インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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最新話、できました。
なんとか夏コミ前に投稿できたけど、もう少し更新スピードを
何とかしなければ(汗)

さて、戦闘描写第二弾。
うまくできたかどうか・・・


『白』の飛翔

「(やれることは、やった。後はそれをぶつけるだけだ――)」

 

セシリアとの試合直前、ピット内にて一夏は目を閉じながら精神統一を図り

自身のコンディションを調えていた。

 

『(ところで、一夏。一ついいか?)』

「(別に、いいぜ。多分、俺たち同じこと考えているから……)」

 

ゲキリュウケンの言いたいことが分かるのか、一夏はゆっくりと目を開けて、

応援に来てくれた箒たちにある疑問を投げかける。

 

「『なんで、俺の機体がきていないの?

 (なんで、お前の機体がきていない?)』」

 

そう、千冬が言っていた一夏に支給されるという専用機が、

決闘当日の今日になってもまだ手元に来ていないのだ。

 

「な、なんでだろうね……?」

「わ、私に聞くな!」

「流石に予想外……」

「まあ、最悪訓練機を使えば……」

「大体今日は、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫って?」

「今日まで特訓と言いながら、

 お手玉をしたりパズルしたりと大半は遊んでいたではないか!」

 

自分たちもノータッチな一夏の専用機についてシャルロット、箒、簪、楯無が

それぞれ反論と今からの戦いについて述べる中、箒は今日までの特訓内容に

声をあげて一夏に問いかける。

 

「あれか?あれもちゃんと特訓になってるんだぜ?」

「お手玉が特訓って……」

「お、織斑君織斑君織斑~~~君っ!」

 

簪がお手玉がどう特訓に繋がるのかを聞こうとしたら、

山田先生が今にもこけそうなぐらいバタバタした足取りで走りながらやってきた。

男子だけでなく、多くの女子がうらやむものを大きく揺らしながら。

 

「山田先生、落ち着いて。まずは、落ち着いて深呼吸を。

 はい、吸ってはいて~」

「は、はいっ。す~~~は~~~」

「何をしているんですか、山田先生」

 

慌てている山田先生を一夏が落ち着かせようとしたら、

その後ろから千冬が呆れながら現れた。

 

「あっ!千冬姉!」

「織斑先生だ!いい加減学習しろ。後、何でお前たちがここにいるんだ?」

 

相変わらず、そういうとこは成長しない一夏に頭を痛めながらも千冬は、

特訓に付き合ってもらったとはいえ、正規の関係者でない箒たちに視線を若干鋭くしながら移す。

 

「え、えっとそ、それは……」

「あははは……」

「はわわわ……」

「問題ないですよ、織斑先生?

 ちゃ~~~んと碓氷先生から許可はもらっていますから♪」

「あいつのだと?」

 

一夏に恋する一年トリオがあたふたする中、楯無はいつもと変わらない調子でここにいる許可を

カズキからもらったと千冬に伝えるが、ピクリと彼女の眉が反応した。

 

「……まあ、許可を取ってあるなら何も言うまい……」

「とか言いながら、本当は初めてのISを使った試合に緊張している一夏を

 姉として励ましてやれる姉弟水入らずのとこを邪魔されて、

 おもしろくないんじゃな~い?」

 

ブッン!!!

 

何の前触れもなく背後から聞こえてきた声の主に向かって、千冬は何のためらいもなく

風をも切り裂くような速度で振り抜いた拳を叩きこむが、声の主であるカズキは顔色一つ変えることなく紙一重でその拳をかわしてみせた。

 

「貴様と言う奴は、毎度毎度あらぬことを……!」

「ははは、いや~何を今更照れてるの?

