艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

11 / 40
 新キャラと、あの艦娘が新たに登場します。


第9話 面会と演習見学

 翌日の昼間、拓海は昼食を済ませると鎮守府本庁舎に真っ直ぐ向かう。

 前日に予め、来るように言われていたからだ。

 

 

 受付に着くと、首に掛けるタイプの名札を渡され、2階の会議室へ向かうよう指示される。

 右手にある階段を登って直ぐの所に、「会議室」の掛札を見つけ、ノックする。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 中から声が聞こえ、拓海はドアを開いて入室した。

 彼を出迎えたのは、光樹だった。

 会議室は長机が長方形を描くように並べられ、左手の方に奥まで伸びている。

 中を見渡すが、光樹以外に人影は見当たらないようだ。

 

「あれ、光樹だけ?」

「もうすぐ来るはずだ。こっちに来て、座っておけ」

 

 光樹に、入ってすぐの所にある椅子を指差され、拓海はそこへ行く。

 

 一番奥の机と、正面に向き合う席を見ると、そこに冊子が置かれていることに気付いた。それも、結構厚い。

 

「これ、何……?」

「カリキュラム用のテキストだ。1ヶ月分のスケジュール表もあるから、後で読んでおくように」

「おう……」

 

 数えてみると、全部で3冊。「歴史」「艦娘基礎」「応用マニュアル」の3タイトルだ。しかし少ないせいか、その分1冊ごとの厚さは結構あるように感じる。

 正直げんなりするところではあるが、決めた以上ここで何を言っても仕方が無い。

 

 席に着いてから暫くすると、奥の扉が開いて、一人の男性が入って来る。

 背は光樹よりやや小さく、年齢は彼よりも上だろうか。

 拓海が椅子から立って礼をすると、男性は向こう側の机の前に立ちつつ穏やかな笑みを浮かべた。

 

「初めまして。白瀬拓海です。よろしくお願いします」

「君が、白瀬君か。まあ、掛けてくれ」

 

 皺を刻み込んだ顔を柔和に緩ませ、よく響きつつも落ち着きのある声で言う。

 拓海はその言葉に甘え、席に座るのと同時に、向こうも席に着く。

 

「私が、認定カリキュラムの担当責任者を務めることになった、笠川大輔だ。階級は大将、艦隊総司令官を任されている。以後、よろしくお願いする」

 

 大輔による自己紹介が終わった後、拓海はカリキュラムの説明を受けた。

 

 

 これから受けることになるのは、「座学」「身体トレーニング」「戦闘指揮訓練」の3種類と、「認定試験」がある。

 

 「座学」では事前に渡されたテキストを使い、特生防衛軍や艦娘と深海棲艦の歴史、艦娘の仕組みや運用などについて学ぶ。

 「身体トレーニング」では基礎的な筋力トレーニングやフィジカル。

 「戦闘指揮訓練」では、実際に艦娘を使って演習形式の訓練を行う。

 

 概要としては、以上のようなことを教えられることになる。

 簡単に纏めると項目は少ないように思えるが、中身は濃い。

 特に、艦娘の運用部隊らしく彼女たちのことについて学ぶことが、中心となる。

 

 「認定試験」については、担当者の判断で任意のタイミングで行うことが出来る。担当責任者の許可があれば、1年の期間のうち、1ヶ月に2回までは受けられる。

 先に3つの項目を学んだ上で、実際の出撃で指揮を執り、その際に試験を行う。戦闘内容と、戦果を加味した上で認定の成否が判断される。

 

 

「以上の通りだが、何か質問はあるかい?」

「いえ、特には」

「そうか。その名札は、身体トレーニング以外は、常に首に提げておくように。民間人扱いの君にとって、許可証代わりになるからね」

 

 拓海は、自分の胸元に視線を落とす。

 この名札は、鎮守府内を歩き回る上で必要な物ということだろう。どこかの施設に入る際に、使うことになるのかもしれない。

 

「ところで、君は何故、このカリキュラムを受けようと思ったのか聞かせてくれるか?」

 

