二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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タルブヴィンテージ

「フフフ……出来たわ……」

 

怪しげな雰囲気醸し出す、彼女の名前はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ、金髪縦ロールが見事な少女である。

 

「やたらと勘の良いミス・フォンティーヌの目を盗んで作り上げた傑作……!」

 

影時間を物ともせず、モンモランシーは作業を行い続けていた結果、念願の薬を手に入れたのである。

 

「ギーシュ……ギーシュ・ド・グラモン……!待ってなさいよ……!」

 

雷鳴が轟いた、ような気がした。

 

 

 

 

ルイズが初めてのペルソナ合体を行ってから二週間が経って、ルイズも大分対シャドウに慣れてきた。

 

エレオノールもペルソナの扱いに慣れたようで、普段からなにがしかこっそりスキャンしては色々と調査したり実験したりと、元首席研究員の血が騒いでいるのだろう。

 

コルベールと共同で何かを作っているようで、二人が一緒に食事をしている場面も時折見られる。

 

キュルケはタバサと修行すると言う周囲が驚く行動を起こしていた。

 

二人に共通する強くなりたいと言う思いが、二人を突き動かす。

 

そしてギーシュは、エレオノールの指導とは別に、錬金についてシュヴルーズに教わっている最中であった。

 

「ではミスタ、青銅を銅へと純化してください」

 

「はい!」

 

錬金での純化は、本来ライン以上でないと難しいが、それでもギーシュはワルキューレ強化の為に『錬金』の幅を広げたかった。

 

勿論、ワルキューレその物の見直しもしていて、こちらはエレオノールと何故かコルベールも参加しての作業。

 

だが、そのコルベールが随分戦いに精通しているようで、大幅な改善となったのは嬉しい誤算であった。

 

「い……如何でしょうか……ミセス」

 

輝く銅ではあるが、シュヴルーズは首を横に振り。

 

「まあ表面は銅になってはいますが、本当に表面だけですね。及第点には程遠いでしょう」

 

この先生、意外と厳しい。

 

「し、精進します……」

 

 

 

シュヴルーズの個人レッスンの後、ギーシュはモンモランシーの部屋を訪ねたのだが……

 

「フム、留守のようだね……どうしたものか」

 

ふと思い付いたのは紗久弥の顔だった。

 

「彼女に手合わせを願い出てみるか」

 

思い立ったが吉日と言う、先ずはルイズを探すことにしたギーシュだが、ここは女子寮だ、一先ず彼女の部屋を訪ねてみるかと足を向けた。

 

 

 

「あらギーシュ、ここは女子寮よ?」

 

ルイズの部屋の前には、キュルケとタバサが立っていた。

 

「やあ二人とも。いやね、モンモランシーからお誘いを承けていたのだけれど部屋に居ないようでね。少し捜そうと歩いていたのだよ」

 

「モンモランシー?部屋に居ないならカトレア様の所じゃないの?」

 

「ああ、その可能性があったね。ありがとうキュルケ、行ってみるよ」

 

礼を言って立ち去る途中、ドアの閉まる音が聞こえてきた。どうやら二人ともルイズの部屋に入った様だ。

 

「……もう一度モンモランシーの部屋を訪ねてみようか、居なければミス・フォンティーヌの所に行ってみよう」

 

 

 

「ごめんなさいねギーシュ、折角だからと思ってクローゼットの奥に隠してあったタルブの三十年物を出していたのよ」

 

結果から言って、モンモランシーは部屋に居た。

 

クローゼットに入り込んでいた為に、ギーシュが訪れた事に気が付かなかったと言う。

 

指差す先には、一本のワインの瓶と二つのグラス。

 

「さ、座ってちょうだい、ご馳走するわ」

 

「折角のお誘いだ、是非ご馳走になるよ」

 

その言葉にモンモランシーは心の中でよっしゃ!と叫んだそうな。

 

 

 

『タルブヴィンテージ』

 

ワインの名産地である、ラ・ロシェール近郊の村タルブ。

 

ワイン産地としての歴史は然程古くないが、生産を始めてもう八十年近くにはなるだろう。

 

最初の頃のワインは味に雑味も多く、平民向けの安ワインとしての価値位しかなかった。だが、タルブにある変異が起きた日を切っ掛けに、このワインの質が比べ物にならない程、味が向上したと言われている。

 

そして、それ以降の中でも特に上質とされるのが、今モンモランシーが出している『三十年物』である。

 

この三十年物とは、タルブ変異から三十年経った年の物と言う意味である。

 

このワインを飲んだ東方、ロバ・アル・カリイエ出身と思われる詩人『テェイ・フォウ』はこのワインの感想を以下のように表現している。

 

『澄み渡る夜空の星々の如く煌めく味わいですね』

 

よく解らない。

 

ともかく、雑味が強すぎず、しかし一辺倒ではないその味。一口飲み進める度に、様々な口当たりやのど越しを楽しませてくれる。

 

だが、このワイン、ヴィンテージであるにも拘らず値段はリーズナブル。

 

理由としてはこの三十年物の流通量とワインの味である。

 

流通量も多く、かつ貴族受けが悪かったのだ。

 

『雑味のあるワイン=平民向け』

 

と言う風潮のせいである。だが、テェイ・フォウが評した事で、彼のファン層である二十歳前後の女性貴族が注目。

 

更にはアンリエッタも彼のファンであると言う噂も相まって、ここ最近の流行なのだ。

 

「ではモンモランシー」

 

「ええ」

 

捧げる言葉はいらない、グラスの当たる澄んだ音だけが、モンモランシーの部屋に渡った。

 

 

 

(フフフ……これで貴方は……)

 

 

 




ヴィンテージの本来の定義とは違いますがキニシナイ

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