 もう、千冬ちゃんが弟大~~~好きないわゆるブラコンって奴なのは、

 み~~~んな知っているんだからさ☆」

 

その言葉がゴングとなって、二人の姿がその場から一瞬で消えたと思った直後に千冬が腕が消えたように見える速度で拳を放ちつつ、その拳をカズキが某勇者王に出てくるライバルキャラみたいに“遅い!遅い!遅いよ、千冬ちゃん♪”と言いながら、余裕でかわしまくるという、どこの戦闘民族だよ!な戦闘が開始された。

 

「相変わらずだな~あの二人は」

「そうだな」

「あわわわわわ!」

 

二人のことを子供のころから知っている一夏と箒は、

どこか呑気な会話をするがそうでない者はそうはいかなかった。

ちなみに、山田先生を突然の事態にオロオロしていた。

 

「ねえ?僕の気のせいかもしれないんだけどさ……」

「大丈夫、私も同じように見えてると思う……」

「……二人もそう見える?」

「「「……あの二人、なんか宙に浮いていない?」」」

 

そう。

千冬とカズキ、両名の体は地面から浮いて頂上バトルを繰り広げているのである。

 

「それは、ほら。あれだよ?」

「うむ、そうだな」

「「だって、千冬姉(さん)とカズキさんだから」」

「「「…………」」」

 

さも当たり前のことのように言う二人に、誰も何も言えなくなってしまった。

 

「た、確かにそれで納得してしまう自分がいるわ……」

「僕も……」

「わ、私も……」

「さてと、それじゃ山田先生。

 将来のための夫婦喧嘩の練習をしている二人は放っておいて、来たんですか?

 俺の専用機?」

「えっ?は、はい!

 やっと来ました!織斑くんの専用機!」

 

ピット搬入口がゆっくり重い駆動音を響かせながら開くと、そこには

『白』がいた――。

 

「これが、俺の……」

「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!」

 

自身のもう一つの姿であるリュウケンドーが纏う鎧と同じく、

真っ白なそれは自分を待ち焦がれていたように思えた。

ただ、織斑一夏が自身を纏う、この時を――。

 

「フォーマットとフィッティングを行っている時間はないので、

 実戦でやるしかないですが問題ないですね?」

「やるもやらないも、やるしかないでしょう?

 というか、何でメイザース先生がここにいるんですか?」

 

ゲキリュウケンのように、自分の相棒となる機体を見つめているといつからいたのか

エレンが一夏たちの後ろから姿を現した。

 

「ふふふ♪

 千冬はどうせ、カズキといつもの痴話喧嘩をして一夏へのアドバイスができないと

 思いましたから♪

 (この一週間、一緒にいるタイミングを逃し続けてきましたが、この時なら

 別のクラスだとかそんなの関係なく堂々とアドバイスを送れますからね。

 これ以上、彼女たちに後れをとるわけにはいきません!)」

 

どうやら、箒たちに出遅れた分を取り戻すために現われたようだ。

 

「(それに、ISを装着する一夏を映像とかでなく、直に見たいですからね/////)」

「「「「……」」」」

 

同じ恋する乙女だからか、箒たちにはエレンが考えていることがなんとなく

分かったようだ。

 

「じゃあ織斑くん、まず「山田先生、ここは“私”が」

 はう~」

 

山田先生が、一夏にISの装着の仕方を教えようとしたらエレンが私と言う部分を強調

して話に割って入り、山田先生はしゅんとなった。

 

「では、一夏。装甲が開いている部分に「背中を預けて、座る感じで搭乗しろ」

 そうそう……って、千冬!いつの間に!」

「全くお前と言う奴は、油断も隙もあったものではない……」

 

エレンと同じように、千冬も何の前触れもなくその場に現われた。

カズキといい、人体の常識?ナニソレ?な者たちは、

忍者のような気配遮断の術を身につけているのだろうか?

 

いつもビシッ!と決めている千冬のスーツ姿は、現在若干崩れ息も乱れている。

カズキとの戦闘ならぬ、痴話喧嘩は千冬の身体能力をもっても簡単にはできないようだ。

 

「ははは。大好きな弟のデビュー戦に、これ以上遅れたらダメかな~?

 と思って早めに切り上げちゃった♪」

「っ!

 ええい!とにかくだ!

