艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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第11話 距離

 光樹の車に送られ、拓海と榛名は来客用宿舎に到着した。

 拓海が先に降りた後で、光樹と三笠からくれぐれも彼のことを宜しく、と榛名は言われた。

 

 榛名も、拓海の様子がおかしくなったのには気付いていた。

 家にお邪魔した直後には何の異常も無かったから、その途中か帰る時だろうと思う。

 

 しっかりとした足取りでありながら、どこか危なっかしさを覚える拓海の背中をはらはらした思いで見つめながら、すぐ後ろを付いて行く。

 エレベーターで3階まで上がり、彼の自室である305号室へと歩く。

 その間、拓海は一言も話すことは無かった。

 隣から顔を覗き込んでみたい気もしたが、影を感じる背中を見て、躊躇してしまう。

 

 部屋の前に着くと、拓海はポケットから鍵を出して、ドアを開錠する。

 玄関口にスイッチがあったのか、薄暗い部屋に灯りが点き、拓海はこちらに振り返った。

 

「それじゃ、上がって」

 

 外開きのドアを背中で抑えつつ、やや高めの視点から榛名を見つめる。

 そこにあったのは、穏やかで優しい笑みを湛える、拓海の顔だった。いつもと違うところと言えば、その笑顔に陰りが見えることだ。

 

「お邪魔します」

 

 榛名は礼を言って、部屋の中に足を踏み入れる。

 ここから先は、今榛名の隣でドアの鍵を閉めている、白瀬拓海の“世界”だ。

 

 

 拓海の部屋に入った時の第一印象は、「綺麗だが寂しい」だった。

 

 リビングには、真っ白いシーツと布団が敷かれたベッド、白い座卓と何枚かの座布団。天井からは、備え付けの部屋干し用物干し竿が吊るされ、そこに幾つかの洗濯物が干してある。

 他には、後から備品として導入された背丈の低い本棚に、テキストなどの本が入っているのみだ。

 トランクなどの荷物が見当たらないが、それはクローゼットに入れてあるのだろう。

 

 こうして見ていると、生活感は十分に感じられる。

 整理整頓も行き届いていて、清潔な印象も受ける。

 

 しかしその反面、空虚さのようなものも感じられた。

 

 

「おーい。榛名?」

「あっ……!」

 

 無意識に部屋を凝視していたところで、拓海に声を掛けられ、榛名は体をビクリと震わせて驚く。

 油断していたあまり、不意打ちを受けたような恰好になってしまった。

 

「い、いえっ。すみません!」

 

 自分の失態に恥じらいを覚えて、榛名は拓海の視線から逃れるように頭を下げる。

 あんな間抜けた声を聞かれたことが、どうにも恥ずかしい。

 普段の自分なら、こんな真似はしない筈なのに。

 

「ごめん、驚かせたか……。――――取り敢えず、座ろうか」

 

 拓海は気を利かせたのか、話を逸らして、部屋の隅に積んである座布団を取りに行く。

 黒いカバーを被せられた座布団を2枚、座卓で向かい合うように置くと、拓海は榛名に手招きをする。

 榛名はそれに頷くと、手前の方に敷かれた座布団に腰を落ち着けた。

 拓海の方も、榛名と向かい合って座る。

 

 それから、二人の間に沈黙が訪れる。

 拓海は、やや俯いたまま中々話し出そうとしない。

 もどかしさはあったが、それでも榛名は待つ。

 それが、自分に出来ることだと思うから。

 

 数分が経過して、拓海は意を決したように顔を上げた。

 榛名も姿勢を正して、彼と目を合わせる。

 拓海は、ゆっくりと言葉を選びながら、重い口を開いた。

 

「榛名は、『転生』って信じるか?」

「生まれ変わりってことですか……?」

「うん。今生きている人が、実は昔のある人物の生まれ変わりだったとか、そんなことを言うんだけど」

 

 頷く拓海に、榛名は一考してみる。

 前世で死した魂がもう一度、新たな命を得て再びこの世に生まれること。

 信憑性のほどは分からないが、小耳に挟んだことのある話だ。人々の間でも、賛否両論が交わされるという。

 

「――そうですね……。私たち艦娘は、かつての軍艦の記憶を受け継いでいます。そういう意味では、あり得ない話ではないかと思いますが……」

 

 艦としての記憶は、断片的だ。流石に、全ての記憶を持っているというわけでは無い。

 それでもこうしてかつての記憶を持ち、それに様々な面で影響を受けているという意味では、艦娘は「軍艦の生まれ変わり」と言えるかもしれない。

 

