拓海が横須賀鎮守府に来て3週間ほど経った、5月31日。
気が付けば、6月も目前となっていた。
この3週間は、横須賀から一歩も出たことは無かった。
時間があれば、旧首都の方にも行ってみようと思ったが、いざカリキュラムが始まってみると、そんな時間などあっという間に無くなっていた。
民間人上がりとなるため、そこまで多くを求められるわけでは無いが、しかし現役の司令官たちに追い付くために、やらなければならないことばかりだった。
元々ゲームをやっていたことが功を奏したのか、艦娘周りのことについては割とついて行けている。実際の艦娘を使うと言っても、他部隊から借りなければいけないし彼女たちにも任務がある。そのため、大半は座学と卓上演習だ。
他にも戦術リンクについてや、艤装など覚えることは多い。特防軍の歴史も、合わせて教えられているところだ。
フィジカルトレーニングは、体力には自信があったのだが、思っていた以上にハードだった。おかげで、以前よりも持久力や筋力は上がっているような気がする。
毎日、朝8時ごろに始まり、夕方の5時ごろに終わる。ずっとこの繰り返しだ。日曜日は休みだが、半日を自習に充てる。
こんなことが続くかと思うと焦る気持ちもあるが、着実にやっていくしかない。それでも、神通たちを待たせたくは無いし、半年以内には何とか着任したい。
もっとも、彼女たちが待ってくれているとは限らないが――。
日本近海は、深海棲艦以外は特にこれといって重大な事態は無いようだった。
南鳥島沖で確認されたゴジラは、未だに行方が知れない。
深海棲艦の隙を見て、繰り返し調査は行われているようだが、発見報告は一つとして無いと光樹から聞いている。
沖合の泊地棲鬼などの残骸があった海域も調べられたが、放射能は既に拡散してほぼ無害になっているとのことだった。航行しても、問題は無い状態だと言う。
肝心の深海棲艦についてだが、残骸は霧散しており、影も形も無くなっていたようだ。
単に海中に沈んだだけかとも思ったが、倒された深海棲艦は例外無く消える現象が確認されており、その可能性は低いらしい。
生態を確認しようにも、このせいで中々実現出来ていない。後は鹵獲しか無いが、攻撃的な敵相手では厳しい状況だ。
5日前には、その海域へ調査に出ていた巨大な艦が、横須賀へ入港してきていた。
その日のカリキュラムが終わったついでで、泊町の西、海を挟んだところにある箱崎町と呼ばれる島に停泊しているところを見たのだ。
拓海の位置からは、銀色に鈍く光る船体と幾つかの武装しか見えなかったが、前後の甲板スペースが広く取られているように見えた。後で高い建物からその部分が見えたが、甲板にはミサイルか何かを発射すると思われる蓋が、何十枚もあった。
そして、後甲板にはどこか見覚えのある、クレーンのようなアームの先端にアンテナ状の物体がある装備――。
YGC-01、対獣高速汎用ミサイル巡洋艦“やまと”。
数々の怪獣の危機の前に建造された、特生防衛軍の主力巡洋艦だそうだ。
第3次大戦頃までは、通常艦艇とほとんど変わらなかったが、5年前のゴジラ出現で大破、就役から12年目にして大規模改修を受け、怪獣戦に特化した兵器になった。
特生防衛軍の技術が盛り込まれており、メーサー兵器がその特徴の一つとなっている。後甲板に付いていたアンテナ状の物が、それなのだろう。
対ゴジラや、対深海棲艦防御を意識しているため、図体が大きいにも関わらず特殊な装甲を装備。最大戦速時には、40ノットを優に超えるという。
わけが分からない話だった。
外国からは、ハリネズミとも言われているらしく、某国の駆逐艦よろしく全部乗せしていそうな勢いだ。
こんなモノが、計4隻も作られている。
過去にはメカゴジラやM.O.G.E.R.A.が存在したと言うが、どこからそんな予算が出て来るのだろうか……。
2002年に息切れを起こしたことが、信じられないレベルだ。
これまでのことを振り返りつつ、拓海は自室で机の前に座り、伸びをしながら辺りを見回す。
この3週間で私物も僅かだが増え、すっかり住み馴れて来ている。
勝手知ったる我が家――――とはいかないが。
今は昼食を終え、午後の自習に入るところだ。