 一夏、さっき言ったようにな。後はシステムが最適化する」

「おっと!その前に~♪」

 

同じように気配を消して現れて、いつもの調子でしゃべるカズキに千冬は拳が出そうになるものの、こっちが先だと言わんばかりに、一夏にISへの搭乗の仕方を説明しカズキは何かを思い出したかのように一夏に近づいた。

 

「カズキさん?」

「なぁ~に、そんなたいしたことじゃない。

 ただ、待機状態のゲキリュウケンを身につけたままでもISには乗れるってだけさ。

 まあ、白式が面倒なシステムを搭載していたから、その改造は少し手間取ってな」

「そんな改造どうやって……って、ああそれですね」

 

カズキが小声で白式に施した簡単な改造を説明し、

いつの間にそんなことをしたのかと一夏は思うが、カズキが懐から取り出そうとした

黒い手帳で全てを察した。

 

おそらく、その改造を行った研究者や技術者たちは今頃“それをばらすのだけは……”とか

言いながら悪夢にうなされていることは想像に難しくないが、自分にはどうしようもないと

一夏は気持ちを切り替え、白式に乗り込んだ。

 

「あれ……?」

 

機体の各部からかしゅっ、かしゅっ、と空気が抜けていく音が響く中で

一夏は、戦いでゲキリュウケンと一心同体となる感覚とは違った一体感を感じていた。

 

「(わかるぞ。これが何のためにあるのか、何のか。

 ……でもなんでだ?

 ちゃんと勉強してきたからか?)」

 

そうこうしているうちに一夏と白式の『繋がり』が完了し、彼の視界が、世界が

靄が晴れるかのように広がっていく。

 

・戦闘待機状態のISを確認。

・操縦者セシリア・オルコット。搭乗機体『ブルー・ティアーズ』。

・中距離射撃型。

 

白式から送られてくる情報も普段から使っているものかのように、違和感なく

一夏は認識できた。

 

「ISのハイパーセンサーの作動に問題はないようだな。

 一夏、気分は大丈夫か?」

 

一夏のことを名前で呼んだことから、教師ではなく彼の家族として姉として

心配しているのだとわかったのは、この姉弟のことを昔から知っている

箒とエレン、そしてカズキだけだった。

 

そのカズキもからかいの言葉は、出さなかった。

流石の彼もからかっていいのかそうではないかは、わかるようだ。

 

「大丈夫。何の問題もないよ、千冬姉」

「そうか」

 

一夏はそう言うと、ピット・ゲートへと足を進めるが突如その歩みを止める。

 

「……みんな」

「な、何だ一夏」

「どうしたの?」

「な、何?」

「ひょっとして、戦いの前にお姉さんに告白?」

「勝ってくる」

「「「「「「っっっ/////!!!」」」」」」

 

一夏が不意打ちで見せた、不敵に笑ってみせる“男”の顔に千冬を除く女性陣が

顔を赤らめた。

 

「(じゃあ、いきますか。相棒!)」

『(ああ。あのお嬢様に世界の広さというのを見せてやれ!)』

 

一人の少年と一匹の龍は、鋼の鎧をその身に纏って青空へと飛翔した――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「さてと、これから試合になるわけだけど箒はうまくやれたかしたね?」

 

第三アリーナの観客席には、大勢の生徒が初の男性操縦者と代表候補生の戦いを見ようと

集まっており、その一角にはなのはたち5人の姿もあった。

箒に、とにかく攻めあるのみと助言をし自分たちは観客席にいるわけである。

 

「う~ん。シャルロットちゃんたちもいるから、うまくいってないんじゃないかな?」

「そうやね~。一夏くんも鈍感さんやしなぁ~」

「にゃははは。ところで今日の試合、みんなはどっちが勝つと思う?」

「一夏くんには悪いけど普通に考えれば、オルコットさんなんだけど……」

 

今から始まる決闘の勝敗を予想するフェイトは、一夏では勝てないと言うが

その言葉にはどこか自信がなかった。

 

