革命のオリオン   作:りーる

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2話 鷲、来たる

「先日の基地襲撃に対して、アルゴ13機が出撃、そのうち3機が小破、7機が大破、3機は撃墜」

 

ユーフェ基地の司令官、カムイ・クロウは部下からの報告を聞いていた。報告の内容はほとんど襲撃の被害だ。先日の襲撃で、基地の人々は顔に浮かぶ恐怖の色を隠せなかった。彼らは革命組織、ユベルタスにリーフェクトがほとんど配備されていない、と聞いていた。配備されていないから、リーフェクトのパイロット経験も少ないと。経験が少なければ、たとえ奪取された新型であっても数で押せば簡単に仕留められるだろうーーとたかをくくっていた。それは、司令官でもあるカムイも思っていた事である。しかし、その考えは根底から覆された。ユベルタス有するリーフェクトは、ユーフェ基地に配備されていたリーフェクトをほとんど破壊していった。これに関しては、考えを改めないと。はぁと溜息をつく。

 

「次に、基地の被害状況でありますが、第4格納庫が破壊、中の物資はほぼ全て奪われました」

「第4格納庫がかい?」

 

第4格納庫には例の新型機と予備パーツがあったはずだ。

どこから情報が漏れたのかは分からないが、ユベルタスの襲撃の目的は新型機となる。

 

「はい。その他にも、多数の機体が強奪されました。これによってーーー」

「もういい、もういい」

 

下がってと手を振ると、部下は右手を頭に当て、敬礼をすると、コツコツと扉を開けて出て行く。

 

「失礼します」

「おお、やっと来てくれたね」

 

報告を終えた部下とすれ違うように男が部屋に入ってきた。

 

「本日付でこちらに配属されたアードライ・ホークです」

「君の噂はかねがね聞いているよ、数々のユベルタスの基地を潰したのは。あちこち転属で大変だろう?」

「国の為ですから。優れた人材は使わねばなりません」

 

その男は、さながら鷲のような目つきをしていた。カムイは握手を交わす。

 

「はっはっは、大した物言いだね。でも、今回はそうはいかないと思うよ」

「ええ、私もそうだと思います。奪取された新型を捕獲、もしくは破壊してこいとは……。ここまでユベルタスの襲撃に破壊されたスローネの基地の惨状を見る限り、簡単には出来ないと思われます」

 

無表情で淡々と話す彼にさながらロボットのようだとカムイは感じた。

 

「確かにそうだ。だけどやられっぱなしじゃね。示しがつかないんだ。市民もおちおち夜も寝れないよ」

「というと?」

「襲撃をかけるよ。こちらも相手と同じように」

「ふむ……」

 

男が眉をあげる。

 

「場所は?どこですか?」

「大体の検討はついてる。それに潜入活動をしていた人もいる。彼も一緒につけたら確実に把握できるんじゃないかな」

「なるほど……」

 

ゆっくりと時間が過ぎる。男は腕組みをしたまま、考えている。恐らく作戦のシュミレーションでもしているのだろう。

 

「まあ大丈夫でしょう、それでいつ頃決行なされるのですか?」

 

 

 

「ん?今日だよ?」

 

 

 

 

 

「全く……」

 

コクピット内でアードライは水を飲んでいた。パイロットスーツに着替えた彼は今、出撃の準備をしていた。

 

(まさか配属された日にいきなり出撃とは…………)

 

『よろしく』

『こちらこそよろしくお願いします、ホークさん』

 

回線を開き、共に出撃する青年に声をかける。先程ミーティングで話したが、朗らかに礼儀正しい青年だった。だが、瞳に少しの恐怖が感じられた。聞くところによると、先日の襲撃で、彼は撃墜されたらしい。それも奪取された新型ではなく、ユベルタスのパイロットが駆るアルゴによって。

 

(ユベルタスにリーフェクトは配備されてないと聞いていたが……、そんな奴がいるなら、ぜひ手合わせしたいものだ)

 

コクピットで機器を確認しながらアードライは思う。彼がスローネの軍に入ったのは平和などの為ではない。彼はただ戦いの為に軍へと所属した。所属する前の傭兵をしていた頃とは違って、窮屈な場所だったが、他の傭兵達とは違い、時代が変わったのだ、もう強い奴と戦うには軍に所属するしかないと、彼は達観していた。

そんな強者との戦いを渇望する彼であったが、ユベルタスには彼が満足する強者は今までに存在しなかった。しかし、今回の戦いではそんな心配はいらなさそうだ。

 

