二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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女官のお仕事

「で、ルイズ」

 

「何よ?」

 

女官証書を紗久弥に渡して、バッグを肩に掛けるルイズに。

 

「おめかししてお出掛け?」

 

「『仕事』よ、悪いけどそろそろ行かなきゃならないの」

 

早馬でトリスタニア迄おおよそ二時間とそこそこはかかるだろう事を考慮すれば、もう出ておく方がいいだろうと、キュルケ達に伝えて出ようとすると、タバサは窓を開けて指笛を吹いた。

 

「タバサ?」

 

「貸し」

 

そう言うと同時にバサリと、大きな羽ばたきの音がルイズ達に届く。

 

「いいの?」

 

紗久弥の問い掛けに首を縦に振って答えたタバサに、ルイズは只じゃ悪いと、牛一頭を礼にすると約束。

 

「一つお願い、高級なのはダメ。癖になられると困る」

 

ごもっとも。

 

だが、シルフィードは当然の如く文句を念話で言っていた。

 

 

 

 

戸締まりをキュルケに任せて、早馬をキャンセルした後、空の旅を楽しむルイズと紗久弥。

 

「本当に早いわね」

 

上空200メイルを順調に航行出来ているのは、単にシルフィードのお陰であろう、風の精霊との契約の元行使される風防の魔法。

 

現在のシルフィードは、空気の卵の殻に保護されているようなものである。

 

「この速さで風を殆ど感じないって、本当魔法ってすごいね」

 

ルイズからしてみれば、紗久弥の……ペルソナの魔法もとんでもない物だと思うばかりである。

 

最近は下級のマハ系魔法も使えるようになったルイズではあるが、まだまだシャドウのソロ狩りはさせてもらっていない。

 

(メギドは出来れば使いたくないし……)

 

自身の爆発魔法に似ているメギドだが、如何せんルイズにしてみれば使い勝手が悪すぎるし、イメージも宜しくないと言うのが本音だろう。

 

(サクヤが使う分には良いんだけど……ね)

 

このところそれらもあってか、回復や補助と言った魔法をメインに構成したペルソナを扱う事が多いルイズであった。

 

 

 

王都トリスタニアに着いたのは昼にも早い時間、平日とあってかブルドンネ街と言えども、さして混雑している事もなく、ルイズと紗久弥は早々に城門に着いていた。

 

「アンリエッタ王女殿下より命ぜられ参りました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに御座います。彼女はサクヤ・コシハタ、お取り次ぎ願えますでしょうか?」

 

門番がその挨拶を受け姿を消すと、すぐに門が開いた。

 

「殿下より命ぜられております、ヴァリエール様がお見えになられればお通しせよと」

 

「ありがとうございます」

 

二人が門を通るとすぐさま門扉は閉じられ、門番は持ち場へと戻っていった。

 

「さて、ここからは証書の出番よ」

 

その言葉を受ける前に紗久弥は女官証書をルイズに渡してある。

 

「顔を覚えられるまでは必要だからね、これが」

 

「覚えられても要るのは要るけどね」

 

とは言っても余程の場所でもない限り、顔パス出来るようになるのはそう遠くない。

 

 

 

 

アンリエッタの居室にはすぐに着いた。

 

「部屋の主は公務中、と」

 

「手伝ってくれてもいいのよ?」

 

「執務室でなさらないので?」

 

紅茶を用意するのは紗久弥、姫付きのメイドはお茶請けの用意。そして、護衛として金髪の女性が一人目を光らせている。

 

「あそこに居ると気が休まらないのよ、アニエス……後ろの彼女が警戒強めるから」

 

どっちが気が休まらないのかと思うが、声には出さないルイズと紗久弥とお付きのメイド。

 

「ま、取り合えず書類整理手伝いながら聞いて、ルイズ」

 

「書類に触れるのは決まってるんですね」

 

当然でしょうと言わんばかりに、十数枚の書類が滑ってくる。

 

「その整理の後、これから伝える任務にあたって欲しいのです」

 

紙の擦れる音、ペンの走る音、印の押される音。それらをBGMに、アンリエッタは任務について話始めた。

 

その内容とは、ラグドリアン湖の調査である。

 

「このところ、水の精霊の秘薬が殆ど流通していないのよ。こちらの調べでは、流通が滞っている要因は二つ」

 

一つは、一部の上流貴族による占有、そして交渉役の不明による新規入荷の無期延期にある。

 

「交渉役を新しく捜してはいるんだけど、いい人が居なくて候補者さえ居ないのよ。だから先任だったモンモランシ家の人間に任せてもいいと思っているけれど……官僚達は自分は交渉役になる事を嫌がる癖に、私の案を否定してくれたわ」

 

先任の家族に勤まるわけがない。と言うのが建前と言うのはアンリエッタにも見え見えで。マザリーニの調査によれば、モンモランシ家復帰反対派の多くは、不明となった交渉役から秘薬を横流しして貰っていたようなのだ。

 

「で、貴方にお願いしたいのは、交渉役がどうして居なくなったのかの調査と、後任の交渉役を捜すことよ」

 

聞けば交渉役はモンモランシ領主館に住んでいたと言う。

 

「では先ずラグドリアン湖に向かってみます」

 

「ええ、それと貴方の持つ水のルビーがあれば水の精霊と話くらいは出来ると思います。が、怒らせることの無いようにお願いしますわ」

 

この件が解決しても、交渉出来なくなっては意味がないと、アンリエッタは微笑んだ。


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