡が金剛の腕にしがみ付いて怯える。霧島や伊勢、日向もギドラを見上げたまま、動けなくなっていた。拓海と榛名は、互いに気を遣いながら後退る。翔鶴もこちらに来て、不安げに上を見ていた。

 ギドラが次の獲物に狙いを定めたかのように、口を開く。ある者は目を閉じ、ある者は目を見開く。

 その場にいる誰もが、もうお終いだと思った。

 

 

 その時、ギドラの右脇腹に灼熱の火の玉が衝突した。黄金の鱗で覆われている筈の脇腹が焼け焦げ、ギドラは不意の衝撃に耐えきれず反対側に倒れ込んだ。一番左の首が港からはみ出し、飛沫を上げる。

 

「今だ! 皆、逃げるぞ!!」

 

 隙を見逃さず、拓海が艦娘たちに向けて声を張り上げた。弾かれたように、榛名や金剛たちが西に向けて駆け出す。この先には、西のゲートがあった筈だ。そこを抜ければ、一時的にでも逃れられるだろう。

 

 

 アンギラスは倒れたギドラを睨み、咆哮した。

 彼が拓海たちを助けることになったのは、偶然だった。眼中にあるのは、敵と定めたギドラのみ。それ以外は眼中に無い。足元で建物が壊れようが、人が踏み潰されようが、アンギラスには関係のないことだ。ただギドラの隙を窺い、灼熱の火球をぶつけただけ。

 

 鎮守府前の海を航行する“むさし”からは、アンギラスも敵として認識されていた。だが、あからさまに人へ害意を向けているギドラと、ギドラだけを敵としているアンギラスとでは扱いに差がある。艦長はギドラを最優先目標とし、アンギラスはその次の攻撃目標としていた。このままギドラを野放しには出来ない。“むさし”は低速で航行を続け、ギドラの生死を判断しようとしていた。

 

 

 気を失っていたギドラが目を見開き、黄金に包まれた巨体を起こす。ギドラは3つの首に二つずつある目を使い、前方にアンギラス、後方に“むさし”がいるのを見る。完全に挟まれている形だ。

 ギドラは一声鳴くと、自分が不利であることを悟ったかのように踵を返し、太平洋の方へと向けて飛び立った。“むさし”から機関砲の攻撃を受けるが、バリアを張って意に介さず、そそくさと逃げるように去った。

 “むさし”は深追いをせず、目標をアンギラスに切り替える。機銃や5インチ連装主砲を向けられたことで、アンギラスも次なる敵に目を向ける。だがアンギラスとの間には、呉鎮守府の建物が障害物として存在していた。即座に切り替え、“むさし”は再びミサイル攻撃へと移る。

 前甲板の43式垂直発射システムから、ミサイルが数発発射される。ミサイルは一定高度まで上がると向きを瞬く間に変え、アンギラスに向けて殺到した。

 ミサイルはアンギラスの刺々しい背中に直撃し、爆発を起こす。その威力に、アンギラスは悲鳴を上げ、バランスを崩した。下顎が呉鎮守府本庁舎の屋根に激突し、その部分が崩れ去った。間髪入れず、次の攻撃が加えられる。

 

 十数発が撃ち込まれたが、アンギラスの息の根を止めることは出来なかった。

 攻撃が絶えた隙に立ち上がり、アンギラスは息を大きく吸い込む。“むさし”を睨んで口を空けると、先程吸い込んだ息を高温の熱風に変えて、一気に吐き出した。

 瞬間的な強風が吹き、鎮守府の建物の一部に火を点ける。風はそのまま、“むさし”の艦橋付近に直撃した。艦橋を破壊する力までは無かったが、その熱風が艦橋周りに設置された電子機器に深刻なダメージを与えた。途端に“むさし”のシステムがダウンし、レーダーでアンギラスを追いかけることが出来なくなる。

 無力化したのを認めると、アンギラスは興味を無くしたように山の方へと振り返り、元いた場所へと帰るべく歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 その後アンギラスは三瓶山付近の地中へと潜り、キングギドラは海中へと姿を消した。アンギラスはどうもマグマの中へ潜ったようで、直ぐに追えなくなった。キングギドラの方も防衛海軍の新型潜水艦の追尾を振り切って、行方を暗ませる。