「そっか……。言われてみれば、そうかもしれないね」

 

 榛名の言わんとすることに気付いて、拓海は理解を示す。

 それから視線を虚空に向け、卓上に両手を置く。

 

「アイツの……。光樹の、娘がいただろう?」

「鳴川彩水さん、ですか?」

 

 あの上品で、気品に溢れた少女の顔を思い浮かべる。

 そう言えば、雑談をしている時に、ちらちらと拓海の方に視線を向けていた気がするが、あれは何だったのだろうか。

 断言することは出来ないが、少なくとも、拓海に対して興味を抱いているような目だった。

 

 拓海は頷くと、一つ深呼吸をして、再び榛名に視線を合わせる。

 

「あの子は、俺の妹――――白瀬彩水の生まれ変わりだ」

 

 確信を持った目で、彼は言い切ってみせる。

 榛名は驚いて、目を見開く。

 

「妹さんが、いたんですか?」

 

 尋ねると、拓海は真剣な顔で頷く。嘘は吐いていないようだ。

 そう言えば、拓海が肉親のことを自分に話すのは、初めてだ。少なくとも榛名には、彼からその辺りの話を聞いた覚えはない。

 

「ああ。俺の一つ下だよ。ウェークで流された時期には、東京の高校に通ってた」

 

 拓海は、懐かしそうに目を細める。

 一方の榛名は、生まれ変わることが本当にあるのだろうかと疑問に思う。

 自分で言っておきながら、そう考えるのは矛盾しているのかもしれない。

 

「何故、妹さんだと思われたのですか?」

 

 その疑問も含めて、拓海に投げかけてみる。

 

「癖、だな。俺の妹も髪が長くてさ、よく右手で自分の髪を撫でてたんだよ。ちょうど、光樹の娘がやったみたいに」

 

 榛名は、光樹の家での記憶を手繰り寄せてみる。

 確かに、初めて会った時や話している最中に、そんな行動を取っていたように思う。

 榛名の様子を見つつ、拓海は続ける。

 

「その癖が、光樹の娘と全く一緒だったんだよ。目つきも、表面上取り繕ってたけど無邪気な話し方も、一緒。その所為かな。顔は確かに光樹に似てるんだけど、俺の妹ともそっくりに見えるんだ」

 

拓海は座卓に肘を付き、頭を抱えて俯く。

 

「おまけに、名前まで全く同じで『彩水』と来た。これ以上、どう間違えろって言うんだよ……」

 

 拓海は、そう言って呻く。明らかに、参っている様子だ。

 

「そのことを、鳴川少将は、ご存知なのでしょうか?」

「いや、あいつは知らないだろうな。あの様子だと。直接会ったことは無いし、名前も出して無かったからな……」

 

 確かに彼の妹の名前を知っていたら、「彩水」という名前を付けるだろうか。

 付けるとしたら、響きが気に入ったからとか、その名前の人に何か思い入れがあるか――といったところかもしれない。

 

「癖や面影がそっくりで、名前も一緒……。それが、白瀬さんがご自分の妹さんだと思った理由ですか?」

「まあ、そんなところになるな……。今の話だと、そうそう信じて貰えないかもしれないけど――」

 

 言い淀む拓海を前にしながら、榛名は少し気になって、尋ねる。

 

「白瀬さんって、妹さんのことをどう思われてるんですか?」

 

 拓海は顔を上げて、目を瞬かせる。

 

「そりゃあ、大事な妹だよ。あいつがいなかったら、今、俺はここにいないだろうしな」

 

 さも当然のことのように、拓海は言う。

 それなら何故、彼は恐怖するような反応をしたのだろうか。

 前世に何があったかは兎も角、再会を喜び合うのでは無いのか。

 

 榛名が、姉や妹たちと艦娘として再会出来て、喜んだ時のように。

 拓海が、30余年も老けた友人と再会を分かち合った時のように。

 

 しかし拓海が示したのは、恐怖や怯えと捉えられる感情。

 

 元いた世界で、二人の間に何かあったのだろうか。

 そんなことを聞いてみたくて、榛名はそれとなく話しかけてみる。

 