「うん。

 特訓の時の動きを見たけど、あれはついこの間まで学生だった人の動きじゃないよ」

「普通に銃を向けられても、ビビッたりせへぇんかったしなぁ~。

 なんか、戦い慣れているって感じもしたし……」

 

ISには、操縦者を保護するための機能が備わっているが、例えば野球場でフェンスが自分の前にあったとしても、ボールが飛んできたら反射的に避けようとしてしまうように、

ISに搭乗していても銃や剣を向けられたりしたら、身構えたりひるんだりもする。

ISに慣れていない初心者なら尚更である。

 

しかし、特訓時の一夏にそんな様子は見られなかった。

死角からの突然の攻撃に、驚くことはあってもそこからの立て直しはとても

素人とは思えない動きと早さであった。

 

「それってやっぱり、一夏くんもなのはちゃんたちみたいに魔法使いだったり

 するってこと?」

「すずかちゃんの考えとることの可能性は高いと思うけど、

 確証がないから、なんとも言えへんね。

 単に、織斑先生や碓氷先生にしごかれたからってことも否定できへんし……」

「まあ、今あれこれ考えてもしょうがないわよ。

 あっ!出てきたわよ!」

 

一夏が見せた動きについてあれこれ考えるはやてたちであったが、アリサの言葉に

意識を切り替えるのであった。

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

一夏が、アリーナに行くとそこには腰に手を当てたいつものポーズで

セシリアが彼を待ち構えていた。

完全に一夏を下に見ている発言をしているが、一夏はその言葉を聞き流して

彼女の機体に意識を集中していた。

 

「(あれが、あいつのIS。その名の通り、青いな。

 で、持っている武器は〈スターライトmkⅢ〉っと。

 このアリーナの直径はだいたい200メートルぐらいだから、

 撃たれたビームが俺に届くまで、一秒もかからないな。

 それに、武器はあれだけじゃないから、どうかわしていくか……)」

 

一夏がどう戦っていくか、考えているとアナウンスが鳴った。

 

「ああ~。テステス。

 おっほん。それじゃ、今から織斑一夏とセシリア・オルコットの試合を始めるよ~。

 どちらが勝ってもクラスの皆に代表はどっちがいいかを決めてもらうことだけど、

 それだけじゃ、つまらないから負けた方は“これ”がクラスの皆に

 ばらされるっていうのはど・う・か・な~?」

「「はっ?」」

 

アナウンスを流したカズキの提案に呆然とする一夏とセシリアだったが、

自分のISに送られてきた画像に言葉を失ってしまう。

 

「「っっっ!!!ここここここれはぁぁぁ!!!!!?」」

 

二人の顔は、

工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工

という感じになっていた。

 

観客がなんだなんだとざわつく中、スピーカーから

カズキの心底楽しそうな声が流れてきた。

 

「ははははは♪

 二人とも、そんなに慌てる必要はないよ~。

 ばれたくなかったら、勝てばいいんだよ~。

 

 ちなみに、一夏のは彼のおしめを換えたり、女の子の恰好をされたりしたのを

 見たことある千冬ちゃんでも知らないものだよ~」

「ちょっと待て、アンタ!!!

 それ、ばらさないでくれって頼んだじゃねぇか!!!」

「いや~おもしろくなりそうだから、つい☆」

 

よっぽど知られたくない秘密なのか、一夏は声を荒げて抗議するが、

カズキにはどこ吹く風である。

 

「おい……。

 私の知らないものを何故、お前が知っている……」

 

カズキの楽しそうな声が響く中、スピーカーから聞こえる

千冬のドスのきいた声がアリーナを静まりかえらせた。

 

「う~ん。これは、俺の前でやったことだからね~。

 俺の他に知っているのは、雅さんだけさ。

 一夏がど~~~~~うしても、千冬ちゃんには内緒にしてくれって言うから

 黙ってたんだけど、上目づかいで欲しいですって言ってくれたら、

 今、千冬ちゃんに教えてもいいけどどうする?」

「うぉぉぉい!もう黙れ、この外道悪魔!!!」

「う、碓氷先生。そんなばらされたくない秘密をばらしていいんですか?」

「そうです。千冬だけでなく、私にも教えてください」

「大丈夫大丈夫♪

 ばらすのは、その時の写真だけだから~。

 一夏が一番知られたくないのは、その時に言った言葉だから、さすがに

 それをばらすことはしないよ~」

 

