二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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if#2c『閃光のワルド』

「ここだよ」

 

ギーシュに連れられて着いた場所、そこはラ・ロシェール近郊の森を抜けた先の小高い丘。

 

「以前、僕が起こした決闘騒ぎがあっただろう?実はあの切っ掛けとなった遠乗りは、この場所を見つける為だったのさ、何て……胸を張れるものじゃないか」

 

自嘲を浮かべ、ばつが悪そうに頬を掻くギーシュ。

 

以前、この場所に連れてきた少女、ケティ・ド・ラ・ロッタ、彼女との逢瀬は恋人に明かされる。

 

迂闊な自身の行いによって。

 

「ミス・モンモランシとは仲直り出来たみたいだね」

 

決闘から今日に至る虚無の曜日に、モンモランシーと何度か馬で出掛けているのを見掛けたことがある。恐らく、トリスタニアかここに連れてきていたのだろう、ギーシュとモンモランシーの仲はすっかり良好なようで、仕事をしていると二人で居るところをよく目にする。

 

「はは、どうにかね。サクヤ、君には本当に感謝しているよ」

 

「感謝してくれるのはいいけど、今日の事バレたら今度こそ……」

 

意地の悪い顔を見せる紗久弥にギーシュは慌てる様子も見せず。

 

「はは、それは勘弁して欲しいな」

 

そう言って、笑顔を向けた。

 

ルイズ達は、その様子を木の陰から覗き見て、呆れたような、どこか羨ましそうなそんな息を吐き、紗久弥達に合流。

 

ギーシュをからかうキュルケとルイズをよそに、タバサはふとシルフィードに念話を飛ばす。

 

『お姉さま大変なのね!』

 

返ってきたのは慌てるシルフィードの声、何があったかと訊くと、宿が襲われているのだと言う。

 

それを紗久弥達に伝えると、ギーシュだけがあわてふためき始めた。

 

「どどど、どうするんだ!?に、荷物は宿に置いてあるんだよ!?」

 

取りに戻らなければと、焦るギーシュの目には、何故か落ち着いた……と言うより、呆れた様子の女性陣の姿が映る。

 

「な、何故そんな目で僕を見るんだね……?」

 

これに答えるのはルイズ。

 

「姫様が戻られた後話したでしょうが、基本的に荷物はサクヤに預けるって、必用最小限の衣類と貴重品、預けたんでしょ?」

 

そう言われてふと思い出したか、合点がいったと言わんばかりに、手を打った。

 

「そうだった、うんそうだったね、ははは、動揺してすっかり忘れていたよ」

 

しかし、と紗久弥を見るが、果たして何処に隠し持っているのだろうか、そう疑問を浮かべながら、視線は紗久弥のスカートに向く。

 

(……ないない、流石にそれは無理だろう)

 

じっくりと眺めていると、ルイズに軽く叱られた。

 

「さて、いつまでもこうしては居られないわ、どうするか決めなきゃ」

 

仕切るキュルケに、タバサがアルビオンへ行くべきだと告げる。

 

「宿が襲われる可能性としては、金品目当ての押し入りか……」

 

「『目的がある』か……ね」

 

この場合の目的とは、ルイズの、否、密書の事。

 

何処からか今回の目的が流れ、それを良しとしない者の妨害の可能性をタバサは指摘した。

 

そしてその場合、流した……或いは先導した者の可能性が極めて高くなるのが、他ならぬ……

 

「ワルド……?」

 

ルイズの呟きに、ギーシュは反論しようと口を開きかけるが、旅に出たメンバーでそう言った『手を回せそう』な人物がワルドのみであることに気付く。

 

「……今なら出し抜ける可能性は高い」

 

 

 

 

「……荷物すら無いとは……!」

 

襲撃が始まったものの、肝心の目的は何一つ果たせていない。致し方なしと、出しておいた遍在と感覚を繋げ、襲撃者達の指揮を外して『目的』の捜索に切り替える。

 

だが、街中はおろか桟橋に向かう道にさえその姿は確認できない。まさかと空を見上げれば、飛び立つフネが一隻あるのみ。

 

「……あれか!?」

 

だが、何故自分を置いて?

