革命のオリオン   作:りーる

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1話 激突

大国スローネの現国王、フール・ド・スローネは苛立っていた。

 

「全くどうなっているんだ?」

「……何がです?」

 

フール国王の苛立つ声とは違い、冷ややかに受け答える。

 

「とぼけるな!新型のリーフェクトの事だ!革命組織に強奪されたそうじゃないか!」

「あぁ……」

「あぁではない!事の重大さが分かっているのか貴様は!」

 

口から唾が飛び出す程の剣幕の国王。しかし、男は依然態度を変えない。分かっていないのはお前だろう。馬鹿王。自分の保身ばかり考えて。現場の苦労を知らない甘ちゃんめ。

 

「革命組織と言ってもたかがゲリラ程度。新型といっても数で押せばなんの心配もいらないでしょう。それよりまず、ゲリラにはリーフェクトが少ない。旧時代の遺物に乗っている奴らがやすやすとリーフェクトを乗りこなせはしないでしょう」

「しかしだな……」

「そんなに心配なさらなくても大丈夫です。既にゲリラの基地は把握しております。ご心配でしたら今すぐにでも軍を派遣致しますが?」

「……そうだな、頼りにしているぞカムイ」

「……仰せのままに」

 

カムイと言われた男はにやりと笑うと、すぐさま部屋の扉を開けて出て行った。

 

 

「どうでした?」

「お小言を言われたよ、あの王様め。自分の国のイメージの事しか考えてない」

 

駐車場で部下が運転する車に乗り込み、質問に飄々と返すと出せと合図を送る。

 

「………こっちの苦労も知らないで」

「……まあそう言うなよ、ルーカス君。長年スパイ活動に費やしてきた君の苦労が報われる時が来たんだ」

「というと…?」

「ん、許可を貰ってきたよ、革命組織の基地に攻撃する許可」

「おお!!」

「って事でルーカス君には先陣を切ってもらうからね、よろしく」

「奪われたリーフェクトはどうします?」

「現場判断で任せる。どうせあっちは使いこなせないと思うがね。まだ日もそんな経ってないから経験も積めないだろう」

「はぁ……」

「しかし新型機がいるとなると少しの抵抗は覚悟はしておこう。本当は奪いに来た奴ら全部捕まえる手筈だったがな。誰かさんのミスで奪われるなんて全くついてない」

「そ、それは……!」

「ま、今回ミスしたらそれなりの処罰はあると思え。それより前見て運転しろ、危ないだろ?」

 

隣で不安そうに面持ちで車を運転するルーカスとは反面に、鼻歌を口ずさんでいた。さて、ユベルタスはどう出る?

 

 

革命組織ユベルタスの技師長、サラスバディは頭を捻っていた。長年機械と向き合っている彼女でも、このような機会はさらさらない。その理由は先日奪ってきた新型機ーー搭乗していたジハードの奴が機体名はオリオンと言っていたーーが原因であった。作戦後、救護者達の治療を終え、すぐさま格納庫に来た彼女は、機体のデータを取ろうと寝るのも惜しく活動していた。

 

「なぜだ……?」

 

今彼女は問題に当たっていた。機体の装甲材質が従来の機体よりも硬い素材でできているのだ。だが、運動性や出力は損なわれておらず、従来の機体よりも遥かに凌駕していた。どうやったらそんな材質を開発できたのかーー技師長として興味が湧いてくる。しかし、その反面、機体整備がしにくいという欠点が露わになった。従来の機体の部品で修理する事は出来るは出来るが、その分、反応速度、運動性、出力、その他諸々全てが修理する以前よりも劣る。その誤差はパイロットにとって致命的だとサラスバディは知っていた。

 

 

 

「予備パーツ?」

「ええ」

 

革命組織ユベルタス。ユーフェミア支部支部長、アロー・

スロードがコーヒーを振る舞いながら、疑問の声をあげる。

 

「またなんだってそれがどうした?」

「例の新型です。データは既に拝見頂いたかと思いますが」

「確かに見させてもらったよ、いやはや、あれは凄いね。私は機械はあまり不得手なんだが、数字の類で分かるよ。

まるで化け物じゃないか」

「ええ。だからこそなんですよ!あまりに高性能過ぎて、たとえ従来の機体で修理する事が出来ても、機体性能は格段に落ちます!ですから性能を落とさない為にも予備パーツをーーー」

「まあまあ、落ち着きたまえ。ほら、コーヒーを一杯飲みなさい。気分が落ち着くよ」

 

サラスバディがコーヒーをすする音だけが部屋の中に聞いていた。その音を聞きつつ、アローは考える。確かにこれまでスローネにやられっぱなしだったが、今は強奪した新型機がある。これは対スローネには必須であり、ユベルタスの切り札でもある。もし整備を怠れば早々に撃墜、または再び鹵獲されてしまうだろう。強奪作戦が成功したのは他の支部にも通じている。今上がった士気を落としたくはない。基地の台所事情は厳しかったが、致し方ない。

