二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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紗久弥装備ペルソナ(二体目)
キュベレLv99
全ステータス99

メシアライザー
メギドラオン
コンセントレイト
魔術の素養
勝利の雄叫び
サマリカーム
マハラクカオート
マハラクカジャ


脈動、そして貴方に口付けを

「では先ずはオールド・オスマンに御挨拶したいのですが、勿論姫殿下の後でですが……構いませんか?」

 

カトレアはロングビルにそう訊き、ロングビルは『確認に参りますのでルイズ様の居室にて御待ちを』と伝え、紗久弥に案内を任せてその場を去る。

 

「では、ご案内致しますね」

 

厩舎の案内を行者にして、カトレアとカリーヌをルイズの部屋へとーー

 

 

 

 

ーー夢見心地のルイズは、キュルケのからかいも何のその。ぼんやりと部屋に向かって歩を進めていた。

 

「ねえタバサ、あの娘大丈夫かしら?」

 

「重症」

 

簡潔にかつ適正な言葉を放つタバサ。

 

「あの衛士隊の隊長さんを見てあんなになってるって訳でも無いでしょうし……」

 

その言葉に反応したのはタバサが背負うデルフリンガーだった。

 

「あの娘っ子なら、お姫様ってーのに見惚れっぱなしだった様だがね」

 

「ああ、なるほど」

 

キュルケは、最近のルイズの様子から、そう言う事もあるかもねと、思った様で。

 

最近のルイズの様子とは、ぶっちゃけて紗久弥との距離感にある。そう、近いのだ、妙に。

 

そして、キュルケはその距離感を良く知っている者でもある。

 

『微熱の距離』

 

と、キュルケが称するその距離は、自身が『恋人』と接し、最も『微熱』を感じる距離なのだと、キュルケは思う。

 

そして、ルイズは知ってか知らずか、その距離で紗久弥と接しているのだ。

 

(にしても……ルイズってばそう言う性癖だったのかしら?)

 

そんなことは、多分無い。そう思いたいキュルケは知らない。ルイズの思考は、今現在『サクヤにお姫様の格好させたらどうなるんだろう』と考え、その姿を想像し、また違う姿を想像してはを繰り返し……

 

「ちゃんと休みなさいよー」

 

そんなキュルケの言葉は届かない。

 

だが、部屋に入って少しして、隣のルイズの部屋から『ちぃ姉様!』と、聞こえてきた。

 

 

 

 

(今度サクヤに『私の制服』着せてみようかしら?)

 

そう考えながら扉を開いたとき、部屋の中には、有り得ない光景があった。

 

「ちぃ姉様……?」

 

恐る恐る近付いて、手を触る、頬を撫でる、髪を指で梳く、豊満な胸を揉む。

 

「こ、こら」

 

困った様にほんのちょっぴり叱られた。

 

最後に会った時の顔色はこんなにも良くなかった。

 

でも確かに、ここに間違いなく、確かな温もりと、血色の良い顔色で、ここに居る。

 

「ちぃ姉様ぁぁぁ!!」

 

抱き付いていた、ベッドに座る母にも使い魔にも目もくれずーー

 

 

 

 

ーー紗久弥の用意してきた洗面器の水はひんやりとして心地好かった。

 

タオルで優しく拭われるのも気持ち良い。

 

「ありがとう、サクヤ」

 

「うん、じゃあ片付けてくるね」

 

洗面器を持って扉を開けようとする紗久弥に、気配を完全に消していたカリーヌは、ロングビルにまだオスマンへの接見は出来ないか聞いてきてほしいと頼む。

 

「そう言えば随分経ってますね」

 

昼過ぎて夕方前に学院には着いていて……王家との会談はそんなに時間の掛かるものなのだろうか、とも思う。

 

「探してきますね」

 

そう言って、ゆっくりと扉を閉めて、紗久弥は走り出したーー

 

 

 

 

ーー虫の知らせ、と言うものがある。

 

嫌な予感、悪い予感。

 

良くないことが起きている、そんな予感。

 

学院の裏手に着いた時、確信に変わる。

 

『血』と『死』の臭い。

 

平和な学院に見あわぬそれは、裏手の壁向こうにある森から届く。

 

紗久弥は壁を『翔び越え』て森に入り、臭いの強くなる方へと駆けていくーー

 

 

 

 

「ーー強情な女だったが……まあ良い、死んでくれたのならば好都合。あの男には死体であっても関係ない様だしな」

 