早速テキストを開こうとしたところで、部屋に来客を告げるチャイムが鳴り響く。
誰かと思いつつドアを開けてみると、そこには光樹の姿があった。
「あれ、光樹? どうしたのさ」
「よう、拓海。今、時間あるか?」
「いや、自習しようと思ってたとこなんだけど――」
拓海がさも当然のように言うと、光樹が呆れたような顔をする。
「お前のことだから、そんなこったろうとは思った」
「で、どうしたんだよ?」
「取り敢えず、そのドアチェーン外してくれ」
光樹はそれ以上言わず、頭を掻いている。
拓海は首を傾げつつも、チェーンを外してドアを開ききった。
「あっ……」
視界に入ったのは三笠と、忙しくてあまり会う機会が無かった榛名の二人だった。
「こんにちは、白瀬君」
「こんにちは」
気安い感じで名前を呼ぶのは、三笠だ。
光樹や三笠とは会う機会も多く、いつの間にか友達感覚で呼ばれるようになったのだ。
光樹は咎めていたが、当の本人も身内しかいなくなると君付けで呼ばれていたし、それはそれで良いと思う。それに、悪い気分では無い。
「あの、白瀬さん……?」
三笠の隣に並ぶ榛名が、やや俯き加減で話しかけて来た。
しょんぼりとした空気を漂わせながら、気遣わしげに拓海を見つめている。
「その、このところずっと、根を詰めていらっしゃるみたいで――。まだ1ヶ月も経ってませんけど……。大丈夫、ですか?」
榛名には、そういう風に映っていたらしい。
自覚は無かったが、振り返ってみると確かにきちんと休んだ記憶はあまり無い。精々、就寝時くらいだ。
ドア口の端に立つ光樹が、腕組みをしつつ拓海を見やる。
「俺も、同感だな。――――まあ、そういうところは、昔からちっとも変ってないが」
「う……」
親友の確信を持ったような言葉に、胸がチクリと痛む。
何も言い返せないのは、図星だったからだ。
「たまには、ゆっくり羽を伸ばせ。そんな調子じゃ、認定試験の前にぶっ倒れるぞ」
「そんな事を言ってもな……。他のとこに行く暇何か、無いしな……」
部屋で寝るというのも一つの選択肢だが、結局落ち着かなくて、机に向かってしまいそうだ。
「なら、お前もちょっと、俺に付き合ってくれないか?」
「『も』って……。どこに連れてくんだよ。遠出は御免だぞ?」
前の世界でのことを思い出して、拓海はややうんざりしながら言う。
そんな拓海を見て光樹は笑いつつ、首を横に振る。
「今日はそういうのじゃない。三笠や榛名と一緒に、俺の家に来ないか、と言ってるんだ」
「お前の、家……?」
光樹からの意外な誘いに、拓海は目を瞬かせる。
「そうだ。前々から、お前に見せたいと思ってたからな」
光樹の自宅は、横須賀市街から少し外れの所に建っていた。
自家用車2台分が止められるガレージを備えた、立派な2階建ての一軒屋だ。
とは言っても豪邸というほどでは無く、分譲住宅より一回り程度大きいくらいの、明るい茶色の外壁が特徴的な家だった。
光樹がガレージに車を止めた後、玄関から中に通される。
一歩中に踏み入れると、奥行きのある廊下が拓海たちを出迎えた。
和風モダンの廊下を進み、そのまま客間に通される。
こちらも廊下や途中で見えた部屋と同じく、統一された内装が施されていた。装飾は最低限に留められており、雰囲気を壊さないような配慮が見て取れる。
部屋の奥からは外の景色が見え、窓の外は庭になっているようだった。青い芝と、揺れる木が垣間見える。
部屋を照らす淡いオレンジ色の光が、拓海たちを包む。
その光の下を歩き、拓海と榛名は、部屋の印象とはやや不釣合いな3人掛けソファーの一つに座る。右に拓海、左に榛名という位置関係だ。
テーブルを囲むようにソファーは配置され、拓海が座っている向かい側も同様に3人掛けだ。
対して、それらから見て直角に配置されたソファーは1人掛け。三笠は、拓海から見て右手にあるソファーの一つに座った。
「少し、お茶を入れて来るから待っててくれ」
光樹はそう言って、早々に客間から出て台所へ去ってしまう。
感心しながら部屋を見回していると、三笠が頬を緩ませ、話しかけて来た。
「どう、気に入った?」
拓海は、一も二も無く頷く。
「ええ、びっくりしました」
