イメージするのは常に最高の調理だ   作:すらららん

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今更ですが、この作品はFate/既プレイの方を対象に書いているので初見の方は原作をプレイしてから見る事をオススメします。

今回はクッション回、ガス抜きみたいなものと思ってくれて構いません。





第三話 それぞれの理由

 聖杯戦争。

 ここ冬木で行われるソレは、奇跡の盃である聖杯を賭けて7つのクラスのサーヴァントを用い7人の魔術師が鎬を削り戦い最後の一組になるまで行われるバトルロイヤルである。

 が、あくまでこれは表向きの話だ。

 

 

 

 イリヤを慌てて追い掛けて来た護衛と、イリヤ本人から連絡を受けて駆け付けてきた計5台の黒塗りの車から幾人もの男達がゾロゾロと降りて士郎達の周りに整列する。

 特に、凛とアーチャーを警戒し取り囲むような配置に並ぶと深々と頭を下げた。

 

 その中でも一際上背があり、静かな佇まいながら誰よりも鮮烈な存在感を持った男がギラついた殺気を押し隠しもせず声を発した。

 

「オス! 遅れまして申し訳ありません姐さん、坊ちゃん。その血は、大丈夫ですか?」

「ええ、心配ないわ。それと、そこの2人は私の客人よ。失礼の無いようにね」

「オス! お前ら礼をしろ!」

 

 それまで殺気立った目で凛とアーチャーを見張っていた男達だったが、その合図で一糸乱れぬ礼を2人に向ける。

 如何にも“そっち系”のお兄さん方のような見た目ではあるが、彼らは列記としたエミヤグループ本社の正社員である。

 まあ尤も、本社に就職する前は藤村組に居た事のある者達で構成されたメンバーばかりなのだが。

 

 魔術師として気構えも一流の凛とはいえ、まだ少女とも言える彼女がこういった独特の雰囲気の中で少しばかり萎縮してしまうのは仕方がない事だ。

 隣で我関せずな姿勢を貫いているアーチャーの胆力が異常なだけである。

 

「ちょっと派手にやっちゃったからね、私達の居たって“証拠”を消しておきなさい」

「オス!」

 

 男からの指示でトランクから様々な道具を手に校内へ行く者、救急箱を持って士郎の手当てにあたる者、ベンツを校外に出してグラウンドの整備を始める者。

 様々に別れて行動を開始した彼らに後を任せ、イリヤはベンツへと凛を誘った。 

 

 これから凛を連れて衛宮邸に戻り、話し合いの詰めをする事で2人は同意している。

 魔術師の家と言うのは、その魔術師が最大の能力を発揮できる“工房”である事が一般的だ。

 普通ならそんな場所に入る事はしない。

 そんな事をするのは確かな自信に裏打ちされた一流の魔術師か、自分の実力を過信したバカである。

 

 では凛はどうかと言うと、彼女の実力は間違いなく一流である。資質も含めれば超一流と言っても過言では無い。

 それでも彼女は魔術師としてイリヤには“及ばない”。

 

「これでシロウを助けてくれた借りは“1つ”返したわよ、リン」

「……ええ、確かに受け取りましたわ衛宮さん」

 

 それでも衛宮邸に向かう事を決めた。

 未だ召喚を果たしていない衛宮と違いサーヴァントを召喚しているという事や、凛の魔術師としてのプライドとか、小さな理由は沢山ある。

 

 しかし決定的な理由は、貸し“3つ”である。

 

 その内の1つとして証拠隠滅の協力、本来ならば監督役の所属する教会に任せておけば良いのだが……凛は監督役の“ある神父”に対して借りを作りたくないのだ。

 衛宮グループの母体である藤村組は冬木に於いて絶対的な影響力を持っている、彼らならば“ある程度”の証拠隠滅などお手の物だ。

 

「さ、時は金なりよ。何かに掴まってなさい、飛ばすわ」

 

 一台の車が先導しようと前に出るーーー瞬時に急加速したベンツが、強烈なタイヤ痕を地面に残してあっという間に抜き去った。

 唖然とする事もなく、運転手は困り顔をしながら必死にベンツを追い掛け始めたが……恐らく追いつけはしない。

 

 ……ところで諸君らは、自分の目の前に車が走る事を許せない“走り屋”という人種をご存知だろうか?