『これから我が艦隊は革命組織の基地へと向かう。奴らは油断している。このまま好き勝手はさせん、新型機一つで調子に乗っている奴らに目にもの見せてやれ』

 

艦長の厳しげな声が艦内に響く。作戦開始だ。

 

 

 

 

「しかしすげーなこれは……」

 

奪取した新型ーージハードはオリオンと呼んでいるがーーのコクピットに搭乗するウルズは感嘆した。

ウルズは自分は機械にはそこまで強くないと自覚はしている。コンソールを触ると機体情報が拡大される。武器の情報、スラスター出力ーー自分で理解できる範囲でだが、この機体が素晴らしいものであるということが分かった。

 

「だけど残念だよなぁ」

 

サラスバティがまとめてくれた資料を見つつ息をもらす。その理由は、この機体が全く稼働しないという事だ。ジハード以外には。ジハードが言うには奪った時に登録だがなんだかしたそうだが。こればかりはサラスバティも始めユベルタスの技術者は皆お手上げだった。

時間があれば、とサラスバティは言うが。

 

「てことは、あいつが今んとこ新型に乗って戦うのか?」

「そういう事になるでしょう。上層部は使える物は全部使う気です。たとえジハードが新兵で経験が浅くても、新型はかなりの戦力になりますから」

 

サラスバティが心配そうな顔になる。

 

「ウルズ、あなたとしてはジハードにはまだ荷が重いと思うかもしれないですが、上はきっとこれからジハードを主軸にした戦術を取ると思います。たとえ成功率が低くても」

「んー……」ウルズは頭をかく。

「まー大丈夫なんじゃねーの?」

「なっ!?」

「あいつも男だし、曲がりなりにも俺が指導したんだし。自分のケツくらいは拭けるだろ」

「あなた……!」

「まーそうだな、あいつがどうしても乗り越えられない時は手を貸してやるよ、あいつの教官様としてな」

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの……」

「だーっ!!」

「はい終わり」

「大丈夫かね、あれは……」

 

ジハードはサラスバディが作り上げたシュミレータをしていた。コクピットの形を模したシュミレータは擬似戦闘が可能で、ウルズ含めリーフェクト不足のユベルタスのパイロット達の経験に一役買っていた。

 

 

「もう一回!もう一回やらせて!」

「別にいいけどさ……、ジハード、体は大丈夫?一晩中ぶっ続けだけど……」

「大丈夫!むしろ今は寝てる時間が勿体無いくらいだぜ!!」

 

そう笑顔を浮かべるジハードにやれやれ、と肩を竦めるサラスバディ。

 

「しっかり寝ときなよ、あんたは1パイロットなんだから。肝心な時体調崩してたんじゃ話にならないよ」

「大丈夫大丈夫!って!あーっ!また撃墜された!」

「……ちゃんと話を聞いてるの?」

「聞いてーーーー」

 

ジハードの声をかき消す警告音。その音は敵が基地を襲ってきた事を意味していた。瞬時に2人は駆け出す。ジハードはオリオンのコクピットへ。サラスバディは機体達のメンテナンスへ。

 

「敵は?」

『敵はテフォン級戦艦が3隻!既にアルゴが5機出撃されている模様!』

 

回線からペルーサの切羽詰まった声が聞こえる。

 

「了解!」

「ジハード!武器!!」

 

サラスバディの怒声に近い声が響く。そうだったーーとモニターから壁に立てかけられているビームガンを右手に、機体と同じカラーリングされているシールドを左手に持つ。後はーーーー

 

「腰には剣……バックパックにはビームソード……」

 

ビームソードは襲撃の時に強奪班が奪ってきた装備でサラスバディ曰く、実体の剣よりも斬れ味が鋭いらしい。バックパックに装備してある事を確認し、空へと発進されるハッチに足をつける。ペルーサの発進を促す声がした。

 

『ジハード、出るぜ!』

 

 

 

 

「ほう……」

 

戦艦から出撃したアードライは感嘆の声を漏らす。

ユベルタスの基地があるとされている場所は、青々とした木々が生い茂っている森だった。所々に木々が枯れ果てた山がある。森を切り拓いた牧場では、人々がアードライの機体を指差してポカンと口を開いていた。自然豊かなこの土地のどこかに基地がある。どうやってかは知らないが、上手く基地を隠したものだ。

 

『既に基地の所在は把握している。全機、前方の山に向けて一斉射撃。新型が出る前に蹴りをつける』

『了解』

 