 大輔は優しげな笑みを湛えたまま、単刀直入に尋ねる。

 拓海は一度考えを整理しつつ、相手を見据えて答えた。

 

「最初は単純に、興味があっただけでした。でも、あの時孤立していた南鳥島で榛名や第6水雷戦隊の皆と出会って、彼女たちを何とか手助けしたいと思ったんです。出会った時、皆は限界寸前でした。榛名や神通さんは、自ら進んで無茶を重ねていましたし、駆逐艦の子たちはそんな二人を見て辛そうでした。いや、表面上は取り繕ってましたけど、辛かったんでしょうね。だから、この状況に穴を空けたいと。一度でもチャンスがあるなら、それに賭けてみようと思いました。それで、彼女たちが笑って帰って来られるように、自分が指揮出来る立場になろうと、決心した次第です」

 

 南鳥島に流れ着いた直後のことを思い出して、拓海は一息に語る。

 しかし大輔は肩を揺らして笑うと、拓海を見透かすように見つめた。

 その視線の凄味に、拓海は思わず唾を呑む。

 

「それで、本当のところはどうなんだい? 意中の子でもいるんじゃないかい? その子のために、司令官になりたい、とかね」

 

 図星を突かれて、拓海は何も言えなくなる。

 まさか、簡単に言い当てられるとは思ってもみなかった。

 

 そんな拓海の顔を見て、大輔は笑んだまま言う。

 

「どうしてだって顔をしているね。若い子の考えることなんか、私にはお見通しだよ。司令官志望で入って来る子の大半は、そういう者ばかりだからね。どっかで見かけて一目惚れ、とかそんなところだ。彼らは仕組み上、特防軍から入ろうとするが、この時点で何人も脱落者は出る。そして無事入れたとしても、他部隊行き。特防海軍(艦娘隊)に入れても、階級の制約だったり席が空いてなかったりで、なれないことも多い。君は制度上、例外的に艦娘隊には入れるが、事情が変わって司令官の席が、空いていないこともあるかもしれない。それでも君は、やっていけるのかい?」

 

 確かに、残っていた席が全て埋まって入れたとしても、すぐには就けないかもしれない。

 本来望んでいた場所と違うところに、行ってしまうこともあるだろう。

 しかし――――。

 

「――守りたい子がいるんです。出撃して帰ってきて、どんなに辛く、苦しく、悲しくても、最後には笑っていて欲しい子が。そして、その子と一緒に戦って、彼女の弱さも、自分の弱さも一緒に克服していきたい。目の前に掴めるチャンスがあるなら、それをしない手は無い。本当は、深海棲艦のことも国のことも、世界のこともどうだっていいのかもしれません。でも、自分が戦わなきゃ、彼女を守れない」

 

 一度、言葉を切って拓海は思い浮かべる。

 

 ずっと憧れていた、あの子のことを。

 

「――――俺は、榛名の一番になりたいんです」

 

 

 場の空気が、しんと静まり返る。

 拓海は言ってから、段々と恥ずかしくなってきてしまった。

 穴があったら入りたいとは、こういうことを言うのだろう。

 

 暫し目を瞬かせていた大輔が、不意に肩を揺らし、笑いを堪えようとして声が漏れだす。

 

「失礼。あんまりに、青臭いと思ってね。ここに来て、榛名か。なるほど、なるほど。確かに、彼女はモテるからね。隊員たちからの人気も高いよ。しかし、ここまで言う奴は――私は、初めて見たな。いいね。私は嫌いじゃないよ。気に入った」

 

 何とか笑いを収めつつ、大輔は拓海を見る。

 

 というか、榛名はモテるのか。

 

「しかし、榛名狙いとなれば――。ライバルは多いかもな。精々、頑張ってくれ。君に害を為すような奴がいれば、相談に乗ろう。改めて、これからよろしく、白瀬拓海君」

「は、はい……!」

 

 拓海は認められたと分かって、嬉しさを噛み殺しつつ礼をする。

 本人がこの場にいなくて良かった、と思う。聞かれていたら、間違いなく赤面物だ。

 