一夏には千冬がこの後、何をするのかわかっているのか何とか止めさせようとするが、

アリーナ内からの言葉だけで止めようがなかった。

 

「……ほ」

「「「ほ?」」」

「…………ほ、欲しい……です/////」

 

スピーカーから流れてきたかぼそい千冬の声に、

アリーナは先程とは違った意味で静まり返った――。

 

「ははは、もう本当に一夏が大好きなんだね~千冬ちゃんは♪」

「うるさい/////

 いいから、ささっと教えろ!」

「はいはい。

 これだよ~」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

一夏が頭を抱えて叫ぶが、その叫びは青空に空しく消えた。

 

「……」

「こ、これは/////」

「あらあら」

 

千冬が受け取った写真をエレンと山田先生も見て、ほほえましいものを見るかのように

ほおを赤く染めた。

その写真には小学1、2年生ぐらいの一夏が、ズボンの裾を握りしめながらプルプルと

震えて涙を流している姿が写っていた。

 

「確かに、怒られたり怖がったりして泣いたものではないが、何でお前の前で

 泣いたりしたんだ?」

「う~ん、原因は確かに俺だけどなるべくしてそうなったというか、

 予想外というか」

「……つまり、お前はこんないたいけな子供を泣かせたと……?」

「あっ、やばい」

「あの、織斑先生?」

「ち、千冬?」

 

 

千冬の様子が何かおかしいと山田先生とエレンが、勘づくが時すでに遅しであった。

 

「…………こんなかわいくて小さい一夏を泣かせるとは……、

 お前の血は……ナニイロダァァァァァ!!!!!」

「うおっと!」

「織斑先生!」

「千冬落ち着きなさい!」

「あちゃ~、一夏の初めておつかいで逆ナンしようとした子を見ていた時

 と同じ目をしているね~」

「そ、それでは二人とも10カウント後に試合を開始してください!

 織斑先生!落ち着いてくださ~~~い!」

「キルキルキルキルキルゥゥゥッッッ!!!!!」

 

一夏とセシリアをそのままにしておくわけにもいかないので、山田先生が

とりあえず試合の指示をして、自分はブラコン教師の鎮圧に取り掛かった。

 

そこで、放送は途切れたが観客席にいた生徒たちは

背中に流れる冷や汗が止まらなかった。

 

もっともそんな観客達以上に、

試合に臨む一夏とセシリアの心中は穏やかではなかった。

 

「負けられない……、負けられませんわ!」

「……俺は負けられない!負けるわけにはいかないんだ……!」

 

この光景だけを見れば、とてもかっこいいシーンなのだが

そうなる理由はそんなものから程遠かった。

 

「最後のチャンスをあげますわ!

 私が勝利するのは必然!

 ボロボロで惨めな姿をさらされた上に、恥ずかしい秘密まで

 明かされるのは不憫ですから、今ここで謝って降参すれば

 秘密がばれるだけですみますわよ!」

「言ってろ!大体、試合前にそういうことは言う奴の方が

 負けるのが定番なんだぜ?

 むしろ、お前の方が降参した方がいいんじゃねぇのか!」

「なっ!そうですか、なら――」

 

ビシリとセシリアの額に青筋が浮かび上がり、持っていたライフルのロック解除が

行われる中、試合開始までのカウントが進んでいく。

 

―― 警告! 敵IS攻撃体勢に移行。トリガー確認、エネルギー装填。――

 

そして――。

 

「これで、お別れですわね!」

 

試合開始のブザーが鳴り響くのと同時にセシリアが攻撃を行った。

 

瞬間、観客にはそのビームに打ち抜かれる一夏の姿がよぎったが次の瞬間に目にした光景に

その場にいたもの全員が驚愕した。

そう。その場にいたもの全員が……。

 

―― ダメージ23。シールドエネルギー残量、577。――

 

「っ!躱された!?」

「躱しきれなかった!?」

 

セシリアが放ったビームを一夏は体を逸らすことでかわしたが、

僅かに掠ってしまいダメージを受けてしまう。

セシリアは必中を確信していた攻撃を躱されて、一夏は完全に避けたつもりの攻撃が当たったことにそれぞれ、驚いていた。

 

「い、今のは、まぐれですわ!