 

「ちょちょちょっと! 幾ら何でも速すぎるわよっ!」

 

 凛の叫びを、しかしイリヤは少しも聴いちゃいなかった。

 魔術によって極限まで音を抑えてあるので近所迷惑にはならない(魔術師には聴こえる、寧ろ煩い)のをいい事に、イリヤは街中を走り回るのが大好きだった。

 彼女は走り屋の中でも特にタチの悪い、都心部系スピード狂というヤツである。

 

「安心なさいリン、この冬木は全て余す事なく私の庭よ。ほら、目を瞑ってたって走れるんだから」

「う、ギャー!」

「はしたないわよリン、淑女が出す声では無いわ」

 

 軽快に制限速度を無視しながら走るベンツの中でイリヤは後部座席(狭い)に座っている凛に向かって心底から呆れた声を出した。

 アーチャーは霊体化して凛の傍に控えている、内心実体化していなくて良かったと胸を撫で下ろしていた事は誰も知らない。

 

 凛の絶叫は仕方ない。

 本当に目を瞑りながら走る姿を見れば、誰だって絶叫したくなるものだ。

 実際は魔術によって助手席に居る士郎の視界を借りているので見えている。

 

 尤も、他人の視覚越しに運転するのは高い技術を要求されるので良い子は絶対に真似をしてはいけない。

 

「心配症ね凛は、安心なさい交通ルールはちゃんと守ってるわ」

 

 イリヤにとって交通ルールの認識は

“事故さえ起こさなければ何をしても良い”

 と言う大雑把なもの。

 

 これは別に自動車学校で毎回受講する度に年齢確認をされた事に対する憤りによる社会への反感ーーーは全く含まれていない。

 素である。

 或いは遺伝か。

 青信号は全力で進め、黄信号は気を付けて進め、赤信号は注意深く進め。

 時速百キロまでは“徐行運転”と言ってはばからないイリヤの運転技術は実際大したものなのだが、致命的に人を選ぶ運転であった。

 

「いゃあぁあぁぁ!!」

「あまり大声を出さないでよね、シロウの傷に響くでしょう?」

「ど、どどう、考えてももも、こ、この揺れの方が! 身体に悪い……っ! でしょうがっ!!」

 

 凛の正論を、しかし士郎は苦笑しながら振り返り穏やかな顔を見せた。

 

「いや、俺は慣れたよ遠坂」

 

 その表情には諦観が含まれていた。

 凛は否応なしに悟った。

 あ、ダメだコレ。

 

「う、ふぎゃぁあああ!!?」

 

 凛の絶叫は、しかしイリヤによる遮音の魔術によってかき消され車外に届く事は無かった。

 

 

 

 ガクンガクンと激しく振動しながらフルスピードで駆けていく白銀のベンツは、ものの十分も掛からず衛宮邸へと辿り着いた。

 もともと整備性の良くないこのベンツでは、明日にでもオーバーホールが必要だろう。

 

 久しぶりに全力で飛ばした事に対して恍惚の笑みを浮かべながら士郎を連れて家の中に入っていくイリヤの背中を、化け物を見るような目で凛は見つめていた。

 あのランサーから感じた殺気と同レベルで命の危機を感じるとは……凛は己の身体が震える事を抑えられなかった。

 

「うぅ……吐きそう」

「凄まじいものだったな」

 

 実体化したアーチャーに背中を優しく撫でられながら凛は込み上げてくる吐き気を抑える為に魔術刻印へと魔力を流す。

 こんな事に使われるとは先祖も思わなかっただろうが、魔術刻印が無ければ吐いていたかもしれない凛は先祖への感謝の念でいっぱいだった。

 

 感謝……圧倒的感謝……ッ!

 

(ありがとうございますお父様、ありがとうございます遠坂のご先祖様……ッ!!)

 

 そうしながら今も考え続けているのは、この聖杯戦争の裏事情。

 こんな風に車酔いをする切っ掛けになったイリヤとの話し合いの内容。

 

 

 先代の遠坂である時臣が10年前の聖杯戦争中に死亡した事によって、凛は遠坂に代々受け継がれてきた情報の殆どを散逸した。

 故に聖杯に関する事など一定周期で現れる程度の認識で興味も無かった。

 それを取る事こそ遠坂に生まれた魔術師として義務と思ってはいたが、個人的に欲しい物ではなかった。

 取った後は使い道が思い付くまで放置しようとすら思っていた程に。

 

 そんな中でイリヤから伝えられた情報は寝耳に水な内容だった。

 大聖杯の異常。小聖杯の不在。

 ハイそうですか、と簡単に割り切ったり納得する事の出来ない問題だ。

 確たる証拠も無い。

 

 

「……アーチャー、どう思う?」

「私が決める事では無いだろう。

ーーああ、そんな顔をするな。そうだな、少なくとも嘘をついて彼女達が得をする内容で無かったのは確かだ。

それに、疑わしいなら確かめれば良いだけだろう?」

 

 そうなのだ。

 確かにイリヤから伝えられた情報の真偽は大聖杯を直接確かめれば済む話だ。

 この冬木の地を預かる管理者としては、万が一にも大聖杯が“異常を来たしている”のなら見過ごす訳にはいかない。

 

 真実なら対処し、偽りならば……それはそれで良い、聖杯戦争を勝ち抜く為に“前回優勝者”の衛宮が計略を尽くしたというだけの話。

 それでも多分、真実なのだろうという予感はする。

 

「おーい、遠坂」

 

 玄関から士郎の呼び掛けが聴こえた。

 まだ若干の気持ち悪さは残っているが、何時までもこうしている訳にはいかない。

 

 先ほどは無様な姿を見せてしまった、遠坂の魔術師としては最低な醜態だ。

 遠坂たるもの、どんな時でも余裕を持って優雅でなくてはならないというのに。

 感謝したばかりの先祖に申し訳ない。

 