「妹さんは、どんな方だったんですか? その……仲は、良かったんですよね?」

「ああ、そりゃあもう。歳が近かったから、友達みたいな関係だったな。映画の『ゴジラ』何かは親の影響で見てたけど、それ以外のアニメだとかゲームだとかには、疎かったんだよな。中学の時に教えて貰って、その頃から時間があるときには、ちょっとずつ楽しむようになったって感じだ。で、高校の時に榛名たちが出て来る擬人化ゲームにハマって、今に至ってる」

 

 そう語る拓海の目には、僅かに活き活きとした光が宿っていた。

 出会ってから初めて見た、懐かしむような微笑みだ。そこには、自分の知らない拓海がいるのだと感じる。

 拓海は、話を続ける。

 

「昔は、気が付けば後ろに引っ付いて歩いてるような子だったな。よく笑って、よく泣いて何かあれば、『お兄ちゃん』ってさ。喧嘩もしたけど、頼られるのは嬉しかった。だからかな、サッカーを始めたのは。最初はアイツに見てほしかっただけだけど、やっていくうちに、サッカーにのめり込んでいった。それからは、アイツもくっついてくることは無くなったっけ」

 

 彼の脳裏に浮かんでいるであろう、妹との思い出。

 言葉の節々には、暖かさのようなものが感じられる。

 

「妹さんのこと、大切にされているんですね」

「そりゃあな。俺にとって、自慢の可愛い妹ってやつだ。中学や高校の時も、小学校の頃ほどでは無いにしても、よく一緒にいたもんだ。――それが、当たり前だって思ってたんだよ」

 

 拓海は俯き、眉を顰めて唇を噛む。

 

「なあ、榛名……。お前にとって、姉妹ってなんだ? 金剛や比叡、霧島は榛名にとってどんな存在だと思ってる?」

 

 何かにすがろうとしているような、か細い声。表情は見えない。

 だがこれは、彼にとって大切なことなのかもしれない。

 

「そうですね――。お姉さま方や霧島は、私にとって“絆”なのかもしれません」

「絆、か……」

「はい。色んな思い出を、一番近くで共有出来る――そんな存在です。戦うこともありますが、私はお姉さま方や霧島がいてくれるだけで、安心するんです。この姿になってから、余計そう思います」

 

 かつて姉妹で唯一取り残され、解体という形でその軌跡に幕を下ろした榛名。

 彼女にとって、姉妹との再会は何物にも代えられないことだった。

 

「俺も、そんな風に思えたらどんなに良かったんだろうな……」

 

 拓海は手を固く握り、誰に言うわけでも無く呟いた。

 

「白瀬さんは、違うんですか?」

 

 榛名の問いに、拓海は視線を逸らす。

 そして、静かな口調で告げた。

 

「俺にとってアイツは――――“呪縛”だ」

 

 拓海の言葉に、榛名は驚愕の表情を浮かべる。

 

「そ、それってどういう……」

「言葉のままの意味だよ」

 

 思わず尋ねた榛名に、拓海は悲しげに笑う。

 

「何か、あったんですか?」

 

 ついに我慢し切れず、榛名の口が動く。

 

「あったには、あったな。でも、その質問には答えられそうにない……」

 

 拓海は、歯軋りをするように口元を歪める。

 そこには、後悔の念のようなものが見え隠れした。

 

「答えられないなんて、そんな――」

 

 しかしこれは、拓海にとってこれ以上踏み込んで欲しくないのだろう。

 彼の態度からは、そういったものが滲み出ている。

 

「悪い。自分から話をしておいて、こんなのは無いのかもしれないけど……。こればっかりは、話したくない」

 

 拓海の口から出たのは、拒絶の言葉。彼は、申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「そんなのって……酷いです」

 

 榛名は、思わずそう溢してしまってから、ハッとして拓海の顔を見た。

 拓海は先ほどの表情を変えないまま、俯いている。

 

「はは……。そりゃ、そうだな。だけど俺は、こればっかりは、榛名に対しても答えられない」

「白瀬さん、それで良いんですか?」

「良いんだ……。俺に、そんな資格は無い」

 

 拓海は、吐き捨てるように言い切る。はっきりと感じる、拒絶の意志。

 その言葉を聞いて、榛名は顔がカッと熱くなるのを感じつつ、すっくと立ち上がった。

 

「榛名……?」

「すみません。もう、帰ってもよろしいでしょうか? この後、用事がありますので」

 

 榛名はほんの少しだけ、嘘を吐く。

 しかし拓海はそれを疑うことなく、首を縦に振った。

 

「すまん……。下まで送ってくか?」

「いえ。玄関までで十分です。白瀬さんは、部屋で休んでいてください。明日からまた、カリキュラムですよね?」

「それも、そうだな……。分かったよ」

 