 

「分かった、予備パーツの件、申請してみよう」

「ありがとうございます!」

「しかし、申請しても何日かかるか……」

「いつ襲撃がかかるか分かりませんからね……」

「ならいっその事、相手からまた奪っちまうのはどうでしょう?」

 

扉から声がする。見るとそこには包帯巻きのウルズがいた。

 

「おお、ウルズ、作戦は見事だったぞ!」

「いえいえ、そんな。俺はただサポートしただけですよ問題児を」

「謙遜はしなくていいぞ。お前の指導の仕方がよかったからジハードが奪えたのだろう。で、そのまた奪えばいいとは?」

「言葉通りの意味ですよ。あそこで開発されたんだったら

予備パーツもそこにあるはずだ。それをまた奪えばいい。シンプルな作戦です」

「だけど、先日の作戦でほとんど皆怪我人になってますよ?実際あなたもそうですし。それと警備も厳重になっていると思います。成功の可能性は低いかと」

「あーこんな怪我寝れば治る」

 

包帯をほどきつつ、それと、とウルズが付け足す。

 

「ジハードを出す。後俺も出る。人は多い方がいいだろう。さ、支部長」

「確かに合理的だが……大丈夫かね?新型機は絶対に奪われてはならんのだ。撃墜されてもだ」

「大丈夫です。死に物狂いで奪ってきたんです。目の前でおちおち撃墜なんてさせませんよ」

 

ウルズがにやりと笑った。

 

 

 

『おっし!!』

『気合い入れるのはいいがよジハード。お前は今回絶対落とされんなよ』

『分かってるっておっさん!おっさんこそ怪我は平気なのか?』

『へーきもへーき。余裕のよっちゃんさ』

『2人とも、軽口はそれくらいにしてください、ウルズ機は発進のスタンバイをお願いします』

 

軽口を叩き合う2人に、ユベルタスのオペレーター、ペルーサ・ロンドが強く言い放つ。

 

『了解。全く、ペルーはいつからあんな怒りっぽくなったんだ?』

『ウルズさんがまたセクハラしたんでしょ?』

『バカ言えパルム。お前程セクハラしてねーよ。それに俺のはスキンシップと呼べスキンシップと』

『発進タイミングをウルズ機に譲渡します』

 

さっさと発進しろといわんばかりのペルーサの声。

その声に肩をすくめながら、フットペダルを踏み込む。出力が上がっていき、発進の準備が整う。

 

「おし、ウルズ機、出るぜ!」

 

外壁が開き、外の明かりが目を眩ませる。ウルズ機が光に吸い込まれていく。

 

『続いてパルム機、発進お願いします』

『了解、パルム機出ます!」

 

2機が光に吸い込まれていく様子を見ながら、ジハードも発進の準備を整える。

 

『続いてジハード機、発進お願いします』

『了解、ジハード機、行くぜ!』

 

次の瞬間、凄まじい衝撃がかかる。思わず仰け反ってしまう程の衝撃に耐えながら、ジハードは空へと飛び立った。

 

 

 

 

『おっしお前ら、作戦をおさらいするぞ。パルムは強奪班の援護、俺とジハードは敵軍の注意を向ける、いわゆる陽動だな』

『了解!』

『了解!』

『よしいくぞ、虎の子のリーフェクトも投入してんだ、失敗は許されねーぞ!各機散開!』

 

 

 

「くそ!なんなんだ急に!」

「て、敵の強襲です!」

「ええい!」

 

先程からスローネ領ユーミア基地は爆撃に襲われていた。革命組織の襲撃かーーーとルーカスは舌打ちをする。忌々しいゲリラが。おそらく新型を奪った事で勢いづいたのだろう。今まで大規模な襲撃は行われなかった。先日の強奪事件を除けばだが。

 

「数は!?」

「アルゴが2機、それと先日奪われた新型機です!」

「やはりか……。出るぞ!目の前の道を開けろ!」

 

目の前で大破したアルゴをどかし、出力を上げ、空へと飛び立つ。

 

 

「あれか!」

 

出撃すると、そこには2機を取り囲む友軍機がいた。大勢でかかっていくが、緑色へとカラーリングされているアルゴのマシンガンによって撃墜されていく。新型も、アルゴ程ではないが、手にしている大剣で一機一機確実に潰している。

 

『こんのっ!』

『そんな動きで!!』

 

スラスターを吹かし、ルーカス機に新型が縦に振り下ろした。しかし、その剣をスラスターの噴射で横に避けたルーカスは新型機を蹴り飛ばす。吹き飛ばされ、体制を崩された新型機に手にしていたマシンガンを打ち込み、追い打ちをかける。

 

『ちっ、硬いな!』

 

直撃にも関わらず、装甲に一つの傷もつかない様子を見て、忌々しげに放った。

 