 一つ咳払いをして気を引き締め直した。

 

「ごめんなさい、衛宮くん。今入るわ」

「ああ、体調はもういいのか?」

「ええ、ご心配なく。私よりも衛宮くんの方がよっぽど重症に見えるわよ?」

 

 士郎の着ている制服にはベッタリと血の跡と斬り傷が残っている。買い替えは必須だろう。

 エミヤグループの資産をもってすれば端金だが、小遣い制であり根が小市民な士郎にとって頭の痛い出費なのは確かだ。

 

「ああ、悪い。直ぐに着替えてくる、けどその前に……どうしても訊いておかなきゃいけない事がある」

「? 何かしら、話の内容によるわね」

 

 常にない真剣さをもって自分を見つめてくる士郎の視線、凛の心臓は無意識に高鳴った。

 

「な、何よ」

 

 調子が狂う。

 こういった風に誰かにじっと見られる事はあまり慣れていないのでどうしても居心地の悪さを感じてしまう。

 男子に告白された時でもこんなに自分を真剣に見つめてくる人は皆無だった。

 

 まるで魅了の魔眼でも掛けられたように錯覚する。

 破れた腹部から見える意外にも鍛えられた肉体が視界に入り、何故だか知らないが気恥ずかしくて仕方ない。

 

(なによ、早く言いなさいよね!)

 

 自覚のない感情に心が揺れる、先ほど改めて誓った遠坂の家訓を早々に守れなくなった事にも気付かず凛も士郎を見つめ続けた。

 

「遠坂、お前達ーーー何かアレルギーはあるか?」

「……はい?」

 

 

 

 

 

 第三話 理由

 

 

 

 

 

 比較的無事だったズボンに洗剤を付けて軽く揉み洗いし、血が染み付き繊維がボロボロな上着とシャツを泣く泣くゴミ袋に放り入れてから軽くシャワーを浴びる。

 イリヤの魔術で体調は随分とマシになっているが、触るとまだ痛む。

 魔術回路を精査すると酷く傷んではいるが、使用する事に問題は無い程度だ。

 生きるか死ぬかの瀬戸際だったとはいえ無茶をしたものだ、イリヤには本当に感謝しかない。

 出来るなら感謝だけしておきたかったものだ。

 

「作るって言ってもな……」

 

 ぞんざいに体を拭き終え新しい服に手を通す、治して貰った代わりにとんだ難題を頂いてしまった。

 遠坂凛と言う、学内では知らぬ者の居ない有名人を持て成さなくてはならないのだ。

 アーチャーも誘ったのだが辞退された。

 

 もう夜も更けているので胃に重たい物は作るべきではないだろうし、凝った物を作るには時間が足りない。

 体調も完璧ではない。

 まぁ……それは良いのだ。

 関係無い。

 料理人としては未熟なこの身なれど、食べる事を望む者達が待っているならば衛宮士郎に“作れない”という選択肢は最初から無い。

 

 幸いにも凛に食物アレルギーは無かった。

 良い事だ。

 士郎の調理技術ならば料理のレシピをアレルギーに配慮して組み替える事は容易い事だが、今ストックしてある食材や調味料はアレルギーに配慮していないのでどうしても選択肢が狭まってしまう。

 

 辛い麻婆豆腐だけは絶対に無理という情報も得られた。

 基本的にどうしようも無いアレルギーなら兎も角として好き嫌いは直すべきだと思っている士郎であるが、未だかつてアレ程に人が料理を拒絶する姿は見た事が無かった。

 普通の麻婆豆腐は食べれるらしいので、単純に尖った味付けが苦手なのだろう。

 そう言った味の好みに配慮する事も料理人には求められる要素の一つだ。

 

 そう、問題は“何を出す”べきか。

 美味しい料理と一口に言っても好みは十人十色、同じ物を食べても感想は人それぞれだ。

 どうせ食べて貰うなら満足して欲しい。

 さあイメージしろ、冷蔵庫の中身を、調味料を、レシピを。

 

 その中で最善の選択をする。

 

(俺の料理で、遠坂に満足して貰えるように)

 

 何品も出す事は避けるべきだろう。

 話し合いはいつ終わるか分からないので邪魔にならず片手で摘めるような簡単な一品ものが良いだろうか。

 ならば……サンドイッチ。

 暖かいスープとサラダを付けるのも悪くない。

 

「…………ふぅ」

 

 こうして身内以外に料理を振舞う時は決まって、士郎は過去の誓いを反芻する。

 

 今でこそ全世界にチェーン展開して地方色豊かなメニューを揃えているファストフード・エミヤだが、その始まりは小さな個人経営店でありレシピを作成したのは何を隠そう幼き頃の士郎である。

 早い、安い、多いを三大モットーとして売り出したハンバーガー(美味いと言わないのがミソ)は他店の倍以上のサイズで有りながら値段は半額近くと、人々の心を掴んだ。

 切嗣が成功を掴んでいく道程の一助となったハンバーガーであるが、その理由はハンバーガーが特別美味しかったから……ではない。

 

