二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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守りたい者

「生徒として……ですか」

 

「ええ、生徒として、貴方の後輩としてね?」

 

ちょっと想像できないルイズではあったが、先を促す。

 

「それで、ロングビルさんに入学に必要な書類を揃えて貰って、試験も面接も受けて……何故か教師として採用されちゃったの」

 

それがルイズがアルビオンに旅立ってすぐ後の事。

 

それを聞いたエレオノールは、以前から悩んでいたトリステイン王立魔法研究所の退職を決意。手続きや引き継ぎを終わらせ、魔法学院に教師として採用試験を受けて合格したのが、ルイズがリハビリを始めた翌日。

 

「お父様は流石に怒っていらっしゃったけれど、お母様がどうにかたしなめてくれて」

 

「尤も、その後お母様にきっちり説教されたけど」

 

漸く落ち着いたエレオノールも話に加わって、ルイズは一瞬身を固くしたが、紗久弥が二人の間に控えているので安堵した。

 

「ああ、やっぱりされちゃったんですね」

 

「お父様にお叱りの言葉を頂いていた方がましだったわね……」

 

疲れた顔を見せるエレオノールに、どんな『お説教』だったか大体の予想がついてしまったルイズは、心底同情したそうな。

 

「アカデミーを辞めた理由としては、正直アカデミーに居る意義を失った……と言うべきかしら」

 

カトレアの病を癒す為の研究をする為、ルイズに『普通の魔法』を使わせてあげたい、その二つの想いが、エレオノールがアカデミーに勤める最大の動機と言えた。

 

だが、カトレアはロングビルの家族を受け入れると同時に根治、ルイズに至っては『ある可能性』を見出だしてからと言うもの、研究資料全てを燃やし尽くした。

 

大事な妹を一部の高官共の玩具にされたくなかったから。

 

エレオノールは初めて紗久弥を見た時、ルイズの使い魔であると自己紹介を受けた際、自分の研究が間違いなかったと思いはした、が……間違いであって欲しかった。

 

ならばせめて、ルイズが学院に居る間は、大人の思惑の外に居られるよう、守りたい。

 

「……ともかく、カトレアが貴方の側に居る以上、気の緩みの無いようにここに来たのです」

 

言いながらも先程の事を思い出しているのか、頬が赤い。だが、すぐさまその表情は引き締まり。

 

「もう一つ、ある意味ではこちらが主だった理由とも言えるわ」

 

『緑色の闇の世界』つまり『影時間』の研究。

 

本来であれば出向と言う形をとればよかったのだろうが、エレオノールはその研究よりもルイズを第一として。更に言えば研究その物は何もエレオノールのみが行うわけでもない。と言うのも、退職に踏み切った要因だろうか。

 

そして、紗久弥の存在である。

 

ハルケギニアに於いて、唯一影時間に関して『深くを知る者』の側に居られると言うのは、やはり大きい。

 

「そんな訳だから、今夜にでも影時間とやらを案内なさい」

 

「いいよ、でも私とルイズから『絶対に』離れないでね?」

 

 

 

影時間。

 

「こんばんは、越端紗久弥アワーのお時間です」

 

タバサにライトの魔法で顔の下を照らしてもらい、紗久弥は声色を低くして続ける。

 

「この間友人から聞いた話何ですがね、夜にトイレに行こうとしてあいたっ!?」

 

「怖い話は……ダメ」

 

察しが良すぎて話せなかった。

 

「ちょっとータバサ早すぎるわよー」

 

「いや、それ以前にあんたら何時の間に来たのよ?」

 

「細かいこと気にしないの」

 

もにゅんとした触感がルイズの頭にのし掛かる。

 

「ええい!毎度毎度脂肪の塊乗っけるんじゃないわよキュルケ!」

 

弾くように立ち上がると、キュルケの甘い声が耳に届く。

 

「ルイズは乱暴にするのがお好み?」

 

「んなわけないでしょぐ!?」

 

うがーっと食いかかるルイズの襟首捕まえて抱き寄せるのはカトレア。

 

「もう少し落ち着きましょうね、ルイズ」

 

