二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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女官と言う名のほぼ王女

「お願いね」

 

一羽の伝書フクロウに手紙を託して解き放つと、紗久弥は急いで戻る。

 

手紙はアンリエッタ宛、ヴァリエールの花押を押した蜜蝋で封をした物。早ければ今日中に届くだろう。

 

「でも何でフクロウなんだろ?」

 

鳩なら解るけどと思う紗久弥であった。

 

 

 

 

「落ち着いたかしら?モンモランシー」

 

戻ってきた紗久弥が見た最初の光景は、何故かルイズに間接を極められたモンモランシーが、ギーシュの腕を掴んでいるところと言う、よくわからない光景。

 

「何、これ?」

 

「ルイズによる暴徒鎮圧」

 

このところの実戦と訓練でかなり体術を使えるようになったルイズである、ろくに鍛えていないモンモランシー一人制圧するのに労はない。

 

「暴れない?」

 

制圧する手を弛めずに、モンモランシーが頷くのを確認すると制圧を解いて自由にする。

 

「ああもう……いったいわね……」

 

腕をぷらぷらさせて、痛みを和らげるモンモランシーにギーシュは優しく声をかける。

 

それを横目にルイズはペルソナをチェンジ、こっそりとモンモランシーにディアをかけて、ダメージを癒して、再びペルソナをチェンジ。

 

「何か体がスッキリしたわ……」

 

色々疲れていたようで、首や肩をグリグリ動かしてみているモンモランシー。

 

「それにしてもルイズ、君は随分戦えるようになっているのだね」

 

「まあね、サクヤに鍛えられているから」

 

暇があるときはカリーヌも来て、娘達の稽古に付き合っているのだが、大抵カリーヌと紗久弥の『稽古(決闘)』になる。

 

見とり稽古とカリーヌと言うが、正味二人の動きを観れるのはタバサのみ。時折コルベールがキュルケとルイズに頼まれて解説を受ける事があるが、このところ研究室よりも解説をしている時間が長いと気付いてしまって、どうしようかと悩んでいる様だ。

 

 

 

「で、ルイズ、それは何なのよ?」

 

『それ』とは紗久弥が仕舞った女官証書に関してである。

 

「さっき見せられたときにざっと目を通したけど!あんなの普通じゃないわよ!?」

 

ルイズは王女殿下代行と言うが、最早代行と言うレベルを越えているとはモンモランシーの弁。

 

「……やっぱりそう思う?」

 

「貴方ただでさえ公爵家の三女なのよ?そんな権限まで持ってたら女官と言うより殆ど王女じゃないの、おまけに何?貴方の使い魔まで同じ権限って、貴族以上の権限だなんて……」

 

「それに関しては一文あってね、サクヤ証書お願い……と、これよ」

 

証書を広げて、モンモランシーに注釈の一文を指して見せる。そこには『サクヤ・コシハタに権限が適応されるのは主であるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと共に任務にあたっている時及び、同人を脅かす時に限る』と記されている。

 

因みにルイズには権限適応の制限は掛けられていない。

 

「ねえ、ルイズ?貴方ひょっとして王位継承権まで持ってんじゃないでしょうね?」

 

これにはさすがにブンブンと首を横に振り否定する。流石にそこまで、この女官だけでも十二分に大それたものだと言うのに、王位継承権までなど、それこそ勘弁して欲しいと思わざるを得ないルイズである。

 

 

 

「……ふうん、あの半月近くの休みってそう言う事だったのね……」

 

ギーシュもアルビオンに行っていたと言うのは驚いたが、経緯を聞いて納得したのか、随分落ち着いたようである。

 

「で、貴方のメイドの使い魔の功績も加味しての証書、と」

 

他にルイズは始祖の四宝が一つ、水のルビーを。紗久弥はアルビオン国宝始祖のオルゴールを与えられているのだが、それまでは言う必要もないと黙っておいた。

 

「去年までゼロのルイズとバカにしてた連中は、今の貴方のこと知ったらどうなるのかしらね?」

 

いたずらっぽい顔でそう訊いてきたモンモランシーに、ルイズはどうでもいいと答えた。

 

「権力があっても私が『ゼロ』であることは間違いないのだし」

 

もう、普通のメイジであることは叶わない。ペルソナを使いなれてきたとはいえ、普通の魔法に憧れがない訳じゃない。

 

尤も、相も変わらず爆発しかしない自分の魔法だが、メギドに比べればかなり応用が効くので、実戦で重宝しているのは嬉しいが……それとこれとは話は別である。

 

 

 

朝食を終えた後、タバサは一人母の元に居た。

 

「かあさま……」

 

ベッドで眠る母に、すがるように抱き付いて頬に口付け立ち上がる。

 

「やはりここに居たか」

 

背後から掛けられた声に、警戒を強めて振り向くと、其処には憎き男の傍に居るのを何度か見たことがあるエルフの姿があった。

 

 

 

「ルイズ」

 

そろそろ学院に戻ろうかと、紗久弥と元に戻ったシエスタに、キュルケ達の使った馬車の用意を任せた時、タバサが戻ってきたのだが、その面持ちは何処か重たい。

 

「何、タバサ」

 

訊くと書簡を渡された。

 

広げてみると、それは何とがリア国王、ジョゼフ一世からのチェスの誘いであった。

 

「あれってリップサービスだったんじゃ……」

 

いつぞやのチェス大会の事を思い出すルイズであったが、本当にこれには驚いた。

 

書簡には、場所と日時、招待客も書かれていて、その中にはアンリエッタとウェールズ、そしてゲルマニア皇帝の名前もあった。


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