 切嗣にとって身近な料理が出来る人間が士郎だっただけであり、当時の士郎が作り出したレシピも基本に忠実な普遍的なものだ。

 よほど下手な事をしなければ、誰のレシピでも結果は変わらなかったのだ。

 当時は何とも思わなかった士郎であるが、料理人になる夢を継いだ今となってはーーー恥ずべき事に思えた。

 

 1代でエミヤグループを作り上げ、沢山の人間を笑顔にするという実例を目の前で見せ続けてくれた切嗣と違い……未だ士郎は何も成してはいない。

 姉貴分の大河も株式投資でエミヤグループ躍進の一助となり、雷画はその経営を受け継ぎ地盤を強固にして更に発展させている。

 イリヤも普段こそ家でゴロゴロしているが、全株式の30%以上を所有している大株主で所得のほぼ全てを社会福祉活動費に充てている。

 

 次期後継者として名ばかり有名な士郎と違い、周囲の人間は確かな成果を残している。

 どうしようもなく、情けない。

 料理する事しか取り得のない身でありながら、料理人としてのスタート地点にすら立てていない原状。

 

「……うし、やるか」

 

 だからと言って腐る訳にはいかない。

 切嗣も生前よく言っていた事だ、自分に出来る事を精一杯やってから周りを見るのだと。

 

『大事なものほど近すぎて見えなくなる事があるんだ、僕はそれに気付く事が遅れてしまった。

士郎は、間違えちゃいけないよ』

 

 そう、今大切な事はお客様を満足させる事だ。

 そのために持てる力の全てを注ぎ、ここに結実させる。

 

 最低限のものは昨日買い揃えてある、無駄に凝ったり隠し味を加える必要は無い。

 大事なのは素材それぞれの特性を活かすこと、調和させる事だ。

 

 無論、シンプルである程、味の誤魔化しは効かない。

 試される、料理人として磨いてきた腕を。

 衛宮士郎だけの調理法を。

 

「その前に茶かな」

 

 お客様は紅茶を御所望である。

 がさごそと戸棚の中から来客用の茶葉を探しながら、お茶請けの菓子は何を出すべきか悩んだ。

 

 

 

 

 

「……美味しい」

 

 短期間でこんなにも美味しい紅茶を“2度も”味わえると凛は思っていなかった。

 素直に感心すると共に、何とも稀有な体験をしている現状に少しだけ困惑する。

 

 英霊である己のサーヴァントが何故かめちゃくちゃ紅茶を美味しく淹れられる事と“あの”エミヤグループの次期後継者直々に茶を振舞われる事。

 

 どちらも一般人には縁のない事だろう。

 果たしてどちらの方が貴重な体験なのだろうか……そんな魔術師らしくない無駄な考え。

 

「……うゎ」

 

 茶菓子を一口食べ理解する。

 材料に高級品が満遍なく使われている。

 しかし決して材料の質が良いだけの三級品ではなく、味や食感は控えめでありながら丁寧な仕事に裏打ちされた一級品に仕上がっている。

 主張し過ぎる事ない控えめな甘さが疲れた体に染み渡り癒してくれているようだ。妙に可愛らしい飾りが製作者の人となりを感じさせる。

 

(手造りでコレって、プロ顔負けじゃない……ん?)

 

 2度目の紅茶を口にして、組み合わせの妙に気付く。

 片方だけでも充分に一級品なのに、食べ合わせが抜群なのだ。

 まるでこの組み合わせの為だけに作られた菓子のように錯覚する。

 しかしそれは無いだろう、この菓子ーー和菓子は本来は抹茶など渋めの緑茶と組み合せて食べる事を想定して作るからだ。

 

 緑茶と紅茶。

 この2つの違いは、端的に言ってしまえば同じ茶葉の加工法の違いでしかない。

 蒸すか乾燥させるか、それだけの僅かな初期工程の違いで風味がまるで違ってくる。

 とはいえ紅茶には洋菓子しか合わないと言う訳ではなく、どんなものも食べ合わせ次第だ。

 それを僅かな時間で見切った、或いは最初から想定して用意していた手腕が恐ろしい。

 

 色々と好みを訊かれたついでに冗談混じりで頼んだ紅茶でこのレベルだ、凛の中に存在する料理人としてのプライドが否応なしに刺激される。

 得意な中華料理ではそんじょそこらの人間に負ける気は無いが、紅茶の淹れ方や菓子の製作技術に関しては白旗をあげざるを得ない。

 少し癪だ、帰ったらアーチャーから詳しく習おうと胸に誓う。

 

「気に入って貰えたみたいだな」

 

 心底から嬉しそうな笑顔をする士郎に、抱いていた対抗心が僅かながら立ち消えていく。

 こんな表情をされると、どうしても張り合う気が失せてしまう。本当に魅了の魔眼でも発動しているんじゃないかと思う。

 

