気が付けばルイズの指は紗久弥の胸のルーンに触れていた。
「うっすら光ってるね」
淡い光は紗久弥の肌を艶かしく映し出す。キュルケやアンリエッタ程ではないが、大きく形も良い胸。
触れた指先から伝わる滑らかさとその張りは、思わず鷲掴んでしまう程。
「る、ルイズ?」
「ハッ!?くっ何て胸……!」
だが、意思とは反対にルイズの手は紗久弥の胸に捕らえられて離れない。
「捕らえられてるのは私の胸何だけど!?」
「サクヤ……あなたの胸は危険だわ……!」
「だったらいい加減離して?」
「イヤ、これは私のよ」
「違うから!?スカアハ、アムリタ!」
魅了状態から回復したルイズは漸く紗久弥の胸から手を離す。
「言っとくけど、私はそういう趣味じゃないわよ?」
紗久弥の胸に若干未練を残しているのか、ルイズの視線は胸にチラチラ向けられる。
「寝るときは一緒なんだから、それまで我慢してね?」
「そ、そうね……って言うかそう言った趣味じゃないわよって言ったばかりでしょうが!」
ずびしっと音が聞こえるほどに突き出されるルイズの指、その先に見えるのは紅潮するルイズの顔。
その手を掴んで紗久弥はルイズを抱き寄せ。
「そう言えば、フリッグの舞踏会……だっけ?あれじゃああんまり踊れなかったね」
そう言えばと、ルイズは思い出す。
純白のドレスに着替えた自分と、対なる様に黒のドレスに着替えたサクヤ。
キュルケに負けず劣らず男子達に引く手数多の二人だったせいで、二人で踊る事が殆ど出来なかった。
煌めくホール、美しく奏でられる音楽。
折角ならあそこで踊りたかった、でも周りはそれを許してくれずにいて……燻っていたのだろうか、この想いが。
紗久弥は誰も見てないからと、はだけたままの服と下着を脱ぎ捨てて、それを見たルイズもほんとはこんなはしたない事したくはないと口を尖らせながらも、服を脱ぎ下着も脱いだ。
どちらともなく手を握り、ラグドリアン湖の波打つ音を、草木の葉擦れを、辺りに潜む虫の声をBGMに、二人は砂を踏みしめ踊る。
その光景を見守る影二つ。
「あの光景を見て欲情する男って居ると思う?」
「解らない」
「それもそうね」
「でも……ずっと見ていたい」
「そうね、こんな光景……きっと一生に一度見られるかどうかだもの」
踊る二人を見守る影二つ。
ふと気が付けば、ラグドリアン湖面は隆起してウンディーネが姿を見せて、歌っていた。
「奇跡って……起こるべくして起こるのかもね」
『精霊の歌』
恐らく、歴々の王族とて聴いたことはないであろうその歌声。
ルイズと紗久弥、神秘に彩られた宵闇のローブを纏った二人の少女は、その歌に酔いしれながらなお踊る。
砂音の代わりに耳に届くは水の音、気が付けば二人は湖面に『立って』踊っていた。
それはウンディーネの力。
そして、踊りも最高潮に達した頃、ヒラヒラと蒼い光を放つ蝶々が二人の周囲を舞い始める。
そんな奇跡の光景も、二人の笑い声と共に終わりを迎え、ラグドリアン湖に静けさが戻り、ルイズと紗久弥は湖面にプカリと浮いていた。
そんな二人が共通して感じた事がある。
紗久弥はもう何度も味わった感覚。
ルイズは初めて味わう感覚。
二人の絆が決して断たれる事の無いものとなったと思える感覚。
胸に、左手に刻まれた、刻み込んだ絆とは違う、もっとかけがえのない絆。
だからなのか、もう、ルイズの口を閉ざすものは何もなかった。
「ねえ、サクヤ……貴女はこんな私をはしたないと思うかもしれない、気持ち悪いと思うかもしれないわ、でも聞いて……私……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、貴方の事を……」
『愛しています』
言えなかった。
最後のその言葉だけは。
けれど。
「ん!?」
紗久弥はルイズにキスをした。
舌で舌を弄ぶように、絡めるように。
永い、永い、キスをした。
そして、名残を惜しむように唇を離して、艶めいた唇でルイズが言えなかった言葉を紡ぐ。
「私、越端紗久弥は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを……愛しています」
ルイズはただただ紗久弥に抱き付いて、キスをして、涙を流して、言えなかった言葉を紡いだ。
「私も、愛しています」
性別など、どうでもよかった。紗久弥が紗久弥であれば、ルイズがルイズであれば。
二人はアンリエッタの手紙を思い返して、真似ていた。
ラグドリアン湖の水の精霊に、ウンディーネに、久遠の愛を誓い、もう何度目かのキスをした。
岸に戻った二人は、取り合えず体を乾かすことにして、すぐ側の森から木の枝等を集めて、紗久弥がやっぱり何故か持っていた固形燃料と口の長いライターで火を着けた。
「こんなこともあろうかと!」
得意気に言っていた紗久弥が可愛かった。
体を寄せあい、焚き火に当たる少女二人。
時折はぜる小枝の音を聴きながら、手を握り合い、言葉なく時を過ごして……