 拓海も立ち上がって、榛名と視線を合わせる。

 榛名を見つめる彼の顔は、酷く情けないものだった。それが、榛名の心を突き動かす。

 榛名は踵を返すと玄関に向かい、ブーツに足を入れる。

 膝丈ほどもあるブーツを履き終え、部屋の鍵を開けて3階の廊下に出る。

 それから拓海の方を振り返り、一礼する。

 

「白瀬さん、お邪魔しました」

「ああ、いや。俺の方こそ、時間を取らせてごめん」

 

 拓海は遠慮がちに笑いつつ、首を振る。その顔はやはり、酷いものだった。

 

「それでは、また」

 

 榛名はエレベーターホールの方に向けて足を生み出すと、二度と後ろを振り返ることは無かった。

 後ろに、いつまでもこちらを見つめ続ける視線を感じながら。

 

 

 

 

 

 1階でエレベーターを降りて外に出ると、丁度目の前に見た覚えのあるセダンの車が停車する。

 助手席の窓が開くと、奥の運転席から車の主が顔を覗かせた。

 

「鳴川少将……?」

「何だ、結構早かったな。取り敢えず、後ろにでも乗ってくれ。艦娘宿舎まで送っていくよ」

「失礼、します」

 

 有無を言わせない調子に圧倒されつつ、榛名はその言葉に甘えることにする。

 後ろのドアを開け、後部座席に乗り込んだ。

 車内には、光樹と榛名以外には誰もいないようだ。

 それを察したのか、拓海が口を開いた。

 

「ああ、三笠か? ちょっと、仕事を任せてある。っと、シートベルトは大丈夫か?」

「は、はい」

 

 光樹に言われ、榛名は自分がシートベルトをしていることを確認する。

 

「大丈夫みたいだな」

 

 光樹はそれを確認すると、窓の外に目を配らせつつ、車を緩やかに発進させた。

 

「ちょっくら遠回りするが、いいか?」

「お構いなく」

 

 話したいことがあるのだろうと思い承諾すると、光樹は交差点を右に曲がらず、真っ直ぐ進んだ。

 

「で、何を話してたんだ?」

 

 流れていく窓の外の景色を見つめていると、光樹が話を切り出して来た。

 初めから、聞くつもりだったのだろう。でなければ、こうして車を遠回りさせることも無い筈だ。

 榛名は、どこまで話すべきかと思いつつ、言葉を選ぶ。

 

「白瀬さんの……妹さんのお話を伺っていました」

「そういえばアイツ、妹がいたんだったな。アイツ、結構なシスコン野郎でさ。語りだすと止まらなくなるんだよな。榛名も、そんな話を聞かされたのか?」

「いえ……。可愛がっているという話は聞きましたが、どちらかというと……」

 

 彩水という名の妹の話をしている時の拓海の顔を思い出して、榛名は言葉を途切れさせる。

 

「その様子だと、喧嘩でもしたか?」

「そういうわけでは、無いのですが……」

 

 拓海は、何故大事にしていた筈の妹を差して“呪縛”などと言ったのか。

 そして自分を拒絶した、あの目。

 榛名はあの時、柄にも無く怒りを感じた自分に、驚いていた。

 

 拓海が自分の前で弱音を吐いたからだろうか。

 それとも、榛名の思う兄弟姉妹の考え方を否定されたからだろうか。

 ――違う。そのどちらでも無い。

 

 では、何か?

 そう自問するが、今の榛名には答えが見つけられなかった。

 

「アイツ、一番悩んでいることは、俺にも教えてくれなかったからな」

「えっ?」

 

 光樹の不意の言葉に、榛名は思わず声を溢す。

 

「他の悩み事は、よく相談に乗ったもんだ。でもな、一個だけ俺にも、誰にも話してくれなかった事があった。それは、俺も知らない。俺も聞いたことが無いからな。親友の俺にすら、話してくれない事なんだ。アイツにとって、余程重大なことなんだろうよ」

「白瀬さんは、気にならないんですか?」

 

 榛名の問いに間を置いてから、光樹は肩を竦めて笑う。

 

「気になりはするさ。でも人には、一つや二つくらい、誰にも話したくないことだってあるだろうよ。俺だってそうだ。だから、あんまり責めてやるなよ? アイツはアイツで、頑固なところがあるからな。アイツが自分でそう決めた以上、俺たちは背中を押してやることぐらいしか出来ないだろうよ」