「……ええ、そうね。ありがとう衛宮くん、美味しいわ。これ本当に手造りなの?」

「ああ、そうだよ。これは俺と桜で作ったやつなんだ、あー……桜ってのは一年の子でさ。慎二の妹なんだけど知ってるか?」

「……そう。間桐さんが、ね」

 

 ゆっくりしていってくれ、と告げて台所に戻っていく士郎を気に掛ける事なく凛はじっと菓子を見続けた。

 もう一度、今度は先ほどよりもゆっくりと口に含み、噛み締めるように咀嚼する。

 何故だかその一口は、先程よりも格段に美味しさを感じさせた。

 

「食べ終えるのを待っておきましょうか?」

「! いいえ、結構よ衛宮さん。話し合いをする為に来たのですもの。ええ、構わないわ」

「そう……」

 

 口や顔は毅然としていながら、菓子に添えていた凛の手が何処か名残惜しげに離れたのをイリヤは目敏く見付けてーー敢えて触れない事にした。

 桜と凛。

 2人の関係が特別なモノであろう事は短くない付き合いで何となく察している、己にとっての士郎のような特別な関係だろう、と。

 

「なら良いわ、士郎が調理を終える前に話しておきたかったし。話し合い、しましょうか」

「ええ。こちらとしては全面的に信じる事は出来ないけれど、明日確認してきて判断させて貰うわ。

それで? 結果如何に関わらず“衛宮から遠坂”への援助を行うという事だけれど、内容は何かしら」

 

 イリヤが凛に打診した内容は以下の通りだ。

 

 

 聖杯は異常を来たしており、10年前の大火災は異常を来たした聖杯によって齎された災害であること。

 

 

 今後も聖杯戦争が行われる場合に於いて同等・凌駕する災害が起こり得る可能性が高いこと。

 

 

 ついては聖杯戦争の根幹を成す大聖杯を停止、或いは破壊する事が望ましいこと。

 

 

 この事態解決の為に衛宮は魔術師としてだけでなくエミヤグループの総力を以て直ぐにでも遠坂を支援する用意があること。

 

 

 これが“2つめ”の貸し。

 字面だけ受け取れば遠坂に利は有っても損は無い、寧ろ利しか無い“あまりにも都合の良すぎる”内容なのである。

 これで疑わない方がおかしい。

 校庭で士郎が見せた“有り得ない”魔術も、凛の警戒心を引き上げている一因だ。

 

 要するに凛はこの場で示せと言っているのだ、遠坂が衛宮を信頼するに足る“何か”を。

 

「分かってるわ、はい。これにサインしなさい」

「……! 自己強制証明、ね。そう、本気ってワケ」

 

 凛が外で吐き気を抑えていた間に作製されたのだろうソレは、何度確認しても作為の欠片も無い完璧な内容であった。

 魔術師の世界でも滅多に交わされる事のない自己強制証明による契約ならば、確かに信頼するに“足る”レベルのものだ。

 そう、コレを出された以上は疑うだけ無駄な程の絶対的な確証。

 

(ほんっと、こっちに都合良すぎて……イヤな感じね)

 

 それでも不安を感じさせるのが衛宮イリヤスフィールという魔術師だ。

 サーヴァントを従えている今なら兎も角、普段では“敵わない”とさえ思う力量を持つ魔術師。

 正面切っての戦闘はごめん被る。

 

 いや、そもそも衛宮と“アインツベルン”の二家の継承者たる彼女ならば、サーヴァントに対する策を持っていても納得こそすれおかしくはない。

 それ程の相手が、いっそ無条件降伏と言っても過言では無い内容の自己強制証明を用意している。

 凛ではなくとも、疑うのが普通だ。

 

「納得いただけないかしら?」

 

 疑いつつも署名を行う。

 これで衛宮は遠坂に対して聖杯戦争中に不利益な行動をする事が出来なくなった。

 確かな契約の繋がりを感じる。

 最悪、自己強制証明を装った未知の魔術を警戒してアーチャーに戦闘用意をさせていただけに、心底拍子抜けだ。

 

「ん、オッケーよ。それじゃ貴方の部屋を案内するから、ついて来なさい」

 

 廊下に出ると如何にも“そっち系”のサングラスが似合う強面のお兄さん方がイリヤに向かって深々と頭を下げる。

 イリヤを警戒していたとはいえ、いつ来たのか全く分らなかった。アーチャーから事前に注意されていなかったら、悲鳴を上げていたかも知れない。

 衛宮という家は凛の理解や一般的常識から外れている。

 

 先導するイリヤの後ろを若干頬を引くつかせながら凛は離れの部屋へと案内された。

 古い武家屋敷そのものの衛宮邸にて珍しい洋式の部屋。

 普段から丁寧に管理・清掃されているのだろう、急な来客にも関わらず内装は整っていた。

 

「一通り揃ってるから一泊ぐらいなら不自由は無い筈よ、何か欲しいものがあったらその受話器を使いなさい。24時間対応してくれるわ。

夕食の用意が出来たら呼ぶから、それまで好きにしててちょうだい」

 

