艦隊これくしょん―黒き亡霊の咆哮―   作:ハチハル

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 こちらのサイトでは、初投稿になります。


序章―プロローグ―
壱 呉爾羅


 かつて、日本を襲った1体の怪獣がいた。その名は、「ゴジラ」。

 人の手によって安住の地を追いやられた彼は、日本に上陸し、東京を尽く焼き払ったと言う。戦後、僅か9年のことだ。街には、人々の悲鳴が響き渡ったと言う。

 その彼は、人の手で作られた新兵器によって、東京湾に姿を消した。

ある者は言った。

「人間が住処を奪っておきながら、人間の都合で人間が奴を殺す。なんて身勝手なんだ」

 

 その日を境として幾度となく、日本や世界は怪獣たちの脅威に晒されることになった。しかし、そこにはゴジラはいなかった。

 

 やがて人々は怪獣を打ち倒すことに成功し、歓喜していた。これで、我々の未来は安泰だと。

 

 それを、許さない者がいた。2体目のゴジラだ。実に30年が過ぎた頃だった。

 彼は東京を、日本を、世界を再び恐怖に陥れた。人々は必至で抵抗したが、ついに倒すことは出来なかった。彼の命は、彼の自滅という形で、静かに幕を下ろす。それに歓喜した者もいれば、心の底から涙した者もいた。

 

 日本はそれから、新たに4体のゴジラを目撃した。3体目については、全くの無害だった。寧ろ、人間を助けようとする怪獣の中でも稀な個体だったと言われている。

 

 合わせて6体の荒ぶる神々のうち、もっとも厄介なのが4体目だった。

 どの個体、どの怪獣と比べても残虐非道極まりない、真の破壊神とも言うべき存在だった。彼は全てのモノを破壊しつくす。クニを護る聖獣たちも、ついに彼を倒すことは出来なかった。

 

 ある者は、かつて戦争で散った人々の怨念だと言った。

 それを聞いたある者は、日本に帰って来た残留思念だと言った。

 本当のところは、誰にも分からない。彼には、人の数だけ様々な解釈のしようがあった。ただ一つだけ言えるのは、それが怨念・怨霊の類だということだ。人々を恨み、祟る存在。

 

 それが何故なのかも、今では誰も分からなくなってしまった。

 一度倒された筈の彼は、再び復活してしまったのだ。戦争という、人々の想いが混ざり合う、愚かとも言うべき場所の前に。

 

 

 再び復活した彼は、かつてとはまた別の存在となっていた。成り果てた、と言うべきなのだろうか。

 彼は気まぐれに戦場に姿を現しては、人々の争いを踏みにじっていった。人々が持つ、正義や悪――そんなものは一切関係無く。

 その姿は人々に、どのように映ったのだろうか。

 

 己が「正義」を振りかざし、戦争を潰して酔いしれているのか。

 

 戦争を憎み、それを行う人々を根絶やしにしようとしているのか。

 

 人々の記憶に今再び、刻み付けようとしているのか。

 

 ある人は言った。

 

「もう、あの頃のゴジラではないのか」

 

 その存在は、人々の無念の想いを吸い上げているように見える者もいたと言う。倍以上に大きくなってしまった姿が、その証拠なのだそうだ。

 

 その話を信じるとするならば、彼は「太平洋で散っていった人々の怨念」から「戦争で散っていった世界中の人々の怨念」に変わったとでも言うべきなのかもしれない。

 

 

 だが、かの老人は言った。

 

「ゴジラの本質は、何も変わっちゃいない」

 

 と。

 ある女性は、その老人に聞いた。――その老人が、何十年も前と変わらない姿でいることにある種の恐怖を覚えながら。

 

「本質、ですか……?」

「艦娘、は知っているか?」

 

 女性は、首を縦に振る。確かここ10年ほどで実用化された、対深海棲艦用の兵器だ。

 

「それが、なにか関係が……?」

 

 老人は、にっこりと柔和な笑みを浮かべる。あの時と、何も変わらない、優しい笑みだ。

 

「彼女たちが、それを何よりも物語っている」

 

 女性は、意味が分からなかった。いや、その言葉を聞いて理解出来る者が何人いるだろうか。

問いただしても、老人とて答えられないだろう。

 

 

 

 ある者は、歓喜に震えた。

 

「人間どもに、戦争の愚かさを伝えてやってくれ」

 

 と。

 

 

 ある者は、怒りと憎しみに震えた。

 

「大切な家族を私利私欲で奪ったお前を、殺してやりたい」

 

 と。

 

 

 怨霊は、世界中から注目を浴びた。しかし誰も、彼を理解することは出来なかった。

 

 時に残虐非道な行いをするかと思えば、呑気に昼寝をする姿さえ見られた。それを「可愛い」という者も現れたが、決まってそういう人は袋叩きにあった。

 何せ、何万もの命を奪ってきた破壊神だ。そうそう、忘れられるわけが無い。日本では特に、その傾向が顕著だった。

 

 

 その巨大な体躯が持つ真っ白に濁った瞳は、何を見るのか。そこに、一切の感情移入は許されない。

 彼は一度人の前に姿を現せば、しつこく蹂躙するのだ。

 

 何度も、何度も、何度も――――。

 

 そこに、目的など何も無い。あるとすれば、人々への恨みだけ。

 

 

 何度、人々が彼のことを考え、議論しても答えは出なかった。出るはずも無かった。

 

 

 

 住処を追われ、人の街を襲ったゴジラ。

 

 どこからともなく現れ、核のエネルギーを求め、同族を守るゴジラ。

 

 人の手で保護され、密接に関わりあいながら、人懐っこく成長したゴジラ。

 

 同族の骨を求め、繰り返し日本にやって来て、やがて海に帰ったゴジラ。

 

 古代の覇者、全生物のトップに君臨していた、自らの生存を賭けて戦うゴジラ。

 

 

 

 かの怨霊は、そのどれとも違った。

 

 

 海で目覚めた彼は、全てを否定し、全てを壊す。

 

 

 彼は、何処から来て、何処へと向かうのか。

 

 それが分かる者は、どこにもいない。もしかすると、当のゴジラですら分からないのかもしれない。

 

 

 

 ただ一つ、人類が共通して出した答えは。

 

 彼をこのまま野放しにしておいては、人類はやがて破滅してしまうだろう。ならばその前に、倒してしまわなければならない。

 

 

 

 ――――深海棲艦もろ共に。

 




 読んでいただき、ありがとうございます。

 主人公の出番が――――無い……!!


 まだまだ未熟なところの多い、拙い作品ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

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