外装も内装も、決して派手では無い。寧ろ地味だと言うべきだろう。
しかし、その地味さは訪れる者を威圧するのではなく、暖かく迎え入れてくれているように思えてならない。
隣にいる榛名も、呆けた様な顔で部屋を見ている。
「榛名ちゃんも、気に入った?」
「はい。こういう場所は、初めてです」
榛名の言葉に、拓海は少し驚く。
「あれ、鎮守府の方って、和風な感じのところ、結構あったよね? 間宮さんのところとか」
「それはそうなんですが……。狭いのに、広々とした感じと言いますか。鎮守府には、こんな所は無かったと思います」
それで、拓海も納得する。
確かに横須賀鎮守府の敷地にも、和風の内装というところは無くはなかった。
だが、どちらかというと押し込められるような感覚に近かったように思う。
「光樹君、娘さんが出来たときに、この家を建てたんだって。貯金を奮発して。私は、その時はまだ港でコンクリート固めにされたままだったから、どんな顔をしてたのかは知らないけどね」
三笠は、自分の事のように嬉しそうに笑いながら、経緯を語る。
「アイツの娘さんは、学校とか通ってるんですか?」
流石に年齢をストレートに聞くわけにもいかず、適当にぼかして聞いてみる。
「確か、高校3年生だったかな。今は、ここにある大学目指して、受験勉強中みたい」
受験勉強……。
拓海にとってはついこの間の事のようなのに、懐かしく感じてしまう。
光樹の娘が、受験勉強中ということなら、家にいるのでは無いかという考えが頭を過ぎる。
「三笠さん――――」
「また、さん付けしてる」
三笠の目が妙に座っている。
拓海は咳払いをして、話を続けた。
「――三笠。こんな時期に、光樹の家に良かったんですか?」
「それなら、大丈夫だと思うよ」
三笠は何でも無いような表情で、呆気なく言いきってしまう。
幾らなんでもそれはマズいのでは、と言おうとしたところで、不意に階段を降りる足音が聞こえた。
誰かと思って榛名と共に部屋の入り口を見ると、その足音の主が姿を現した。
「あら? 三笠、お客さんかしら?」
茶色がかった制服に身を包んだ、上品な物言いをする少女。
梳けば抵抗が無いだろう、するりと伸びるロングストレートの茶髪。サイドの髪は、流れるように育ちの良い胸元まで伸びている。
髪と同じ色の目は、穢れを知らないかのように透き通る。
スカートから伸びる脚からは、血色の良い白い肌がソックスの間から覗いていた。
彼女が、光樹の娘なのだろうと確信する。
目元の辺りが、何となく光樹に似ていたからだ。
少女は、部屋に入って来ると向かいのソファーの傍らに座り、丁寧にお辞儀をする。
それから頭を上げて、拓海と榛名を見据えた少女は、右手で髪を撫でるような仕草を見せた。
――――気のせいだろうか。
その仕草が、どこかで見たことがあるように思える。
この少女とは、初対面の筈だが……デジャブだろうか。
「どうしたの、白瀬君? もしかして一目惚れ?」
「あ……。いや、そうじゃないです」
拓海は、即座に否定する。
確かに、彼女は美人だ。榛名といい勝負をしていると思う。
しかし、それはそれ。自分の想い人は榛名だ。
じっと見つめたのは、違和感があったからだ。いや、この時には違和感というよりも危機感と言うべきものに変わっていた。
拓海は、その少女が纏っているお嬢様のような雰囲気の内側に、別の物を敏感に感じ取っていた。
少女と拓海の視線が、交差する。
少女の瞳が、僅かに見開かれたような気がした。しかし少女は、何事も無かったかのように、そのまま拓海を平然と見つめる。
「白瀬さん? 顔、青いですよ」
横から榛名に声を掛けられて、拓海はハッとする。
知らぬ間に、額や手には冷や汗が滲んでいた。その感触が、どうにも気持ちが悪い。
「ああ、ごめん」
余程酷い顔をしていたのだろうが、拓海はそれを誤魔化す。
榛名は心配していたが、それ以上聞いてくることは無かった。拓海には、それがありがたい。
「お茶と菓子を持ってきたぞ――――って。何だ、もう出て来たのか? 後で呼びに行ったのに」
光樹がお盆に、グラスに入った茶と羊かんを乗せながら、少女に話し掛ける。
「父さん? 部屋には来ないでって、何度も言ってるでしょう」