 

 

 呉での戦闘経緯について、光樹は他の司令官たちと共に、大輔によって開かれた会議で聞かされることになった。事態が終わってから約1時間経ってからのことだ。

 

 光樹は鎮守府の本庁舎にある自分の執務室へと戻り、革椅子に腰を下ろして天井を仰ぎ見て、一息吐いた。気が付けばもう、正午だ。この緊急事態に翻弄された所為か、いつも以上に疲れた様な気がする。

 

「提督、お身体は大丈夫ですか?」

 

 聞き慣れた声と共に、湯飲みに入ったお茶が差し出される。視線を机の向かいに向けると、光樹の秘書艦である三笠が優しげな笑みを浮かべて立っていた。

 

「ああ、何とか。――――2年前を思い出すな」

「宿毛湾ですね……」

 

 三笠の顔に、影が差す。その悲しげな顔は、あまり思い出したくなかったと言わんばかりだった。

 

「すまん。嫌だったか」

「いいえ……。私も、同じように思っていましたから」

 

 そう言って、三笠は首を振った。

 「宿毛湾泊地襲撃事件」では、当時宿毛湾に集結していた第1世代艦娘たちの9割ほどが、深海棲艦の犠牲となってしまった。対深海棲艦において大打撃を受けた事件でもある。その時光樹は佐伯湾にいて襲撃を免れ、反対に三笠は宿毛湾で多くの仲間が死んでいく様を目の当たりにした。この事件は二人の心に、小さくない傷跡を残している。

 今回も、そんな状況と似ているように光樹には思えた。

 自分は安全なところにいて、親友や部下たちが戦場となった呉にいる。多くの市民が巻き込まれ、磯貝風介も殉職した。鎮守府の建物にも被害が出ている。拓海や艦娘、他の連中が生きていたことに安堵するが、同時に出てしまった犠牲の事を思う。

 

「――――三笠、磯貝が死んだよ」

 

 なるべく感情を殺して、光樹は淡々と告げる。彼は軍人として、確かに優秀だった。信頼に足る能力も持っている。その反面、榛名への依存度は酷いものだった。その所為で、部隊が一つ運用出来なくなってしまう。最終的な評価は、お世辞にも良いとは言えない。それを反映するかのように、磯貝の階級は死後も少将のままだった。

 それでも、人が死ぬというのは心に軽くは無い荷を載せる。そんな微妙な感情が、光樹の言葉にも表れていた。

 

「そう……」

 

 三笠も微妙な表情で、応じる。三笠は磯貝のことを「最低の男」と断じていたことがあるために、光樹と同様素直に悲しめないでいるようだった。

 

「キングギドラに喰われたそうだ」

 

 そして、室内に沈黙が訪れる。

 二人とも、喜んでいるわけでは決して無い。寧ろ、その死を悼んでいるくらいだ。だが、彼という人物がなまじ酷かったために悲しむことが許されない、そんな雰囲気があった。

 

「……飯、食わなきゃな」

「そうですね。ご一緒します」

 

 光樹の呟きに、三笠も同意を示す。

 軍人は戦場だろうが椅子の上だろうが、体力がいる。食べられるときにキチンと食べておかなければ、後で響くだろう。それに、この沈んだ空気を少しでも紛らわせたいという気持ちもあった。拓海にまで、情けない顔は見せられない。

 光樹と三笠は並び立つと、昼食を採るべく執務室を後にした。

 

 

 




 この作品でのアンギラスは、オリジナル要素が強いです。映画のアンギラスは、絶対に火なんて吐きません。吐息による攻撃は、「ゴジラ怪獣大乱闘」のアンギラスの技が元ネタです。

 アンギラスの初登場は、シリーズ第2作「ゴジラの逆襲」です。第1作と比べてしまうと拍子抜けしてしまうかもしれませんが、見て損は無い作品だと思います。
 アンギラスはその後のシリーズでも、ゴジラの敵、或いは味方として登場します。結構好きな怪獣の1体です。


 ローマと高波? そ、そんなことより資源集めとレベリングじゃ(目逸らし)

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