 

 光樹は、拓海のことをよく分かっているようだった。

 対して自分は、彼と出会ってから1ヶ月も経っていない。

 カリキュラムをやっている時の拓海は、いつも必死な顔で頑張っていた。それがここに来て、見たことの無い顔を覗かせる。

 そんな顔に、失望してしまったのかもしれない。

 

「鳴川少将は、白瀬さんの妹さんには会われたことはありますか?」

「いや、無いな。そう言えばアイツ、名前の一言も喋ってなかったな。よっぽど、大事にしてたんだろ。俺みたいな奴に、取られちまわないようにさ」

 

 そう言って、光樹は冗談めかして笑っていた。

 車の後ろで榛名は、そんな彼を前にして、一つの決断を口にした。

 

「鳴川少将。私は、呉鎮守府に戻ろうと思います。――――きゃっ!?」

 

 急ブレーキが掛かり、榛名の身体が前につんのめるが、シートベルトの安全機能で頭をぶつけずに済む。

 運転席の方を見ると、光樹が顔を強張らせてこちらを見つめていた。

 

「おいおい。それ、本気で言ってるのか? 磯貝の所に戻るってことだぞ?」

「それなら、金剛お姉さま方いるので、平気です」

「いや、まあ……。あいつらの守りは、ある意味硬いからな……。拓海の奴の傍にいなくていいのか?」

「ええ。今の白瀬さんは、その……。見ていられませんから」

「そうなのか? っていうか、バッサリ切ったな」

 

 光樹の呟きには、榛名は答えない。

 

「……で、いつあっちに戻るんだ?」

「今日にでも、厚木から飛行機に乗って戻ります」

「今夜か!? いくら何でも、急過ぎじゃないか?」

「良いんです。それに早く戻れば、お姉さま方の負担も減らせると思いますので」

「それは否定しないが……」

 

 榛名の意志は固かった。

 別に、大それた意志があるわけでは無い。

 ただ、これ以上拓海の傍に居たくないと思ったのは確かだった。

 

「――分かった。本庁舎に戻ったら、すぐに手配する。榛名は、宿舎に戻ったら荷物を纏めておけ。艤装は、迎えに行った時に持ちだすとするか。拓海には、挨拶していくか?」

「結構です。私が行ったことも、話さないでください」

 

 はっきりと言うと、光樹が少々気圧されたように答える。

 

「そ、そうか……。じゃあ、アイツから聞いてきたときだけ答えるってのでいいか?」

「はい。それで構いません」

 

 気が付けば、艦娘用の宿舎前に到着していた。

 

 光樹が車を宿舎前に停めつつ、後部座席に視線を向ける。

 

「ほら、着いたぞ。――調べ物の方は、いいのか?」

 

 榛名は、南鳥島の要塞で言ったことを思い出す。

 ゴジラのことと、艦娘のこと。自分が、どうやって生まれたのか。

 横須賀から離れることで、それらの事柄からも遠ざかるような気がするが――。

 

「また、こちらに来た時に調べることにします。それに、艦娘には調べられる限度があると思いますので」

「まあ、将官ですら閲覧出来ないことになってる情報もあるからな。無理も無いか。――それじゃ、今晩の7時。ここで落ち合おう。それまでに、関西方面へのフライトに乗れるように手配しておく」

「ありがとうございます。宜しくお願いします」

 

 榛名はそう言って一礼すると、後部座席のドアを開け、車を降りた。

 

 走り去って行く光樹の車を見送ると、榛名は艦娘用の宿舎の入口へと向かう。

 首を上げると、地上11階の建物が榛名を見下ろしている。

 一部屋に3人まで入ることが出来、5個艦隊分の艦娘を余裕を持って収容出来るほどの施設だ。

 榛名はその建物の2階に、一人で部屋を借りていた。

 呉から一人で出向して来て、少し寂しさを感じつつあった時期でもあるし、良い機会だったかもしれない。

 

 榛名は一人歩きつつ、知らず呟いていた。

 

 

「白瀬さんの、バカ……」

 

 

 

 




お待たせして、すみません。

意外と詰まってしまいまして……。
半ば勢いで始めてしまったからですね。(後悔はしていない)

別に、SAOやリリなののSSを読むのに現を抜かしていたわけでは無……。あっ、榛名がこっち睨んでる……。


  っとまあ、結構グダグダな感じですが、これからも粘り強くお付き合い頂けたらと思います。

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