艦長から回線が届く。回線が消えると、モニターに基地の場所のデータが送られてきた。確認していると、既に基地の場所へと戦艦が放っていた主砲が着弾していた。周りの森は炎上し、主砲によって基地の壁が露わになっていた。自分もとフットペダルを踏み込む。それに伴うように、出力が上がり、見る見る内に基地が近くなっていく。反撃されないよう細心の注意を払って。

 

『むっ!』

 

基地の発進ハッチから出撃してきたのか、見た事もない機体が飛び出していた。情報と照らすと、あれが例の新型か。手合わせ願おうと接近をかけようとする。だが、それよりも前に飛び出した機体があった。

 

『新型ぁ!!!』

 

青年ーーーたしかルーカスだとか言ったかーーが搭乗するアルゴがマシンガンを新型めがけて乱射していた。新型機は機体をさながら踊っているかのように左右に動かし避けていく。その動きにアードライは魅了された。ますます自分を満足させてくれる相手かもしれない。そんな高揚心を抑えきれずに2機が戦う間に自分を加わろうと機体を近づけて行った。

 

 

 

 

 

 

『新型ぁ!!!』

『くっ!!』

 

出撃して早々、ジハードは機体を翻した。空中は地面とは違って中々体の負担がかかる。こみ上げてくる吐き気を飲み込み、接近してくる機体に目を向けた。

 

『うおおお!!!』

 

腰に携えている実体剣に持ち替え、向かってくる機体。声色からして、基地で戦った奴だとジハードは理解する。ならーーー

 

『リベンジだ!!』

 

剣をシールドで受け流し、ビームガンを敵機に向け放つ。放たれたビームは敵機の肩を貫いた。下がろうとする敵機にさらにビームの雨を浴びせる。

 

『ビーム兵器だとぉ!!』

 

だが、ジハードの狙った場所には当たらず、敵機は残った手でマシンガンを乱射する。シールドで受けながら、くそっと舌打ちをするジハード。追い打ちをかけようとするが、警告音が鳴り響いた。瞬間、機体を後ろへ下がらせる。その判断は正しかった。その場にいたなら、彼の駆るオリオンでも被害を被るであろう大出力のビーム。それが、彼がいた場所に正確に放たれていた。

 

『なんだ!?』

『外したか。さすが新型機』

 

放たれた方向を見ると、全身毒々しい赤色へとカラーリングされているアルゴがいた。さっきのビームはこいつがやったのか。とジハードは理解する。

 

『やばいな……』

 

確かウルズが言ってた中にアルゴのカラーリングが白以外の奴は気をつけろとの項目があったはずだ。カラーリングが白の奴以外はエースだと。カメラを最大遠望にして見ると、肩のとこには獲物を睨む鷲を思わせるマークが施されていた。間違いない、エースだ。

 

別のカメラを見ると、先程肩を破壊したアルゴもまだやるようだ。マシンガンを構えながら向かってくる。また赤のアルゴを見ると、機体は腰の長距離砲へと手が伸びていた。

 

『また来る!!』

 

機体を下へ落とす。再びビームが空を裂いた。負けずにビームガンを向けて放つが、距離が遠い。全て避けられた。

再び警告音。見ると再びアルゴがマシンガンを乱射しながら近づいていた。

 

『まだっ!!』

 

シールドで防ぎつつ、急接近を図る。ビームガンを腰にすえ、バックパックにあるビームソードに持ち替えーーー

 

横薙ぎに振るった。

 

『ぐあっ!!』

『もう一丁!!』

 

振るったビームの剣は、アルゴの足を切断した。

さらに続け様に蹴りをお見舞いする。吹っ飛ばされたアルゴの行方も確認せずに、ジハードは上へと注意を向ける。

上空では、赤色のアルゴが今まさにオリオンにビームの鉄槌を下ろそうと引き金を引こうとしていた。

 

『まずい!!』

 

 

 

 

 

空中で戦う2機の姿を、アードライは傍観していた。ビーム砲のチャージの時間に伴い、敵機の動きを確認したかったのだ。

 

『……』

 

モニターでは、新型が接近戦を仕掛けていた。銃を腰にマウントし、バックパックにあるビームの剣を発振し振るう。先程のビームの避け方といい、これまでリーフェクトが配備されていない軍隊とは思えない程の滑らかな動きだった。新型の機体の補助や装備などのアドバンテージもあると思うが、それを差し引いても想像していた動きとは違った。

 

『こういう不意打ちみたいなのは俺の主義じゃないが……』

 