そう呟く男の前には、全身を切り刻まれ、拷問でも受けたのか、刺し貫かれた様な傷のあるロングビルの遺体があった。

 

「さて……後ぐ!?」

 

突如込み上げる吐き気。

 

「ロングビル……さん……?」

 

何一つ音もなく、仮面の男の背後に彼女は居た。

 

「何も」

 

仮面の男の言葉は風のように散る……否、風となって消えた。

 

紗久弥の放った無造作な拳は、仮面の男の頭を風に還したのだ。

 

「ペルソナ……サマリカーム」

 

呟きと共に光に包まれるロングビル。

 

やがて、光から解放されたロングビルは、元の美しい姿に戻り、胸も僅かに上下している。

 

「よかった……」

 

『まだ終わっていないようだよ、紗久弥』

 

「スカアハ……刹那五月雨撃」

 

何かが居るであろう方を見る事もなくそう呟くと、絶叫に等しい声が紗久弥の耳に届く。

 

見ると仮面の男が風となって消えていくところであった。

 

『どうやらこの世界の魔法で作られた存在だったようだね』

 

「そう……そんなのどうでも良いよ……」

 

念のため、紗久弥はペルソナを換えて、メシアライザーをロングビルにかけて、ポツリと呟く

 

「……殺せば良いんだから、何度でも……」

 

『紗久弥……』

 

ファルロスは、その時確かに聴いた、目覚めてはならない者の脈動をーー

 

 

 

ーー学院のある部屋で、男は夕食に食べたものを全て吐き出していた。

 

遍在を作り出し、ロングビルを殺害した、そこまではまあ成果はあった。だが、その後の出来事が、遍在を通し伝わる殺気……それが、男をそこまで追い詰めた。

 

「なんだと言うのだ……この私が……『二体も』何も出来ずに……」

 

だが、二体目の遍在はその者の後ろ姿を一瞬といえ映し出した。

 

「学院のメイド……とは違うようだが……」

 

その時、部屋の扉がノックされ、声がかけられた。

 

『ワルド子爵、いかがなさいました?』

 

「いや、済まないが悪酔いしてしまった様でね、恥ずかしながら戻してしまったんだ」

 

『すぐにメイドを手配いたします』

 

「ああ、よろしく頼むよーー」

 

 

 

 

 

「ーーしかし……ミス・ロングビルを襲うだなどと……それも、学院でだなんて……」

 

紗久弥は、ロングビルの安全を思い、ルイズの部屋に連れ戻り、オスマンとコルベールを呼んで来ていた。

 

ルイズのベッドで眠るロングビルに、一つの傷も見当たらないのが幸いかと、コルベールは安堵するが『また狙われるのでは』と言う懸念も拭えない。

 

「暫くは当家で保護することに致しますわ、オールド・オスマンも宜しいですね?」

 

カリーヌの提案に、これも縁と言うものだろうと、オスマンはこれを了承することにした。

 

「……ぅ……ここ……は?」

 

紗久弥は漸く胸を撫で下ろした。

 

サマリカームで生き返った事、後のメシアライザーの効果は状態の安定化に働いた様だったが、ロングビルはここまで目覚める気配を見せなかったせいもあるが、何より『助けられた』

と言う思いが強い。

 

「ルイズの部屋です、ロングビルさん」

 

「……どうして……生きて……私……」

 

ロングビルは些か混乱していた、無理も無いだろう、仮面の男は確実に胸を貫いた、痛みも覚えている、思い出したくはないが。

 

なのに、今何故かカトレアに抱き締められ、ルイズに泣き付かれ、カリーヌに良かったと笑みを向けられている。

 

(どうなってんだいこりゃ……?)

 

追い付かない思考、だが、死の恐怖は巡りの悪い思考の中ではっきりと込み上げ、吐き気を促す。

 

「では公爵夫人、後の事は」

 

「ええ、お任せを」

 

うむ、と頷きオスマンは杖を振り部屋にサイレントをかけて、コルベールと共に退出したーー

 

 

 

 

ーー紗久弥の献身もあって、落ち着きを取り戻したロングビルは、事のあらましを話始めた。

 

「カリーヌ様方と別れてから、本塔に戻る道すがらに仮面の男が居ました……」

 

 

 

仮面の男は私が通り過ぎようと並んだ時。

 

「土くれだな?」

 