 

そう思うが、舌打ちと共に感付かれたかと思い至る。

 

そして。

 

「あのメイドか……?」

 

桟橋に残っていたフネに辿り着いたワルドは、怒りを落ち着かせる為に一つ二つ、深呼吸をした。

 

 

 

 

「ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ、朝食の御用意が出来ました」

 

船室のドア越しに聞こえるのは、船員の女性の声……ではなく。

 

「サクヤ……あんたここでもメイドするのね」

 

開いたドアの向こうには見慣れた使い魔の姿。

 

「もちろん」

 

因みに、この『マリー・ガラント号』に女性船員は居ない。その為交渉の材料の一つとして、紗久弥の料理と給仕が挙げられたが、本命は足りない風石の補助としてタバサの魔法を使う事。

 

「食事が終わったら、動力室に来てほしいって」

 

そう言ってタバサに渡したのはチューインソウル。

 

受け取ったタバサが不思議そうに眺めていると、紗久弥から精神力(SP)回復の道具だと言う。有り得ないと思いはしたが、同時に目の前の彼女は、ハルケギニアの常識は通用しない人物である事を思い出す。

 

「どう使うの?」

 

その言葉に、紗久弥はチューインソウルを一枚取り出し銀紙を外して、中身を口に入れて咀嚼する。

 

「へぇ、食べ物なんだ?」

 

興味津々なルイズとキュルケ、各々紗久弥の目の前に手のひらを差し出す。

 

「一枚だけね」

 

二人は銀紙を同じように開いて、中身を口に入れる。

 

咀嚼しながら、キュルケは開いた銀紙が何やら不思議なのか、色々と角度を変えながら眺め始めた。

 

「どうしたの?」

 

「ん……この紙……どうやって作ってるのか気になってね」

 

紗久弥も工業系には疎いのか、そう言えばと唸る。

 

「まあいいか、にしてもこれ美味しくは無いわね」

 

「まあ流石にね」

 

 

 

 

タバサの働きもあり、マリー・ガラント号は順調に航行を続け、やがて乗組員の視界には見慣れた、そして紗久弥には初めての光景が現れた。

 

空に浮かぶ大陸、その端からは幾つも河と思われる大量の水が瀑布となって大陸下に雲を生んでいる。

 

「……これが……アルビオン……」

 

その雄大にして神秘的な光景に暫し心奪われる紗久弥だが、その視界の隅に一隻のフネが映る。

 

同時にあちこちからどよめく声、どうやら歓迎出来る事ではないようだ。

 

 

 

 

後を追う格好になったワルドの視界に、二隻のフネが映るが、どうにも様子がおかしい。

 

が、アルビオンの現状を鑑みれば、よくよく考えるまでもなく、空賊と拿捕されたフネであると気付く。

 

「……ふむ……どうやらルイズ達の乗り込んだフネのようだな……おっと、どうやら捕らえられたか」

 

遠見の魔法をアレンジした望遠の魔法で様子を伺えば、大人しく連行されていくルイズ達の姿。

 

「あの女も捕らえられたようだな……」

 

理由は解らないがこれは好機であろう、ワルドは簡単に計画を見直して、船長に近寄るように命じに向かう。

 

 

 

 

ルイズ達は物置にされている部屋に入れられていた。

 

「杖は預かっておく」

 

そう言い残し、空賊が去ったのは少し前の事。

 

杖が無いからと、縄が解かれているのが幸いしてか、紗久弥はルイズ達にお菓子を食べさせ、一心地。

 

「さて、これからどうするのかな?」

 

一番に口を開いたのはギーシュ。

 

紗久弥が居て大人しく捕まる事、それが何か企んでいるのではと思いに至る。

 

「うーん……正直どうしようかなって」

 

さしもの紗久弥と言えどこのような状況は初めてで、大人しく捕らえられたのは、ただどうすれば良いか解らなかっただけである。が、この空賊に関して可能性として浮かぶものがある。そして、それは二択、一つは普通に空賊、もう一つは『王党派』による空賊行為。

 

アルビオンの地理は解らない、だが、ラ・ロシェールで聴いた王党派と『レコン・キスタ』の大まかな現状を鑑みれば……

 

「成る程……そっか……」

 

何か感づいた様子の紗久弥に、ルイズが声をかけようとしたその時、乱暴にドアが開かれた。


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