 簡単に魔術で調査するも、部屋に全く魔術的な仕掛けや品は存在しなかった。

 アーチャーが確認しても問題なかったので、本当に何の仕掛けも無いらしい。

 

 あるのは華美では無いが間違いなく良い値段のする調度品ばかり、どれも凛の好みな物で構成されている。

 用意されている寝間着など、素材の質もさる事ながら誂えた様にサイズがピッタリだ。

 正直に言えば持って帰りたいぐらいで……多分、言えば本当に譲ってくれるだろう。そうなったら流石に代金を払うが。

 

 机の上には大粒の宝石が敷き詰められた宝石箱が置かれてあり、その隣には持ち運び用の手提げ袋に一通の手紙が敷かれてある。

『親愛なる遠坂凛様へ』という謳い文句で始まる文章は、要約すれば『この宝石をお持ち帰り下さい』と書いてあった。

 あまりにも明け透けな歓迎ぶりに不信感がマッハで募る。

 此処まで徹底的にリサーチしている事やご機嫌取りを隠しもしない姿勢は、新手の宣戦布告と受け取れば良いのだろうか?

 凛には判断がつかなかった。

 

 

 

 

 

 凛を部屋に案内した後、イリヤの顔から魔術師然とした雰囲気は雲散してヘラっとした表情へと変化する。

 

(あ~だる。リンってば私が何したって疑うんだもの、肩が凝っちゃうわ。だから魔術師ってイヤなのよね)

 

 イリヤは凛を“都合よく”動かす腹積もりでこそあるが、騙す気も嘘を吐く気も全く無かった。

 にも変わらず煮え切らない態度。

 3つも貸しをくれてやると言うのに何が不満なのか、その思考を“魔術使い”でしか無いイリヤには理解出来なかった。

 初めて会った時はもう少し可愛げがあったのに、とひとりごちる。

 

 エミヤグループの情報力を以てすれば凛の趣味嗜好など丸裸同然。

 この地の管理者である凛の気を惹く為に用意していた品ばかり揃えて部屋を飾り付け、遠坂の魔術に欠かせない宝石まで用意したのだ。

 これだけ歓迎すれば管理者への義理は果たしたと言っても良い、後は大聖杯の確認を終え完全な納得を得た上でブッ壊すだけだ。

 

「お、イリヤ。話し合いはもう終わったのか?」

「うん。お互い実りのある良い話し合いだったわ」

 

 ニコっと互いに笑顔を交わし、士郎はスープの仕上げへと向かう。

 普段なら手伝うところであるが、今はそうもいかない。つまみ食いしたい気持ちをグッと堪えて、成すべき事をする為に必要な“ある物”の場所を尋ねた。

 

「ねぇシロウ? 昨日きた荷物何処に置いたかしら」

「ん……DVDじゃないヤツなら多分部屋かな、土蔵じゃ無いと思う」

「分かったわ、探してみる。それじゃヨロシクね」

「ああ、任せろ」

 

 芳しい匂いに頬を紅潮させながら台所を後にしたイリヤはその足で士郎の部屋に向かった。

 基本的に殺風景な部屋に場違いな小包が部屋の隅に放置されていた、それを無造作に掴んでそのまま隣の“自分の部屋”の襖を開ける。

 

 少女趣味全開な内装と、魔法少女のポスターやフィギュアに年齢制限のある本が所狭しと混在している空間に足を踏み入れ包装を無造作に破る。

 中に収められていた品を取り出し光に翳したりペタペタと手触りを確認したり、放り投げてはキャッチする事を何度か繰り返して満足する。

 

「本物は初めて見たけど、思ったよりショボいのね。まぁ普通は使い道なんて無いのだからこんなものかしら?」

 

 少しだけ期待していた“ソレ”は、魔術師ならば垂涎の品であろうがイリヤにとっては“古くさい”だけの品である。その道の専門家が知れば目も眩むような大金を出してでも欲しがる程の……それこそ0が幾つも並ぶ高級な品なのだが。

 現在の持ち主であるイリヤは特に感慨を得ず適当に入れ物に直すとポケットの中に仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

「……ご馳走さまでした」

 

 負けた。

 完全敗北。

 

 高級品で構成されていた紅茶や菓子と違い、特別な食材や調味料を使った形跡は無かった。

 それでもそこらの専門店や職人の作る料理よりも上等な仕上がりであり、小さな配慮が心憎い。

 普段からあまり大量に食す事はしない自分が、お代わりまでしてしまった。ニヤニヤとイリヤが見つめているのに気付いた時には、顔から火が吹くかと思うぐらい恥ずかしかったが。

 

「お粗末様でした。一応デザートも用意してるんだけど、どうかな?」

「……いただくわ」

 

 これはもう、中華料理でお返しをしなくては気が済まない。下手したらソレでも上を行かれているかも知れない危機感に駆られながらも、凛は心の中でそう誓いながら茶を啜った。

 あー緑茶も美味い、何なら苦手なのだろうか。

 そんな風にすっかり油断していたものだから、横から唐突に告げられたその一言は凛の腹筋にクリティカルヒットした。

 