盗賊の活動を止めてから、いや、止める前から私はフーケとしてこの顔を晒した事なんて殆ど無かった。

 

ただ、どうしても関わりをもった裏の人間の中には、私の顔を知ってる者も居る。

 

そして、最近その内の何人かが行方知れずになったって話も耳に届いてた。

 

だから……

 

「だったら何だと?」

 

反応、しちまったのさ、解ってはいたんだ、反応しちゃいけないってのは。

 

「我等は強く、聖地を求める意思を持つ味方を探している」

 

「私は聖地に向かう気など……」

 

「だが、アルビオン王家に怨みは持っているだろう?マチルダ・オブ・サウスゴータ……我等『レコン・キスタ』の一員となれ、なれば王家に怨みの一つも晴らせるだろう」

 

気が付けば杖を抜いて、ゴーレム作ってけしかけてたよ。

 

でも、奴は強かった。

 

あまり騒ぎにしたくも無かったし、得意とするゴーレムは作りたくはなくってね。

 

仕方なく裏手の森に逃げ込んで……それが最大の間違えだと気付いたのは、エアニードルで太股を貫かれた後だったよ。

 

「さて、こんな所まで来てあげたんだ、色好い返事を訊かせて貰えるのだろう?」

 

アイツはそう言って、ブレイドを唱えて、蹲る私を撫で付けるように斬ってきた。

 

でも、そんなことされても、私は、首を振らなかったよ。

 

あの娘の為にも、危ない橋は渡らないって決めてたんでね。

 

「もう少し、強い痛みが欲しいのかね?では望みのままにしてあげよう」

 

そんなこと言われて、あっという間に木に磔られて……それでも首を振らなかったら……

 

「僕はフェミニストでね、女性の尊厳を傷つける事はしたくないのだが……人の尊厳を踏みにじる事は容易に出来てしまうのだよ」

 

っていう言葉を最後に、殆ど覚えてない……

 

 

 

「……辛うじて覚えてるのが最後に胸を狙ってたアイツの姿だった……こうやって話せている事が、いまだに信じられ……っみ、ミス・コシハタ……?」

 

それは、カリーヌでさえ息を呑む殺意、殺気。

 

この場の誰にも向けられてはいないにも関わらず、ルイズは思わずカリーヌの背後に隠れてしまう。

 

「さ、サクヤ……?」

 

「……ごめん、ルイズ……巻き込んじゃう」

 

「え……?」

 

刹那、紗久弥から放たれる『死の気配』と明確な殺意。

 

それに呼応し、唐突に始まる影時間。

 

そして……紗久弥は、ルイズの部屋を飛び出した。

 

『紗久弥……今の君に、抑えられるかい?見せてもらうよ、君の力の源、新たな絆の力をーー』

 

 

 

 

ーールイズ達は紗久弥を追ってヴェストリの広場に辿り着く。

 

だが、そこに居たのは、何処か紗久弥に似た『何か』だった。

 

しかし。

 

「サクヤァァァァァァ!」

 

ルイズは、その名を叫んだ。解る、感じる、それが『紗久弥』だと教えてくれる。

 

主従の繋がり、契約のルーン。

 

『紗久弥』の左手に燦然と輝く『ガンダールヴ』のルーン。

 

『……ルイズ……もう、止まれない、止められない……私は、ニュクス・アバターになってしまった……殺意のままに、抑えられないままに……もう、戻れない……』

 

だが、輝きは『紗久弥』の言葉の終わりと共に、消える。

 

「ならっ!戻してあげる!抑えてやるわ!喩えあんたからルーンが消えたって、私達の絆は消えないんだから!」

 

カリーヌの制止さえ振り切ってルイズは『紗久弥』に駆け寄る。

 

『紗久弥』は何もしない、何も出来ない。

 

ルイズの詠唱が届いたから。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力司るペンタゴン!彼の者に祝福を与え、再び我が使い魔と成せ!」

 

『ゼロ』と呼ばれた少女が、唯一一回で成功させた『ゼロ』ではない魔法。

 

『変わり果てたお姫様を、時には王子様をも救う、唯一の魔法』

 

二回目は、ルイズが自分の意思で、情熱的に口付けをーー

 

 

 

 

『ーー成る程……日が浅いとは言え紡がれた絆は、君を救うには十分だったようだね。でも、君はアバターとなった、君の魂とニュクスが僅かながらシンクロしてしまったんだ。母の目覚めは……』


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