「君の友人は、中々面白いな」

「きょ、恐縮です……」

 

 大輔に声を掛けられた光樹が、頭を垂れる。

 いつの間にか、自分と光樹が友人であることを知っていたようだ。大方、光樹が自ら言ったのだろう。

 

「約30年越しの再会か。初めて聞いた時は、わけが分からなかったが――。そもそも君の経歴の時点で、不思議はないわけだからな。何せ、祖父母が全て死亡してるというんだからな。君の親戚ともDNAが一致していたしな」

 

 どうやらこちらでは、光樹の祖父母以外の親戚は生き延びていたようだ。と言っても、彼の父母は生まれていない。祖父母の兄弟か、さらに遠い親戚辺りがこちらの世界にもいたのだろう。

 様子からして、こちらの事情も既に把握している。彼が、光樹の言う「信頼できる上司」なのかもしれない。

 

「ま、それはともかく……だ。青葉、隠れてないで入って来たらどうだ?」

 

 大輔が溜め息を吐きつつ、奥の方で自身に近い扉を見て声を掛けた。

 するとドアノブが動き、廊下から髪をポニーテールに結わえたセーラー服にハーフパンツといった出で立ちの少女が、ビデオカメラを片手に入って来る。

 

「い、嫌だなぁ、笠川司令官。ただちょっと、聞いちゃっただけですってば」

「何て言いつつ、しっかりカメラ回して、音だけ撮ってただろう。入り辛くなって、仕方ないからカメラで録音してたな? 入ってたら入ってたで、適当な場所に陣取って隠し撮りか」

「う……。別に良いじゃないですかぁ。折角、良い台詞も撮れましたし」

 

 頬を引きつらせて苦笑いする青葉に、大輔が頭を抱えて言う。

 

「俺が、浅羽少将に小言を言われるんだよ。データは消してもらうぞ」

「ちぇ。仕方ないですね。でも、次は逃しませんよ?」

 

 青葉はそう言いながら、カメラを操作する。

 

「はい、消しましたよ?」

「どれ、見せてごらん」

 

 大輔に言われて、青葉は顔を引きつらせてから、渋々と渡す。

 それを受け取った大輔が、カメラの操作ボタンを押しながら検め、苦い顔をした。

 

「全く……。案の定、消していなかったな。そっちは消させてもらったぞ。それに、写真の方……。これは浅羽の……。彼にバレてもいいのか?」

「だ、駄目ですっ!!」

 

 突然、青葉が顔を真っ赤にして、大輔からカメラを取り返し、胸元に抱える。

 大輔はそんな青葉を見ながら、柔らかく微笑んだ。

 

「冗談だ。私からは何も言わんよ。写真はバレたくなかったら、バックアップでも取って消しておきなさい。全く、とんでもない朴念仁に目を付けたな? 青葉」

 

 意味深げな目を向けられ、青葉は慌てた様子を見せる。

 

「か、笠川司令官! それをこの場で言わないでください! 皆さん見て――――」

 

 そこで青葉は、ようやく拓海と光樹の方に視線を向け、赤くなった顔をますます沸騰させた。

 

 

「こ、こほん。私は重巡青葉。浅羽富紀(とみのり)少将指揮下の第3戦隊所属です。鳴川司令官、お久しぶりです。それと白瀬さん、初めまして」

「白瀬拓海です。よろしく」

 

 青葉の自己紹介に応じて、拓海も名乗っておく。もっとも向こうは、ドアの向こうから聞いていたのか、知っているようだ。

 青葉本人が触れられたく無いようなので、さっきのことについて尋ねるのは、止める。

 しかしあの態度からして、考えるまでも無いだろう。

 

「さて、丁度良い頃合いだし、演習でも見に行こうか」

 

 大輔もそんな空気を弁えているのか、おもむろに拓海たちに提案する。

 待ち時間にスケジュール表にざっと目を通したが、カリキュラム自体は明日の午前からスタートだ。今後の予定は、特に無い。

 光樹が左腕に巻いた腕時計を見て、答える。

 