「お風呂はもうすぐ入れるわよ、一緒に入る?」

「ブフォッ!?」

「何その反応、凹むんだけど。ああもう、動くんじゃないわよリン、拭けないでしょう」

 

 甲斐甲斐しく口元を拭かれ慌てて距離を取った。

 訝しむイリヤの視線を受ける凛の表情は、今日何度目か分からないが引き攣っていた。

 加えて身体を抱え込む。

 

「? なによ、アーチャー居るんでしょう? リンを捕まえなさい」

 

 その声に従った訳ではないだろうが、凛の傍で腕を組みつつ溜息を吐きながら実体化した。

 裏切る気かこの野郎と恨みがましい目で見つめてくる凛からの視線を黙って受けながら、あからさまに呆れた視線を隠しもしない従者は忠告をする。

 

(凜、落ち着き給え。ペースを乱されてばかりだぞ)

 

 凛とて言われなくても分かっている。

 自己強制証明を交わした以上は己に危害が加えられる訳など無いと理解している。

 頭では。

 本来ならば開き直って居直るぐらいには神経の図太い凛である、にも関わらずこんなにも“苦手意識”を持っている理由は初めての出会いの日にまで遡る。

 

 

 

 魔術師として未だ半人前の域を出ず、ある神父に不承不承ながらも世話になっていた忌まわしい時期にその男は現れた。

 

 出会う前からその男の事は知っていた、何せこの冬木では知らぬ者の居ない程の有名人だ。

 男女2人の子どもを連れて挨拶に来たその男が魔術師だったとは知らなかったが、今まで隠れ住んでいた事に対する謝罪とこれからは管理者である遠坂に対して“それ相応”の礼金を弾むと言われてはーーー当時から金に困窮していた凜に否は無かった。

 

 そこまでは良かった、半人前とはいえ一流の資質を持ち合わせている凜だ。

 目の前の男が魔術師としては“既に退いている”事は一目で理解していたし、警戒はしても心配はしていなかった。

 

 2人の子どもの内、男子の方も問題なかった。

 魔力を全く感じない上に長子では無い、特別な才能の無い一般人だろうーーー特別な才能を持つが故に生き別れた“妹”を思い出して羨ましく思った。

 

 問題は、少女の方。

 衛宮家だけではなく“アインツベルン”の後継者でもある少女は、そう年齢の変らない凜と違って“完璧な”魔術師だった。

 今は記憶の中にしか存在しない父よりも、遥かに格上の魔術師。

 

『よろしくね、リン』

 

 ニッコリと笑った少女から滲み出る魔力、身震いする程の殺気。

 全く気付く暇もなく展開された魔術によって生み出された針金の鳥が肩に留まっている事に気付いた時には、悲鳴すら上げる事も出来ない程に混乱した。

 

 男から宥められて凜への謝罪を口にした少女は、まるで普通の少女のような表情へころりと変化したが……それは偽装である事は明白だった。

 これ程の魔術師が一般人じみた思考などしている筈もなく、それは後日になって神父から『衛宮は前回の優勝者』であると言質を貰い確信に至った。

 

 今でもあの日の恐怖が、感情がーーー脳裏にこびり付いて離れない。

 

 

 

 それ以後、定期的に会う度に実力差を励みに魔術への修行に没頭し続けた。

 決して表立っては認めたりしないが、イリヤの存在があったからこそ今の自分がある。認めたくはないが。

 しかし一流のレベルにまで達したと自負している今でも、苦手意識は拭えず残ったままだ。

 

「何かあったのか、2人とも? あ、アーチャーあんたも食べないか?」

 

 ケーキを持って戻って来た士郎は呑気なもので、先ほど食事を断られたアーチャーに今度こそはとズイズイ薦めている。

 取り皿が4つあるので、端からその気だったのだろう。意外と諦めが悪い。

 

「……先程も言ったが、私には必要ない。気遣い感謝しよう」

 

 意外と丁寧に断りをいれ霊体へと戻ったアーチャー以外の3人は黙々とケーキを食べる作業へと入った。

 半分ほど食べたところで、思い出したようにモゾモゾとイリヤはポケットの中から小箱を取り出す。

 小奇麗な装飾が成されたそれを見て、心当たりのあった士郎が口を開く。

 

「あ、それが探してたヤツか」

「うん。急いでたから宅急便で送ってもらったのよ、まぁ予備のつもりだったけど結果的には間に合ったわね」

 

 わいのわいの話しながらパカっと蓋を開けると、流石に凜もソレが何かを察した。

 

「……!」

 

 今まではイリヤの魔術で隠遁されていて分からなかったが、その小箱の中身からは濃密な神秘が滲み出ていた。

 尋常な品では無い、軽く千年以上は経つだろう品を出してきた意図を考えーーーこれを“使う”のかと納得した。

 

(やっぱり衛宮は侮れないわね、こんな物を用意してたなんて)

 

 参加する気が無かった、というのはやはり嘘である可能性が高くなった。

 これ程の品を急遽用意するなど、幾らエミヤグループでも不可能だろう。方々にしっかりとしたパイプが必要な筈だ。

 