『こんちくしょー!!』

『はっ!そんなものでは!!』

『おらぁぁぁぁ!』

『甘いんだよ!!』

 

剣を脛から取り出した小型の剣に持ち替え、接近戦を仕掛けてくる新型。ルーカス機も腰にマウントされていた剣をマシンガンと持ち替え、その攻撃を受け流していく。

 

『いくら新型でも!!』

『ぐっ!!』

 

剣を横に薙ぎ払い、相手の武器を地面へと叩き落とす。

 

『パイロットがその性能を生かせねばなぁ!!』

『ぐっ!』

『逃げても無駄だ!!』

 

横薙ぎに振った剣をスラスターを吹かして上へと逃げる新型。その姿に自身の機体も上昇して追従していく。来るなと言わんばかりに新型が胸部のバルカンを打ち込んでくるが、ルーカスにとって意味はなかった。

 

『はぁっ!!』

『ぐっ!』

 

観念したのか、腰へとマウントされていた大剣を手に持ち、新型は鍔迫り合いへと持ち込む。しかし、鍔迫り合いなどは出力が劣るこちらに不利だと知っているルーカスは押し込まれるのが分かると、下へと機体を一瞬落とした。つんのめる新型に再び蹴りを叩き込む。

 

『があぁっ!!』

『ゲリラ屋風情が!!返してもらうぞ!その機体を!』

 

後は下へと墜落していく新型に剣を叩き込むはずーーーだった。

 

『くうっ!!』

 

目の前を弾丸が飛び、途端に機体を後ろへ下がらせる。モニターを見ると、こちらへと向かってくるアルゴがいた。

 

『させねぇよ!』

『友軍機はなにしている!』

『………その声は!ルーカスか!』

『……まさか、ウルズ隊長!?』

 

ウルズ駆るアルゴは手にしていたマシンガンのマガジンを入れ替えると、再び放ってくる。今度は威嚇射撃ではなく、当てる気があるようだ。機体を左右に移動させながら、自らもマシンガンを放つ。

 

『ちっ!』

『はぁっ!』

 

ルーカスが放った弾はウルズ機のマシンガンに直撃した。たまらず、マシンガンが爆発する前に放り出す。その瞬間を逃さずに、ルーカスは接近戦へと持ち込む。その様子に、すかさずウルズも剣を抜く。

 

『はっ、まさかお前にこんなとこで会うとはな!運命の女神様とやらに感謝しないとな!』

『勝手に言ってろ!!』

『冷たい返事だなぁ、っと!』

 

剣を押し込み、ルーカス機を吹き飛ばす。間髪入れずに肩に装備していたキャノン砲を撃ち込む。瞬間、ルーカス機の左肩が爆散した。

 

『くっ!』

『おっとぉ!』

 

手にしていた剣を投げつける。ウルズ機も同様に剣を投げつけた。剣と剣はぶつかり合い、周囲に爆発をもたらした。

 

『消えた!?』

 

爆煙が消えると、ウルズ機の姿は消えていた。モニターに目を凝らすが、機体の姿は見えない。

 

『なわけねーだろ!』

『なっ!』

 

突如センサーに敵機が接近している事を知らせる警告音が鳴り響く。見ると、空からウルズ機が接近していた。太陽を背に向かってくるウルズ機に、思わず目を眩ませる。

だが、それが命取りだった。ウルズ機が手にしていたマシンガンを唸らせた途端、ルーカス機はバランスを崩した。弾丸が両足を貫いたのだ。爆発と同時にルーカス機は倒される。

 

『くそっ!』

『もうこれで動けねーだろ。トドメをさしてやる』

 

無我夢中でレバーやペダルを力任せに動かす。しかし、その行動に機体は反応しなかった。まずい、このままでは殺されるーーとルーカスの直感が伝える。

 

『ん?パルムか、作戦終了?今いいとこなんだよ……了解了解、先に帰っててくれ、こっちもちょっと重い荷物抱えて行くからよ。何大丈夫大丈夫、心配すんなって』

 

腰にマシンガンをマウントし、身を翻していくウルズ機。

その光景を見て、ルーカスは唖然とした。それと同時に、安心感を抱いた。よかった、まだ自分は生きてられる。

 

『って事だ、よかったな、ルーカス君、まだ生きられるぞ?』

『う、うるさい!さっさと殺せ!!』

 

せせら笑うウルズの通信に思わず赤面する。考えを読まれた。動揺し本音とは別の言葉が口を出る。

 

『そうしたいのは山々なんだがなぁ。事情が変わったからな。お前を殺すのは次回に戦った時のお楽しみにしとくよ』

『……そんな機会がない事を願いますよ』

 

今まで倒れていた新型へと歩み寄って行くウルズ機の背中に毒を吐くルーカス。

そんな事を気にせず、ウルズ機は肩を新型に貸すと、スラスターを吹かし、上空へと飛び去っていく。辺りには、煙の臭いと、粉々に破壊されたルーカス機の部品が転がっていた。

 

 


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