 今度こそ踊りなさい!

 わたくしとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲<ワルツ>で!」

「こなくそ!」

 

双方驚きで、数瞬呆けるがすぐに我に返り次の行動を起こす。

 

セシリアは、ビームの雨と言わんばかりの連続射撃を行い一夏はそれを躱し続ける。

しかし、双方とも試合前に臨んでいた試合展開にならず若干混乱していた。

 

セシリアは自分の攻撃が当たらないことに。

一夏は、思うように相手の攻撃を躱せないことに。

 

 

 

先程述べたように、ISには操縦者を保護する機能。『絶対防御』という機能がある。

この機能によって、操縦者はあらゆる攻撃から身を守られているわけだが、

これが発動するとシールドエネルギーを大きく消費する。

ISの試合というのは、このシールドエネルギーの削り合いであり、先に0にしたものが

勝者となるのである。

 

セシリアは直撃こそできていないものの、一夏のシールドエネルギーを少しづつ削っているので、このままの展開が進むと先にシールドエネルギーが0になるのは一夏の方である。

 

 

 

「織斑くん。やっぱり苦戦してますね」

「いや、あれは苦戦とは少し違うな」

「セシリアは、このチャンスをものにできるかね~」

「はうぅぅぅ~」

 

管制室では、現在行われている試合を山田先生をはじめとした教師陣が観戦をしていた。

その傍らで、目を回しているエレンに頭にクナイとか日本刀が刺さり、噴水のように血を噴き出しているカズキがいるが、ツッコンではいけない。

 

「違うって、何がですか?」

「あれは、機体と織斑の反応にずれがあるだけだから、

 それに気付けば一気に試合は動くぞ」

「じゃあ、オルコットさんのチャンスっていうのは?」

「ああ、あいつにあるチャンスっていうのは、一夏がISに慣れていない

 試合開始直後の数分間のことだよ。

 そこがあいつにとって、最大の勝機なんだけど……おっ♪

 見てみなよ。おもしろいものが見れるよ♪」

 

 

 

「(そうか!今、白式は俺に合わせようとしている最中なんだ!

 そんな状態で、いつものように動けるわけがない。

 ということは、いつもよりもっと……。

 相手の動きを2手、いや3手先まで予測して……)」

 

一夏が静かに目を閉じて、再び開くとその目は鋭く光っていた。

しかしそのため、一瞬動きが止まってしまう。

 

「もらいましたわ!喰らいなさい!」

 

今度こそ当たると確信するセシリアだが、その思惑は裏切られることになる。

 

「っと!」

「そんな!?」

 

先程までと違い、一夏は完全にセシリアの攻撃を躱してみせたのだ。

セシリアが驚いている隙に、一夏は今いる高度から地面に近い低空へと飛翔する。

 

「逃がしませんわ!」

 

慌てて、追撃するセシリアだがその射撃は精密さを欠いており、

一夏に当たることはなかった。

 

「さてと、こっちの武器は?

 って、まじかい」

 

一夏が白式に搭載されている装備武器の一覧を見てみると

『近接ブレード』

と書かれた装備しか表示されなかった。

 

『まあ、銃一丁とかよりマシなのではないか?

 これ程、お前にふさわしい武器もないだろ』

「だな!でも、これ以上の口出しは無用だぜ、相棒!」

『ふっ。無論だ』

 

ゲキリュウケンと軽口を叩きながら、一夏は白式に装備された唯一の武器を

呼び出し、展開する。

すると、彼の手に渡り一・六メートルはある長大な“刀”が出現した。

 

「射撃型のわたくしに、格闘装備で挑むなんて……笑止ですわ!」

「それは、どうかな!