「けほっ……ち、ちぃねえ様もう少し優しく……」

 

それ以前の問題である。

 

「流石」

 

そんなカトレアに憧れの視線を送るタバサ。

 

一方、何故か荷物を担がされたギーシュは辛うじて着いてきていた。

 

「し……しょう……ミス……エレオノール……まだ……つ……着かないので……しょう……か……」

 

「サクヤに訊いて頂戴」

 

そうは言われても、紗久弥が居るのは先頭。ギーシュは最後尾。この差を埋めるには小走りで向かうか、声を張るしかないのだが、疲労で難しい。

 

ではどうすべきかと言われると、身近に居るエレオノールに訊くしかなかったのだが、突っぱねられた。

 

因みに魔法は荷物を運ぶ間使用禁止を言い渡されている。

 

「ハァ……サクヤ、まだ着かないの?」

 

街道を歩いて暫し、エレオノールがそう訊くと。

 

「そこの草原でシャドウを待つよ」

 

その言葉にギーシュは何とか元気を取り戻し、気合いを入れる。

 

「にしても、まさかエル姉様がギーシュ連れてくるとは思わなかったわ」

 

「弟子だからでしょう?」

 

そんなことをキュルケが言ってた気がする。

 

 

 

荷物を下ろしたギーシュは、既に息も絶え絶え。

 

それをカトレアは癒そうとするが、エレオノールが止めた。

 

「鍛えるためよ、魔法はダメ」

 

紗久弥がルイズに行っている自然回復を利用した鍛え方を行ってるらしい。

 

「厳しすぎる気が……するのですが……」

 

「何ならお母様に貴方を鍛えて貰っても構わないのですが?」

 

「が、がんばり……ます」

 

 

 

 

「それじゃあこれからシャドウと言う存在と戦うんだけど、ルイズがメインで戦って貰おうと思ってるの」

 

この提案に慌てたのは、他でもないルイズである。が、紗久弥はルイズを鍛えるためよ、と言って手を取ると。

 

「ルイズの手に余るシャドウなら、私が出るから安心して?」

 

と、ルイズの目を見て微笑んだ。

 

「サクヤ、私達もルイズと戦って良いのよね?」

 

そう聞いてきたのはキュルケ。紗久弥は少し考え、頷いた。

 

「でも『ペルソナ』を持たない人がシャドウと戦うと言うのは命に関わるの、勿論『ペルソナ使い』だって命懸けだけど、危険度が違う」

 

魔法を食らったらそれこそ……だろう。

 

それ程、ペルソナ補正と言うのは大きく影響を与えるもの。

 

ワルドがルイズの魔法を三発受けて生きていたのは、多少驚きはしたが。

 

恐らくメイジと言う存在は生来、魔法に対する耐性があるのだろう、ペルソナ使いのそれにはおよびこそしないとは言え。

 

だからこそ、紗久弥は一応許可したのだ、一応。

 

ラ・ロシェールでのシャドウ襲撃は、危険が及ぶ前に紗久弥が吹き飛ばした事もあり、メイジがどの程度シャドウと戦えるのかを見る良い機会とも言える。

 

ギーシュ以外は皆トライアングル以上のメイジであり、ギーシュもワルキューレと言う物量を扱えるのは大きい。

 

「とりあえずギーシュはワルキューレでルイズと私以外を守って、エルはワルキューレに硬化をかけて防御面のサポートお願い」

 

キュルケとタバサには属性を見極める為のサポートを、カトレアには治癒を任せ、紗久弥はシャドウを『追い込み』に向かった。

 

 

 

エレオノールが強化したワルキューレで警戒を続けて居ると、がさがさと草が揺れ、仮面のついた手が四体現れた。

 

「シャドウ!」

 

ルイズは抜き打ちで爆発をシャドウに起こす。

 

怯えた様子で逃げ惑っていたシャドウは、ルイズを認識すると同時に襲いかかる。

 

「くっ」

 

周囲に紗久弥の姿は見えない、だがルイズには何となく側に居る事は解る。

 

だからこそ。

 

「行くわ!」

 

ルイズは、紗久弥に渡された召喚器をこめかみに当てて、引き金を引いた。

 