「今の時間ですと……そろそろ第5水雷戦隊の曙と清霜が、三笠との演習を始める頃合いですね」

 

 それを聞いた大輔は、早速立ち上がる。

 

「なら、急がないとな。私が、車を出そう。ちょうど4人だからな」

「宜しいのですか?」

「構わんさ。ほら、早速行くとしよう。白瀬君、テキストとスケジュールは、そこに畳んである紙袋に入れると良い。では、私は一足先に行ってるよ。庁舎の正面玄関前で待っていてくれ」

 

 矢継ぎ早に告げると、大輔は青葉を伴って会議室を出て行く。

 大輔を見送ってから、拓海は光樹に話し掛けた。

 

「何て言うか……、怖い人だな」

 

 率直な感想が、口を突いて出る。

 自分の時と言い、青葉の時と言い、相手を見透かすような目をしている。あの目で見られると、自分の見られたくないものまで見られそうで、恐ろしい。

 

「同感だな。まあ、()()のおかげで、そうなったんだろうけどな……」

「何だよ? それ」

 

 振り返ると、光樹が眉を顰めて険しい表情をしていた。

 

「亡くしてるんだよ。ご家族を。2002年の、怨霊ゴジラ襲撃の時にね」

 

 

 

 

 

 大輔の運転する車に乗せてもらい、泊町の東の港に到着する。

 車を降りて4人は早速、コンクリートで固められた護岸まで歩いて行く。

 その場所は、港を広く見渡せる場所だった。

 辺りには、拓海たちと同じように見学をしに来た様子の、艦娘や鎮守府の関係者と思しき人が何人かいる。

 

「鳴川君、演習は始まっているか?」

 

 大輔に尋ねられ、光樹は腕時計を確認する。

 

「そろそろですね。ただ、戦闘距離が半径500mほどですから……。中継用の小型カメラユニットが飛んでいますので、それを中継して手元で見た方がいいかもしれませんね」

 

 光樹はそう言って、懐からスマートフォンよりも一回り大きい画面の端末を二つ取り出し、一つを大輔に渡す。

 

「確かに、こっちで見た方が楽かもしれませんねー。ここからだと、戦闘の様子は見えても、あんまり面白くないですし」

「おい、青葉」

 

 思ったことを率直に言う青葉に、光樹が咎めるように声を掛ける。しかし大輔は端末を受け取りつつ、笑って返した。

 

「いいよ、鳴川君。私も、青葉と同意見だ。私と青葉、鳴川君と白瀬君で見れば、いいんだな?」

「はい。そうなります。すみません、お手数お掛けして」

「元々、私が見ようと言い出したからね。構わないよ。それに、私に娘がいたら、こうやって見たかもしれないしね」

 

 大輔は青葉の頭を撫でつつ、端末の操作を始める。

 一方、撫でられる側の青葉は、恐縮して固まっているようだった。

 

 拓海も、光樹が脇で操作を終えた端末を覗き込み、上空を飛ぶカメラユニットから中継される戦闘海域を覗き込んだ。

 映像が二つある様子から、ユニットは2機飛んでいるようだ。

 それぞれに、大型の使い込まれた艤装を装備した三笠と、光樹の言っていた曙・清霜のコンビが映り、相対していた。

 

「戦闘、始まります」

 

 光樹の言葉とほぼ同時に、辺りにカウントダウンの乾いた音が聞こえる。

 

 カウントダウンがゼロになり、開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ブザーは、開始を待っていた曙と清霜の耳にも届く。

 

「行くよ! 清霜! 作戦はさっき言った通りに」

「分かった! 曙ちゃん! 戦艦にだって負けないんだから!」

 

 声を掛け合いつつ、二人は速力を上げて前進を始める。

 

 今回の演習は、司令官が居ない状況下で行われる。

 よって指示は無く、個々の判断と実力、そして2人以上ならば連携が求められる。

 