 

 

 聖杯戦争の予兆を感じ取ってからイリヤはすぐに聖遺物を手配した。

 まさか士郎に令呪が現れるとは考えていなかったが、万が一の事態を想定して動いたその決断は結果的に正しかった。

 

 とはいえ本気で聖遺物を求める気は無く、特定の品は求めず何かしら手に入ればいいや程度のざっくりした要請であったがーーーそんな風に考えていたのは本人だけである。

 会長である雷画を通じて発令されたその指令に従い幹部は金に糸目を付けず世界中を捜索開始し、考古学者や遺跡への唐突な接触にビジネスチャンスを感じ取った周囲が深読みし動き出した。

 その結果、今まで資金難に喘いでいたあるチームが世紀の大発見をしたり海中に沈んでいた宝が引き揚げられるなどして世界経済が大いに賑わった。

 

 そう、エミヤグループの動向に意図はなくとも周囲に影響を与えるのだ。

 もちろん雷画も、このチャンスを生かして業績を更に上げており聖遺物の用意に掛かった経費をしっかりと回収していた。

 

 

 

「シロウ、今から召喚をするわ。ついて来なさい」

「おう」

 

 まるで近所に買い物にでも行くみたいな軽さで中庭に向かった2人に凛は呆気に取られた。

 どういう神経をしているのかと、関心半分、呆れ半分の心境でやや遅れながらも後に付いて行った。

 これから“3つめ”の貸しの一環としてーーサーヴァントの召喚を行なうと言うのに、気負うところが全く感じられない。

 

 中庭に出ると数本の針金で魔術陣を構成する、その中央に士郎を立たせるとイリヤは背中に手を当て詠唱を開始した。

 大量の魔力を含んだ宝石を溶かして陣を構成し、最も魔力が高まる時間を選んで万全を期した召喚を行おうとした凜(結果的にうっかり失敗)と違い、簡素極まる陣と詠唱であったがーーーその無駄のなさは戦慄を覚えるレベル。

 

「シロウ、ちょっと疲れるかも知れないけど大丈夫よ」

 

 事ここに至っても、実はイリヤは士郎にサーヴァントの事はおろか聖杯戦争に関して何一つの説明をしていない。

 士郎も何一つとしてイリヤに説明は求めなかった。

 それでも士郎は一切の躊躇なくイリヤの魔術に身を委ね、イリヤも士郎を気遣いつつも一切の容赦なく魔術を行使し続けた。

 

 切嗣の夢を受け継いだのは士郎であり、調理に関してイリヤは口を挟まない。

 切嗣の魔術を受け継いだのはイリヤであり、魔術に関して士郎は口を挟まない。

 

 どちらとも無くそう決めた事であり、例えそこに命の危険があろうともーーーどちらも躊躇すること無く命を預けられる。

 そんな無言の信頼があるからこそ、この召喚は見事な程に成立しているのかも知れない。

 

「……っ!」

 

 だから身体中の魔力が吸い込まれていっても、それを補うようにイリヤとのパスから尋常では無い量の魔力が注ぎ込まれ続けていても、士郎は身動きしない。

 2人の魔術師による共同召喚は順調に進み、遂にサーヴァントを召喚する直前にまで至った。

 

「……汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ。天秤の守り手よ!」

 

 召喚の直前、士郎の身体から光が漏れたーーーように凜には見えたが視界を覆う土煙でハッキリとは分からなかった。

 恐らくは召喚の瞬間に英霊との契約を結ぶラインが構成された余波ではないかと推測する。

 反則的な魔力量のイリヤによる召喚は、凛が望んだ完璧な召喚に勝るとも劣らない結果を生み出すだろう。

 それに悔しいと思いつつも、無意識に羨望の眼差しを向けていた。

 

 アーチャーに似た気配ーーー否、それよりも濃密な存在感を持った者が煙の奥に居る。

 知らず、凜は息をのみ現れるサーヴァントから目を逸らすまいと瞳に力を込めた。

 

「ーーーサーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」

 

 煙が晴れ、その姿を現したサーヴァントを見て凜は不覚にも見とれてしまった。

 

「問おう、貴方が、私のマスターか」

 

 元々、凛はセイバーを喚び出すつもりで儀式を行った。だからだろうか、それともセイバーの持つ清廉な空気に呑まれているからか。

 まるで神話の再現のような目の前の光景の中心に居るセイバーを、憧憬すら覚えながら見続けていた。

 

 

 

 




ネタバレ※セイバーさんのカッコイイ姿は見納め。

料理に関しては想像力を掻き立てようと敢えてぼかしたら、ぼかし過ぎた気もしないでも無いですが描写は直しません。
メイン料理なんてメニュー名しか言ってませんけどね、まぁ料理の内容自体は今作にとってそんなに問題ないので御容赦下さい。

感想は随時返信してましたがPVは更新するまで確認しなかったので、あまりの伸び様に今びっくりしてます。
過大な期待を頂き感謝、月に2~3回は更新出来る様に頑張ります。

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