ピピッとビーム砲のチャージが終わる。ゆっくりと下の新型機へと砲身を向け、照準を定める。

 

『悪く思うな……』

 

新型は対峙していたアルゴを倒すと、即座に上を向いた。が、もう遅い。手を引き金へとかける。新型機が上昇してきたが、到底間に合わない。終わりだ。

 

『むっ!!』

 

警告音が鳴り響き、アードライは機体を動かす。見ると、さらに敵機が2機、近づいてきていた。見ると、識別用か、全身緑色にカラーリングされたアルゴと、肩にだけ緑にされているアルゴがいた。

 

『ちっ!』

『おおっと!!』

『危ねえっ!』

『それでよけたつもりか!!』

 

ビームの引き金を引く。2機は散開し、一機ずつ左右に分かれた。しかし、アードライは気にせず左の一機へとビームの砲身をずらし、放ち続ける。

 

『う、うわぁぁぁ!!!』

『パルム!!この野郎!!』

『その程度の動きで!!』

 

見事にビームは敵機を貫き、爆散した。緑色のアルゴが友軍の仇をとろうと接近してくる。アードライはビームをさらに立て続けに放った。

 

『んなもんに!!』

『よけたっ!?』

 

放たれたビームを避け、機体が剣を抜き近づいてくる。それに応えるかのようにアードライの機体も剣を抜いた。

 

『接近戦ならっ!!!』

 

 

 

 

ウルズは確信していた。目の前の赤色のアルゴはエースだ。だが、仕様は砲撃戦仕様。遠距離火力を持った反面、接近戦は分が悪いはずだ。と。

 

『んなもんに!!』

 

ビームを避け、スラスターを噴射させて赤色のアルゴへと向ける。

 

『接近戦なら!!』

『ちっ!』

 

剣が交差し、火花が散る。ちっ、とウルズは舌を巻いた。流石はエース級。泣き所の接近戦も反応しやがった。

 

『だがよぉ!!』

 

スラスターをさらに吹かす。出力が高まり、じりじりと赤色のアルゴの剣を押し込んで行く。いける、と思った瞬間、ウルズは衝撃に襲われた。

 

『なっ!!』

 

アルゴが押し込まれた剣を薙ぎ払い、ウルズ機の胴体部に蹴りをかましてきた。くそったれ、とモニターを確認する。見ると、赤色のアルゴがこちらへ再びビーム砲を向けている。

 

『しまっ……!!』

 

今まさにビーム砲が放たれようとした途端、ビーム砲の砲身が爆発した。モニターを見ると、ジハード駆るオリオンが向かっていた。手には銃らしき物を持っている。さっき撃ったのはこいつか。

 

『大丈夫かよおっさん!!』

『あぁ?大丈夫に決まってんだろ!!それよかジハード!俺の心配より自分の心配してろ!また来るぞ!』

 

爆煙から機体が飛び出す。しかし、それはウルズ達のいる位置とは別の方向へと向かっていた。

 

『撤退か……?』

 

モニターで周囲の敵を確認する。どのモニターにも敵影は見えない。

 

『よしジハード、撤退だ。来い』

『了解!』

 

機体を翻し、敵影が見えないとはいえ、注意を払いつつウルズは基地へと機体を動かした。

 

 

「………」

 

基地へと帰投したアードライはシャワールームにいた。

彼は戦闘後はシャワーを浴びるのを習慣づけていた。その目的は汗を流すのもあるが、戦闘で犯した失態を反省し、次へと生かす為でもあった。その点では、個室で汗も流せて心地よくなれるシャワールームはうってつけの場所であった。

 

(あの動きなら新型はまだ対処できる範囲……しかし、奪取されてからそこまで時間は立っていないのにも関わらず、あそこまで動かせるのは……危険だな。次合間見えた時は落とさねばならない……今はそれより……)

 

今のアードライの興味は新型よりも、自分の砲撃を避けたアルゴにあった。今までユベルタスにおいて自分の砲撃を避けた者はいなかった。自分に一撃を与えた者も。

 

「……ふっ。面白い」

 

自分を満足させてくれそうなパイロットに久しぶりに会えた。顔に笑みを浮かべ、静かに燃える。

 

「ホークさん、ここにいましたか。カムイ司令官がお呼びです」

 

「あぁ。分かった、すぐに行く」

 

心を滾らせ、アードライはシャワールームをルーカスと共に出る。その瞳はさながら獲物を見つけた鷲のようだった。

 


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