 相手は、自分たちよりも長く戦ってきた、戦艦三笠だ。

 旧式とは言え、彼女の実力は本物だ。

 演習で何度か戦ったことがあるが、曙はその度に、苦汁を舐めてきた。

 当てたと思ったはずの魚雷を器用に避けられ、砲撃で返り討ちに遭う。気が付けば、模擬弾のペイントで、体中がカラフルになっていたことは、今でも忘れられない。

 

 曙は気を引き締め、清霜と共に海を駆け抜ける。

 

「敵艦発見! 主砲模擬弾、装填!」

「こっちも装填完了! 単縦陣で、右回りに砲撃開始!」

 

 清霜の声を受け、曙が先頭を走りつつ合図する。

 二人は有効射程まで近づき、三笠から飛んで来る砲撃を全速力で躱しながら、右手に構えた12.7cm連装砲で砲撃戦を開始した。

 

 30.5cm連装砲2基から放たれる砲弾を回避しつつ、曙と清霜は反撃する。

 しかし回避運動のために正確には当てられず、三笠の周りに水柱が上がるだけだ。

 当の三笠はそれに臆することもなく、副砲からの砲撃を織り交ぜて装填時間をカバーしつつ、繰り返し主砲を撃ち込んで来る。

 曙たちは、三笠の後ろを取ろうと必死に走るが、彼女たちに合わせて体の向きを変え、全く隙を見せない。

 

「これじゃ、埒が明かない! 清霜、魚雷を装填して。私と二人で、時間差で撃つよ」

「了解! 模擬魚雷、装填!」

 

 二人の両足に装着された魚雷発射管に、模擬魚雷が装填される。

 

 この魚雷は演習での安全性を考慮して、酸素魚雷では無く、通常の雷跡が見える物だ。弾着時には、ペイントで被弾箇所が判定される。

 跡は見えない方がいいのだが、文句も言っていられない。

 

「魚雷発射! 撃てっ!!」

 

 曙は主砲で牽制しつつ、魚雷発射管を前方に稼働、三笠の方に向けて魚雷を撃ち出す。

 

「続いて清霜、魚雷発射!」

 

 遅れて、清霜も海中に魚雷を叩きこむ。

 

 曙から放たれた6本の魚雷が海中を進み、その後を清霜の魚雷8本が追いかける。

 魚雷を撃たれたことを確認した三笠は、直ちに最大戦速に移行し、回避運動を始める。

 

「遅いわっ!」

 

 三笠の進路を予測し、曙は主砲を撃ち込む。この砲を躱そうとすれば、間違いなく直撃コースだ。

 三笠に向かって殺到する、14本の魚雷は角度もずらしてあり、避けるのは容易では無いはずだ。

 

 曙は、勝ちを確信した――――が。

 

 三笠が軍刀を鞘から一気に引き抜き、撃たれた砲弾を叩き斬り、空中で爆発が起きる。

 続いて撃ち込まれた主砲も同様にして迎撃しつつ、魚雷の間を軽々と擦り抜けたり飛び越えたりしながら、瞬く間に全弾を回避してしまう。

 

「何あれ! ずるーい!!」

 

 曙の後方で、清霜が愚痴を言う。

 しかし、曙も同感だった。まさか軍刀を迎撃に使い、あの見るからに重そうな艤装で軽々と動いてみせるとは、思ってもみなかった。

 

「清霜! 次弾装填するよ! このまま――――っ!」

 

 直後、曙と清霜の周辺に三笠から放たれた主砲が弾着し、水柱を上げて二人の視界を奪う。

 

「何これ、見えな――――きゃああっ!」

 

 その隙を突かれて、清霜が被弾する。

 副砲も次々と打ち込まれ、清霜の服と艤装があっという間にペイント弾塗れになって行く。

 

「清霜、戦闘不可ですー。曙ちゃん、後は任せたよ」

 

 涙目になりながら言う清霜に、曙は力強く頷く。

 

「大丈夫よ。ここは私に任せて!」

 

 曙は、砲弾の雨を抜けてジグザグに進みながら、三笠を目指す。

 こうなったら、近接距離で一撃必殺を狙うしか無い。

 両足の発射管に、魚雷を装填しつつ、全速力で進む。

 

「うっ!」

 