愛想の良い笑顔が、光樹に向けられる。しかしその顔は、決して笑ってなどいなく、威圧しているかのようにも見えた。
彼女が、光樹の娘なのだろう。
父親を笑顔だけで威圧出来てしまう娘など、拓海は少なくとも見たことが無いが。
当の光樹は、「す、すまん」と額に脂汗を浮かべて、テーブルにお盆を乗せる。
光樹はそそくさと、拓海の正面に座り、その隣に光樹の娘が席に着く。
「光樹、その子が?」
「ああ。俺の娘だ。自慢の娘だからね。お前に紹介しておきたかったんだよ」
「何だよ、それ……」
その言い方だと、娘を嫁に貰ってやってくれとでも言わんばかりだ。
拓海にはそんなつもりなど、鼻から無い。
「まあ、二人は初めてだったよな。自己紹介と行こうか。ここは、拓海からがいいかな」
光樹に指名され、拓海は娘に向かって礼をする。
「初めまして。白瀬拓海です。光樹の古い友人で、今は横須賀鎮守府で民間人の司令官着任のためのカリキュラムを受けています」
「貴方が、父の話していた方、ということですね。とても、一途な方だと伺っています。何でも、意中の子がいるからだとか」
「はい――仰る通りです」
柄にも無く丁寧な言葉で恐縮しながら、視線を光樹に向け、一睨みする。
――――余計なことを、ペラペラと話さないでくれないか。
そう訴える目をすると、光樹は「すまない」と言わんばかりに手を合わせる。
ここで責めても仕方が無いかと思いつつ、次の自己紹介を榛名に譲る。
「三笠さんと同じ艦娘の、金剛型戦艦3番艦、榛名です。鳴川少将には、お世話になっています」
「榛名さんのお話も、伺っています。南鳥島では、ご活躍されたそうですね。これからも、頑張ってください。応援しています」
「はい、ありがとうございます」
榛名と娘は、互いに笑い合う。
そして、娘の自己紹介の番が回って来た。
嫌な予感が当たらないことを願い、拓海はゴクリと唾を呑む。
――――気のせいであってほしい。自分の勘違いであってほしい。
しかし拓海のそんな願いは、脆くも崩れさってしまった。
「父、鳴川光樹少将の娘、鳴川
そして、和やかな空気が流れる榛名たちをよそに。
――――拓海は、その少女の名を、絶望にも近い心持ちで受け止めていた。
あの髪を撫でる仕草、纏わり付くようでいて、射抜くような鋭い目線。口元の笑い方。懐かしさすら覚える、艶めかしい話し方。
そして、自分にとって最も身近だった名前。
今、この場で口に出来るはずもない。でなければこの空気を壊してしまいかねないし、何より拓海が、話したくなかった。
未だに信じられない様な気持ちで、彩水を盗み見る。
それに気づいた彼女もまた、拓海と視線を交差させた。それも他に気付かれないように、相槌を打ちながら。
そして、その口元がゆっくりと音を発せずに、動いた。
唇の動きは最小限に、しかしはっきりと動く。
――――久しぶり、お兄ちゃん。
拓海には、そうとしか見えなかった。いや、実際そう言っていたのだろう。
姿形は、全くの別人だ。
しかし纏っている雰囲気や癖から、拓海は確信せざるを得なかった。
今、拓海の目の前にいる少女。
彼女は他でもない、かつて居た世界における、最愛の妹。
白瀬
それからは頭が真っ白になり、拓海の耳にはどんな話も聞こえていなかった。
途中で話を振られ、曖昧に答えを返した程度だ。
信じられないような気持ちで彩水を見ると、彼女はその度に、拓海が見た覚えのある仕草を見せていた。
あれは、こちらに確信を得させようとしていたのだろう。
笑顔の奥に隠れる、無邪気さ。それは間違いなく、妹のものだった。
意味が分からない。
頭が追い付かない。
拓海がウェークから流された時には、彩水は日本で平穏無事に過ごしていた筈だ。
それが、何故親友である光樹の娘として、目の前に現れるのか。
真っ先に浮かぶのは、「転生」というキーワードだ。
創作物ではよく見かける、題材の一つだ。
しかしそれが当たっているとして、彼女が死ぬ理由が分からない。
あの後、病気か事故にでもあったのだろうか。
分からない。
拓海にとってそれは、振り払おうとしていた悪夢が、今再び目の前に現れたことを意味していた。
途轍もない後悔。
