二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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ガリア王の遊び

男は飽いていた。

 

王である事に、姪を使って遊ぶ事に、娘を使って遊ぶ事に、人生に、人である事に。

 

何より、世界に飽いていた。

 

唯一飽きていないのは、弟と指していたチェスの棋譜を眺めながら駒を列べる事。

 

少し興味があったレコン・キスタを使った聖戦ごっこは早々に頓挫してどうでもよくなった為、再び駒を弄って遊ぶ日々を過ごしていた。

 

シェフィールドと指したこともあったが、つまらない局だった。やはり弟との棋譜が一番面白い、だが、マンネリであることは確か。

 

ジョゼフは、ガリアの王は新たな棋譜が欲しくなったが、良い相手が思い付かない。

 

「ふむ、整理でもするか」

 

そんな中、いつぞやトリステインで行われたチェス大会の棋譜が未整理であったと思い出す。

 

その殆どは基本戦術を逸脱しないつまらない物ばかりで、価値はないと棄てていく。

 

そんな中、気が付けば残った棋譜にある共通点が見つかった。

 

『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』

 

「ヴァリエール……ああ、トリステインの辺境伯のあの娘か」

 

基本戦術は優秀、応用戦術を絡めて戦うのは些か苦手、と見て取れるのが一回戦の彼女だった。

 

のだが、二回戦三回戦と勝ち進む度、応用が効くようになり、強くなっていたのである。

 

ジョゼフはふと思い付き早速ペンを取り、上質紙にルイズへの招待状をしたためる事にした。

 

 

 

「ふむ、こんなところか」

 

どうせなら、少女を玩んでみるかと、トリステイン、アルビオン、ゲルマニアの王を呼んで、少女を緊張の中に放り込んでやろうと、イタズラを思い付いた少年の様に笑みがこぼれる。

 

 

 

各国の王達にも招待状をしたためてから、シェフィールドにビダーシャルを呼び出させ、来たところで早速用件を伝えた。

 

「ふむ、まあ良かろう、様子も見ておきたいのでな」

 

「ほう?」

 

「春頃から現れた『あの時間』を越える度、貴様の『義妹』の眠る時間が明らかに増しているのでな」

 

経過の観察と、状態の検査もついでに行おうとビダーシャルが伝えると、ジョゼフはクックと笑い、好きにすれば良いと言う。

 

「では好きにしよう」

 

そう残して去ったビダーシャルの居た場所に、シェフィールドが姿を見せると、ジョゼフは彼女に各王への手紙の送達を任せて、再びルイズの棋譜に耽りこんだ。

 

 

 

 

ビダーシャルがオルレアン邸に足を踏み入れると、ある気配を感じた。

 

「ほう……この気配、あの時間に良く似ている」

 

興味はあるが、先ずは目的を果たす事にして、ビダーシャルはある一室の扉を開いた。もしこの邸に戻っているのならば、間違いなく目的の人物がそこに居るだろうと。

 

そして案の定、その少女はそこに居た。

 

眠る母にすがるように抱き付いていた目的の少女、シャルロット・エレーヌ・オルレアン、その者。

 

「やはりここに居たか」

 

「……貴方は」

 

「これをルイズ・フランソワーズとか言ったか?貴様ら蛮族の中に居るのだろう?渡すようにとジョゼフからの命だ」

 

書簡を放り投げてタバサに渡すと、ビダーシャルは一旦部屋を離れて中庭に向かう。

 

中庭に出るとビダーシャルは精霊魔法行使に必要な契約を済ませ、再びオルレアン公夫人の眠る部屋へと戻る。

 

「さて……検査を始めるとしようか」

 

タバサの不在を確認して、ビダーシャルは魔法を唱えていく。

 

 

 

 

「馬車の用意が出来ました」

 

シエスタが行者台に腰掛け手綱を握っている。様になっている辺り、よく行者を勤めているのだろう。

 

ルイズ達が乗ったのを確認して、紗久弥はシエスタの隣に腰掛ける。

 

「サクヤ?こっちに乗れば良いのに」

 

「ケジメはつけないとね」

 

貴族と平民、シエスタが行者台に座る以上、自身もやはり行者台に座るべきであると、紗久弥はルイズに言うと、頭をそっと撫でて微笑んだ。

 

「ん……解ったわ」

 

紗久弥は一人でも気を置く人物が居ると、途端に仕事状態になる。正しくはあるのだが、何処か寂しいと思う。

 

「何よ、ルイズ」

 

「……別に」

 

モンモランシーにあたっても仕方がないのだが、ついぞ溜め息が零れてしまった。

 

タバサとベルスランの挨拶が終わると、馬車はゆっくりと動き出し、オルレアン公邸を後にした。

 

シルフィードはゆったりと上空を泳ぎ、馬車に着いていく。その最中、シルフィードはタバサにご褒美の牛一頭が待ちきれないとばかりに、ルイズをこちらに移せとせっついている。

 

いい加減に鬱陶しくなったのか、タバサはルイズと紗久弥にシルフィードに移るように伝えて馬車を止めさせる。

 

それを確認して、シルフィードは馬車の傍に着地、ルイズが出てくると早く乗れとばかりに体を低くする。

 

「早くした方がいい」

 

「へ?」

 

「王家の任務で来たのなら、報告に向かわなければならない」

 

すっかり忘れていたのか、ルイズは紗久弥と慌ててシルフィードに乗り込むと、王都で牛一頭与えるからとタバサに言って飛び去った。

 

「……慌ただしいわねぇ」

 

キュルケの言葉に、声には出さないが、煩いよりは良いと溜め息を吐いた。

 

勿論、シルフィードの事である。


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