 銃は、構える、狙いをつける、引き金を引くの三ステップが必要だけど、

 剣は斬るだけでいいからな!」

「へらず口を!なら!」

 

一夏の挑発に、セシリアは手持ちの切り札(カード)を一枚きった。

ブルー・ティアーズから四つの物体が切り離され、彼女の周りに浮遊する。

 

「きたか!」

「おいきなさい!ティアーズ!」

 

ティアーズと呼ばれた物体が、縦横無尽に飛び回り、一夏に襲いかかった――。

 

 

 

「思ったよりやるわね、一夏の奴」

「うん。びっくりだね」

 

試合を観戦していた、アリサとすずかは一夏の想像以上の善戦に半ば呆然としていた。

 

「それでは、解説をお願いします。なのは教官♪」

「はやてちゃん……。

 では、コホン。最初は、二人とも予想外のことで戸惑っていたみたいだけど、

 今は一夏くんのペースだね」

「でも、なのは。一夏は、あいつにずっと攻撃できていないわよ?」

 

時空管理局で、新人を教え導く教官を目指しているなのはに解説をお願いするはやてに

苦笑しながらも、なのはは律義に解説を始めた。

その中で、アリサがもっともなことを聞いてくる。

試合が始まって約10分。

一夏は未だに攻撃に移れていないのだ。

 

「攻撃できないんじゃなくて、攻撃しないんだよ」

「攻撃しない?」

「うん。一夏は何かを待っているんじゃないかな?

 だから、あのポジションを選んだわけだし」

「選んだって、どういうこと?フェイトちゃん?」

 

フェイトも解説に入り、一夏の戦術の説明をする。

 

「一夏は、今オルコットさんより低い位置にいるでしょう?

 そうすることで、攻撃がくる方向を限定させているんだよ」

「もしも、オルコットさんと同じ高度にいたら、下からも攻撃が来るかも

 しれないから、そっちにも意識を向けなくちゃいけないからね」

「「なるほど~」」

 

戦闘に関して素人な二人は、感心して納得した。

 

「セシリアちゃんも、腕は悪くないんやけどな~」

 

 

 

「彼女の射撃は、素直すぎるわね」

 

ピット内でも客席同様、楯無たちが試合状況を分析していた。

 

「素直すぎるとは?」

「基本に忠実だけど、それゆえに読みやすいってことよ☆」

 

楯無が箒の質問に扇子を開きながら、答えるとそこには“心理戦”と書かれていた。

 

「ねぇ、箒ちゃん?

 動かない的と動いている的に当てるのに必要なのは、同じ技術だと思う?」

「えっ?」

「動くモノに当てるのには、いかにそれを動かないモノにするかって

 いう、将棋やチェスみたいな相手の心理を読む技術が必要なんだよ」

 

生粋の剣士である箒に、楯無やシャルロットが射撃についての説明を行う。

 

「一夏は、今言葉も使ってISの試合から、自分の土俵にオルコットさんを

 引きずり込もうとしてる……」

 

簪がそう言うと、皆ピット内のモニターに視線を戻した。

 

 

 

「なんで当たりませんの!」

 

セシリアは手に持っている、ライフルと分離した4つの『ブルー・ティアーズ』、

計5つの銃口で、攻撃を行っているのだが、たまに掠るぐらいでほとんど

一夏に躱されているのだ。

 

「何で、俺に攻撃が当たらないのか教えてやろうか!

 お前は、攻撃を当てようとするときしっかり狙いをつけるために手に

 力を強く込める。

 ライフルなら、支える左手に!

 飛び回っている奴なら、攻撃を仕掛けようとする向きの手をな!」

「そ、そんなデタラメを!」

「うん、デタラメだよ♪」

「はあっ!?」

 

一夏が、自分の躱し方のタネを明かしデタラメと言うセシリアに対して一夏は

あっさりとそれを否定した。

 

「だって、お前ISを装着してるんだぜ?