口惜しさ。
恥ずかしさ。
情けなさ。
――罪悪感。
忘れ、逃げようとしていたそれらが、一気に拓海に襲い掛かる。
本来なら、喜ぶところなのかもしれない。
だが、拓海はそうではなかった。
嬉しくないわけでは無い。再会したく無かったわけでも無い。
それでも、拓海は喜べなかった。
寧ろ心を大きく抉り、削り取られた。
その
その後2時間ほどで、お茶会はお開きとなった。
本来なら家を見て回りたいところだったが、体調が優れないことを言い訳にしてやめにしておく。
榛名にやや過剰気味に心配されつつ、拓海は光樹の車に乗り込んだ。
光樹と三笠が車外で、彩水と何事か話しているのを、窓の外に見る。
「……なあ、榛名」
「どうしました? 白瀬さん」
榛名が、拓海の顔を覗き込む。
彼女は心底、拓海の体調を気にしているようだった。顔には、焦燥の色すら見て取れる。
「大丈夫、体調の方は平気だから」
「でも――」
「ただ、榛名にはちょっと聞いてほしいことっていうか……。相談したいことがあるんだ」
「榛名で良ければ、喜んで。でも、いったいどこで――」
「俺の部屋に来てくれ。3階は誰もいないし、ちょっと落ち着いて話がしたい」
別に、他意は全く無い。この状況で、ある方がどうかしている。
それよりも真剣に、話しておきたいことがあった。
あの時、自分の弱さを吐き出してくれた、榛名だからこそ。
情けないとか、格好悪いとか、そんなことは気にしていられない。
もう、誰かに話さなければ、拓海の心は限界寸前にまで追い込まれていた。
「分かりました。私も、白瀬さんの宿舎前で降ります」
「ありがとう……」
快く頷いてくれた榛名には、感謝の言葉も無い。
その時、運転席と助手席のドアが開いて、光樹と三笠が乗り込んで来た。
「拓海、榛名。それじゃあ、送るよ。来客用宿舎と、艦娘用の宿舎でいいな?」
光樹は運転席でシートベルトをしつつ、エンジンを始動させる。
「すみません。私も、白瀬さんの宿舎前で降ります」
身を乗り出して来た榛名に、光樹はギョッとしたような目を向ける。
「それは、また……。いつの間にそんな関係――」
「そんなんじゃないよ。俺がちょっと、頼み事をしただけだ」
拓海が遮るように言うと、光樹は曖昧な顔で頷く。
「そう……か。じゃあ、そうするけど――気が向いたら、俺にも話してくれよ? 伊達に30年ちょっと、こっちでやってきてないんだしさ」
「おう。ありがとうな」
「気にすんな。俺もお前くらいの時は、色々悩んだもんさ」
そう言って、光樹は車を出庫させ、公道に出る。
途中で彩水の姿が視界に入るが、拓海はそこから目を逸らす。
光樹の車は、彼の自宅を背にして、横須賀鎮守府へ向かうべく走り出した。
父の車を見送りながら、制服の少女――彩水は玄関先で溜め息を吐いた。
「もうっ、猫を被るのはホントに疲れちゃうなぁ……。お父さんってば、三笠ちゃん見る度にニヤニヤしちゃってさ。お母さんに陰口を言われる、こっちの身にもなって欲しいよ」
一人誰もいない場所で子供っぽい愚痴を呟きつつ、彩水はスカートのポケットから、一つの石を取り出した。
欠けたお椀のような形をした石の真ん中は、緑色に染まっている。それが石本来のものなのか、後から塗られた物かは、彩水には分からない。
しかし、そんなことなど、彼女にとって問題では無かった。
「まさか、こんな所で会えるとは思ってなかったな」
彩水は、空に向けて石をかざす。
その時、緑色に染まっていた部分が、暗い影を帯びる。
「やっと、ここまで来れた。この石があれば、“私”を探せる。――――だから、待っててね。拓海お兄ちゃん」
その少女の微笑みは、見る人が見ればどこまでも暗く歪で、不気味なものに見えただろう。
「私が、邪魔なもの……全部、壊してあげるから」
まあ、本当は書く話が思いつかなかったってところもありますが。
カリキュラムで受けた内容は、後々戦闘に反映させたい、というのもあって、今後もカリキュラム中の描写はあまり無いかもしれません。書きたい話から、逸れますので……。
にしても、ほんとにゴジラの出番無いなぁ。
いやまあ、そんなにホイホイ来られたら、素敵なパーティー間違いなし何ですが。