 左足の魚雷発射管に主砲が直撃し、使用不能になる。

 それでも構わず、曙は前進を続け、ついに三笠を捉え――――。

 

「……いない!?」

 

 三笠がいた場所には、誰の姿も見当たらない。

 戸惑うのも束の間、曙の首元に軍刀の刃が当てられた。よく見ると、刃は模擬戦用に保護されている。

 

「なっ!?」

 

 視線を下ろすと、艤装を身に付けたままの三笠が片膝を付き、曙を捉えていた。

 三笠はそんな曙を見て微笑み、黒髪を海風に揺らしている。

 

「良い連携ね。正直、ヒヤッとしたわ。でも、攻撃の手を緩めちゃだめよ? 油断したところで、不意打ちを貰っちゃうからね。今みたいに」

「低速艦でそれだけ動けるなんて、聞いてないわよ……」

 

 およそ戦艦らしくない動きに、曙は唖然としながら感想を述べる。

 

「これでも、実戦だとかなりキツイの。艦隊行動を取るにも、遅すぎて皆について行けないし、敵も強くなってるからね。本当は、海に出たいんだけど」

「それだけ動けたら、まだまだ戦えるんじゃないの?」

「うーん。艤装も、ガタが来ちゃってるからね。次の改造が無いことには、厳しいかも」

 

 三笠に悪意が無いのは重々承知しているのだが、それでも嫌味に聞こえてしまう。

 それは、自分がまだまだ弱いからなのだろう。

 彼女が現場復帰ということになれば、あっという間に置いて行かれるかもしれない。曙は、そんな危機感を持った。

 

 

 

 その後、漏れなく曙も、三笠のペイント弾の餌食になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘終了のブザーが鳴り響く。

 

 拓海は中継から目を放すと、思わず感嘆の溜め息を吐いた。

 

「なんつーか……。お前のとこの三笠、凄いんだな……」

「前線から退いてるって言っても、一応現役だからな。いざって時の三笠の引き出しには、ほんと驚かされるよ」

 

 光樹も苦笑いをしつつ、同意を示す。

 カメラユニットからの映像を見る限り、三笠の取った行動は「航行」では無く、脚を上手く使って走ったり跳ねたりしながら、3次元に動いていた。

 艤装が有りながらこんな動きをするとは、考えもしていなかった。

 

「私たちは“艦”ですからねぇ。立体的に動くのなんて、元の艦のことを考えたら、有り得ないですし」

 

 青葉が、活き活きとした表情で語る。

 

 北の方で、三笠に連れられながら悔しげな表情で陸に戻る、曙と清霜の姿が見える。

 遠目にも分かるほど、艤装も服も、ペイントでカラフルに染まっていた。

 

 大輔も微笑みつつ、拓海の方を見る。

 

「君も、何れは艦娘を指揮した上で、三笠と演習で戦うことになるかもしれないな。その時は、しっかり味方をサポートするんだよ」

 

 深みのある皺が、優しげな印象を与える。

 しかしその言葉の裏では、自分の尻を叩かれているように思えた。

 

「は、はい――」

 

 緊張しつつ返事をする拓海を見てから、大輔は光樹に視線を移す。

 

「鳴川君も、友人だからと言って、手は抜くなよ?」

「それは重々、承知しております」

 

 発破を掛けられ、光樹は深々と頭を下げる。

 

「さて、三笠たちの様子でも見に行くとしようか」

 

 大輔はそう言って、拓海たち3人に目を配る。

 それに拓海たちも同意し、演習を終えた三笠らの元へと港の護岸の上を、歩いて行くのだった。

 




 久々(?)の戦闘です。(ミニ演習ですが)

 魚雷の撃ち方は、「World of WarShips」の動画を見た影響ですね……。
 WoWSは、Cβの存在を応募が終了して2日後に知り、先日のニコ生では見事に抽選から外れ……。他に取得方法云々の話が出ていますが、やや情報が古いですし噂の域を出ないなと思ってます。
 「やれたらいいな」程度ですので、正式リリースまで待った方が良いかもしれませんね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。