 生身の手ならともかく、そんな微妙なことをIS素人の俺がわかるわけ

 ねぇじゃん♪」

「あああ、あなたは人をおちょくって……!」

「本当は、お前の視線さ!

 銃っていうのは、狙いをつける以上どうしても相手を見るからな。

 その目を見れば、どこを狙ってくるか分かるのさ!」

「どうせまたデタラメ……」

「嘘の中の真実、真実の中の嘘。

 さて、俺の言葉はどれが嘘でどれが真実かな?」

「っ、この!」

 

最早、誰の目にもこの戦いの主導権を握っているのは誰なのかは明らかであった。

 

 

 

「す、すごいですねぇ、織斑くん」

「まあ、あれぐらいは……ね?」

 

管制室にいる山田先生は、一夏の試合運びに感心しカズキは誇らしげであった。

 

「(確かに、一夏のペースで試合は動いている。

 しかも、浮かれた時のあの癖。

 左手を閉じたりする開いたりするクセもなくなっているが……、

 明らかに一夏は飛ぶことに慣れている……。

 何故だ?)」

 

千冬も一夏の戦いに魅入っているが、明らかに素人の動きではないそれに

違和感を感じる。

しかし、それは次の一夏の動きで頭の隅に追いやられる。

 

「あっ!織斑くん、オルコットさんのビッドを一機破壊しましたよ!

 他のも!」

「あの武器にある、致命的な弱点に一夏は気付いていたから、そろそろ

 反撃の頃合いだと判断したみたいだね」

 

 

 

「なんですって!?」

 

アリーナにセシリアの驚愕する声が響くが、

一夏は気にすることなくビッドを斬り裂こうと接近する。

 

「この武器は、お前が毎回攻撃命令を出さないと動かない!

 そして、その間お前は動くことができないよな!」

「……!」

 

自身の武器の弱点を見破られセシリアの顔が引きつる。

 

「更に、お前の射撃は正確だ!

 本命の攻撃を当てようとする時は、俺が“反応しきれない”とこから狙ってくる!

 だから……!」

 

一夏は接近していたビッドにもう少しで、攻撃が届くというところで

体の向きを反転し、自分を狙っていた他のビッドの攻撃を体をこまのように回して

かわすと、そのビッドに急接近し、上段に構えた刀を振り下ろして破壊した。

 

「こうやって、動きを読むことができる」

 

一夏は、刀の切っ先をセシリアに向けて言い放った。

 

「こ、こんなことが……」

 

セシリアは自分の目の前で、起こったことが信じられなかった。

本当なら、自分の華麗な技であの生意気な男が地べたに這いつくばっているはずなのに、

何故、自分の方が追い詰められているのか?

このまま自分が負ける?

その考えが頭をよぎった瞬間、セシリアは頭をふってその考えを振り払おうとした。

 

「(こうなったら……)」

 

セシリアはここから、逆転するためにもう一つの切り札(カード)をきることを

決断する。

だが――。

 

「ああ、そうだ。俺が近づいたところをミサイルで

 撃ち落とそうとしても、無駄だぜ」

「な、なぜわかりましたの!?」

 

自分が考えていた逆転のための手を見事に

言い当てられ、セシリアは今日最高の驚きを見せる。

 

「なぜかって?

 カマかけただけだよ。

 やっぱり、接近された時のための装備があったか……」

 

一夏は刀を肩にかけながら、不敵な笑みを見せた。

 

「カマって……」

「俺の仲mじゃなかった。よく遊ぶロボットゲームで射撃タイプの

 ロボットでも、敵に近付かれた時のために迎撃用のミサイルを

 持っていたからな、もしかしたらと思って、カマをかけたのさ。

 さてと、フィナーレの準備が整ったみたいだぜ?お嬢様?」

 

一夏はそう言うと、目の前に現れたウインドのボタンを押した。

すると、彼の体は閃光に包まれた――

 

 




今回で、セシリア戦の決着までいく予定だったんですが、想像以上に長くなったので、ここで一度きります。

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