「ペルソナ!」

 

言葉と共にルイズの頭上に顕現する、小柄な金髪の青年。

 

青年が手を翳すと、手のシャドウに氷の錐が刺さる。

 

『ブフ』

 

氷結魔法の基礎である魔法。それを見たキュルケは感嘆の口笛をふく。

 

エレオノールはその魔法に驚愕、思わず飛び付いて問いつめたくなった衝動を押さえ込む。

 

紗久弥の言葉の通りなら、今この場であれらとまともに戦えるのはルイズだけなのだ。

 

だが、サポートも任されている、ならば。そう思うと同時に攻撃でのサポートを任された二人の少女、キュルケとタバサに指示を飛ばす。

 

「ルイズの背中はあなた達が守りなさい!私達はあなた達を護る!」

 

ーー強き想いが我を呼び覚ますーー

 

エレオノールの周囲に蒼白い光の幕が昇る。

 

ーー我は汝、汝は我ーー

 

「姉様!?」

 

ーー我は汝の心の海より産まれし者ーー

 

「これが……ペルソナ」

 

ーー我が名はーー

 

「……ペルセポネ!」

 

 

光がシャドウを包み込む。

 

『マジックハンド』

 

HP18/52

SP24/24

 

弱点・炎

耐性・氷

 

 

「こ、これは……っルイズ!そいつらは炎の魔法に弱いわ!」

 

「二体こっちに来た」

 

ルイズもそれを見ていたのだろう、声を張り。

 

「こっち終わったらすぐ行くから!」

 

そう言い切ったルイズに頼もしさを感じ……ならば、自分も奮起せずには居られない、そんな事を思いながら、キュルケは杖を振る。

 

「フレイム!一緒に行くわよ!」

 

使い魔と共に、シャドウに立ち向かう。

 

詠唱の後に解き放たれるキュルケのオリジナルスペル、使い魔のフレイムと共に放つ『プロミネンス』は炎の龍。

 

「さあ、飲み込みなさい!」

 

炎の龍はマジックハンド二体を飲み込んで、空中に舞い上がって消えた。

 

 

 

紗久弥はシャドウを刈りつつ、その光景を見て、この世界の魔法の威力を正直侮っていた事を反省。

 

同時にご褒美とばかりに『栄光の手』と遭遇。

 

「逃がさない!」

 

 

 

「流石、キュルケ」

 

タバサは素直に感心していた、使い魔との連携魔法をああも見事に使いこなすとは、思ってもみなかった。

 

「ふふ……ありがと……でも……これ、結構……くるわ……」

 

「本来であればスクエアクラスのメイジが漸く唱えられるレベルの魔法の様です。キュルケさん、こちらでゆっくりなさってください」

 

草原に座ったカトレアは、膝にキュルケを誘う。

 

「し、しかし……」

 

流石のキュルケも『目上』に膝枕されるのは些か恥ずかしいようで、若干腰が引けている。が、そんな事はお構いなしとばかりに、キュルケを引き倒して膝に頭を乗せるカトレア。

 

(ど、どこから今の力が……)

 

膝枕されてしまったキュルケだが、注がれる魔力と優しい歌声に、自然と瞼を閉じきってしまった。

 

 

 

「お疲れさま、ルイズ」

 

そう言ってきた紗久弥に、ルイズは首を横に振り、疲れたのはキュルケの方だと言うと、カトレアの膝で眠るキュルケを羨ましそうに見つめた。

 

かける言葉に迷っていると、エレオノールにおもいっきり肩を捕まれ、座らされる紗久弥。

 

「色々聞きたいことがあるわ、でも、明日で、良い……かしら……」

 

深夜、更にはペルソナの覚醒ともあって流石に限界を超えていたのだろう、崩れるように紗久弥にのし掛かるように眠ってしまった。

 

 

 

(キュルケは使い魔と共に成長している……ルイズは異能……否、ペルソナに目覚め成長を始めた……そしてエレオノール様も、ペルソナに目覚めた……私は……?)

 

ふしくれだった杖を強く握り締めて、タバサは緑色の二つの月を睨むように見上げていた……




ペルセポネLv9

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