二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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這い寄る奇跡

それは祈りだった

 

それは願いだった

 

それは希望だった

 

人々は願い、祈り、希望にすがる

 

少女は願い、祈り、希望を絆に変える

 

それはやがて奇跡と至る

 

 

 

 

それは祈りだった

 

それは願いだった

 

それは絶望だった

 

人々は願い、祈り、絶望にすがる

 

それは願い、祈り、絶望を淀める

 

それはやがて奇跡と朽ちる

 

 

 

 

二つの奇跡は扉を隔て其処に在った

 

 

 

 

ヴァリエール邸で過ごす日々、紗久弥は思った以上に忙しい日々を過ごしていた、主にカリーヌの手伝いで。

 

「あの、お母様」

 

「申し訳ありませんが、今日もサクヤを借り受けますので、宜しいですね?」

 

「はいっ!」

 

逆らえるルイズなど居やしない、二人が居なくなった後、ルイズは部屋で枕に顔を埋めて『サクヤのバカ』と言うので精一杯であった。

 

予定としては自分がこのヴァリエール領の案内をサクヤにするつもりだった、だというのに初日からカリーヌとの手合わせや領内の見廻り、果ては書類整理など、ルイズでも出来る仕事に付き合わせている様で、バカンスのつもりだった今回の帰郷は無駄となるかもしれない。

 

そう思うと途端に悲しみが込み上げる、カトレアがフォンティーヌ領に戻っていれば会いにも行けるが、どうやらまだ学院に居るようで戻ってはいない。

 

「……腐っていても仕方ないか……魔法の練習しよ」

 

思い立ったはなんとやら、どうせならと懐かしいあの場所に行って練習することにし、ルイズは部屋を後にする。

 

 

 

 

本当に懐かしい場所だった、母の言葉に従い、自身の爆発する魔法の練習を始める前は、嫌なことや辛いことがあると、何時もこの小さな池の小さなボートに隠れるように隠っていたものだ。

 

当時はもっと大きく思えた池とボート、こんなに小さかったのかと思う。

 

でも、其処にある景色は当時と変わることなく、ルイズは練習も忘れてボートに乗り込んだ。

 

(……昔、こうやっている時に誰が迎えに来てたっけ……)

 

もう、思い出すことの無い記憶もあった、微睡みの記憶は朧となって、揺らぐボートに身を任せれば、いつしか眠りに落ちていた。

 

 

 

 

「ようこそルイズ、珍しい時間に来たのね」

 

気が付けばベルベットルームに来ていたようだ、どうやら眠ってしまったのだろう、あの懐かしい小さなボートで。

 

「悪いけど、今日はチェスの相手は出来ないの、至急の用事があってね」

 

来たくて来たわけではないと伝えると、マーガレットは思案してルイズに言葉を掛ける。それはいつか絆を紡いだ少年にも伝えた言葉、このベルベットルームに於いては意味の無い事はないと。

 

「……そうね、貴女は知るべきね、貴女が絆を紡いだ少女が、如何なモノを背負っているのかを、いいえ、知る時が来た、と言うべきかしら」

 

扉が開く、浮かび上がった扉が、ゆっくりと音を立てずに。

 

 

 

 

目が覚めた其処は、眠る前に見たボートからの上空の景色。ぼんやりと覚えているのは、瞬く光とたゆたう闇。

 

あれはなんだったのか、きっととても大切な事。

 

自身が降ろしているペルソナ達が何かを訴えかけてくる、今日までに紡いだ絆を感じる……

 

『我よ、外なる我よ、本を開く時は近い』

 

紡いだ絆がカードとなって顕れる……

 

『キュルケ』

 

『シャルロット』

 

『ロングビル』

 

『ギーシュ』

 

『モンモランシー』

 

『エレオノール』

 

『カトレア』

 

『カリーヌ』

 

『ピエール』

 

『アンリエッタ』

 

『コルベール』

 

『オスマン』

 

そして……

 

『紗久弥』

 

暖かな光と変わり、十三枚のカードはやがて一枚になる。

 

「……って初めてのペルソナ……?」

 

よく見れば纏う装束等が結構変化しているようだ、意識を集めペルソナを脳裏に浮かばせると、其処には外見以上に大きく変化した自身の初期ペルソナ『ブリミル』の詳細がみえた。

 

 

 

P.Lv89

 

『ブリミル』

 

力:59

耐:40

魔:91

速:63

運:77

 

skill

 

『ラグナロク』

『ニブルヘイム』

『真理の雷』

『万物流転』

『メギドラオン』

『コンセントレイト』

『』

『』

 

NEXT skill Lv93

 

『メシアライザー』

 

耐性

 

斬突打炎氷雷光闇:耐

風:特に無し

 

 

 

「……は?」

 

思わず意識を疎んじる、あまりにも唐突過ぎるペルソナのパワーアップに理解が追い付いていないのだろう。

 

この力が必要な敵でも来るのだろうか、しかしこれ程の力が必要な敵と言っても、ルイズに思い当たるのは母であるカリーヌ位である。

 

さらっと思い浮かべるのがカリーヌであるのは、明確な強さを間近で、その身で知っているからに他ならず、深い意味はない。弱点とおぼしき項目が相も変わらず風だと言うこともきっと関係無い、無い筈だ。

 

「……っと呆けてても仕方ないわ、予定通り魔法の練習始めましょうか」

 

標的となる物は見当たらない、優秀な庭師のお陰である。取り敢えず中空に狙いを定め、威力を落として『ロック』を発動すると、何時ものように爆発するがルイズはそれに違和感を覚えた。

 

「もう一回……」

 

軽い発破音に紛れて確かにそれは聞こえた。

 

二度、三度、何度も繰り返し、繰り返す。

 

ガラスが砕けるような、はたまた金切り声のようなそんな音、ルイズはそこで魔法の発動を止めて、先程までの場所を注視する。

 

(……何か居るような……居ないような……)

 

結局、その後もう二三度魔法を使って、そこで練習を終えたのだった。


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